続々々・”これからのものづくり”の話をしよう
「“これからのものづくり”について話しましょう」という対話イベントがあるとしたら、あなたならどんなテーマ、お題を投げかけますか?実はこの企画、僕も検討委員を務めさせていただいている、経済産業省の「生活者起点による新しいものづくりモデルの検討会」のテーマです。
こちらの記事はFabLab Japan田中さん、WHILL杉江さん、issue+design 筧さんに続いて4本目、最後の記事なります。
3月22日(木)にはシンポジウムも開催!
現在は、みなさまから集まった問いをもとに、3月11日に開催されるクローズドな「これからのものづくり”を考えるワークショップ」参加者を中心に、議論の舞台をFacebookの非公開グループに移し、
ものづくりができる環境が整うことで、私たちの暮らしはどう変わるんだろう?
量を減らせば高くなり売れない、量を増やせば売れるが余剰大。このジレンマをどうすれば抜け出せると思いますか?もしくは、このジレンマとはどのように付き合っていくといいでしょうか
といったテーマで議論を展開しています。
その結果は、3月22日(木)の「生活者起点による新しいものづくりシンポジウム」でご報告させていただきますので、お楽しみに!インタビューでご登場いただいた田中さん(FabLab Japan)、杉江さん(WHILL)のほか、米良さん(オーマ株式会社/READYFOR?)と私・兼松も登壇予定です。ご興味のある方はぜひ、お申込ください。
(1)日時:2012年3月22日(木)14:00 〜 17:00(予定)
(2)会場 : 時事通信ホール(時事通信ビル2F)東京都中央区銀座5-15-8
(3)主催 :経済産業省
(4)参加費 :無料
(5)パネリスト:
西口尚宏(産業革新機構 執行役員)
田中浩也(慶応義塾大学/FabLab Japan)
杉江理(WHILL)
米良はるか(オーマ株式会社/READYFOR?)
兼松佳宏(greenz.jp編集長)
(6)参加方法: http://goo.gl/i6bSq
※定員に達した場合は申込みを締め切らせていただく場合がございます。
※本シンポジウムは、インターネットにて生中継いたします。
それでは以下より、くらしの良品研究所コーディネーター 土谷貞雄さんのインタビューをお楽しみください!
“これからのものづくり”をめぐる、くらしの良品研究所コーディネーター 土谷貞雄さんの3つの問い
くらしの良品研究所コーディネーター 土谷貞雄さん
Q1. みんな、どんな暮らしをしたいの?
YOSH 生活者の声を直に聞くという意味で、無印良品の「くらしの良品研究所」ははずせないと思うのですが、そのなかで土谷さんの役割はどんなことなんですか?
土谷 今はコラムなどを書いていますが、基本的につづけていたのはアンケートをとることでした。そもそもは2008年くらいに、そのころ展開していた「無印良品の家」が売れないという現実もあって、原点に戻って売る事より知る事が大切だと思い始めました。シンプルに「みんな、どんな暮らしをしているのだろうか?」と。
YOSH それが土谷さんがずっと大切にしている問いかけなんですね。
土谷 その後アンケートだけでなく、コラムを書いたり、みんなの意見をまとめたり、訪問調査をしたりと続けていくうちに、大きなコミュニティができあがってきました。ページビューも半年で6倍ぐらいになり、会員も60万人ぐらいになったんです。
そこでわかってきたのは、多くの人が理想の暮らし方を求めているということ。そして何よりも、「聞く」ということが最大のコミュニケーションであるということです。不思議なことに、現代の暮らしを探りたいという純粋な想いは、実際に家が売れ始めるという結果につながっていったんですね。
YOSH すごい成果ですね!どんなアンケートだったんですか?
土谷 かなり具体的な質問を投げかけていました。例えば「団らんについて」のアンケートだったら、「子どもの頃どんな団らんをしたか」、「何時間ぐらい、誰と?」といったことから、「そのとき何を食べていた?」、「こたつがいい?ソファがいい?」、「テレビの位置は床からどのくらいの高さ?大きさは?」など、20分程かかるような。
YOSH 細かいですね(笑)
土谷 そんなアンケートでも、ときには1万人から回答がくることもあるんですよ。そこでわかったのは、多くの人は暮らし方の答えを求めているんだなということです。私たちは暮らしのことを学ぶ機会が少ない。大事なことのはずなのに、学校でも教えてくれないんですよね。
YOSH そう言われると、確かに暮らし方って暗黙知として共有されているのかもしれませんね。見本となるような素敵な”人生の先輩”が身近にいてくれるかどうか、環境によって左右されてします。
土谷 そう、もっといろんな暮らし方のイメージが共有されてもいいと思うんです。そこでアンケート結果を分析して、具体的な間取りに落としてみたんですね。
団らんのとき、「”ごろごろ”テレビをみるっていうけど、それって、床のこのあたり?」「ソファの上?」とか掘り下げていき、さらに「共感する」「共感しない」という簡易なアンケートをとったり。
YOSH どうして土谷さんからの投げかけは、答えてみたくなるのでしょうか?
土谷 最初からうまくいっていたわけではなくて、本当に試行錯誤の連続でしたよ。そこで気付いたのは、当たり前ですが、テーマを絞り込んで問いかけることが大切だということです。すると、多くの人が入ってきてくれる。多くの人の知識の積み上げは、専門家よりもすごいものになるんです。でも、問いかけを間違えるとダメですね。
アンケートは徹底した仮説思考なんです。お客さんとはフラットな立場にいることが大事ですが、僕らもものづくりプロフェッショナルとして、仮説をつくって提示する義務があります。
YOSH もう少し具体的に、問いかけのコツを教えていただけますか?
土谷 たとえば商品が売れないときに、よく「なぜ売れないのか?」を聞こうとします。これは嫌われた子に「なぜ嫌いになったの?」と聞くようなもので、不満や嫌いなところを積み上げてそれを修正したところで、本当に売れるのかなと。
そうではなく、「君のことが好き」だと言ってくれる子に、「なぜ好きになったの?」を聞いていく方がいいんです。何回も問いを繰り返して、問いかけの精度をあげた結果集まって来た答えを、どう実際のモノに落とし込んでいくか。そのプロセスがクリエイティビティなんだと思います。
YOSH 恋愛に例えると、妙にわかりやすいです(笑)
土谷 問いかけには、敢えてマイノリティの意見を入れてみることもあります。靴は平均するとひとり12足くらい持っているという結果が出たんですが、中には1足の人もいれば、100足持っている人もいる。そういう面白い人を見つけて、平均値からどのくらい外れているかを計測して、コラムで共有すると、また反響があるんですよ。
YOSH きっと「”平均”なんてない」ということなんですね。
土谷 そう、暮らしというのは「外れ方」なんです。人それぞれ違うからこそ、「どんな暮らしをしたいのか?」という問いかけは、本質的だと思うんです。
Q2. 企業活動を原点に戻すために、それぞれができることは何だろう?
土谷 話は変わりますが、今回の検討会のテーマは”生活者起点”ですよね。そこで今までの「生産⇒消費」の構造から、「モノを買わずに、あるもので暮らす」に単純にシフトするという話だとしたら、企業活動は成り立たなくなってしまうのではないかと思うんです。
その上で、本当に新しいプロダクトなりサービスなりを提案できるかどうかいう意味では、今の日本の企業はなかなかイノベーションを生み出す構造になっていないのではないでしょうか。だから、生活者起点のイノベーションと言っても、「企業を変える必要がある」という共通認識から始めるべきだと思うんです。
YOSH WHILLの杉江さんのような、「ベンチャーを始めたい人は企業からスピンアウトせざるをえない」という状況が問題、ということでしょうか。
土谷 ひとことでいうとそうです。杉江さんが興味深いのは、単なる金儲けだけではなく、社会に貢献したいという気持ちがあることですよね。ただ、もともと企業は社会に役立つために出来上がったはず。それがどこかでずれてしまったとすれば、もう一度原点に戻る必要があるのかもしれません。
YOSH 最近あるビジネス誌で、「大手飲料メーカーの社員全員がヘルスケアのスペシャリストになることを宣言した」という記事がありました。確かに素晴らしい取り組みなのですが、「そもそも、ヘルスケアが必要なくらい不健康な状況をつくったのは誰なの?」という反省が足りないのではないかと。
「これまでの時代背景の中で、課題を解決するためにこんなことをやってきました。その結果、いいこともあったけれど、こんなよくないこともありました。その部分はお詫びし、私たちは責任を持って未来のためにこんなことをしていきます」という態度の方が、僕は誠実なんじゃないかと思うんです。未来の決意の前にそれまでの素直な反省がないと、同じパターンを繰り返すかもしれないし片手落ちだなって。
土谷 言い方は悪いですが、今までは消費者を煽ってきた部分もあるわけです。新しいものができると、「あれはもう古いよ」って。でも、これからは使い手のユーザーが多くの情報を持っていて、企業側より知識が多い状態になる。「これがいいんですよ」って企業が言っても、ユーザーが「それはよくないですよ」って指摘したりもできます。
YOSH 1を100であるかのように言わないと、”経済成長”はないのでしょうか?1をみんなで本当に100にしていくような、着実な”成長”があってもいいような気がします。
土谷 今までが未成熟な社会だったからだと思います。決して企業も悪いことをしようと思ってきたわけではないはず。ただ社会が変わったのなら、企業も変わらないと。
YOSH そのために何が必要だと思いますか?
土谷 結局、社員ひとりひとりが変わることですね。いまの時代に必要なのは「学習」です。それは土を耕すようなもので、未来の果実を手に入れるためにはまずは土壌を耕さなければなりません。会社の名前を一旦はずし、心をオープンにして知らない人と出会って新しい「知」をつくりだしていくことが大事だと思います。
Q3. アジアの人たちと一緒に、未来の暮らしを実現するにはどうしたらいいだろう?
YOSH 最後に、土谷さんがコアに関わっているHOUSE VISIONについても、その背景の思いなど教えてもらえますか?
土谷 HOUSE VISIONは、無印良品のアートディレクターでもある原研哉さんが呼びかけ人です。
行政やエネルギー会社、デベロッパー、ハウスメーカー、住宅設備メーカー、建材メーカー、家具メーカー、その他物流、先端医療会社、自動車といった暮らしに関わる全ての企業が、建築家やクリエーターと一緒になって、これからの「くらし方」を「家」を軸にして研究、具体的に展覧会を行い可視化させていこうというものです。この研究会は日本だけでなく今中国でも行っていて、また今後アジアの他の都市でも展開するつもりです。
YOSH 日本だけでなくアジアへ。
土谷 アジアの未来は、西洋からのスタイルの輸入ではなく、それぞれの国でつくっていく必要があります。未来の暮らしを喚起する意味でも、日本は重要な役割をするはずです。成長時代が終わり成熟時代に入ったからこそ、新たな暮らし像を模索し、提示することができるでしょう。
すべてのテクノロジーや建築家達の知見は、暮らしという場所に集積して未来をつくっていくことができると考えています。その意味でアジアの人々にも日本と同じように「どんな暮らしをしたいか?」という問いかけを始めたのです。
YOSH アジアとつながることで、どんな未来が見えてきますか?
土谷 いわゆる新興国へ行くと、「なつかしさ」のようなものと同時に、最先端のテクノロジーが混ざりこんでいる。いつもパラレルに両際の選択肢を持つことで、新しい未来が生まれる可能性があると思います。
ただやはり、早くモノを持って、物質的な豊かさに追いつきたいと思っていることは間違いないです。僕らがそこで「日本はこんな風に成長をして、行き詰まってしまったんだよ」と話しても、理解してもらうことはできない。できることは、日本人である僕たちが到達できなかった未来の1ページを書き換える作業を一緒にすることなんです。この1ページ目がとても大事で、今間違えると30年後の未来も間違ってしまう。
YOSH 同じパターンで大量生産、大量消費を繰り返したら、とんでもないことになりますからね。
土谷 もっとスピードが早いかもしれません。だからこそ、こうして僕たちのような異文化の人が関わっていくことは、重要だと思います。
ただそのとき考えなければいけないのは、日本の文化を輸出することではないのです。近代では、その国の文脈を無視して、世界中どこも同じ景色にしてしまいました。しかし本当の進化はローカリゼーションにあります。それぞれの国の文化や文脈の中に、未来をどうつくれるかだと思います。
(右)土谷貞雄さん (左)編集長YOSH
編集長YOSHより
今回の土谷さんからの問いかけ、いかがでしたでしょうか?
アイデアや意見が集まるには、ただ一方的にお題を投げかけても、必ずしも盛り上がるわけではありません。だからこそ土谷さんのお話からは、コミュニティの温度をどうあたためておくのか、誠実に、仮説をもって引っ張るというファシリテーターの態度として、ヒントがたくさんありました。
というわけで土谷さん、オフレコ話も含めて貴重なお話をありがとうございました!
全4回のふりかえりは、また後日改めてまとめさせていただきます!
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