目を引く大胆な「She」の文字。どこに置いても、日常の風景にぴたりと合う、素朴ながら洗練されたパッケージデザイン。
フェアトレード=おしゃれというイメージが浸透し、世界中でパッケージデザインの優れたフェアトレードブランドが林立しつつある中、日本のNGO発のブランド「She with Shaplaneer」のアートワークは、単なるおしゃれさとは一線を引いた印象を受けます。
このブランドは、特定非営利活動法人シャプラニール=市民による海外協力の会(※1)が手がけており、((STUDIO))アートディレクターの峯崎ノリテルさん(※2)がプロフェッショナルボランティア=プロボラとして、クリエイティブを一括して引き受けています。
「She with Shaplaneer」(以下「She」)は、バングラデシュとネパールで生産される、アーユルヴェーダソープブランド。世界でも最貧国といわれる二つの国の、子育てや生活のために売春や過酷な労働に従事せざるを得なかった女性たちを、地域固有の素材を用いた石鹸作りを通じてサポートしています。
彼女たちひとりひとりの持続的な自立支援をミッションとし、1972年に日本の国際協力NGOの先駆けとして、南アジアの支援活動を始めた特定非営利活動法人シャプラニール=市民による海外協力の会が手がけています。
((STUDIO))の峯崎ノリテルさんは、ブランドロゴ、石けんの刻印、パッケージデザイン、カタログなどのデザインを、プロフェッショナルボランティアとして全面的に担当。2010年10月には2週間生産現場も訪れました。
今回greenz.jpでは、デザイナーとして、こうしたエシカルなプロジェクトに関わった経験から、何を得たのかを峯崎さんにインタビューしました。
“与える”よりも“支える”シャプラニールの活動
―「She」との出会いは?
「もともと手島大輔さん(オーガニックコスメブランドのプロデューサー)と知り合いで、手島さんが支援をしていた障害者の自立支援団体「sell the challenge」のプロジェクトに参加した経験がありました。今回のプロジェクトも、手島さんからの紹介で参加する事になりました。」
―実際に現地での活動を見て、どんな事を感じましたか?
「シャプラニールの現地の駐在員の方とお話をして、『与えるよりも支える』という活動姿勢に、『支援』という言葉に持っていたイメージよりもう一段深いものを感じました。
従来の資金援助だと、既に支援の体制が整っている所には行き届いても、開発から取り残された、本当に困っている地域になかなか行き届きにくいのが現実です。その意味で、シャプラニールは、早い段階から、支援の手から零れ落ちてしまっている人たちと生活を共にし、支えようとしていたんです。
例えば、ストリートチルドレン支援の一環で彼らはコインロッカーを作っているんです。なぜか?路上で物乞いをする子供たちは、持ち物を置いておく場所がありません。そのため、一日分以上のお金を持っていると、盗まれてしまう事もある。その子供たちのためにコインロッカーを作ろう、と。遠くにいて、物資を送ったりしているだけではわからない、現地で本当に必要な事をしているなと、感じました。
だから、今回のプロジェクトでも、実際に現地を訪れたとき、これは彼女たちの生活に本当に必要な事なんだ、自分もそこにコミットするんだから、絶対に外すわけにはいかない!と強く思いました。パッケージデザインがプロダクトの顔になるわけだから。責任重大だな、という・・・。」
現地で生産現場を訪れる峯崎さん
大切にしたのは、つくり手たちが誇りに思える事
―クリエイターとして、パッケージなどのデザインで苦労した点はありますか?
「『She』では、パッケージの印刷、組み立てる工程までを全てネパールとバングラデシュで行っています。
二つの国では、素材として使える紙や、製造の環境が当然ながら違うし、日本のやり方とも違います。けど、同じものを作らなければならない。印刷の道具によって、色の出方も変わっちゃうし。また、文化が当然、バングラデシュとネパールでは違います。バングラデシュは9.11以降、国内にアメリカから知識階層の人たちが帰ってきて、急速に発展したそうです。手作業をぴっちりやる人が多い印象で、とてもやりとりがスムースでした。そうした国民性の違いをふまえて、両国で同じブランドである事を感じられるパッケージを作ることに力を入れましたね。」
石けんの産地、バングラデシュのマンメイシンと、ネパールのピュータン
―「She」のデザインコンセプトは?
「『She』は”彼女たち(つくり手である現地の女性たち)が主役!”というのが全体を通してのメッセージです。つくり手の女性たちは、元セックスワーカーや、劣悪な労働環境で働かされていた人たちですが、それを打ち出し過ぎると、「かわいそうな人達だから買ってあげよう」ということになってしまう。それでは続けて使ってはもらえない。だから、ブランドの持つポジティブなメッセージが伝わるよう、つくり手たちの笑顔の写真をイラスト化したものをデザインのメインにしました。」
「大切にしたのは、“つくり手たちが誇りに思えるようなパッケージ”であること。つくり手の女性たちは、以前、大変苦しい生活状況に陥っていた人たちなので、石鹸を作って生計を立てられる、ということに本当に喜んでいたんです。だから、パッケージデザイン自体が、その人達の支えになること、作っていて楽しいな!と思えること、おしゃれなだけじゃなく、彼女たちの前向きさとか希望みたいなのを伝えられたらと思ってデザインしました。」
できることで、環の中に入ってゆく
―エシカルな分野で、プロボラとしてデザインを手がける事で何を感じましたか?
「僕はこれまでプロボラって言葉も知らなかったくらいなんですが(笑)今回参加したことで、本当に支援活動というのはチームプレイで、一緒に活動している人たちの環の中に入れてもらってデザインをやらせてもらっているんだという思いを強く感じました。
もちろんそこには、プロとしての役割を果たさなければという思いもあったわけですが。ただ、全体の流れを良くするためだけにデザインがあるというか。デザインはあくまでも重要な部分のうちのひとつでしかなく、裏には多くの担い手の人々がいて、活動を作っている。だから、デザイン自体が主張しすぎないように、ブランドのメッセージをあくまでも全面に押し出して、プロジェクトに関わる全員の思いが伝わるようにしよう、と。
だから今回のプロジェクトでは、 『自分自身ができることで、輪っかの中に入っていく』という感覚を持てました。ぜひまた機会があれば、こうしたプロジェクトに関わっていきたいですね。」
おわりに
昨年行われた「世界を変えるデザイン展」など、社会起業や援助の分野において、デザインが持つ力が年々注目され始めているように思います。
けれど、インタビューの最中の峯崎さんの態度はどこまでも謙虚。
「デザインは彼女たちを支えるみんなの環の中のひとつにすぎない」という言葉が印象的でした。
その言葉どおり、もっと自然に、もっとしなやかに。
支援やボランティアといった言葉のとなりに、自然にデザインやアートがあるくらいに、二つの分野が融合してゆけばいい。
デザインで協力するというプロボノの形が、もっともっと、ふつうになればいい。
そう感じさせるインタビューでした。
1972年設立。一般の市民の会費や寄付で運営されているNGO。バングラデシュ・ネパールに日本人駐在員を派遣し、家事使用人として働く子どもたち、寡婦や老人、障がい者など社会的・経済的に「取り残された人々」の支援活動を、現地のNGOをパートナーにして行う。「当事者自身の生活向上への主体的な参加」、つまり支援者に依存するのではなく、現地の人々が自立できるような持続的な仕組みのための支援を行うことをミッションとしている。シャプラニールとは、バングラデシュの言葉・ベンガル語で、「睡蓮の家」という意味。※2009年9月1日に「認定NPO法人」に認定された。
神奈川出身。桑沢デザイン研究所卒。
デザイン事務所「キャップ」で数々の雑誌のデザインを手掛けたのち、2001年に独立、グラフィックを主に活動するデザイン事務所((STUDIO)))を立ち上げる。雑誌『SPECTATOR』、『ecocolo』、その他CDジャケットのデザイン、広告、オーガニックコスメブランドのアートディレクションなど、幅広く活躍。