greenz.jpが毎月第2木曜日に開催しているネットワーキングパーティ「green drinks Tokyo」、5月のテーマは「これからの”ソーシャル”」。ソーシャルブリッジTV編集長の湯川伸矢さん、Blabo!のプロデューサー坂田直樹さん、株式会社ガリバーインターナショナルマーケティングチームリーダーの北島昇さんをお迎えして、“ソーシャル”によってこれからどんなことが実現していくのか、Blabo!のタッグプロジェクトを中心にお話をうかがいました。当日の様子をレポートでお伝えします!
司会はgreenz.jp発行人の鈴木菜央です。
震災とソーシャル
ソーシャルというのは「社会的」ということですが、大まかに言って「社会と関係する」というのと、「集まる」という2つの意味があると言えます。この2つの意味があることで「ソーシャル」は便利な言葉として頻繁に使われるようになりました。
そこで今回は、これから“ソーシャル”はどのような価値を生み出してていけるのかについて、3つの視点から3人のゲストにお話いただきました。湯川さんには「ソーシャルな個人」について、北島さんには「ソーシャルな企業」について、そして坂田さんには「個人と企業がソーシャルな関係を結ぶこと」についてです。
前回に続いて「震災」がテーマの一つとなり、今回も多くの方が参加してくださいました。単に話を聞くだけでなく、自分からアクションを起こすきっかけになる、そんなgreen drinksになったのではないでしょうか。
今回のゲストは?
まずはゲストのプロフィールと、その取り組みをご紹介します。
湯川伸矢さん
ソーシャルブリッジTV編集長で、20万人が視聴した坂本龍一さんのコンサート中継skmts(スクムトゥス)のコアメンバー湯川さん。震災後はいち早く被災地に入り、NHK『クローズアップ現代』の「今、私たちにできること~ソーシャルメディア支援~」にも出演。現地で活動を続けています。
湯川さんは坂本龍一さんのコンサートをUstream中継し、411ヶ所でのパブリックビューイングを成し遂げたskmtsプロジェクトでソーシャルメディアの力を実感。震災の際にも、ソーシャルメディアの力を使おうと、とりあえず現地に入り、そこから情報を発信、そここから継続的な支援へとつながっていったそうです。
坂田直樹さん
greenz.jpの兄弟サービスBlabo!のプロデューサーの坂田さん。社会問題などを「みんなのアイデア」で解決するBlabo!のプラットフォームを使って被災地支援をできないかと、
震災直後に「タッグプロジェクト」を立ち上げました。
タッグプロジェクトは企業、生活者、NGO、被災者関係なく、出来ることを持ち寄って被災地の支援をしていこうという活動。ガリバーから車を100台提供いただけるということで、被災者からはニーズを、生活者からはアイデアを吸い上げ、それを実行するNGOに車を提供するという形でまさにソーシャルでフラットな関係でプロジェクトを進めているとのことです。多くの方から提供依頼やアイデアが寄せられ、追加で100台の車両を提供するとなり、現在もタッグプロジェクトは進行中です。
北島昇さん
株式会社ガリバーインターナショナルマーケティングチームリーダーの北島さん。中古車1000台を被災地に提供するというガリバーの活動を推進する中で、そのうち100台の行き先を決める「タッグプロジェクト」にガリバー側から参加していただきました。
実は地震のあった3月11日には、4月以降にBlabo!を使って世の中とどうコミュニケーションを取っていけばいいかを坂田さんたちと社長にプレゼンしていたんだそう。そんな時に震災があり、数日後には車1000台を提供するという方針が決まったので、「最初は行政を通して提供するつもりだったけれど、なかなかうまくいかず、それならとすでに活動しているNGOやNPOに贈る方針に変えた」そうです。そのタッグプロジェクトを急遽立ち上げることになり、それを実現させてしまったのです。
復興とソーシャルメディア
タッグプロジェクトをすすめる中で、被災者の方も体を動かしたいんじゃないかという意見が出てきて、それなら被災地に行きたいというヨガインストラクターが現れ、メッセージカーで被災地に行くというツアーが実現しました。(そのツアーのレポートについてはこちらの記事をご覧ください)
その現地コーディネーターをやっていただいた湯川さんの活動を見て、鈴木は「新しい社会づくりに取り組んでいるというような感覚を覚えた」そうです。まずは、そのあたりを湯川さんにお話いただきました。
まずソーシャルメディアについて「twitterなどのソーシャルメディアは楽しいけれど、楽しむだけじゃなくて、それがリアルにつながると嬉しいし、そこにたくさんの可能性があると感じる」そうで、復興に際しても、ソーシャルメディアは現地、アイデア、人のハブになる可能性があるといいます。湯川さんは現在、ボランティアの人を遠刈田温泉の温泉宿に受け入れてもらって活動を行っているそうですが、その宿というのが実はskmtsの時にパブリックビューイングの会場の一つになったところだというのです。これはネット上でつながった関係がリアルな関係になるというひとつの例で、このようなことを可能にするのがソーシャルメディアの力だと考えているそうです。
そのようにしてリアルな関係が築かれていっているということがある意味では「新しい社会づくり」のように感じられるということなのではないでしょうか。
メッセージカーによって得られた「実感」と「意義」
北島さんも坂田さんもメッセージカーと一緒に現地に行ったわけですが、おふたりともそこでプロジェクトが身を結んだという実感を得たそうです。そこで、それぞれそのこととについてお話いただきました。
北島さんは、
会社で車を提供する際に、最初から「あげて終わり」ではなくてきちんと何にどう使われてどう役立ったのかということを見える形で車を届けたいという方針ではありましたが、使う人が最善と思うことが最善なのだと考えるということも大事にしていたので、なかなか結果が見えにくいということがありました。
でも、実際にメッセージカーで現地に行ってみて、行く前はメッセージというものに違和感もあったんですが、それを喜んでもらえたことで「車+何か」をみんなで一緒に届けることができた、ちゃんと役に立っているんだと本当に実感できる経験になったんです。
さらに、その様子が先日ニュースジャパンで紹介されたことで、社内のみんなにも結果が見えるようになり、皆が仕事の意義みたいなことをポジティブに考えるようになりました。「会社が」ではなくて「自分が」いいことをしていると捉えるようになってきていて、それで私も「間違ってなかったんだ」という実感が湧きました。
と話して下さいました。
坂田さんは、
ソーシャルメディア上で話し合いをしていたので、本当に役立っているのか?という疑問はありました。でも現地で実際にタッグプロジェクトで車の提供を受けたという人に出会うことができ、それで「ああ間違ってなかったんだな」という実感を得ることができました。
メッセージカーのメッセージも「こんなもので喜ばれるのか」という疑問が実はあったんですが、実際に行ってみるとおじいちゃんやおばあちゃんも喜んでくれて、子供たちが空白部分にメッセージを書いてくれました。そのメッセージでいっぱいになった車で東京に戻ってきたときは本当に嬉しかったです。
それでわかったのは、ソーシャルの場では誰でもできることが必ずあるので、メッセージだけ、アイデアだけ、たかが情報だけと思わずに、それぞれがやれることをやりながらつながっていくことが大事だということです。ソーシャルというのは一人ではできないことをみんなの力で実現するということなのです。
と熱く語りました。
企業と個人とソーシャル
このように身を結んだタッグプロジェクトですが、企業と個人やNGOがこのようにつながってすぐに行動を起こすというのはそう簡単にできることではありません。それがガリバーではなぜ実現できたのか、そのあたりを北島さんに伺いました。
北島さんはCSRも担当されているということですが「実はCSRもPRもブランディングもすべて「取り組み」からしか発生しない」と言います。“CSRのために”なにかやるというのではなくて、CSRというのは会社の存在意義とか働く意義の延長としてしかありえないというのです。
企業も個人も自分が何者かということをどれだけ正確に理解できているかが大事、つまり自分の役割を定義することが必要なのです。そのなかでガリバーとしてできることは車を提供すること。でも、実際に現地でそれを活用することはできません。だから「ラストワンマイル」としてNGOの存在が必要だったのです。
北島さんはこのラストワンマイルになってくれる人に本当に感謝したいし、もっと出会いたいと話します。
これに対して坂田さんは、実際に現場を動かすためには「結果」にこだわらないといけないといいます。だれかが喜ぶとか、ビジネスとして成立するとか、そういう結果が伴わなければうまくいかない。そして結果を出すためには、車を提供する企業、ヨガの先生、避難所に連絡してくれる人など違うことをするいろいろな人が一緒になって行動しなければならないというのです。
これが企業、個人、NGOという立場を超えたソーシャルな関係なのです。坂田さんはみんなが平等であることも重要だといいます。企業が行動を起こすためには企業だけで考えていてはダメで、それこそソーシャルを意識しなければならないというわけなのです。
最後は司会の鈴木菜央から。
こういうことが起こらなければ、起きなかった関係性が生まれ、こういうことが起こらなければ、生まれないコミュニティができはじめ、こういうことが起こらなければ、わからないことをみんなが学びはじめ、気づいた人が動いて、さらに大きな学びに感動して進んでいくという連鎖が起き始めている。違う人生を歩み始めている人が増えてきている。
未来の子供たちにはいまをどうすることもできない。俺達がやるしかない。ここで私やゲストの3人が話しているのはその道の達人だからではなく、ちょっと先に動くことができたからというだけ。それをこの場でみんなでシェアして、今ここにいる人とつながって、タッグプロジェクトがどんどんつながっていく。
と、このgreen drinks自体がソーシャルなアクションであるというメッセージが投げかけられました。
坂田さんが「誰かがアクションを起こしたら雪だるま式に行動が重なって何かが実現できる。一人ひとりが小さくてもいいからみんなと絡まり合ってアクションをとればいい」と話したように、みんなができることをやる、それで大きなことを実現できる、それには企業も個人も関係ない。それがこれからのソーシャルなのだと感じることができました。
最後に、そんなソーシャルな何かを実現するためにアクションを起こしてくれたオープンマイクの参加者たちをご紹介します!
*オープンマイクはgreen drinks Tokyoで毎回行われている誰でも参加できる主張の場です。
上の段左から、英会話コミュニティを作っている大崎さん、ガーナで自立支援活動をしている方のイベントを開催するピノさん、友達が世界一周に旅立つというハスミさん。
下の段左から、『幸せの経済学』の上映活動をしている木村美央良さん、「音楽・踊り・アートでつなぐ。私たちにできること」というクラブイベントをやるというginnkoさん、オルタナSの編集長猪鹿倉さん