最近フランス人にとって、日本が憧れの場所になっているということをご存知ですか?
観光局によると、フランスから日本への観光客は2010年には15万人以上で、20年前の倍以上!昨年は例外的に少し減ってしまいましたが、毎年うなぎ上りに増えています。
フランスの地方都市にも日本語教室ができたり、「Zoom Japon」という愛好者向けのフリーペーパーが発行されたりと、「日本熱」が高まっているようです。
今回は、日本への熱い想いを持ったフランスからの観光客に、リアルな日本をもっと知ってもらいたいと活動をしている、「ジャポン・デクヴェルト」の取り組みを紹介します。
日本に恋をしているフランス人観光客
「ジャポン・デクヴェルト」はフランス語で「日本発見」の意味。代表の黒木美紀子さんは、フランス人に日本に対する気持ちを「恋愛が始まったばかりのときに似ている」と表現します。
「日本は好きだけれど、よく知らない」、「もっと日本のことを知りたい」。そんなことを思いながら、日本にやってくるフランス人が多いそうです。
一見「クールジャポン」と言われる原因となったポップカルチャーの影響かと思いきや、実はそれだけでもない様子。「古い伝統と超近代的な技術や文化が、狭いところにひしめき合っているのが日本の魅力だ」と語る旅行客も多いそう。
日本とフランスは、「歴史があり、独自の文化を持つ国である」という共通点があります。また細部にこだわり、研ぎ澄ましていく文化も似ています。フランスに敬意を払いながら日本のよさを紹介して、もっと日本を好きになってもらいたいと思っています。
フランス人観光客の特徴
黒木さんによると、フランス人観光客は他の国の観光客とちょっと違うそうです。それには3つの理由があります。
1. 滞在期間が長い
フランス人はバカンス好きな人が多く、「バカンスのために働いている」なんて人も。有給休暇の完全消化率がなんと93%(日本は8%…)と高く、有給の取得平均日数は37日!夏のバカンスは短くても10日、長い人だと6週間も取得するのだとか。
3〜4日くらいの旅行であればガイドブックに掲載されているおすすめスポットを回るだけで十分ですが、長く滞在することになると物足りなくなるんですね。
2. フランス語に誇りを持っている
フランスに行くと「英語で話しかけてもフランス語で返される」というのはよく聞く話。それは決してわざとではなく、実はフランスには英語を話せない人も多いのです。
というのも、フランス語は英語と並ぶ国際共通語だから。現在でも、国連などの国際機関の公用語は多くの場合、英語に加えてフランス語が指定されているのです。そのため、40代、50代のフランス人は英語を勉強する必要を感じていない人もおり、英語ができない人も多いのです。
3. 「人とは違うこと」を求める
フランスではユニークさや個性を大切にする教育を行っていることもあり、「人とは違うこと」を求める傾向にあるようです。そのため、ガイドの黒木さんに、ずばりと「ガイドブックに載っていないところ」「観光客向けではないところ」「人とは違うところ」に行きたいというオーダーをしてくる人も多いのだとか。
ガイドを使った旅とは?
ところで、個人旅行でガイドをお願いするとなると、お金持ちのものというイメージがありませんか?旅行業界の人でも「外国人にとっては、日本はガイドを使わなくても楽しめる国だ」という認識があるようです。
でも、ここで想像してみてください。
たとえばバリ旅行中。街を歩いていて、突然始まったお祭りに遭遇。「珍しい物が見られてラッキー」と思いながら見るのはとっても楽しい経験です。でも、そこに「あの真ん中にいる人が、神様のお使いなのですよ」なんて、教えてくれるバリ人がいたら、そのお祭りはさらに意味深く、良いものになる。そう思いませんか?
またその人が、「日本の人はお金が貯まると旅行をするのかもしれないけれど、バリの人は、お金が貯まるとお祭りにつぎ込んじゃうんです」と、日本の文化との比較を交えて教えてくれたら、そのお祭りにかけるバリの人の情熱が、一気にリアルに感じられますよね。
まして、それを日本語でわかりやすく教えてくれたら、旅先の文化がぐっと身近なものになって、次の日から旅先を見る目も変わってくるはずです。そんなガイドさんを、短時間かつ安価な値段で利用できるのであれば、お願いしてみたくなりませんか?
実は黒木さんご自身も、旅先でガイドにお願いしてみてその仕事に魅せられたと言います。
例えば鎌倉のように、日本国内でもガイドをお願いしたこともあります。そのときガイドさんが2010年3月に倒れてしまった大銀杏について、「この大銀杏が倒れたときには、本当に悲しかった。鎌倉には、人生の節目節目で、この木の前で写真撮影をしていた人もいて、人生を重ねあわせて見ている人も多かったのです。だから、残った根の部分から、ちっちゃな芽が出てきたときはみんな喜んだのです」と教えてくれました。
何年に倒れたか、ということはガイドブックなどを見ればすぐにわかります。でも、目の前でその大銀杏を見ながら、生の声でそれを教えてもらうと、その大銀杏にまつわる地域の人々の想いや、生活が胸に迫ってきて、思わず涙が出てきてしまいました。こういった感動を、他の人にも体験してほしいと思ったんです。
「ジャポン・デクヴェルト」のサービスの特徴
こういったガイド付きの旅のすばらしさとフランス人観光客の特徴、フランス人観光客の日本への想いを知った上で、「ジャポン・デクヴェルト」は、以下のような特徴をもってサービスを提供しています。
1. 3,500円から!価値あるサービスを適正な価格で
「ジャポン・デクヴェルト」のサービスは、ガイド自身が企画から運営まで担当。旅行会社へのマージンが不要なので、利用しやすい価格となっています。ガイドだけでなくその後の日本滞在がさらに楽しくなるように、おすすめのレストランなどのアドバイスまで行います。
通常、旅行会社を介してガイドを依頼する場合1日単位が基本で、相場は35,000円。これでは気軽に通訳ガイドのサービスを使ってもらえないと考えました。「ジャポン・デクヴェルト」のツアーでは2名で参加した場合、3時間から依頼可能。参加費は1名3,500円〜としています。
例えば谷中なら3、4時間で主要なスポットを見て回ることができます。商店街もとても活気があって、かざらない庶民的な雰囲気を味わえます。関東大震災や戦災をまぬがれた地域なので古いお寺や街並みも多く残っており、かつ観光地化されすぎていないのでフランス人にはとても人気があるんです。
お寺を案内するときは墓地も含めて、卒塔婆の意味や、日本の死生観、神社と寺社の違いを説明すると、例えば別の場所で神社があったときに、ガイドがいなくても寺社との違いがわかると思います。
また、大きい神社を案内するときはできるだけ結婚式が行われている時間帯をおすすめしています。多くの外国人にとって、神道式の結婚式は自国ではまず見られない貴重な経験で、とても喜んでいただいてます。こうしたことで、日本をより身近に感じてもらえたらと思っています。
内容は凝縮されているため、短時間でも満足度は高いそうです。むしろ午前にツアーに参加し、午後はひとりでその街を歩いてみるなど、フレキシブルに過ごし方を決められるのも魅力ですね。
2. フランス人にわかりやすい解説をフランス語で
「日本の○○と同じように…」など、自国の文化と比較されると違いや共通点がわかりやすくなります。ガイドの黒木さんは日本とフランス両方の文化に精通しているため、利用者はすっと理解することができるのです。
3. オーダーメイドでガイドが企画
「人と違うことをしたい」というフランス人の様々な要望に応え、どこに行って何を見るのかを、ガイド自身が企画を立てます。日本をすでに何度か訪れている人には、例えば「ポップカルチャーに触れたいけれど、秋葉原はもう行ったことがある」という人には中野ブロードウェイを紹介するなど、お客様の要望に合わせて提案するのです。
フランス人にとって、まさに「日本を“新発見”できる旅」を提供しているのですね。
働けないなら、自分で仕事をつくろう
ジャポン・デクヴェルト代表の黒木美紀子さん
黒木さんが「ジャポン・デクヴェルト」を始めたのは、切実な理由があってのことでした。もともと、学生時代にフランスに行って大のフランス好きになった黒木さん。熱い想いをもって、フランス語通訳ガイドを目指しました。しかし、実際に資格を取って通訳ガイドを始めようとすると、思いもよらない壁があることに気付きました。
通訳ガイドの働き方は、旅行会社や旅行専門の派遣会社と契約を結び、仕事を斡旋してもらうのが一般的です。
基本的には、ツアーのある地域に住んでいるガイドに優先的に仕事が紹介されるのですが、どうしても人手が足りなければ遠方からガイドを派遣して対応することがあります。つまり「全国どこにでも行ける」という姿勢が必要なんですね。
しかし現在私は子育て中で、そういった働き方は難しいなと感じていました。
また、旅行会社が企画しているツアーは、フランス人には合っていないという想いもあったそうです。
「外国人向け」として企画されている旅行会社のガイドツアーは、メジャーな観光地を見て回るタイプのものが主流です。これは団体行動を好まないフランスの個人旅行者のリズムには合わないと感じました。
また、ひとりひとり求めている内容が違う中で、説明するボリュームやスピードを団体客に合わせて調整するのも難しく、かといって個人で通訳ガイドを旅行会社経由で依頼すると、かなり費用が高くなってしまう。
そのような課題に対して、もっと個々のニーズに応えられるようなサービスを通訳ガイド自身が企画すれば、利用しやすい価格で、より日本を楽しんでもらえるのでは、との思いがありました。
しかし、ガイドとして資格を取得したばかりの黒木さんですが、最初は「いつかチャンスが来たら自分で事業を立ち上げてみたい」という漠然とした思いがあったのみでした。そこから「実際に行動しよう!」と思ったきっかけとなったのが、東日本大震災です。
震災が起こって、「いつ、何が起こるかわからない」ということを実感しました。そして、「何か行動を変えなくてはいけない」と思ったのです。犠牲になった方もたくさんいます。その方々の死を無駄にしてはいけないという気持ちがありました。
私はフランス語通訳ガイドの資格もあり、フランス人観光客に日本を紹介したいという気持ちをもっています。それが私の力で、何か世の中に光を当てる取り組みだと思っています。だとしたら、「子どもがいるから100%できないので諦めます」ということではなく、「一人一人ができることをやらなくてはいけない」と思ったのです。
確かに、限られた時間の中で自ら企画し集客も実施も行うのは思っていたよりハードでした。それでもやはり、チャレンジすることをゼロにはしたくない。わずかでも人の役に立てる可能性があるなら、あきらめずに自分の力を社会で活かしたい。そう思うようになりました。
必要は発明の母という言葉通り、黒木さんは自分で仕事をつくろうと思い立ったのですね。
原点になる想い
自分のできる範囲で着実に行動をとる黒木さん。お話を伺いながら、原点となった小学校時代の思い出を語ってくれました。
小学校の頃、1ヶ月に1度くらい異文化交流として外国人の先生がやってきました。そのときに異文化に強い興味を持ち、親に頼んで近所の英語塾に行かせてもらったんです。そのときは英語劇をやっていたのですが、毎日テープがすりきれるくらい聞くほどのはまりようで。とにかく日本と異なる外国の文化や言葉がある、ということに興味があったのです。
また小学校時代に環境をよくするための活動などを地域で行っていたお母さまの姿も、黒木さんに影響を与えたそうです。
母からは、「世の中にはいろいろな問題があるけれど、できることは行動していった方がよい」ということを学びました。社会に出ると、「そんな夢みたいなことを言うなんて甘い」と言われることもあります。でも甘くても何でも、行動してみることが大切だと思ったのです。
「ガイドの地産地消」を目指して
現在ガイドが可能なのは東京近郊だけですが、今後「ジャポン・デクヴェルト」では2つのことを考えているそうです。
1つ目は、フランスが大好きな日本人をボランティアとして受け入れること。
フランス人観光客は、「日本人と出会いたい」と思っている人が多いそう。フランスに興味があったり、フランス語を勉強中だったりする人で、日本の習慣を説明できる人に協力を依頼して、ホームステイや夕食体験のサービスを行いたいそうです。フランス人と一緒に楽しい時間を過ごせるまたとないチャンス、ぜひ参加してみてはいかがでしょうか。
2つ目は、ガイドのネットワークづくり。地域のおもしろいところを一番よく知っている、その地域で実際に生活している人をガイドとして増やしていく予定です。
旅行者の方もさまざまな年代・性別の方がいらっしゃるので、ガイドも多種多様な方がいいと思っています。例えば、介護・育児・健康上の理由などで長期間働くことが難しい人でも、自分のできる範囲で自分の得意な分野のガイドができたらおもしろいですよね。
ガイド自身でツアーを企画をするということは、自分らしい仕事を自らつくるということです。今後はいろいろな地域のガイドと協力して、「ガイドの地産地消」を目指していきたいと思っています。
子育て中のお母さんにとっても、黒木さんのあり方はきっといいお手本となりそうです。日本好きなフランス人の友人が居らっしゃる方、ぜひ「ジャポン・デクヴェルト」を薦めてみてはいかがでしょうか。
「ジャポン・デクヴェルト」について調べてみよう。
フランスの旅を楽しくするサービスをみてみよう。
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