まだ十分着ることができるのに、サイズが合わなくなったりデザインが古くなったりして、タンスに眠っている洋服やバッグ。捨てるのはもったいないけど着る機会もなさそう…。こうした「タンスの肥やし」は、誰にでも心当たりがあるはず。こうした衣類を地域で集め、海外で再び使われるよう届ける試み、「洋服ポスト」についてご紹介します。
昨年、東京都港区立エコプラザで始まった、その名も「洋服ポスト」。自宅から古着を持ってきて洋服ポストへ投函するまでの流れは、衣類を持っていくとその重さを量るだけという簡単なもの。重量1kgごとに7円が社会貢献や環境保全に取り組む団体に寄付され、さらに投函された衣類はアジアなど途上国の古着マーケットで販売されたり、工業用雑巾や固形燃料などに再利用されるという仕組みです。当初、「洋服ポスト」に集まった衣類は合計165kg。今では、1.5tほどの衣類が集まるそうです。
毎月第二土曜日に港区立エコプラザで開催される「洋服ポスト」。学生のボランティアたちが会場を盛り上げる
この「洋服ポスト」を始めたきっかけを、株式会社原宿シカゴの物流部部長、NPO洋服ポストネットワーク協議会の副理事長をつとめる郡司清春さんにお聞きしました。
株式会社原宿シカゴの物流部部長、NPO洋服ポストネットワーク協議会の副理事長をつとめる郡司 清春さん
アメリカの古着を集めて日本で販売する仕事をしていたのですが、集めた洋服のうち、7割くらいしか商品にならなかったんですね。まだ着れるのに、商品として売るのが難しいものは処分するしかなかったんです。でも、ゴミとして焼却処分されるのは、先進国だからなんですよね。途上国では役に立つものばかり。先進国は10億人ですが、途上国には60億人もの人がいるわけですから。
「洋服ポスト」に集まった衣類は、まず株式会社原宿シカゴが1kgあたり7円で買い取って、その買取金は社会貢献や環境保全に取り組む団体に寄付されます。洋服を持ち寄ってくれた人からは、「古着の行方がわかって、さらに買取金を寄付に回してくれるのが嬉しい」「捨てるのはしのびないと思っていたけど、着なくなった服がまた役に立つのは嬉しい」などの声が寄せられているそうです。
「洋服ポスト」のあらたな試み
アジアの国々に古着を届けるようになって、気づいたことがあると郡司さんは言います。
寄付や支援って、単純に渡せば、あるいは届ければ使ってもらえるというのは、支援する側の勝手な解釈なんですよね。例えば、熱帯雨林気候で平均気温が高い国でも、単純に半袖が必要とされているとは限らない。イスラム圏の女性は肌を見せないようにしていたりする。他にも、途上国の赤ちゃんに粉ミルクを届けた団体の話ですが、結局、使われていなかったりするんです。粉ミルクを溶かすためのきれいな水がない。
現地をしっかり見て、気候や宗教、生活習慣などを考慮したうえで、何を支援するのがいいのかを見極める必要があるんです。私が考えたのは、寄付をするのではなく、安くてもいいので買ってもらって、使ってもらうこと。買うという行為から、お金はもちろん、生活をする“営み”がまわっていくと思うんです。
パキスタンの露店
マレーシアの露店
また、郡司さんは1年ほど前から、フィリピンで女性を雇用し、現地でハギレを使ったポーチをつくり始めたのだそう。
ポーチをつくる女性たち
途上国では仕事がないことが課題ですが、こうして場所とミシンさえ提供すれば、あたらしい雇用の機会が生まれるんです。写真撮るよ、と言っておいたら、みんなお化粧して来ちゃって(笑)。こんなきれいな職場じゃないのに、この撮影のために片付けたりもして。
現地では1日10時間労働で、収入は1,000円くらいが普通の暮らしです。でもこうして、撮影のためにちょっとおしゃれもして、生き生きと暮らすお手伝いができるのは嬉しいことですね。
また、本当に必要な地域に届けたくても、治安の悪いところにはなかなか足を踏み入れることすら難しいのだとか。カメラを持っていればカメラがなくなるし、車で行けば車もなくなる。こうした現状に歯がゆい思いを抱えてもいるそうですが、それでも郡司さんは彼ら、彼女らのモノ選びには未来があると言います。
例えば新品の500円のTシャツと古着の300円のTシャツがあるとして、普通は500円のほうが価値があるという考え方ですよね。考え方というか、それが値段の理由ですからね。でも途上国の人たちは、そうじゃないんです。
新品の500円のTシャツは文字通り500円の価値しかない。でも、古着の300円のTシャツのほうが、もともと3,000円で売られていた価値があることを分かっていて、こっちを選ぶんです。新しいものではなく、長く使えるもの。ものの価値として高いもの。だから、見方によれば、目が肥えているとも言えますよね。
さらに、こうした展開をしている中で、どうしても目につくのが、途上国の教育水準の低さだそう。
男性は仕事がないのが普通で、賃金の安い女性のほうが仕事がまだある。さらにもっと賃金の安い子どもたちが仕事をして、それでやっと家族が生活している状況です。勉強なんかする暇ないですよ。でもそうすると、その子どもが大人になったときに職がない。こうした出口の見えない循環を、どこかで断ち切れないものかと。
いま、「洋服ポスト」の次の一歩として、学校に教材や鉛筆を届けたりする活動も考えているところなんです。
途上国での展開が広がる一方で、日本での「洋服ポスト」も形を変えながら発展していて、集まった洋服をあたらしいデザインにリメイクする試みも生まれたのだそう。
洋服ポストから生まれた半被
面白い試みでしょう?(笑)アートや教育、福祉の領域を横断してあらたな“装い”を提示しようとしている「Form on Words」という団体と共同で実験的に行ったんです。ものをつくるのは材料を買うところがスタートですが、材料は身近なところにあるものですよ。
他にも、「洋服ポスト」で寄付した支援金がどのように使われているのかを学ぶ公開セミナーを開催したり。ペットボトルのリサイクルなんかもそうですが、リサイクルして、そのあとどうなったかって、あまり知らないですよね。知ると、自分のなかに気づきが生まれるんです。そうした気づきを持ってもらうきっかけをつくっていきたいですね。
世田谷代田から発信する、「洋服ポスト」のこれから
タンスに眠っている洋服で、こうした途上国の現状を少しでも変えることができるなら、と思う人も少なくないでしょう。
用意されたチャイやホットジンジャーを楽しむ人たち
毎月、第二土曜日に東京都港区にあるエコプラザで始まった試みですが、かたちを変えて、世田谷代田という街でも始まります。聞けば、昔は元気だった世田谷代田の商店街は、いまはシャッター商店街になってしまっているのだそう。街の人が気軽に集まれるきっかけになればと、「洋服ポスト」を開催することになったのだとか。
港区立エコプラザの「洋服ポスト」では、カフェスペースが併設されていて、知らない人とも気軽に会話を交わすコミュニティ空間になっていることから、世田谷代田でもお茶やお菓子が用意されるそうです。
地域の人と交流しようといっても、きっかけがないと難しいですが、「洋服ポスト」では、そこで知らない人とも気軽に話しているような光景をよく見かけます。世田谷代田という街でも、「洋服ポスト」を通じてコミュニティが生まれるといいですね。
そもそもコミュニティは、集まれる場所があって、お茶やお菓子なんかがあれば、もう十分なんです。これからも、こうした取り組みが、いろいろな地域で生まれてくるよう活動をしていきたいと考えています。
あらたに世田谷代田という街で始まる「洋服ポスト」。気軽に立ち寄れて、そこへ行けば地域の人たちと気兼ねなく話ができるような場所になるといいですね。