「和える」とは「混ぜる」とは微妙に違い、もとの素材の良さを生かして合せるという日本独特のコトバ。この「aeru」という名が表すように、昔ながらの日本の伝統技術と、現代の新しいセンスの両方を取り入れたベビー・キッズブランドが誕生しました。
発起人の矢島里佳さんが、雑誌の取材のために全国各地の職人さんの元を周るようになったのは大学生の頃。どんどんその世界の魅力にハマり、伝統技術を生かしたベビーグッズをつくることを思い付きます。
2012年3月30日に発売になった「本藍染出産祝いセット」は、「aeru」ブランド初の商品。幼児の頃から日本のホンモノに触れてほしいと願う矢島さんの思いが形になりました!
20〜40代の若手職人が目を向ける産業に可能性を感じて
伝統工芸と聞くと、高価で日常生活には馴染のないものに思えてしまうもの。けれど、今伝統品といわれるものの多くは、かつての日本で日常的に使われていた生活用品がほとんどです。
矢島さんは、そうした日本の伝統文化に惹かれて大学生の頃から日本各地の職人の元を訪れて周りました。その過程で、伝統工芸の技術を使った子ども向けのグッズが少ないことに気付き、子ども用品に絞ったブランドを立ち上げることを考えるようになります。
日本のいいものを残したいと思えば、その良さをわかる人を増やすしかない。そのためには、幼少の頃からホンモノに触れることが大切だなと思ったんです。
発起人の矢島里佳さん
感性が豊かな子どもの頃にこそ、本物の日本文化に触れる環境が大切なのでは、と考えた矢島さん。けれど、伝統品と一口に言っても、その種類は数多あります。その中で、どの伝統技術をどう選ぶのか?
そこには、矢島さんならではの判断基準がありました。
今私がお付き合いさせていただいているのは、20~40代の若い職人さんがほとんどです。自分と同世代の若い職人さんが魅了される世界だからこそ、同じ若い人たちがいいなと思える可能性があると考えました。
伝統品としてきちんと保護することは大切だと思いますが、民間でやっていく上では、何がなんでもすべての工芸品を残すべきという風には思っていないんです。消えていくものがあっても仕方ない。本当にいいものは古くならないと思うんです。
だからaeruでは古くならないものを選んで、aeruのものだから信頼できると思ってもらえるような商品をつくっていきたいと思っています。
2010年、矢島さんはこの企画を、学生向けのビジネスプランコンテスト「学生起業家選手権」に出して見事優勝し、起業のための資本金を得ます。一年間かけて準備し、この3月に新製品の発売にこぎつけました。
「日本に生まれてきてくれてありがとう」のメッセージを込めて
まず、初年度にあたる今年は、本藍染にフォーカスして商品をつくっていく予定。第一弾は、徳島県の本藍染矢野工場で染めあげた「出産祝いセット」です。
aeruの商品は、化学薬品を一切使用しないで「天然灰汁(あく)発酵建て」の技法で染め上げたものです。この昔ながらの製法で染めると、洗濯しても、色落ちはしても色移りはしないですし、抗菌作用もあるので、汗疹もできにくいんですね。
化学薬品を使用した藍染め風の品は、安価につくれるため手に入りやすく、藍染という名前は多くの人に知られるようになりました。
でも、本藍染めと違って色移りしてしまうため、それしか知らないと本藍染までもが誤解されてしまう。そうした伝統産業品の誤解を解いて、正しい知識を知ってもらうことも、「和える」のやるべきことの一つだと考えています。
ベビーグッズというと、何度もざぶざぶ洗えないととても不便。化学薬品を使った“藍染風”のものと違って、色移りしないというのは、ママにとってはとても大切なことかもしれません。
本藍染の場合、どうしても手間の分だけ値段は高くなりがちですが、本物の良さに触れてほしいし、日本だけじゃなく海外の人にも使ってほしい、と矢島さんは語ります。
この「出産祝いセット」には、タオルと靴下と肌着が入っていて、落ち着いた色味が素敵なばかりでなく、手触りがすごくよく気持ちのいい品。何より、モノだけじゃなく思いも合わせて贈ることができるためお祝いにぴったりです。
この製品は、3月30日に販売開始となり、まずはaeruの公式サイトよりオンラインで購入できるようになっています。
日本伝統文化の若きコンシェルジュとして
もうひとつ、aeruの特徴は、職人さん一人一人の顔を出しすぎずに産地全体をフォーカスした打出しをすること。aeruブランドのデザイン全般を手掛けるのは、NOSIGNERの太刀川英輔さんです。太刀川さんは、この戦略をこう話します。
狭い世界なので、ある特定の職人さんにフォーカスすることが、必ずしもその産地全体を底上げすることにつながらないことも多いんですよね。
一人の人をプロデュースする形ではなくaeruという世界観の中で、もちろん誰がつくっているかはわかるようにするんですけど、前面に出すのは徳島県の藍染であることの方を大切にしたいってことなんです。
さらに矢島さんはこう続けます。
aeruブランドの一つの空気感の中で新しさや現代の感覚で欲しくなるようなものを生み出していくことが大切だと思っています。だから、特定の職人の誰々さんが居なくなっても、矢島里佳という私が居なくなっても、100年後もaeruというブランドは残って産業も残るというのが理想です。
このユニークなビジネスアイデアに、世間からの注目度は高く、矢島さんは経済産業省のクールジャパンの若きビジネスコーディネーターとして、海外にこうした商品や伝統を紹介する役割を担っています。
より日本の文化を広めたい、と情報発信にも重きを置き雑誌の連載なども手掛けます。今後は子ども達と実際に職人の元へ見学に行くツアーなども検討中なのだとか。
これから、海外にも日本のいいものもどんどん紹介していって、将来世界中の子どもたちに一点だけでもいいので、日本の本当にいいものを手にしてもらえるようになったらいいなと思います。
aeruがその役割を果たせたら本望です。
日常使いはハードルが高くても、まずは贈り物から、始めてみるのはいかがでしょう?