1年半ほど前、再処理工場問題で話題になっていた六ヶ所に移住した人々がいる。仲間と土地を耕し、森の恵みを受けながら、地元の人々と「アイドルのいないDASH村なんです」と笑う日々。その生活は「推進も反対も関係なく、みんなで原発やこれからの暮らし方について考えられる場所を」という思いが発端になったものだった。
震災を受け、放射能におびえる人々を後目に、コツコツと場づくりを続けている「NPO東北あしたの森」の事務局長、山本勇樹さんに話を聞いた。
青森では「六ヶ所」はもう、地名ではないんです
― 「NPO東北あしたの森」は、どんな団体ですか?
キャッチフレーズとしては「青い森のエコビレッジ」と言ってます。でも、地元の人には「DASH村ですよ」って伝えてます。「アイドルのいないDASH村」って。やはり、地元の方々には「持続可能な」っていう言葉がそもそもピンとこないですからね。
具体的には、六ヶ所村にある森林や田畑の活用をしています。大体東京ドームで言うと、9個分くらいの広さの土地を、六ヶ所村と、その隣町の東北町にわたって持っています。森林で皮むき間伐をしたり、田畑で無農薬野菜を作って売ったり…。そして、持続可能な社会や仕事、暮らしを地域の人たちと創って実践し、広げていく活動をする団体です。

無農薬野菜を作って売ったり、敷地内の森の木で炭焼きをしたり、集落の集まりに出たりと、日々忙しい。小水力発電や風力発電にも挑戦している。

「あしたの森」の41ヘクタールの敷地の中には、森はもちろんのこと、小川や池、畑や神社もある。季節の移り変わりも美しい
― 「あしたの森」ができたきっかけは、六ヶ所村にある再処理施設だったんですよね。
そうですね。2007年に、出雲から六ヶ所村まで原子力施設をたずねながら木を植えて歩く「WALK9」っていうムーブメントがあったんです。その終着点の植樹地が「六ヶ所あしたの森」と命名されたことがはじまりです。その後、うちの中村(中村隆市さん)が「このまま終わるのはもったいない、新しい暮らし方を創る場所になるんじゃないか」ということで引き継ぎ、鎌仲ひとみさんや女優の吉本多香美さんと一緒に「あしたの森設立準備委員会」を立ち上げたんですよ。
「あしたの森」の設立には、ひとつの言葉が大きくかかわっています。それは、植樹をした時にいらしてくださった青森県の方が言った言葉なのですが……
再処理工場のことは気になっていて、いつか来たいと思っていたけど、こういう森づくりのイベントがあったから来ることができた
植樹イベントには、セヴァン・スズキさんや中村隆市さんが出席した
つまりきっかけがないと、原子力問題についてなにがしかのアクションをとりづらい、という人がいるんです。
現在、青森で反対活動している人たちは、再処理工場が立ち上がる前からしている人がほとんどです。先日も震災後に行われた青森市のデモに集まったのが約90人。そのうち、震災前からいた人がほとんど、という状況なんです。
まずは反対できなくてもいいんだと思います。その前の段階である、「知る」「考える」そういう場所が少ない。そこで僕らは、誰でも来れて、そしてできれば就職にもつながったりする、そういう場所を作りたいと思いました。
移住した頃は「六ヶ所あしたの森」という名前でした。でも、地元の人は「六ヶ所」とはどうしても言えない。いつもただの「あしたの森」としか言っていなかったそうです。もう「六ヶ所」とは土地の名前ではないといえる、そのくらい重い言葉なんですよ。そこで、僕らが住んでいる事務所自体は東北町という隣町になるので、地元の方々に安心感があるよう「NPO」もつけて「NPO東北あしたの森」に名称を変えました。

10月1日、NPO東北あしたの森 設立イベントが、都内にて行われた。団体のアドバイザー、萠出さんの指笛の美しい音色に、観客は聞き惚れていた
地域で生きる僕は、土地の人みんなと友達になりたいんです
― 普段はどんな生活をしていますか?
畑や田んぼ、森の世話と、隣のじっちゃ(おじいちゃん)の牛舎の手伝い、それから事務局なのでパソコン作業ですね。
隣のじっちゃは人生の中で三本の指に入るくらい、出会えてよかった人です。とにかくいつも笑ってるし、DIYで生活することも知っている。持続可能な人間のありかたを、じっちゃの姿に見せて頂いてるな、と思うことがあります。

田畑の世話だけでなく、育てたひょうたんでキャンドルシェイドを作ったり、皮むき間伐をしたり、舟を作ったり、フェアトレード珈琲を売ったりと、活動は多岐にわたる
― 「よそもの」として地域に入っていくうえで、気を付けていることはなんですか? 「地方で働く」という言葉が、今話題になっていますが。
まだ移住して1年半しか経っていないので、この時点の意見ですが、やっぱり地域の視点で見なくてはいけないですね。地域の人には必ずそれぞれの立ち位置とか人間関係があるので、わからない間に自分で勝手に動くと大変です。
あと、僕がこういう人間でよかったなぁ、と思うのは、けっこうね、人に叱られるのが苦ではないんです、僕。叱ったほうは自分の意見が言えるし、僕らも普段聞けないことが聞ける。まさにいわゆるWin-Winじゃないですか。だから、そういう立場僕すごい大好きなんだなあ、って。
― 大好きなんだ!
いや間違えた、大好きじゃないです(笑)。ただ辛くないんですよ、聞くのが。それに僕、どうやら「こいつには何か言いたい」と思われるような容姿なんですよ(笑)。だから、お叱りを受けていることで結構うまくやれているなあ…と。事務員で怒られ役で…いわゆる…「職業:はけ口」…
― はっはっは!! ……で、今後ってどうするんですか?一生、東北町に住む、ってことなんでしょうか?
ここで骨を埋めたい、という覚悟でいるから、本気なんですよ。ここで死んでも後悔しないような選択を、日々の生活でしていますね。
先日、別の地域で農的暮らしをしている人から相談を受けていて感心されたのは、僕が地元の人やこの土地がとても好きだということ。地元に対する愛情があるって、とても大切だと思うんですよね。
山本勇樹さん
― でも、そもそも愛情が持てたのは、移住するきっかけが六ヶ所っていう土地にあったからですよね
そうです。でも、意外に六ヶ所に外からきて住んでた人って多いんですよ。でも、長続きしなかった。再処理工場に対しての思いはあって、活動をしたかったら、推進派もひっくるめて丸ごと土地を好きになることが必要なのかな、と思っています。
それじゃぁそもそも仲良くしよう、と思ったのはなんで? ともいわれるとも思うんですけれども、……僕が「普通の人」だからじゃないですかね。
― ほう
普通の人間だからこそできる「社会変革」を、やっていきたい
2007年、僕は『六ヶ所村ラプソディー』の上映会をするために、初めて六ヶ所村に行きました。それで、再処理工場を見に行ったのですが、建物を見ても、なんとも思わなかった。何も感じなかったんです。それで「問題なし」と感じる自分にこそ問題を感じたのと同時に、僕のような人って、きっと日本に多く居るんだろうな、とも思いました。
もし六ヶ所の近くに住んでいて、再処理工場の話が持ち上がったりしたら、僕は反対するどころか、工場で働いていたかもしれない、とさえ思うんです。そんな「普通の」僕だからこそ、地域の人たちと本気で一緒にやっていこうと思うし、やっていけると思うし、何より、人ごととは思えないんです。
僕のように「反対だけど声を出しにくい、もしくは出せない」という人がたくさんいるんですよね。ならば「反対と言えるようになったり、何かしらの行動する人」を増やすことは何かって、本気で考えないといけないはず。再処理工場に対して「反対」と思うのなら。その土地の人の身になって。
アースデイ東京や、土と平和の祭典にも積極的に出展している
― 「社会変革」って言葉はどう思う?
社会変革? 社会を変えよう、って意味ですかね。そういう意味では確かに思ったことはありますね。今は思ってないですが。
― でも自分の今やってることは、社会を変えよう、ってことですよね
僕は「普通の人が普通の暮らしの中で、普通に変えていけないと、変わらないんじゃないか」って思っています。だから「社会変革」という強いニュアンスはあまり自分の活動を説明したくないです。あくまで地域の人が主役であるべきですし。いわゆる普通の人が始めた場所として、あしたの森がこれからも地元による、地元のための、地元の場所として、盛り上がっていくといいなと思います。
でもそう思って移住して、1年半やってきましたけど、今は、この暮らしを続けていくことにもっと集中したいと思っています。再処理工場を考えることより、僕なりの再処理工場のない世界に対する答えを追求してみたいんです。最近では、地元の方々が理事やアドバイザーになってくださり、集落の方々にも面白がってもらえてきているんです。だから、こういう切り口のインタビューに答えさせてもらうことは、今後ないかもしれない。少しずつ進んでいく、でもすっごく楽しくて持続可能性のあるこの暮らしを大切にしていきたいです。
「客間」としてゲルを建てた時のあしたの森の面々と、近所のじっちゃ
山本勇樹さん
1981年千葉市生まれ。NPO東北あしたの森理事/事務局長。NPO法人日本トイレ研究所トイレ向上委員。「トイレが変えれば、世界が変わる」と信じ、学生時代からNPO法人日本トイレ研究所(当時:日本トイレ協会)に関わる。その後、アースデイちば実行委員会や、フィリピン現地法人の環境NGO「Cordillera Green Network」、国際保健NGO「(特活)シェア=国際保健協力市民の会」のインターンなどを通じて、 幅広く環境・社会課題に取り組む。
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