強い辛味や酸味と、パクチーなどの香草を多用した独特の風味が特徴のタイ料理。日本でも、好きだという人は多いですよね。
そんな異国の料理、タイ料理を日本の地場食材やローカルフードを使って作り“地産地消のタイ料理”として提供する「Yum! Yam! SOUL SOUP KITCHEN」というイベントがあります。
主催するNPO法人Yum! Yam! SOUL SOUP KITCHEN 代表理事の西田誠治さんは、縁の深いタイへの恩返しの気もちと日本の地方が抱えている問題をなんとかしたいというふたつの思いから、このプロジェクトをスタートさせました。
それにしても、タイ料理と日本のローカルフード、今までになかったちょっと不思議なこの組み合わせが、どのように地域活性に繋がっていくのでしょうか?
タイと日本のローカルを食で繋ぐ
日本とタイは、一見まったく違う食文化をもっていますが、元を辿れば同じアジアの国であり、お米を中心とした食文化をもつ友好国です。
そこで、NPO法人Yum! Yam! SOUL SOUP KITCHENは、万国共通の“食”を通じた地域活性化と国際文化交流の促進を目指して活動しています。国内におけるタイ料理の普及や地場食材を活用することによる地域活性化、さらには“ローカルジャパン×ローカルタイランド”のコラボレーションによって食文化の国際交流を図ります。
そして、現在の活動の軸となっているのが“47都道府県全てを対象にした連続シリーズのフードイベント”として開催している「Yum! Yam! SOUL SOUP KITCHEN」です。2010年12月に始まったこのイベントは、毎回、47都道府県のうちひとつの県をピックアップして、その県の郷土料理や地場食材を使ったタイ料理のオリジナルレシピを提案しています。
隔月で開催され、食に関心のある人やタイ料理関係者、テーマとなった県の関係者や取り組みに興味をもった生産者が集まって、この日のために考案されたタイ料理を食べながら、地場食材についてのレクチャーを聴いたり、ゲストの話に耳を傾けます。
ローカルフードとのコラボレーションにより、参加者はタイと日本各地に古くからある食文化の両方を身近に感じることができます。また、地方の生産者はそれまで思いつきもしなかったエスニック料理とのコラボレーションによって既存のマーケット以外の消費者へのPRになるという仕組みです。
プロジェクト進行中! より気軽に地産地消のタイ料理を
そして「Yum! Yam! SOUL SOUP KITCHEN」が軌道に乗り始めた今年、さらに「Yum! Yam! TABLE」というイベントがスタートしました。
これは、地産地消のタイ料理に賛同してくれるタイ料理のお店を会場にして、ひとつの食材を取り上げたり、特定の生産者さんとコラボしたタイ料理を提供することで、よりコンパクトに、気軽に地産地消のタイ料理を楽しめるようにしたものです。
「Yum! Yam! SOUL SOUP KITCHEN」で提供したレシピを、賛同してくれる店舗で期間限定で食べられるようにするなど、より多くの人に地産地消のタイ料理を気軽に楽しんでもらえるようにしていく計画もあります。
また、相互交流を目指して、2013年3月には初のタイでの「Yum! Yam! SOUL SOUP KITCHEN」開催や産地ツアーも計画しています。いずれは日本の地方生産物の、海外(タイ)マーケットへの販路支援なども行なっていきたいのだとか。
食は、クリエイティブが凝縮された究極の形
西田さんは25歳の時、それまで働いていたデザイン事務所を辞め、次の仕事が決まるまでの間に、軽い気もちでタイへバックパック旅行へ出かけました。ところが、タイで出会った人や体験したできごとすべてが衝撃的で、なかでももともと好きだったという“食”の力強さにものすごく惹かれたのだそうです。そして帰国後すぐに、タイ料理屋で働き始めました。
デザイナーからそれまでまったく経験のなかった料理の道へ。周囲の人にはそれまでの経歴を投げ打ってなぜ料理人にと不思議がられたそうですが、西田さんにとっては料理もものづくりの延長で、何の違和感もありませんでした。
たとえば同じ食材で同じ料理を作っても料理人が違えば同じものはできません。どういうお皿に盛るか、どういう空間で食べるか、どういう人と食べるか、自分のコンディションやおなかの空き具合、そういうことでも料理って変わってきます。
すごくいろんな要素が噛み合っているのが食で、クリエイティブが凝縮された究極の形がひとつのお皿に乗っているという感覚です。完全にものづくりの延長なんですよ。
日本の地方全体を元気にしたいという思いが始まりだった
そこから3年間、西田さんは料理人として働きました。当初は自分のお店をもちたいと考えていましたが、デスクワークから慣れない立ち仕事に変わったことで体を壊してしまい、将来について改めて考えた結果、再びデザインの仕事に戻ることにしました。
しかし、活動の場としては1度タイから離れたものの“心は離れられなかった”と西田さんは言います。レストランブライダルのプロデュースをしている会社で2年、不動産投資会社で6年間、大小さまざまな物件の空間プロデュースを手がけました。
そして40歳を目前に控えて、西田さんは会社を辞めて独立します。その時に頭にあったふたつの思いが、このプロジェクトを始めるきっかけになりました。
僕は熊本出身で、生まれ故郷の熊本と長く住んでいる東京、そして今の自分を作るきっかけになってくれたタイと3つの故郷があると思っています。でも、仕事で国内のいろいろな地方に行っているうちに、自分の田舎だけじゃなくて、日本の地方全体がヤバいなと思い始めました。
どこも似たような風景になっていて、駅前はシャッター街でひとっこひとりいない、伝統工芸や農業のようにその土地に根付いているものや人もだんだんと廃れてきていると感じました。そういう地方の様子を見た時に、自分の生まれ故郷がだんだん日本の地方全体っていう解釈に変わっていきました。
それで、今まで自分が経験してきたものをギュッと集めた形で日本の地方全体を元気にできないかなと思い始めたんです。独立した時に最初に思ったのはまずそれだったんですね。
タイと結びつける前にまず西田さんが考えたのは、じつは日本の地方の問題でした。そしてそれが、西田さんが“人生でもっとも大きなターニングポイントだった”と言いきるタイと結びつくのは、自然のなりゆきだったのかもしれません。
タイ料理というプラットホームに乗せて47都道府県を繋げる
地域活性に関わる活動をされている方はたくさんいますが、自分がタイに関わって経験してきたことは自分にしかない引き出しでもあるし、タイに恩返ししたいという思いもずっともっていたので、これを活かして何かできないだろうかと考えました。
タイ料理屋さんは輸入されてきたタイの食材や調味料を買うことが多いんですが、輸入ものなのでコンディションが良くないものもたくさんあるんです。それだったら、地元で簡単に手に入るクオリティの高いものを、プロの料理人が正しくレコメンドしてあげればもっとおいしいものが作れるはずですよね。
それを実際に食べて体験してもらえる場をプロデュースすることで、新しい流れが生まれるのではないかと思いました。
日本でも、地方によって同じ醤油や味噌の味がまったく異なるように、タイでも北と南で辛さの質が変わったりと、ローカルフードのあり方はじつは同じです。加えて、魚醤(ナンプラー)のように、タイと日本で共通した食材があることも、ローカルまで視点を下げるとわかってきます。
そういう発想で新しい繋がりが生み出せれば、各地域で熱意をもってものづくりしている農家さんだったり行政の方などをタイ料理という新しいプラットホームに乗せてどんどん繋げていくことができます。
その中でも僕がやりたいのは、同じプラットホームの中に、47県を並列でまとめていって継続的にPRしていくような受け皿を作っていくことです。
だから47県やったら終わるんですかってよく聞かれるんですけど、日本は四季があって季節によって食材も変わりますから、少なくとも47県×4はできるし、やりたいと思っています。タイは77県あるので、これも含めるとかなりのバリエーションが生まれますね。
人の縁や繋がりを大事にした活動を
西田さんは、毎回必ずテーマとなった県に自ら取材に行き、生産者に直接会って話を聞いたり、行政の方とお話しています。それは、47県を並列で繋げていく受け皿づくりのためにも、とても大切なことだそうです。
今の時代、ネットで調べれば食材の仕入れから各地の情報まで全部わかりますけど、そこに行かないとわからないことってあると思うんです。
その土地を実際に見て、人と実際に会って話を聞いて、一緒にごはんを食べる、そして真剣にこういう思いでやっているんだっていうことをぶつけていくんです。そうするとそこからまた別の動きが起こったり、新たな繋がりが生まれます。そういう人のご縁や繋がりをものすごく大事にしてやっています。
たとえば新シリーズ「Yum! Yam! TABLE」も、活動の中で築いてきた人の繋がりや会話の中から誕生したもの。地道な繋がりを大切にしてきたからこそ、生まれたイベントなのです。
次回の「Yum! Yam! SOUL SOUP KITCHEN」は?
タイ料理好きの人はもちろんのこと、参加者みんなが楽しめる「Yum! Yam! SOUL SOUP KITCHEN」は、11月25日に第8回目「秋田県ver.」が開催されます。
毎回、テーマになった県の出身者や縁のある人の参加率が高く、この日もすでにご予約いただいた人の中には、秋田出身の参加者が多いのだとか。東京に住みつつも故郷に対して思いをもっている人は意外に多いのだと、西田さんは実感しています。
しょっつるやハタハタ、きりたんぽにじゅんさい、地酒や比内地鶏などなど、秋田のさまざまな食材や郷土料理をアレンジしたタイ料理が並ぶ予定です。いったいどんな料理が出てくるのかは当日まで秘密だそうなので、気になる人はぜひご参加を!
タイ料理と日本のローカルフード、この不思議なコラボレーションは、タイとの出会いで人生が変わったという西田さんならではのマイプロジェクトですが、国の違いという先入観にとらわれずに広く俯瞰して眺めると、食の根底には国を超えたゆるやかな繋がりがあることに気づかされます。
たとえば沖縄の郷土料理のゴーヤーチャンプルーって、昔はこんなに家庭で作ってませんでしたよね。でも今は普通に作っている。タイ料理も同じで、きっかけさえあれば一般の家庭でも普通に作られる時代がくるんじゃないかと思うんです。そうなるためにも、地元で手に入る食材で作れることってすごく大切だなと思います。
人と人、食と食の繋がりに国境はありません。国境を超えた、楽しくておいしい地域活性化プロジェクトの始まりです!
【直近の開催予定のYum! Yam! SOUL SOUP KITCHENイベント】
●Yum! Yam! SOUL SOUP KITCHEN vol.08|秋田県ver.|2012/11/25(sun)
~きりたんぽ、ハタハタ、しょっつる、じゅんさい、比内地鶏、八幡平ポークなど、秋田の旬のプレミアム食材がタイ料理になります!
お申込みは下記より↓(残席僅かです!)
http://yumyam08.peatix.com/
●Yum! Yam! SOUL SOUP KITCHEN 特別開催@BANGKOK|2013/2/28→3/6
〜日本から参加のゲスト&生産者と、現地参加のタイ人&在住日本人の食の文化交流。特別版としてタイ・バンコクにて開催(準備中)
【新シリーズのYum! Yam! TABLEイベント】
●Yum! Yam! TABLE vol.02|熊本水俣&芦北コラボ|2012/12/9(sun)
~九州・熊本の南部、水俣&芦北地域の旬の地場食材をふんだんにつかったまちおこしタイ料理企画です!
お申込みは下記より↓(まだ余裕がございます!)
http://yumyamtable02.peatix.com/
●Yum! Yam! TABLE vol.03|トラ男と秋田のきりたんぽ|2013/1/13(sun)
~秋田の米農家若手ユニットのトラ男とのコラボレーションでワークショップ体験!
もちろん自分でつくったきりたんぽを使ったタイ料理を味わっていただきます。
お申込みは下記より↓(12月から募集開始予定)
http://yumyamtable03.peatix.com/
NPO法人Yum! Yam! SOUL SOUP KITCHEN
2012年11月25日(日)開催!
「Yum! Yam! SOUL SOUP KITCHEN vol.08 秋田Ver.」に行こう!