前回に引き続き、2001年10月、大学4年生の時にNGO「テラ・ルネッサンス」を設立した鬼丸昌也さんのインタビューの後編。鬼丸さんの行動力の秘密を探りながら、彼が持つ「3つの夢」について語ってもらった。
──カンボジアに行ったことがきっかけとなった21歳での起業、その後のウガンダでの支援事業の開始などを見ると、鬼丸さんの行動には、躊躇というか、迷いがないように感じます。その行動力の源は何なのでしょうか?
「行動すれば時間がかかっても必ず返ってくるという気持ちの基盤がありますね。高校生のとき、読んだ本に感動すると、作家の方へ手紙を書いていたのですが、ほとんどの方が返事をくれたという思い出があって。「思ったことは叶う。夢しか実現しない」そう思うんです。だから、世界が平和になるには時間がかかるけれど、あきらめなければ叶うことだと信じています。テラ・ルネッサンスをやっていて、日々悩むことはあるけれど、あきらめるという言葉は自分の中にはありません。やりたいことがあるのに、やりたくないことをやる方がつらくはないですか?」
悪魔の兵器、地雷。罪のない民間人を襲う.
──たしかにそうですね。夢の話といえば、私は、鬼丸さんの著書を読まさせていただき、その一節「世界を旅したい。なぜなら世界中で戦争が起こるのはお互いが知らないから。いろいろな考えを理解できれば戦争は終わると思うんだ」(「ぼくは13歳 職業、兵士。」P140の部分)という元子ども兵の夢があまりにも立派で驚きました。
「子ども兵であった彼らにももちろん夢はあって、現実の苦しみを知っているから夢や希望が力強い。叶わないことも多いし、コロコロ変わることもあるけれど、その夢に対する意欲や説明ができる強さは日本人以上にあると思います。それは現実の苦しみを持っているからなんでしょうね。 現代の日本の子どもは周りに夢を持っている大人がいないから、夢を持つ大切さがわからないのかもしれません。モデルケースがないもんね。もっと夢を持つ大人が増えればいいなと思いますけどね。
「今を生きる大人が、子どもの未来を作る」ということをそれぞれ意識していかなければいけないと思うんです。人間は自分のイメージしたものにしかなれません。でもそのイメージする力自体が鈍くなってきているように感じます。イメージするためには体験も知識も、その蓄積も必要です。イメージ力を回復させるためには、ちょっとした関心を持つことですね。この人はどう思っているんだろうとか、自分は何を考えているんだろうとか。こんなちょっとしたことに関心を持つ勇気があればいくらでも想像力は回復すると思います。勇気というか、あと一歩進んでみるという感じかな。未開の土地を進むのには勇気がいりますからね」
ウガンダの支援施設で職業訓練を学ぶ女の子
──最後にお聞きしたいのですが、鬼丸さんが思い描く「夢」とは何ですか?
「テラ・ルネッサンスの夢は、設立目的であり、僕たちが到達すべき未来でもある「すべての生命が安心して生活できる社会」を作るということです。安心というのは不安がないことであり、恐れがない。ということです。そういう社会を実現することが目標であり、夢でもあります。
10年後という短期間で言えば、1つ目は、子ども兵と地雷を少しでも多く減らしていくこと。そして、そのためのサポートを最大限にできる状態にしていくということ。2つ目はテラ・ルネッサンスを支援してくださっている人が支援することを通して、学びと喜びを得られるような組織にしていくということ。そして、そこから社会変革を目指す。3つ目はテラ・ルネッサンスで働くスタッフが働くことで幸せを感じるような組織にすること。これらを10年以内に実現させて、僕は理事長を辞める」
──辞めちゃうんですか?
「仕事自体は変わらないんですけど、組織のリーダーを同じ人が10年以上やるのは不健全だと思うんです。僕がいなくちゃいけない状況はよくない。だから、理事長を辞めたときのことも考えながら10年をひとつの区切りにしています。設立して7年。短くても3年以内にどうなるかが勝負かな。30歳か、31歳になったときに理事長を辞められているといいのかなと思っていますね」
プロフィール:
鬼丸昌也(おにまるまさや) 1979年、福岡県生れ。 高校在学中にアリヤラトネ博士(スリランカの農村開発指導者)と出逢い、『すべての人に未来を造りだす力がある』と教えられる。2001年、初めてカンボジアを訪れ、地雷被害の悲惨さと、地雷を通じて見えてくる世界の諸問題の原因を知り、このことを多くの人に伝えるための講演活動を始める。2001年10月にNPO「テラ・ルネッサンス」設立。現在、テラ・ルネッサンス代表。講演をはじめ、カンボジアの地雷被害、ウガンダの子ども兵問題などの支援事業、ワークショップなど幅広い分野で活動中。2005年11月「ぼくは13歳 職業、兵士。」を上辞。近著は2008年5月10日に出版された「こうして僕は世界を変えるために一歩を踏み出した」。鬼丸氏が21歳に起業してから現在までの軌跡をたどる。