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「大量生産・大量消費を否定せず、今あるマテリアルを生かすにはどうすればいいだろう?」FabLab Japan 田中浩也さん [greenz TOY]

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シリーズ「greenz TOY」では、”これからのものづくり”、”これからのお金”などあらゆる”これからの◯◯”について、深く考え、じっくり対話するための糸口となるような、示唆に富む”問いかけ”を共有していきます。今回のテーマは”これからのものづくり”です。

“これからのものづくり”の話をしよう

こんにちは!greenz.jp編集長のYOSHです。

greenz.jpの読者には「デザインが好き」というだけでなく、実際にものをつくっているという方も少なくないと思います。もしそんなgreenz.jp読者が集まって「“これからのものづくり”について話しましょう」という対話イベントがあるとしたら、あなたならどんなテーマ、お題を投げかけますか?

実はこれ、経済産業省が行っている「生活者起点による新しいものづくりモデルの検討会」でも話されているトピックなのです。

そこでは、どうすればユーザー(使い手)としてでなくメーカー(作り手)としての生活者が、ものづくりのプロセスに介入し、本当に欲しいと思えるものを一緒につくり、世に問うことができるのかについて、本気の議論が始まっています。(いわゆる”生活者起点イノベーション”をテーマとした検討会は、経産省としても初なんだそう!)

そこで今回、ひとつの試みとして、greenz.jpを舞台に「問い」を集めるという新しい試みをはじめることにしました。

検討委員はこんな方々!

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その検討委員がまた濃いメンツ。greenz.jpでもおなじみの車イスから始まるパーソナルモビリティWHILL杉江理さん、ソーシャルファブリケーションの概念を広げるFabLab Japan田中浩也さん「くらしの良品研究所」のコアメンバーだった土谷貞雄さん、日本版Etzyとして注目を集めるiichi飯沼健太郎さん、デザインの力で社会的課題を解決するissue+design筧裕介さんなどなど!また、光栄にもわたしも検討委員を受けさせていただくこととなりました。

ちなみに、3月11日(日)に”これからのものづくり”を考えるためのワークショップも開催予定です。

とはいえお気づきのとおり、 “これからのものづくり”と一口に言っても壮大なテーマです。きっといろんな立場からのオピニオンがあると思います。そこでまずはどんなことが論点で何が今ある課題なのか、イシューを共有することが先なのではないかと考えました。

そして、「問いかけ」を出していた方々をワークショップにお招きし、より具体的な取り組みとして昇華させてゆきたいと思っています。(今回は東京限定となり恐縮ではありますが、今後の広がりも視野に入れています)

「問い」からはじめるものづくり

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蔵を改装したFabLab Kamakura

ひとつの「問いかけ」には、その人しか気付くことがなかった問題意識、さまざまな試行錯誤の結果たどり着いた気づきが含まれています。その「問いかけ」をきっかけに、少しずつ議論の解像度を上げてゆきたいと思っているのです。今回はひとつのヒントとして、検討委員のひとりFabLab田中さんならではの問いをご紹介します。

※問の受付は終了しました!

それでは、greenz TOY はじまります!


“これからのものづくり”をめぐる、FabLab 田中さんの3つの問い

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FabLab Japan 発起人の田中浩也さん

Q1. ”作り手”と”使い手”など、本当は表裏一体だったものをもう一度編み直すにはどうしたらいいだろう?

YOSH さっそくなのですが、FabLabを通じた田中さんの活動は、どんな「問い」から始まっているのでしょうか?

田中 そうですね。まずひとつ思っているのは、本来は表裏一体なものだったのに別々になってしまった関係を、もう一度「編み直す」にはどうしたらいいんだろう?ということ。その問いを考えるために、FabLab鎌倉という施設をつくりました。

YOSH 最初から深い投げかけですね。もう少し詳しく聞いてもいいですか?

田中 先日、ある方からこんなメールをいただいたんです。「今までは分業や専門分化こそが文明の進化や発展だと考えていたけれど、どうやらそうではない、むしろ逆方向の“進化”が起こっているのではないか」と。これは僕にとって、とても深い投げかけだったんですよね。

インターネットや技術の民主化によって、個人や少人数のチームでも、いままでには考えられなかったほどの幅広い活動ができるようになりました。技術によるエンパワーメントは、専門分化ではなく、「個々人の総合性」を取り戻す方向にも働いているのだと思ってます。こうした視点から、これまで分かれていたものをもう1回、編み直すことができると。

YOSH なるほど。

田中 社会全体の効率を考えると、分業化は全体のパフォーマンスが上がるので必要だとは思うけど、本来人間が持っていた総合性や多義性など、何かが抜け落ちる気がするんですよね。自分の専門ではないものであっても、やったことがないとその技能に対するありがたさや難しさがわからないような気がするし。

YOSH そうですね。人間は代替の効く部品ではないですし。

田中 FabLabの「Fab」は、「Fabrication =制作」、「Fabulous=楽しい」のほかに、「Fabric=編む」という言葉にも由来しているんです。分業化の結果、今の世の中は物を「つくる人」と「使う人」の距離が、極端に広がって「分断」されてしまいました。そのような本来は同じところにいたはずなのに別れてしまったものを、FabLabでは別の形で編み直していきたいんです。

YOSH 確かにFabLabに来ると、マテリアルがものになるまでのプロセスを身の丈で感じることができますよね。今は少しずつ”ものをつくることの身体感覚”を取り戻す時期なのかもしれません。


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FabLab Kamakura 内観(ブログより)

Q2. 大量生産・大量消費を否定せず、今あるマテリアルを生かすにはどうすればいいだろう?

田中 とはいっても、大量生産・大量消費をそのまま否定することではないんです。

YOSH それは僕も同意する部分はあります。iPhoneだってMacBook Airだって、世界中の工場で大量生産されたパーツが組み合わさってつくられたものだし…。

田中 既に大量生産・大量消費という従来のシステムを否定できないところで暮らしてしまっているからこそ、全否定するんじゃなくて、その上に多品種少量生産のインフラを上書きして塗り替え、アップデートするようなイメージを持っていきたいんです。

YOSH ただ、これまでがそうだからといって、これからも大量生産・大量消費を続けてもいいというのは違うのではないでしょうか?KickstarterやCAMPFIREなどのマイクロファンディングも盛り上がっていますが、個人的には100〜1,000くらいの”やや”中量生産くらいで、欲しい人同士が共同購入をしてつくり手を支えたり、そんな大量と少量のあいだのロットでものをつくる仕組みをととのえる必要があるのかなとも。

田中 その通りだと思います。スケールが伸縮可能な「変量生産」のイメージが大事だと思っています。いずれにせよ、20世紀は生産と消費の間で行ったり来たりをしていた時代だったと思うのだけど、その二項で物事を捉えるのは限界な気がしているんだよね。じゃあ3つ目となるものってなんだろう、と考えると、自然界の生態系には分解者という役目を負った生き物がいますよね。

YOSH 例えば…ミミズやキノコとかですか?

田中 そうそう。分解をする存在がいるから、生産や消費もまわっていく。そしてそれも、ただ分解してばらすだけじゃなくて、セカンド・デザインというか、役目を終えたものを組み合わせて、もう一度いのちを吹き込み、再生産につないでいくーもとに戻す「リペア」ではなくて、違うものに変えていく「リミックス」です。そんな存在が今の世界には足りないんじゃないかと。

YOSH FabLabはものづくりの分解者の役目を果たすと。

田中 はい、ひとつはそれです。FabLabには様々な素材や機械、人が集まっているので、社会全体を回転させるためのひとつのエンジンになれたらいいなと思います。そうすることで大量生産のあり方も変わってくると思うんです。


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田中さんのご自宅で対談させていただきました。素敵でした!

Q3. 生命の進化のように、プロダクトを進化させるにはどうしたらいいだろう?

田中 ちょっと話は変わりますが、フォークの歯はなぜ4本になったかという本知ってますか?

YOSH 有名な本ですよね。積ん読リストには入っています。

田中 今やフォークは身近な存在だけど、時代や環境によってデザインが変遷してきているんだよね。3本になったり、クワガタのかたちだったり。そんなフォークというプロダクトの歴史って、生物の進化と似ていると思うんです。FabLabでもプロダクトの種(しゅ)を、おのおのが自分に合わせて「品種改良」し、全体としてみればそれが結果として、生物のようにみんなで進化させていくっていう意識を持ちたいんだよね。

YOSH 生物と向き合ってきた田中さんらしい見方ですね。面白い!

田中 具体的にはFabLabのメンバーとして、「FabCommons」という新しいライセンスを、クリエイティブ・コモンズの総会に提案しようと思っているんです。

YOSH 今までのライセンスと何が違うんですか?

田中 すでに世界中でパーソナルファブリケーションのための設計図がオープンに公開されているのですが、そのような作り手に対するインセンティブを整備するというのがひとつ。もうひとつはFabLabが立体(モノ)を扱うということに関係するのですが、”改変”というルールを必須にしたいのです。

YOSH というと?

田中 クリエイティブ・コモンズはやはり写真や映像、音楽など情報コンテンツのために整備されてきたものです。なので「著作者」の概念が強くて、「改変」は許可/不許可という2択になっている。しかしFabLabが扱っているのは3次元の立体物(モノ)であり、プロダクトです。だから、むしろ公開されている設計図をもとにつくった人は、必ずひとつは新しい改良を盛りこんで、全員で共有していくような、そんなエコシステムを作りたいのです。

YOSH みんなで進化に参加するわけですね。

田中 そう。それぞれの体のサイズが違うように、オープンな設計図を、そのままコピーすればどんな状況でもうまくいくとは限らないはずだから。例えば、赤ちゃん用のサイズに形を変えてフォークを作った場合、これは「状況に適合させるための品種改良」であり、同時に、フォークというプロダクトの歴史に新たな1ページを書き加えたことになります。そういう大きな流れ(人工物の進化)の一部を担っているという意識を全員で共有していけたら面白いと思うんだよね。

YOSH そんなこと、考えたこともありませんでした。

田中 そうすることで、関わる人の手でプロダクトの進化が加速する。だから共有地としての「コモンズ」よりも、アイデアのつながりが連続していく「チェーン」のイメージ。空間ではなくダイナミクスをはらんだ時間のイメージでもあり、「集合知」ではなく「派生知」のイメージです。この、「クリエイティブ・チェーンズ」という概念を、FabLabから広めていけたらいいですね。いま、その準備を進めています。



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FabLab Kamakuraの前で記念撮影!

(取材協力:清水まや/撮影:舛元清香

編集長YOSHより

今回の田中さんならではの問いかけ、いかがでしたでしょうか?

田中さんとは2010年3月に開催された、デザイン×サステナビリティに関するイベントDesigners Accord Tokyo Town Hall英語版のレポートはこちら)でもご一緒させていただきましたが、田中さんのお話はいつもスケールが大きくて、脳が自走モードにドライブする感覚があります。

個人的には「ものづくりのプロセスにおける分解者としてのFabLab」と「種(しゅ)としての人工物の進化」というキーワードが目からウロコでした。

前者については、おそらく無限に資源があると思い込んでいた時代に、「生産者」「消費者」という二項的な思考になってしまったのは仕方がなかったことかもしれません。とはいえさまざまな環境負荷が明るみになった今、同じ事を繰り返してはいけないはずです。そういう意味では21世紀は前時代の反省をふまえた、社会全体で断捨離する時期にあるように思います。

そういう過渡期は「分解者」が活躍するフェーズと言えますが、同時に本当に必要なものは何だったのか、そもそも”断捨離されないものづくり”という視点が、これからは大切になってくる気がします。

後者については「FabCommons」の成果に期待です。企業における知財のあり方や蜂のようにアイデアを受粉していくフリーエージェント的な働き方も含めて、オープンソースをめぐる議論がますます本格化すると想像しますが、単なる競争ではなくCSV的な、社会的課題をみんなで解決するという一つ上の視点においては、オープン思考の方が(合理的に判断しても)メリットがあることが少しずつ明るみになると思います。

もうひとつの希望は、3次元におけるオープンソースとは、2次元のように均質的な結果をもたらすというよりも、適正技術のようなローカリティを浮き彫りにする、ということです。

植生のように場所によって必要なデザインが変わるからこそむしろ地域の文化力が問われてきます。それは、そこにいる人はだれで、何があって、どんなことを大切にしながら暮らしているのか、そんなシンプルなことを思い出すことから始まるはずです。”ものをつくることの身体感覚”とは、自分やコミュニティを起点に世界を捉え直すということに他ならないのです。

僕自身はFabLabの環境にウズウズしつつも、「じゃ、近くにFabLabがあったら何をつくるだろう?」と言ったところで、なかなか具体的につくりたいものが思い描けないのが正直なところです。だからこそ、FabLabでつくりたいものが出てきた時こそ、僕の暮らしの解像度がちょっと進化した瞬間なのだと、その日を楽しみに待ちたいと思っています。

とうわけで田中さん、ご多用中のところ貴重なお話をありがとうございました!


次回はWHILLデザイナーの杉江さんの出番です。企業の枠を超えて、ニホン発のベンチャーとして世界を見据える杉江さんならではの「問いかけ」を伺いたいと思います。お楽しみに!

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