「贈り物をするように働く」ことを大切にしている日本仕事百貨。最近は「贈り物割引」というものを始めたそうです。割引した分、贈り物をいただくとはどういうことなのでしょうか?
今回はお金だけではない”交換”をテーマに、日本仕事百貨の中村健太さんとgreenz.jp副編集長の小野裕之さんの対談をお届けします。
お金の代わりに野菜でもらう
小野 グリーンズでは今、「大地を守る会」の広告出稿料の一部を野菜でいただく取り組みを始めています。お金をもらっても結局はそのお金で食べ物を買うから、最初から野菜をもらってもいいんじゃないか、と思ったんです。
それも、オフィスに届くようにしたら面白いんじゃないかなと。「大地を守る会」を利用しているのは主に30,40代の主婦の方。若い人にも利用してもらいたいけど、一人暮らしだと使い余らしてしまうのでは、会社にいるときに届いたら受け取れないのでは…と、個人だと注文するのが難しいというのが現状。だったらオフィスに届けてもらえたらいいのでは?と思ったんです。
中村 みんなで団地ごとに共同購入する生協みたいだね。
小野 そうですね。そのオフィス版。社会性は高いけれど広告にそこまで費用をかけられず、新しい顧客の獲得に苦心している社会企業は多い。もちろん、その現状に何か役に立ちたい。でも、greenz.jpの広告出稿の定価は決して安いわけではない。なので、僕たちとしてすごく応援したいんだけれども予算がない、そんな企業を対象に、お金の代わりにモノやサービスをいただくシステムをやっていきたいと考えています。
中村 仕事百貨も掲載費の一部を野菜でもらう試みをやってみました。きっかけは、徳島県神山町で地域活性化などについて学ぶ「神山塾」の一期生だった西脇さん。彼女が神山の野菜を知人に送ったという話を聞いていいなと思った。
僕自身、地元を持っていないんですよ。親が転勤族で、今の実家も東京の近くにあるし、「仕送り」というものを経験したことがなかった。それで、僕も野菜を送ってほしいと思ったの。送ってくれたときはすごく嬉しかった。お金は大切だし便利だし否定するわけではないけど、個人的に物を直接もらうことは嬉しいんですよね。
中村健太さん
貨幣をなくすとコミュニケーションが生まれる
中村 お金のマイナスの面としては、コミュニケーションを失われる点。例えば都心に住んでいる人は、お金があれば家にいても何でもサービスを受けることができる。ただ、作った人と直接関わることができるとすごく嬉しい気持ちになる。せっかくだから仕事百貨でもやってみようと思ったんです。
サービスを直接いただいて、その分、掲載費をディスカウントすることは、そもそもお金が目的じゃないんですよ。嬉しいとか自分たちが楽しいというのが目的。野菜以外にも、仕事百貨のデザインをしてもらうとか家賃を安くしてもらうとか色々あると思うんです。でも、ディスカウントは一部だけにします。なぜなら、もし野菜が10年分届いたらどうする?
小野 困っちゃいますね。笑
中村 僕らは野菜だけでは生けていけないから、そこは交渉になると思う。もし必要ないものであれば、毅然と断らなければいけない。そういう面倒臭さはあるね。お金はそういう面倒なコミュニケーションを減らしてくれる良さがある。
あと難しいのは、野菜1個もらったらどれぐらいのディスカウントにするか決めること。そう考えると、お金の便利さを改めて感じるね。
小野 グリーンズではスタッフの人数分、送ってほしいと頼んでいます。
中村 なるほど。この前もこれだけ安くするからお好きなように送ってください、と相手に任せてみた。よく知った相手であれば、特に指定しないのもいいかもしれない。
日本仕事百貨の事務所には、今後のビジョンを書いた絵が。
コミュニケーションには顔を合わせることが大切
小野 食べ物の他にも水とかお茶とか、あと旅券や宿もありですね。
中村 そうだね。ただ、初めて一緒に仕事をする人と「贈り物割引」をするには、コミュニケーションをたくさん重ねていく必要があるから悩ましい。そのコミュニケーションこそ楽しいんだけれど。
小野 最初は知っているところからですね。
中村 現段階では、この仕組みは全員とはできないと思う。以前、「グリーンズはそろそろ固定の場を設けるべき」という話をしたけれど、物々交換するには顔と顔を合わせられるリアルな拠点が必要だと思う。顔と顔を合わせると言葉を交わす以上にコミュニケーションができる気がするから。
僕も取材するときは必ず現地まで行くようにしている。そうでないと得られない喜びがあるだろうし、伝えられないこともあるし、何より楽しい。グリーンズもそういうことをやったらいいんじゃないかな。
僕がいつかやりたいと思っている「日本仕事百貨店」は古い一軒家かビルを借りて、その周りに面白い人たちが集まって、町の一角が変わるようなイメージ。
小野 『R the transformers』という本に、古い工場街をクリエイター向けのスペースにリノベーションした例が載っていたんだけど、敷地も天井も広くて、その中に飲食店やレジデンスもあって小さな村みたいなところで、そういう感じですか?
中村 うん、それは理想的だね。あとは理解ある大家さんが必要。もし自由に使っていいと貸してくれたら、恩返しするように、例えば10年後に僕らが出たときに不動産価値が上がっているようにしたい。松戸の「MAD City」がすでに実践しているけど、それって本当に贈り物をするような関係だよね。
お二人の話を聞いていて、お金を野菜に代えることは、資本主義によって薄れつつあるコミュニケーションを取り戻す一つの手段のように感じました。これまでもxChangeやブッククロッシングなどモノとモノの交換は広まっていますが、これからはお金とモノの交換も、小さいながらも増えていくかもしれません。
(Text:木村絵里)
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