右:自由大学学長・和泉里佳さん 左:greenz.jp副編集長・小野裕之
グリーンズが展開してきたグッドアイディアをカタチにする学びの場、「green school Tokyo」。これまでもたくさんの方に参加していただいたこのスクールが、8月から『ソーシャルデザイン学』として「自由大学」にて開講されることになりました。
新しい場でのスタートにあたって、greenz.jp副編集長・小野裕之(以下小野)が自由大学学長・和泉里佳さん(以下和泉)と、これからの「学び」のあり方や、この講座に寄せる想いを語りました。
green school Tokyoは、グッドアイデアをカタチにする学びの場
co-lab西麻布でのgren school Tokyoの様子
和泉:そもそも、グリーンズがスクールを始めたきっかけって、何だったんですか?
小野:「greenz.jp」の創刊が2006年。ちょうど世間の環境問題に対する関心が高まっていた時期でした。不安ばかりが募るようなネガティブなニュースが大半を占めるなか、「自分たちの手で未来を創ろうとしている人たちが、こんなにいるんです」ということを伝えるべく、ポジティブなニュースを配信していきたいとの想いから始まりました。(ちなみに、僕が参加したのは2009年〜です!)
そして、その翌年からエコやグリーンをテーマにした飲み会「green drinks Tokyo」を、それまでのオーガナイザーから運営を譲り受けるかたちでスタート。greenz.jpを見て面白いと思った人たちや環境に関心のある人たちがリアルに集まれる場を設けたことで、そこで出会った人同士が一緒に新しいプロジェクトを立ち上げたなんてことも起こるようになりました。
ただ、greenz.jpで世界のポジティブなアイデアを「知る」ことができて、green drinks Tokyoで同じ興味を持った人たちが「繋がる」ことができても、まだまだ何か “片手落ち” のような感覚があって……。それはつまり、グッドアイデアを知る機会や実際に活動している人と出会う機会があって、さらに自らがアクションを起こしたいという気持ちもあるのにもかかわらずなかなかアクションに繋げることができないという人がいたということなんです。
自由大学のメインキャンパスでもあるIID世田谷ものづくり学校の教室で
和泉:たしかに、もともと何かやろうとして、ひとりででも動き始めている人たちにとっては、green drinks Tokyoは “最後のひと押し” として背中を押してくれる機会になるかもしれないけど、まだその一歩手前にいる人にとっては、もう少し前のステップが必要かも。それで、そういう人を巻き込みたいと始めたのがスクールというわけですか?
小野:そう。例えば、企業の中でも何かを始めようとは思っているんだけれど悶々としてしまい、実際に計画立てることができなくて……という人たちに手がかりを提供する場をつくりたかったんです。
和泉:その切り口にどんな人たちが集まるのか、興味がありますね。
小野:ありがたいことに、初の編著『ソーシャルデザイン — 社会をつくるグッドアイデア集』を出版してからgreenz.jpの認知度が上がり、興味を持ってくれる人のタイプや年齢に幅がうまれました。
例えば、参加者の中にはお孫さんのいらっしゃるような年代の男性がいらっしゃるのは今までにない傾向です。その方は、スクール同期の仲間や社会を良くするようなマイプロジェクトに取り組んでいる若者たちに触れて感銘を受けたそう。そして、そんな若者のプロジェクトをご自身の周りにいらっしゃるような “小金持ち” のシニアがサポートするという仕組みを考え、実際に準備サイトを立ち上げたという例もあります。
思い込みや常識から解放される場、自由大学
自由大学の人気講座「20年履ける靴に育てる」の授業風景
小野:自由大学は、色んなジャンルの講義がありますが、軸となるものは何ですか?
和泉:知識を上から下に流すだけのものではなく、数多くある情報のなかから、「じゃあ、自分はどうするのか?」を自ら考え行動できるような環境作りを心がけています。だから、価値観を押しつけたりもしないし、最終回には誰もが自主的に一歩踏み出せるようなカリキュラムにしています。講義を受けることで思い込みや常識から「自由になる」ということが、根底にあるテーマなんです。
小野:自分で考える時間を設けるって、すごく大切ですよね。
和泉:それは色々ありますね。例えば、私たちのキャンパスはどこも駅から遠いんですよ。それは、「わざわざ歩いて来る」という行為によって、心もカラダも能動的なスイッチをオンにしてもらう効果がある。
それから、自由大学で講義をする人たちはいわゆる「教師」ではなく、何か専門を持っていて、それを普段は仕事にしているような方々。何かのテーマがあって、それに集まってきた人たちが、そのスペシャリストである教授や全体をまとめあげるキュレーターと一緒に講義をつくりあげていくんです。
自由大学学長・和泉里佳さん
小野:自由大学がすごいのは、「教える」ということを民主化したところですよね。誰でも先生になれるんだってことを示してくれた影響は大きい。やっぱり僕たちのクラスでも目指すのは、誰かのグッドアイデアを見て「いいな」と思った人たちが、今度は自分がそれをつくる側にまわるというところなので。
和泉:自由大学の講義は、日々の暮らしや仕事を楽しみ、ライフスタイル自体を丸ごと考えようとするスタンスなんです。事実、「日本ワイン学」を受講した人が実際に日本ワインの専門店を開いたり、「20年履ける靴に育てる」という靴磨き職人のクラスを受講した人が、靴磨きを仕事にする、なんてこともしばしば。
「キュレーション学」の卒業生から今度は自分がそれをつくる側にまわって学びのキュレーターになる人も増えてきています。何かやろうと思っていた人たちが集まって、お互いに刺激を与え合い横の繋がりが生まれることで、やりたいことの実現を加速させる効果もあるんだと思います。
「自由大学 × グリーンズ」だから、できること
greenz.jp副編集長・小野裕之
和泉:自由大学の講義は、成績を争うようなものじゃないですし、むしろ、講義を受けて、彼らがそれぞれに何かに取り組むことで社会が良くなるようなものを目指しています。その大きな方向性は、グリーンズにとても近いと思う。
小野:そうですね。僕たちも、自分たちの未来のために自らアクションを起こす人を増やしていきたいという想いがあります。だから、講義の中でレクチャーを聴いているのは3分の1くらいで、残りはレクチャーを聞いたうえで自分が何を考え、何を話すのかというところをワークショップ形式でじっくり深めてもらう。「うんうん」って聴くだけで終わったら、知識をただ頭に入れるだけという点で本を読むのと同じだと思うんです。
和泉:そうそう、わざわざ大切なお金と時間を使ってまで来る意味って何だろうと考えてみると、人の話から発せられる熱やうねりのようなものに自分を反射させながら、自ら発言して存在感を出すことなんですよね。隣にいる仲間からも良いインスピレーションをもらったりね。
小野:『ソーシャルデザイン学』でも、色んなゲストを呼んだりすると思うんですけれど、その話を聴いた後に「自分はどうしたいのか」を考える時間であったり、「自分はやっぱりこれで良かったんだ」っていう確認ができたりということに重点を置きたいと思っています。
自分の手で未来をもっと素敵にする、『ソーシャルデザイン学』
和泉:ところで、講義の名前にもなっている「ソーシャルデザイン」って、わかりやすく言うと、どういうことですか?
小野:グリーンズは、「ソーシャルデザイン」を「社会的な課題の解決と同時に、新たな価値を創出する画期的な仕組みをつくること」と定義しています。「社会的な課題」と聞くと、地球の裏側で起こっている戦争や森林の減少など、想像もできないくらい大きな規模の問題をイメージしがちですが、それだけではないはず。
例えば、自分のおばあちゃんを元気にするために色々考えて行動してみたら、その行動が実は、高齢化社会社会問題の解決に繋がっていたというようなことがあると思う。社会を良くする始まりは、そういった小さな「自分ごと」だと思うんです。
和泉:そうですね。ということは、この講義の対象となるのは「自分ごと」の課題を持っている人?
小野:そう。編著『ソーシャルデザイン 』の冒頭でもしたように、「未来はもっと素敵になると思いますか?」と「自分の手で未来をもっと素敵にできると思いますか?」の2つの質問をした時に、自信を持って両方に「YES」と答えた方。その方は、すでに立派なソーシャルデザイナー(あるいはその卵)です。
そして、どちらかだけに「YES」と答えた方には、ぜひ、この講座に参加して欲しいですね。きっとそれは、ぼんやりとやりたいことがあっても、どうやって「自分ごと」としてカタチにするかが分からずに立ち止まっている人だと思うから。今回の講義では、「自分ごと」から始まる「マイプロジェクト」を参加者一人ひとりが考えることで、ソーシャルデザインのプロセスを体感し、全員がソーシャルデザイナーとしての一歩を踏み出すことをゴールにしたいと考えています。
最後に2人でパチリ
greenz.jpが注目したきたグッドアイデアを見ながら、オリジナルの計画を温めてきた人、いつかは始めてみたいと思っていた人、一歩踏み出してプロセスを体感してみたい人。そんなたくさんの人の、素敵な未来づくりがこの講座から始まりそうです。
(Text: 中村優 / taraxacum)
『ソーシャルデザイン学』の詳細はコチラから!
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