10月30日〜11月4日まで、東京・青山のスパイラルで「SLOW FABRIC SHOW」というイベントが開催されました。
障害者施設や企業とアーティストやデザイナーをつなげ、新しいモノづくりとコトづくりに取り組んでいる「スローレーベル」については、以前greenz.jpでもご紹介したことがあります。スローレーベルは、単なる障害者支援にとどまらず、アーティストも障害者も一般人も、同等の立ち位置で商品を作っているのが特徴的です。
そんなSLOW LABELが、アーティストに「モノづくりをするための仕組み」をデザインしてもらったのが、新しく立ち上げたプロジェクト「スローファブリック」です。
これまでは、障害者施設やリハビリ施設などで作られたものを素材として、商品化するところでアーティストの手を加えていましたが、今回は障害者でも高齢者でも、誰が作ってもアートや個性的なものができあがる製法を作ったのです。
スローレーベルのディレクターの栗栖良依さんは、アーティストに仕組みづくりをしてもらうにあたって、港町で漁師さんたちが一緒に網を直している写真を見せて、こういう光景が作りたいとリクエストしました。
みんなで何かを作り上げる楽しさというのは、人間には大事だと思うんです。障害のある人や高齢者の方、子育て中のお母さんなど、社会との接点が少なく、引きこもりがちな人たちも、みんなでワイワイしゃべりながら、一緒に楽しみながら参加できるものにしたかったんです。
例えば、アーティストのaccoさんによる「pick knit」は、編み棒を使わない編み物。伸縮性のあるリブニットを使うので、手で簡単に編むことができます。ひとりひとりが編んだピースを組み合わせて、最後にはひとつの作品をみんなで作り上げるようになっています。
編み図という図面を渡せば、ある程度誰にでもできるようになっているので、このイベントのワークショップは予約不要で自由参加でした。ワークショップでは図面を渡すのではなく、実際にaccoさんが直接参加者にやり方を教えていました。最後にはaccoさんがすべてのピースをつなぎあわせて、大きなクッションができあがっていました。
普段の作品づくりと今回の仕組みづくりの違いについて、accoさんに聞いてみました。
普段は自力で作品をつくることがほとんどなので、自分の能力ならこれくらいはできると分かっているけど、誰かにやってもらう場合は、意外とできると思っていたことができなかったりしました。でも、逆にきれいに編み目が揃っているよりも、多少バラバラで手作り感があった方が味わいも出るので、それを生かせるようにしました。
また、織物で作品を作っているアーティストの井上唯さんは、「MARUIRO」という小さな織るツールをデザインしました。
毛糸、紐、リボン、紙、ビニール、布の切れ端など、自宅にある素材で、細長くて織れそうなものなら何でも使えるツールです。色々な素材が使えて、自分のセンスや個性が反映されて、しかも単純な作業ながら、いつの間にか夢中になってしまう、かなり完成度の高いプロダクトです。これなら、障害者や高齢者から一般人まで、あらゆる人が楽しめます。
実際、イベントのワークショップに参加していた人たちも、みなさんとても楽しそうでした。できあがった作品を見せてもらうと、それぞれの個性が出ているのがよく分かります。
まるイロは、今のところイベントでの体験販売のみですが、かなりの売れ行きで品切れ状態なので、ただいま増産中だそうです。(2012年11月時点)
他にも、廃棄された海図を織って織物にするのむらみちこさんの「the woven chart」と、100%再生紙の紙バンドでかごを編むwhiteINQの「PAPER BASKETS」、2人のアーティストが参加しています。今回のイベントは、スローファブリックの作り方の仕組みの紹介をするのが目的で、来年の3月にはこの仕組みを使って作った、作品の展示会を開催する予定です。
「編む」と「織る」というスローな作業に、アーティストが考案した新たな仕組みを加えることで、驚くほどクリエイティブな化学反応が起こっていました。アーティストに作品をつくってもらうのではなく、作品をつくるための仕組みを作ってもらうという視点も革新的です。スローレーベルとスローファブリックのプロジェクトは、これからも注目していきたいところです。