これまでgreenz.jpでも2回にわたってお届けしてきた、日本初のファッションを応援するファンド・FIGHT FASHION FUND by PARCO(以下、FFF)。新しいファッションビジネスのかたちとして注目を集めましたが、どのように進んでいるのでしょうか。
新ブランド「my panda」の立ち上げのために出資を募ったデザイナー・中村裕子さんは、ファンの方々と直接コミュニケーションしながらいっしょにブランドを育てたい、という思いからFFFへ応募を決めたそう。その当初の思いは今、どんなかたちになっているのでしょう?中村さんにお話を伺いました。
伊藤 早速なのですが、ブランドを立ち上げるにあたって、やっぱり自分のこだわりや価値観を提示したいものだと思うのですが、出資を受けることでその自由がなくなる……といった不安などはありませんでしたか?
中村さん(以下、敬称略) あんまりそういう気持ちはなかったですね。もともと一人でこもってデザイン画を描いているようなタイプではなく、人と話しているときにアイディアが湧いてきて描くことのほうが多いんです。デザイナーとお客さんの距離を遠くしたいわけでもない。一方的に「これが良いんですよ」「これがトレンドですよ」と提案するのではなく、誰かとのやりとりの中で生まれてくるものを大切にしたいんですよ。
だから、誰かの意見を取り入れて自分のものにできなくなったっていうような不安はありませんでした。どういうブランドにしたいかっていうのが自分の中でも明確なので、自分では気づかなかった良い要素とかはどんどん取り入れていきたいですね。
伊藤 70名の方から出資があったそうですが、どんな方々が応募してこられたのでしょう?
中村 応募締切が4月末だったんですが、一足先の3月31日の締切前に「キックオフ懇親会」をやりました。募集時は、2トーンに塗り分けられたブランドのイメージ画像しか掲示していません。どんな服ができあがるのかさっぱり分からないはずなのに、一人3万も出資してくださるって本当にすごいこと。どんな方が応募してくださっているのかすごく楽しみでした。
レディースブランドと言って募集をしていたのに、男性の方も思いのほか多かったんですよ。洋服が好きという方もいらっしゃいましたが、「若い人が何かやるのを応援したい」という先生や、テキスタイルがすごく好きで「良い素材を使って良質な服を作ってほしいから出資しました」というマダムなど、いろんな方がいらっしゃいました。アパレル関係の方だけでなく、銀行員とか税理士さんといった職業の方であったり、バリバリのビジネスウーマンという方であったり、ふだんなかなか出会うことのない方々ばかりでした。
伊藤 みなさんからは当初、どんな意見がありましたか?
中村 そのときは、みなさん初対面なので、みなさんの「かわいい」ってどんなものですか?というテーマでディスカッションをしました。例えば、「牛乳」と答えられた方がいて、「白×何かの色」という組み合わせやってほしいということでした。
「ギャップがあるものが好き」っていう方もいらっしゃったんですが、ちょうどmy pandaのロゴもそういうギャップのあるものにしていたんですよ。パンダを使ったロゴは、デフォルメされていかにもかわいらしいものが多いと思うんですが、このロゴはリアルなものに見えて実はそうでもない。パンダの手はこんなふうにならないし、毛もここまでふさふさしてない。リアルっぽいので「こわい」と感じる方も中にはおられるかもしれません。だけど、こういうリアルっぽいものがかわいいと思う方ももちろんいます。何をかわいいかと感じるかは、人によって違います。このブランドを通じて、自分の「かわいい」を見つけてほしいと思ってこのロゴにしました。
伊藤 出資者の方とは何度ほど意見交換の機会を設けられたのでしょう?
中村 あとは6月21日に「サンプル検討会」というのをやって、いくつかサンプルを見ていただきました。8月8日には渋谷パルコでのキックオフパーティがありましたし、その後の先行受注会を含めて、合計4回の機会がありました。
伊藤 出資者の方の意見をを踏まえて実際に変えたことはありますか?
中村 懇親会のときに「メンズはないんですか?」との声を多くいただきました。ネクタイブランド「giraffe」が好きで出資してくれた方もいらっしゃって、そういう方は、当然ネクタイに合わせるメンズがあるだろうと思っていらっしゃったようです。(※)
募集中の頃から「メンズやろうよ」という意見があったんですが、かたくなに拒否していたんですよ。ずっとネクタイをやっていたこともあって、レディースをやりたいという思いが強かった。だけどネクタイをやっていたせいなのか、マニッシュな服が好きで、そういったものを多く作っていました。それらを見て、出資者の方が「これ、サイズがあれば着るのに」と言ってくださるので、「ならば」と思いメンズも9型作りました。
※「my panda」とネクタイプランド「giraffe」を運営するのは同じ会社、株式会社スマイルズです。
伊藤 幅が広がりますね。出資者の方はどういった思いで出資されたのでしょう。
中村 3万に対するリターンもわずかなものにしかなりません。「投資して儲けよう」というよりも、新しいことをやりたい、応援したいって気持ちで投資してくださる方ばかりでした。一般の方にとって、ファッションができるまでの過程に触れられる機会はなかなかありません。その過程に触れていただくことで、ブランドとの新たなつながり方を楽しんでいただけたように思います。
先行受注会にいらっしゃったときも、互いに知らない出資者どうしの方々が、色の組み合わせについて話し合っているんですよ。自分の「かわいい」を見つけることで、人の輪がつながっていくことを目指したのですが、それが実現できたのですごく嬉しかったです。
この仕組みを通じて、ブランドないしデザイナーとそのファンの関係性が、今までとは異なる距離感になっていると思います。普通ならデザイナーに意見や要望を直接言えませんし、私もなかなか直接伺うことができません。ブランドが始まるいちばん最初から見ているmy pandaは、彼らにとって他人事ではない。「自分のブランド」として思っていただけたように感じています。
伊藤 この取り組みは約一年で終わりますが、その後はどんふうに出資者・ファンの方々とコミュニケーションをとっていきたいですか?
中村 直接コミュニケーションできるような取り組みは、FFFが終わってもなんらかの形で取り入れていきたいです。イベントとかもできればしたいですね。自分とブランドが一体になっている関係を継続して作りあげていきたいです。ゆくゆくは、「my pandaの立ち上がりのときに出資したんだよ!」ということを自慢にしていただけるよう、ブランドを育てていきたいです。
伊藤 では、ご自身のmy panda、2トーンを教えて下さい!
中村 「白×黒」!ふだん色を扱ってデザインすることが多いので、逆にシンプルになっちゃって。以前は花柄とかもよく着ていたのですが、色を使ってデザインすることが多いので、最近「白×黒」が多くなって来ました。白黒1対1。パンダですから!パンダって本当にかわいいですよね、だってモノトーンの動物なんですよ♡
大量消費・大量生産の服があふれる中で、本当に愛着を持てるブランドって、みなさんはありますか?追っかけみたいに好きなバンドのライブに行っていた時期がありましたが、直接お客さんとコミュニケーションを取りながらブランドを作っていく方法は、まるでファッションにおけるデザイナーのライブのように感じます。
「強いデザイナーメッセージを提示していくブランドのやり方もかっこいいけど、どんどん新しい風を取り込んでいくのも気持ちいい」と語る中村さん。応援するデザイナーの服を買うのが、ライブに足を運ぶときと同じように気持ちよくて楽しいものになりそうです。