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持続可能な社会を実現するためのパタゴニア流シンプルライフのすすめ

高い製品品質と先進的な環境問題への取り組みで知られるアウトドア・ブランド、パタゴニア社では、100年後もビジネスが存続することを前提として全ての意思決定を行っている。同社が目指すのは、地球上のすべての生物にとって持続可能な未来。そのために、私たち一人ひとりにもできることがあるという。前編では、パタゴニアの歴史と理念について紹介した。後編となる今回では、パタゴニアと創業者イヴォン・シュイナードが目指すビジネスのカタチと未来、そして、そのためにいま1人ひとりが心がけるべきライフスタイルについてレポートする。

(*以下、注釈がある場合を除き、引用は、2007年3月に刊行されたイヴォン・シュイナードの自伝的経営書「社員をサーフィンに行かせよう!」(東洋経済新報社)(原題:Let my people go surfing)から、及び2007年5月15日東京で開催されたパタゴニア日本支社主催シンポジウム、「地球に対するビジネスの責任」でのイヴォン自身の発言からとします)

シンプルが一番

一昔前まで、誰も耳を貸さなかった地球温暖化の問題も、いまでは政治、外交の議題になることも増え、メディアは毎日のように取り上げることで、市民の関心も高まっている。同じように、一昔前までは、誰も真似しようとしなかったパタゴニアの経営手法は、いまでは、多くの企業にとってビジネスの模範となっているようだ。いまや、環境問題へ取りくむことは、ビジネスの成長にブレーキをかけることではなく、むしろ、「環境に配慮した企業」というイメージを消費者にあたえ、それは、多くの企業にとって重要なプロモーションであり、ブランディング戦略の一環だ。イヴォンのもとには、「パタゴニアを買いとりたい」という話が毎週のように寄せられ、世界最大の小売業者、あのウォルマートでさえ、パタゴニアに、グリーンビジネスの成功の秘訣について助言を求めに来るそうだ! このように、多くの企業が第二のパタゴニアを目指して、環境問題への取り組みとビジネスの両立を図ろうとしている。

しかし、現実的には、生産と消費のサイクルがものすごいスピードで循環することを前提とする現代のグローバル経済では、環境最優先のパタゴニア的経営への転換は容易ではない。多くの企業は、企業は株主のもの、企業の命題は、利益の追求が第一、との考えだ。そんな会社の経営者は、携帯電話とパソコンを肌身離さずもち、絶えず重要な意思決定を迫られる。社員もまた(特に日本では)、家族と過ごす時間や自分の趣味を楽しむ時間を削って、モーレツに働く。しかし、このような一般的なビジネス慣習や既成概念は、パタゴニアでは通用しない。

たとえば、イヴォンは、一度も携帯電話をもったことがないし、たとえチリにサーフトリップに2週間出かけたとしても、会社には一切電話しないそうだ。それは、社員を100%信頼しているから、自分がいない間に重要な判断を社員が下したとしても、全く心配をしていないというのだ。ここでも、イヴォンの経営に対する哲学が伺える。イヴォンは、会社のあり方を次のように提唱している。

本来、会社の全てのプロセスや業務はシンプルであるべきで、誰がみてもわかるようになっていなければならない。そうすれば、日ごろから情報共有ができる。また、百年後もビジネスが存続することを前提として全ての意思決定を行う必要がある。

パタゴニアのようになりたい企業や、グリーンビジネスを本気で取り組みたい企業にとっては、まずは、ビジネスの仕組みそのものを、もっとシンプルにして、目先のことにとらわれず、未来のことを考えた意志決定をする必要がありそうだ。

シンプルに生きるということ

自然環境の荒廃を肌で感じ、警笛を鳴らし続けているイヴォンだが、講演で彼は

私の考えでは、世界の諸問題への解決策は難しくない。とにかく行動を起こすこと。そして、もし自分の手で解決できないのなら、資金を提供することだ。最も怖じ気づくのは、最初の小切手に署名するときだが、心配はいらない。翌日も生活はいつも通り続く。電話はまだ鳴るし、テーブルの上には食べ物がある。そして、世界は、ほんの少し良くなっている。ガンジーの言葉にあるように、『世界を変えたいなら、自分自身が変わらなくてはならない』のだ。

と語っている。では、自分自身を変えるために、やるべきことはなんだろうか。その問に対するイヴォンの答えは明確だ。

シンプルが一番!と説くイヴォン・シュイナード
写真提供パタゴニア

結局のところ、環境に不必要な悪影響を抑えるためにしてきた最善の努力は、品質が最高の製品をつくることだった。耐久性があって、機能的、美しく、流行に左右されず、シンプルであること。これは、製品を作る際のデザイン理念にとどまらず、人の生き方、ビジネスのやり方、仕事の進め方、全てにおいて共通していることだ。だから、生活もシンプルが一番良い。そのためには、吟味された生活を送り、いつも自分自身に問いかけることが大事だ。例えば、ヨガを始めるとする。さあ、ここで自分に聞いてみる。『ヨガをするのに、果たして専用のヨガウェアが必要だろうか?』と。一番良いのは、あるもので済ませて買わないこと。ない場合には、できれば古着を買うこと。古着がない場合は、新品を買っても良いが、長く着られて機能的なウェアを買うよう、正しい知識を身につけ、正しい選択をして、賢い買い物をすること。無駄のないシンプルなライフスタイルは、消費者として正しい行動を実践し、社会をかえ、企業をかえ、世界を変えていくことにつながっていくのだ。

シンプルに生きるということは、「世界を変える」ために私たちにできること、私たちに与えられた最大且つ重要な使命なのかもしれない。私たち一人ひとりが意識を変え、行動に責任をもち、ライフスタイルを少し変えることは、その消費者の声に応えようとする企業のあり方を変え、社会の仕組みを変え、やがて、その政策を決める政治のあり方を変えていくはずだ。そうすれば、世界はほんのちょっとよくなって、サステイナブルな社会は必ずやってくる、とイヴォンは力強く言ってスピーチを締めくくった。

変化を促し、革新を続け、わが道を行くイヴォンとパタゴニアの経営手法だが、それは最終形ではない。100年後も存在するために、持続可能な社会の実現に向かって、パタゴニアがこれからどう進化していくのか、楽しみだ。

イヴォン・シュイナード プロフィール
イヴォン・シュイナード製品品質と環境を重視する経営で知られる米国アウトドア衣料メーカー、パタゴニア社の創業者/オーナー。アメリカのみならず、ヨーロッパ、日本でもビジネスを展開する一方で、60歳を過ぎた今でも、サーフィンやフライフィッシングなど、多くの時間を自然とともに過ごしている。

写真提供パタゴニア

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