インターネットの普及、ソフトウェアの発展、デバイスの多様化などの状況の変化により、社会の環境は大きく変化しています。
インターネットの登場以前は、一部のクリエイター、アーティストの仕事だったことも、今では多くの人がコンテンツを生み出すようになり、日々、音楽、映像、イラスト、写真、テキスト、データなどなど、数多くの作品が世に送り出されるようになってきました。
こうした動きと衝突しやすいのが著作権の領域。人々の創造性を妨げてしまわないよう新な著作権のルールを作ろうと、アメリカの法学者ローレンス・レッシグ氏が発起人となり、クリエイティブ・コモンズの運動はスタートしました。
クリエイティブ・コモンズとは、インターネット時代にふさしい著作権のあるべき姿を考え、自由に共有できるコンテンツを増やしていこうという活動です。
クリエイティブ・コモンズの誕生から10周年を記念するイベントが2012年12月22日に、六本木superdeluxeにて開催されました。このイベントではトークセッションにワークショップなどが行われ、ライセンスなどの法律の話というよりは、素晴らしいアーティストによるパフォーマンスを楽しむ日となりました。今回はそのイベントの模様をお伝えします!
CCライセンスのネタを使ってビート・メイク!
最初に行われたのはCCライセンスの楽曲を組み合わせて曲を作るワークショップ。Sound & Recording Magazineの白石裕一朗氏の進行のもと、アーティストのBUN/Fumitake Tamura氏が講師として参加しました。
イベントの参加者は国際的に活躍するBUN/Fumitake Tamuraによる、CCライセンスの付いた素材を用いた制作手法をリアルタイムで体験。サンプリングという手法のクリエイティビティを目の当たりにするとともに、サンプリングして制作した楽曲でも公開できることや、販売も可能だというCCライセンスの有用性を知る機会となりました。
※ BUNさんの完成した楽曲は下記からCCライセンスアクセス/ダウンロードできます:https://soundcloud.com/bun/dolphin
トークセッション「クリエイターがCCを使うメリットとは!?」
続いてのトークセッションでは、音楽ジャーナリストの原雅明さんの司会のもと、アーティストのBUN / Fumitake Tamuraさんとクリエイティブ・コモンズ・ジャパン理事のドミニク・チェンさんをゲストに、クリエイターがCCライセンスをつけて作品を発表すること、マネタイズとソーシャルキャピタル、今の時代に音楽を作ることなどをテーマにトークが交わされました。
ドミニクさん:音楽は実はクリエイティブ・コモンズ・ライセンスが最も積極的に活用されている分野。今までは公開した楽曲にコメントをつけたり、シェアしたりして、自分の曲が広く知られることを目的にしているクリエイターもいます。
書籍を発売する際に、CCライセンスを付与したものと、しなかったものを両方を流通させて比較したところ、売上は変わらなかったが、シェアされる領域の広さに大きな差が生まれた事例もあります。
先ほどのワークショップの白石さんの話に、サンプリングを無断でしてしまうようなこともあるという話がありました。CCでは、その領域が違法にならないように、かつ自由にサンプリングできる世の中にしようとしています。
BUNさん:10年前ではCCライセンスがついているものが少なかったコンテンツも、音楽に限らず、写真など多くのコンテンツにCCライセンスが付与されるようになっています。
以前、リミックスをしたらメキシコの映像作家が映像をつけてくれたことがありました。音源はそのまま使われていて、打ち合わせもなく、勝手に作られた映像。これは一種のコラボレーションでした。
その時はお金のことは一切考えずに、ただおもしろいことをやりたかった。その結果作ったものをいろんな人に使ってもらいたいときに、CCライセンスは安心できる仕組みでした。コンテンツを拡散する側もCCライセンスがついていれば心配することなく拡散させることが可能です。
多彩なアーティストによる音楽ライブ&パフォーマンス
2つのトークセッションが行われた後、DJまほうつかい/西島大介、Naohiro Yako(flapper3/Bunkai-Kei records)、サンガツ、Jealousguy、DUB-Russell、nanonum、tomad(Maltine Records)、Houxo Que、TOKIYAといった多様なアーティストによるCCライセンスを様々な方法で採用した音楽ライブや、パフォーマンスが行われました。
トークセッション「Creative Commonsが切り開く文化の地平線」
素晴らしいパフォーマンスも終了し、最後のプログラムは「Creative Commonsが切り開く文化の地平線」と題したトークセッション。
一部と二部に分かれており、第一部では森美術館館長の南條史生さん、クリプトン・フューチャー・メディア株式会社代表取締役の伊藤博之さん、株式会社ロフトワーク代表取締役林千晶さんの三名が登場しました。
伊藤さん:クリプトン・フューチャー・メディアは、音声合成・デスクトップミュージックソフトウェアの製品およびキャラクターとしての初音ミクを生み出した会社。初音ミクはCCライセンスに対応したことで、最近大きな話題となりました。
クリプトン・フューチャー・メディアでは、元々ピアプロと呼ばれるクリエイターが作成したコンテンツを投稿するサイトを運営しており、その中で投稿者自身がライセンス条件を設定できる仕組みを整えていました。
元々CCライセンスに近いピアプロ・キャラクター・ライセンス(PCL)を提供していたクリプトン・フューチャー・メディアがCCライセンスの利用を開始した理由、それは海外への展開を意識してのこと。
PCLは日本のクリエイター向けに作られたライセンスであり、海外のクリエイターに最適化されたものではありません。海外への展開を考えたとき、自分たちで条文のローカライズを行うかわりにCCライセンスを適用することにしました。
南條さん:森美術館は日本の大きな美術館としては初めてCCライセンスを導入しました。アイ・ウェイウェイの個展を開催したときが、CCライセンスを利用した初めての時です。
アイ・ウェイウェイが持つ反体制的な姿勢と、CCライセンスはそのあり方が既存のシステムに対するオルタナティブとして、相性が良いと思い実施しました。
アメリカの美術館は、そのほとんどが自由に写真を撮らせてくれます。教育のためなどの理由があれば、フェアユースということで写真を撮らせてもらえます。その根底にあるのは、フェアであればいいんだ、という考え。
それが日本にはありません。それはおかしい。教育の観点から見ても、アート、美術は公的な資産とした捉えるべきだと私は思います。もちろん、クリエイターが何かを作り出したとき、その権利は守るべきです。
ただ、作品はパブリックにはしていくべき。そのためのアプローチとして、CCがあると思っています。
CCライセンスと書籍
第二部は、ジャーナリスト/メディア・アクティビストの津田大介さんとドミニク・チェンさんの対談。両者とも、2012年に書籍を出版しました。ドミニクさんは『フリーカルチャーをつくるためのガイドブック』を、津田さんは『情報の呼吸法』『動員の革命』『ウェブで政治を動かす』の計3冊の本を出版。
まずは出版とCCライセンスの関係から対談がスタートしました。
津田さん:2007年に商業の書籍にCCライセンスをつけて発売しました。そのころにも書籍を自分たちでデータ化する人たちがいたのですが、まだテキストの誤変換が多かった。間違ったテキストデータのまま公開されてしまっていたりして、その扱い方はちょっと愛がないなと感じていました。
ドミニクさんが2012年に出版された書籍もCCライセンスがついていますよね。
ドミニクさん:書籍を購入した方はCCライセンスをつけた書籍データをダウンロードすることができるようになっています。
本当は最初からCCライセンスをつけて出版したかったのですが、そうすると読者の方にこの書籍は無料でダウンロードできるものという認識をもたれてしまうのではないかという出版社の懸念もあり、書籍を購入した方には無料でダウンロードできることにしました。
書籍の他にもCCライセンスの利用例は数多くあります。例えば、グラフィックデザイナーの人が商用利用で写真を探したいときは、FlickrにはCCライセンスのついた写真が2.5億枚くらいの写真が掲載されているので、ここにアクセスして商用利用化のCCライセンスがついた写真を探すことができます。
津田さん:日本におけるCCライセンスの代表的な事例はまだありませんよね。海外だと大手メディアのBBCがCCライセンスのコンテンツを利用したことが話題になりました。
そんな中で、「ブラック・ジャックによろしく」の事例は、まさしくフリーカルチャー的だったと思います。日本のトップクリエイターがCCライセンスを使うようになると、もっと話題になっていくかもしれないですね。
これからのクリエイティブ・コモンズ
ドミニクさん:CCライセンスは、人々がオープンソースソフトウェアから着想を得てインスパイアされたことから生まれました。そういう意味ではCC自体もある意味二次創作と呼べるかもしれませんね。
この先、日本でのCCライセンス利用が増えていくことで、魅力的なコンテンツは増えていくと思います。
津田さん:様々な分野でCCライセンスがついたコンテンツが増えていき、クリティカルマスを超える日が楽しみですね。
最近ではオープンガバメントや、データジャーナリズムなどの分野も注目されるようになり、CCライセンスのついたコンテンツが活躍できる場面は増えていると思います。
CCライセンスが世に広まり、社会が更新されていくところを見てみたい、そんなことを思っています。
CCJPの今後の動きについて
CCJPは今後ともCCライセンスの日本での普及に努めていきます。それと同時に、CCライセンスに限らず、文化をオープンにする取り組み全般を支援していきたいと考えています。多様な分野のゲストを招いたCCサロンの実施や、それ以外にも独自のメディアを構築したり、または国内の著作権法制度の在り方に関する議論も喚起していくなど、様々な施策を打っていくので今後ともぜひご支援ください。
Grow!コミュニティでCCJPのサポーターを募っています。サポーターの方には最新の情報をお届けしたり、理事やスタッフがご質問にお答えします。ぜひご参加ください!
(Photo by Creative Commons Japan)
「建築・都市におけるソーシャルデザインの可能性」
日時:
2013年2月3日(日)16:00~18:00
場所:
loftwork Lab(東京都渋谷区道玄坂1-22-7 道玄坂ピア10F)
ゲスト:
藤村龍至(建築家)、生貝直人(博士(社会情報学)、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科特任助教)
モデレーター:
ドミニク・チェン(CCJP理事)
クリエイティブ・コモンズの使い方