東京。多くの人がこの都市名を聞くと、近代的な高層ビルが並ぶ風景や人ごみ、満員電車、あるいは人々のコミュニケーションが希薄で夜も明るい街の様子を思い浮かべるのではないでしょうか。
しかし、この東京にちょっと違ったイメージを抱いている人たちがいます。彼らに見えている東京はこんな感じ。
超高層ビルの裏の路地には朝顔を植えられ、道路脇の花壇にあじさいが咲いています。ベランダでスイカを育てている人がいて、公園にはサクランボのなる木があり、人々は実りを楽しんでいます。また庭先でとれたミカンを同僚や近所の人に分け、レシピを交換し合っています。
「彼ら」とは、ジャパンタイムズのコラムニストJess Mantell(以下ジェス)、イノベーション研究者のChris Berthelsen(以下クリス)、 デザイン人類学の専門家のJared Braiterman(以下ジャレド)の3人。3人は「東京は、緑にあふれて地域コミュニティの力が強い都市になる可能性を秘めている」と主張して、調査やイベント、情報発信を行う、「東京ローカルフルーツ」というマイプロジェクトを行っています。
東京にあるフルーツ
日本の食料自給率は約40%。東京にいたっては1%程度と、驚くべき低さです。しかし、流通システムに乗らない自給自足的な果物の消費は、予想以上に多いのではないかと三人は指摘します。
柿、柚子、みかん、梅、びわ、ぶどう、栗……。調査の結果、非常に多くの種類の果物が、東京で育ち、食べられていることがわかりました。そしてその果物は、自分の庭やベランダ、公園などから収穫され、家族や隣近所、友人、同僚などの身近な人たちで食べられているのです。
「東京ローカルフルーツ」の調査の結果を見ると、東京で収穫し食べられている果物の種類は実に30種類以上!この調査から、ほかにどんなことがわかるのでしょうか。
果物の調査を通じてわかること
ジャレドは言います。
果物の木は一朝一夕には育ちません。そのため、果物がどこで取れたかを調べると、その土地にどんな歴史があるのかを調べることにつながることがあります。
また、果物がどのように消費されたのかを調べると、どんな文化が継承されていくのかもわかります。柚子湯や果実酒、漬け物も文化の一部ですから。
それから、果物を収穫した後に誰と分け合ったかを調べると、果物を通じてコミュニケーションが誰と行われるか、どんなコミュニティがあるのかがわかってくるのです。
つまり、東京ローカルフルーツの調査は、単なる植生の調査ではなく、”果物を取り巻く東京の生活”を調査するものなのです。
また、この調査を行うと、1本の木の重要性が変わって見えてくると、3人は言います。
公園にあるさくらんぼの木を介して、どれだけの人がコミュニケーションを行っているがわかると、その木を切るか判断が必要になった場合に、結果に違いが出てくると考えられます。
東京の果物を使ったイベントでコミュニティを活性化させる
ジェス、クリス、ジェレドの三人は、果物や野菜をつくったり、加工をしたりすることを通じて、コミュニティが作られたり、CO2削減ができたり、人々の環境への意識が高まったりすると考えています。そのため、東京ローカルフルーツでは、果物について考えるイベントを行っています。
6月には、閉校になった学校でハッサクがなっているのをジェスが発見。そのまま食べられずに悪くなっていくのはもったいないと感じて区役所に問い合わせて許可を取り、そのハッサクでマーマレードを作るイベントを行いました。
このイベントには20名以上が参加して、マーマレード作りを楽しんだそう。
「東京はコミュニケーションが希薄」と言われます。でも、果物を通じてコミュニケーションが生みだすことができる、コミュニティをつくれるということがこういったイベントを通じてわかりました。
「緑豊かでおいしい」東京の姿を世界に発信
3人は言います。
東京は、大都会であるにも関わらず、緑にあふれて地域コミュニティの力の強い都市になる可能性を秘めています。
例えば、交通機関が発達しているため、東京では車に乗らなくても生活していけます。高価な盆栽を道に出しても盗まれたり壊されたりしないという治安の良さもあります。また、過密な暮らしのなかで、うまく植物を育てる知恵もあります。
こういった東京のすばらしさをまずは東京に住んでいる人が認識して、その良さを世界に発信していくべきです。
3人は、果物や野菜が東京の街中で育っている様子や、東京の片隅でひっそりと、でも力強く生えている植物の様子を撮影し、写真をブログに載せたり、The Japan TimesやJapan Newsweekなどのメディアを通じて東京の持つ可能性を発信したりしています。
東日本大震災以降の日本人の変化
2011年の東日本大震災後、食の安全への不安から、多くの人が産地や生産方法を気にするようになった、と3人。
いちばん良い方法は、自分たちで野菜や果物を育てたり、自分たちのすぐ近くの人から食べ物を買ったりすることです。何も遠くから運んでくる必要はないのです。自分たちで野菜や果物を育てれば、安定した、自分でコントロールが可能な果物や野菜の供給ができるようになります。
もちろん「自分たちが食べるすべての食物を全部ベランダで生産!」なんてことは難しいですが、自分のベランダや庭先で作ったものを食べれば、究極の地産地消になります。
また、原発への人々の関心や政府への意思表示等、人々が自分たちの生活を自分でコントロールしようとし始めたことに、3人は「よりよい未来」を感じているのです。
果物を通じたコミュニケーションをもっと行おう!
「もともとは、このプロジェクトはおいしい果物が食べたかったから始めた」と3人は茶目っ気たっぷりに言います。3人とも、時間があるときに近所を散歩して果物の木を見つけたり、自分たちで野菜や果物を育てたりしているそう。
「でも誰かの庭先にある果物の木を見つけても、分けてもらうのはなかなか難しいのでは?」という私からの質問に3人は、
「良いミカンですね」などと話しかけると良いですよ。庭を褒められて嫌な気がする人はいないし、もし収穫の時期が来てミカンが余ったら、『あ、あの人にあげよう』と思うかもしれません。そして何かをもらったら、今度は自分のベランダでたくさんとれたものをお返しすれば、そこでコミュニティができていきます。
と答えてくれました。
確かにコミュニケーションが希薄なのは、誰もが自分から相手に働きかけないから、という理由もありますよね。こういった会話がきっかけで地域の人とのつながりができれば、東京の生活はもっと楽しくなりそうです。
地域でのコミュニケーションが今よりももっと円滑になり、コミュニティが今よりももっと強いものになれば、東京は災害時にも強い都市になっていく、と3人は語ってくれました。
調査に協力を!!
「東京ローカルフルーツ」では、現在も東京でとれる果物についての調査を続けています。調査は非営利を目的として行われ、記事や地図や調査結果はだれでもが無料で閲覧できるようになるそうです。ぜひ、調査に協力をしてみてはいかがでしょうか。
果物を介して、コミュニティや環境に優しい生活、持続可能な食料供給を考えていくという取り組み。様々な切り口から、自分たちの生活をより良く、気持ちの良いものにしていくアプローチができるのだと気付かされました。
ベランダがちょっと開いていたら、何かちょっと育ててみて!余ったらお隣さんにシェアをすると、東京がもっと楽しくなるかもしれませんね。
東京ローカルフルーツも参加した green drinks Tokyo のレポートはこちら!