発展途上国のためのデザインプロジェクト「Design for the Other 90%」や世界のチェンジメーカーをつなぐオンラインプラットフォーム「OpenIDEO」など、デザインを通じて社会を変えようという取り組みが広がっています。そこでこちらでは、このテーマを教育プログラムに採り入れている、米国スタンフォード大学(Stanford University)の事例をご紹介しましょう。
スタンフォード大学の「Entrepreneurial Design for Extreme Affordability」は、社会を変えるビジネスデザインについて学ぶユニークな教育プログラム。提携先のNPO・NGOから持ち込まれる実際の社会的課題をテーマに、製品やサービスのプロトタイプだけでなく、ビジネスモデルやマーケティング戦略、調達・生産計画など、ソーシャルビジネスを包括的に設計・企画し、これを実装していくプロセスを、6ヶ月にわたって理論と実習から学びます。実習プロジェクトは、デザイン・エンジニアリング・経営など、異なるバッググランドや知識・スキルを持つ学生がチームを組むコラボレーションワークが中心。メンバー同士の「化学反応」によって創造性の高いアイデアを生み出し、実効性ある課題解決につなげていくのが狙いです。実際、プログラム修了後もプロジェクトを継続させ、ソーシャルベンチャーとして「巣立った」例も少なくありません。
そのひとつが、ミャンマーの小規模農家に向けて作られた足踏み式のポンプフレーム「Tripod Pump」。このプログラムを通じて結成されたプロジェクトチームは、現地の灌漑ポンプを各農家がより効率的かつ安定的に利用できるよう、ローコストでメンテナンスの手間も軽減できる足踏み式のポンプフレームを開発しました。発売開始から2年間で15,000台以上を販売し、いまでは、ミャンマーで最もポピュラーなポンプフレームとして広く知られているそうです。
デザインを通じて社会的なニーズや課題をクリアするためには、デザイン・設計のスキルはもとより、既存の枠組みにとらわれない柔軟な発想、複数の分野を横断する俯瞰的な視野、課題をより深くとらえる分析力、物事を論理的に組み立ててる思考など、多くの能力・スキルが必要。ゆえに、様々な強みを持つ人々とのコラボレーションは必要なのです。スタンフォード大学の「Entrepreneurial Design for Extreme Affordability」は、具体的な社会的課題の解決を通じて、人と人とのコラボレーションパワーを実体験できるという点からも、貴重な教育プログラムですね。
このほか、東京大学の「iSchool」や国連大学の大学院プログラム「サステイナビリティと平和研究科」などでも、新しい発想や取り組みを社会変革につなげるための教育プログラムが創設されています。「デザインを通じて社会を変える」ための知恵を次世代のチェンジメーカーに受け継いでいくことも、よりよい未来を創るために不可欠なものといえるでしょう。
東京大学の「iSchool」について調べてみよう。
国連大学の大学院プログラム「サステイナビリティと平和研究科」について調べてみよう。