2012年がスタートしました。本格的な冬が到来し、そしてこの寒さが少し和らぐ頃には震災から1周年を迎えます。「もう1年」と感じますか? それとも「まだ1年」でしょうか。
そんなことに思いを巡らす今日この頃ですが、昨年12月中旬のある日、岩手県で復興支援活動を続けてきたNPO法人「遠野まごころネット」が東京に事務所を構えました。多くの団体が支援を終了する中、今も変わらず活動を続けている彼らが今、東京で場を持つことにどんな意味があるのでしょうか。オープンから1週間が経った事務所にお邪魔し、お話を聞いてきました。
「遠野まごころネット」とは?
「遠野まごころネット」(旧称:遠野市被災地支援ボランティア・ネットワーク)は、東日本大震災に寄る岩手県沿岸部の被災者を支援すべく、岩手県遠野市民を中心に結成された組織で、7月にはNPO法人となりました。
震災直後からガレキ撤去や心のケア、物資配送といった復旧支援はもちろん、「まごころ百姓隊」「カフェ隊」などコミュニティづくりや雇用創出につながる活動も展開。これまでに、全国から集まったのべ5万人以上のボランティアを被災地域に派遣し、復興へ向けた多面的なサポートを続けています。
遠野市は、被災した三陸沿岸地域(宮古、山田、大槌、釜石、大船渡、陸前高田など)と、内陸平野部(盛岡、花巻、北上、奥州、一関など)との中間に位置しています。「遠野まごころネット」は、その地理的利点を活かし、内陸と沿岸を中継し、人や物資、情報が集散するハブ的な役割を担っているのです。
「東京事務所」はこんなところ!
この度、東京・神田に開設した「東京事務所」は、複数の駅から徒歩圏内で、大通りに面したビルの1階という好立地にありました。天井の高い窓にはポスターが貼られ、ここが震災復興支援関連の事務所であることが一目でわかります。
中に入ると、まず目に入るのは売上の一部が復興支援につながるグッズ売り場。「遠野まごころネット」のオリジナルグッズの他に、他団体の復興支援商品も並べられています。
その奥にあるのは、被災地の最新情報を知ることができる資料スペース。復興状況のレポートや現地の団体による発行物が閲覧できます。
その前に広がる交流スペースには、机と椅子、ホワイトボードが配置されています。ここは、無料で休憩できるセルフカフェスペースで、復興支援に携わる人が自由に打ち合わせ用に使用できる他、イベントの開催も可能。30人ほどであれば十分入るくらいの広さが確保されています。
なぜ今、東京に事務所を? 事務局・越村さんインタビュー
さて、東北発の復興支援団体が東京に事務所を構えるのは、まだあまり例のないことです。その目的と経緯について、東京事務所で事務局スタッフとして働く越村恵理子さんにお話を聞きました。
「遠方から何かしたい」に応えるための情報発信基地
まずは開所の目的についてお話を聞きました。
東京事務所開設の一番の目的は、企業や個人の方に情報発信をして、支援につなげていくことです。
企業や個人として「自分の持っている能力で何か協力したい」という方はたくさんいらっしゃると思うんですが、復興支援団体がたくさんあって、どこにいけば、企業や団体さんのしたいことがスピーディに被災者の方につながるのかは分からないですよね。
その団体が、どの地域で何をしてきたのか、どんな人達がやっているのか、そんなこともわからなかったら、やはり支援する気持ちにはならないと思います。ですので、まずは情報発信が必要だと考えました。
被災地では、秋頃に被災者のみなさんが仮設住宅に移られて、緊急支援は一段落し、これからは復興のフェーズに入っていきます。生業やコミュニティづくりなど、個別の状況に対応していくのと平行して、徐々に私たちが担っていた機能を地元の方々に移行していき、地域の復興を少しでも早くしたいと考えています。そのためには、やはり人手もお金も必要なんです。
徐々にメディア発の情報が減り、被災地の現状が見えにくくなってきていますが、まだまだ支援が必要な状況であることには変わりありません。スピーディに支援者と被災地を結びつけるためにも、首都圏での情報発信は、大きな意味を持ちそうです。
寄付金を持ち込む企業も。1週間で実感した、場をもつことの意味
「情報発信」と聞くとインターネットでもできるのでは、と思った方もいるかもしれません。でも、ネットでは叶わなかった「場を持つ意味」を越村さんはこの1週間で既に実感されていました。
まだ開所直後なのですが、企業の方が寄付金を直接持ってきてくださったこともありましたし、自治体のボランティアセンターの方がいらっしゃって、「タイヤキ器を提供したい」と言ってくださってその場で支援が決まり、2日後には現地に送られたこともありました。
また、ふらっと立ち寄られた方が「こんなことしかできないから」と言ってグッズを買っていってくださることもあり、本当に有り難く思っています。
このような場合、これまでは遠野に電話で問い合わせるしかなくて、実行に移すまでにかなりの時間と手間がかかってしまっていたのですが、やっぱり東京に拠点があることで、支援したい気持ちのある人がすぐ実行に移せるというスピード感が全然違いますね。
遠野まごころネットの代表が「集まれる場所があればできることがたくさんある」と言っていたのですが、本当にそのとおりだな、とこの1週間で実感しました。
遠野まごころネットでは、岩手県以外の被災地の情報発信も行い、首都圏にいる様々な人のニーズに応えていきたいとのことです。ボランティア経験者や支援を検討している企業はもちろんですが、例えば、首都圏で避難生活を送っている被災者の方もたくさんいます。
この場所には、被災地から雇用や復興の状況が随時集まってきているので、そういう方が地元の情報を知り、戻ることを考えるきっかけにもなるかもしれません。
そんな時、大事なのは「会って話をする」ということ。地元では知り合いと偶然出会って話す機会もありますが、東京ではまず、ありません。
ボランティア経験者の方も集まるこの場所で、被災地の現状を知っている人と話をするだけでも、被災者の方は安心感を得ることができます。「場」の価値は、決して目に見えることだけではないのです。
ボランティア経験者のつながりが「同窓会」へと発展
もうひとつ、この場所を持つことの大きな意味は、個人ボランティアの交流の場として活用することです。実は、遠野まごころネットでは、ボランティア経験者が自主的に報告会を開催するという動きがありました。
ゴールデンウィークに東京からボランティアに行ったある女性の方から、「災害ボランティアは難しくないし、女性の自分でもできるということを伝えれば、もっと行く人が増えるんじゃないか」という提案があり、同じ思いを持った個人ボランティアが共感して、7月から「東京報告会」が始まりました。
やはり、これからボランティアに行こうという方は、「被災地の方と会ったら挨拶をしましょう」みたいな常識的なことでも、自分で考えるより経験者に言われた方が、納得感・安心感がありますよね。報告会は今も定期的に行われていて、それに参加して現地に行かれる方もたくさんいます。
彼女のように、ボランティアを経験された方で戻ってきてからも「何かをしたい」とモヤモヤされている方はいっぱいいます。しかも、ボランティアで行動を共にすることによって生まれた仲間意識みたいなものが、その後バラバラになってしまうのは本当に「もったいない」と思うのです。
東京の場合は「報告会」という形でつながりができましたが、その他の地域もつなげたいと思い、事務局で全国に「同窓会」を作りました。今、福岡、関西、愛知、東京、秋田、岩手、北海道の7つの同窓会ができていて、それぞれ全て個人ボランティアの手で運営されています。
全国各地の同窓会は、それぞれメーリングリストでつながり、報告会を行ったり、地域で行われる復興イベントに出展したり、時には飲み会も開催し、地元に戻ったボランティア同士のコミュニティができてきています。
事務局としても、つながることによってできる活動がどんどん大きくなっているのを実感しているそうです。このような個人の気持ちを風化させないための仕組みが、場を持つことによってより強固なものになることは間違いなさそうです。
イベントも多数開催予定。まずはお気軽に。
東京事務所では、1月からは報告会の他、支援をしたい気持ちをもった学生や企業向けのイベントも計画されているとのこと。詳細は「遠野まごころネット 東京事務所」のFacebookページにて情報発信していくとのことなので、ぜひチェックしてみてください。
もちろん、それ以外の時間にふらっと出かけても有益な情報を得ることができると思いますので、まずは気軽に立ち寄ってみてはいかがでしょうか。
10:00〜20:00(月曜定休)
住所:〒101−0032 東京都千代田区岩本町1−9−6 田中ビル1F
電話:03−5809−3953
E-mail:tonomagokoro03@gmail.com
東京事務所スタッフ:
吉田慶、柳文子(やなぎふみこ)、越村恵理子、佐々木祐季
運営:NPO法人遠野まごころネット
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