長屋暮らしと聞くと、下町で隣近所どうし支え合って暮らす情景が思い浮かぶ。
けれども今、里山に長屋を作ろうというユニークな計画が、新宿から中央線で1時間の場所にある神奈川県藤野で進んでいる。名付けて「里山長屋暮らし~藤野プロジェクト」。家の造りもジモトの資源を活かした、伝統的でグリーンな工法だ。
JR藤野駅から徒歩30分。里山風景が広がる山あいの一角で、長屋作りは着々と進んでいる。3月7日に開催された上棟記念のお茶会にお邪魔して、プロジェクトの舵取り役を担う建築家の山田貴宏氏に話を伺った。山田氏はこの里山長屋を設計し、実際に入居する予定だ。
地域の資源を最大活用
「里山長屋に入居するのは4世帯で、パーマカルチャーのつながりをベースに、コ・ハウジングの手法に則りながら、プランと設計をしています」
パーマカルチャーとは環境負荷をなるべく減らし、地域や環境と調和した農的生活を実現するデザインの考え方だ。NPO法人パーマカルチャーセンタージャパン(PCCJ)も同じ藤野に拠点を構える。コ・ハウジングは各戸の個室空間を確保しながら、集会室や食堂などの共同空間をシェアする住まい方のこと。里山長屋では台所、風呂、そして来客用などに使えるゲストルームを共用する。
この里山長屋の一番の特色は、地域の資源を最大限活用する点だ。
「パーマカルチャーでは地域との関係を重視します。里山長屋の場合、材木の約8割は多摩産を使用し、残りは藤野や近辺から調達しました。これを地元の製材所に依頼して構造材にし、今年で68歳になる藤野の大工職人が組み上げます」
伝統の木造軸組工法を採用する。大工が自ら墨付け、刻みを手仕事で行い、木同士を組んで構造を作る。地震には全体がしなって耐える丈夫な構造だが、今この手仕事が出来る職人は少ない。合板や接合金物に頼った簡易的な工法が普及したためだ。
「地域の資源を使うことで山林も守れるし、伝統工法の継承にもなります」
助け合いのコミュニティ=長屋
神奈川県藤野は芸術家が多く移り住み、芸術をまちおこしに取り入れる「芸術の町」として知られる。ここではパーマカルチャーのほか、石油希少の時代を見据え、ジモトの力を高めてコミュニティを再建するトランジション・タウンの運動も始まっている。
里山長屋では現在、4棟の棟上げが終わり、これから壁の施工に入る。これも日本伝統の土壁を用いるが、竹やわら、土など自然素材を使い、壁自体が湿気の調節も行うスグレモノだ。シックハウスのおそれもない。
この土壁作りをトランジション藤野との協力により、参加者を募ってワークショップとして行う。業者にしか出来ないと思っていた家づくりに参加できるって、何だかワクワクしないだろうか?
「コ・ハウジングもトランジションもパーマカルチャーも外来の概念ですが、実は日本にも長屋という、日本の風土にあった助け合いの仕組みがあった。その伝統に敬意を表す意味で『里山長屋』としました」
各自が持つ力や資源を持ち寄り、ジモトを拠点に支えあいながら生活するエコビレッジ。今それが藤野で「長屋」という日本の智慧の再生として花開く。ここ里山長屋にはサステナブルに、そして豊かに暮らすヒントが詰まっている。
3月28日(日)には構造見学会、4月24日(土)、25日(日)には土壁作り(竹小舞かき)のワークショップが開催される。新しいジモトの始まりに五感を使って立ち会おう。
里山長屋の最新情報はここから!
5/28~30に開催の「エコビレッジ国際会議」でも里山長屋について報告予定!