福祉にも編集は通用する! 大阪のオフィス街で障がい者の都市型就労支援モデルをつくるソーシャルカフェ「GIVE & GIFT」

「障がいを持った人たちの仕事」と聞いて、あなたはどんなものを思い浮かべますか?

福祉施設が運営する飲食店でクッキーやパンを焼く、店頭に出て給仕をする、クラフト品や雑貨をつくる、といった作業を想像する方が多いかもしれません。では、その仕事で、彼ら・彼女らがいくらの対価を受け取っているのか、ご存知でしょうか?

一般的な企業に就職するのが難しい障がい者に、就労・生産・訓練などの機会を提供する「就労継続支援事業所」において、支払われている月額の平均工賃は、雇用契約を結ぶA型事業所で67,795円、雇用契約のないB型事業所では15,033円(出典:厚生労働省 平成27年度工賃(賃金)の実績について)。大阪府内のB型事業所の平均はさらに下がって、全国最低の11,190円とされています。

障がい者には障害年金もありますが、月に20日間働いても、これだけの対価しか得ることができていない現実があります。

そういった状況に対して、厚生労働省は、「障がい者の経済的自立に向けて、工賃をアップする取り組みが重要である」とし、各都道府県において『工賃倍増5か年計画(平成19年度~23年度)』や、『工賃向上計画支援事業(平成24年度〜26年度)』を実施してきました。

それらによって、確かに工賃の水準はやや向上の兆しをみせています。しかし、工賃の問題は本質ではないというのが、就労支援を3年間やってきて行き着いた結論です。

そう話すのは、ビジネスモデルが2016年度グッドデザイン賞にも選ばれた就労継続支援B型事業所「GIVE & GIFT(ギブアンドギフト)」代表の中川悠さん。もともと雑誌編集者だった中川さんは、10年ほど前に起業し、さまざまなプロモーションやブランディング、クリエーターのマッチングや仕事づくりなど、実に多彩な仕事を手がけてきました。

そんな中川さんがなぜ福祉の業界に飛び込んだのか、どんな挑戦をして、どんな成功と失敗を積み重ねてきたのかお話を聞いていくと、さまざまな仕事を経験し、自ら福祉施設を経営したからこそ見えている少しだけ新しい福祉の世界がありました。

中川悠(なかがわ・はるか)
精神科医療機関を経営する母方の祖父、技師装具の開発をする父をもつ。20代は大阪の情報雑誌の編集者。その後、障がい者福祉・高齢化・産業の低迷など、「社会の困りごと」を解決できないかと、2007年に「株式会社GIVE & GIFT」を、2012年に「NPO法人チュラキューブ」を立ち上げる。一人ひとりの障がい特性に合わせた仕事づくりに奔走し、「食品廃棄×冷凍ロールケーキ」「高齢者×お墓参り代行」「大学の資料×スキャン」など、新しい発想で工賃向上に貢献。2014年には大阪・淀屋橋に「オフィス街のランチカフェ×障がい者福祉施設」をテーマにした、就労継続支援B型事業所「GIVE & GIFT」を設立し、2016年度グッドデザイン賞を受賞。今も障がいのある人々の「働く力」を少しでもプラスに変えられるようなアイデアをカタチにしている。

都市型の福祉事業所にはメリットがいっぱい

大阪・淀屋橋にある4階建てのビル。この丸々一棟が「GIVE & GIFT」です。1階はカフェ&コミュニティスペース、2階はカフェの料理をつくるキッチン、3階は企業などから依頼された軽作業をする作業場。そして4階が事務所となっています。

創業150年の幕を閉じた酒屋さんのビルをリノベーション。名前はあえて残しました。

施設利用者の方たちは、キッチンで仕込み作業を行ったり、作業場で布巾をたたんだり、マットを機織したりという仕事を通じて、生きる力と伝える力、働く力を身につけようと、日々訓練に取り組んでいます。

関西に土地勘がない方にはわかりづらいかと思いますが、淀屋橋といえばオフィス街のど真ん中。とても便利ですが、高層ビルが立ち並び、人も多く、通例では福祉施設をつくるには適さないとされる立地です。

しかし、中川さんはむしろこの場所に大きな可能性を感じ、あえて淀屋橋を選びました。

福祉施設の多くが郊外にあります。でも、郊外でつくったものを人が少ない郊外で売るのはとても難しいんですよね。であれば、人の数も多く、消費活動も盛んな都市でつくったものを都市で提供できれば、売れるんじゃないか。そうすれば、少しでも工賃を上げることができるんじゃないか、というのが最初の気づきでした。

一般的な郊外型福祉施設では、ビジネス経験の浅い福祉職員が、マーケティングのなされていない商品を考案し製造。郊外で販売先も少ないため、販売数が伸び悩むということが多くあります。

一方、「GIVE & GIFT」では、管理栄養士と生産者、そして福祉職員が一緒に商品を考案し、近隣の店舗を調査して適正価格の料理を提供しています。集客力が高さを生かして販売数を伸ばし、月20日の通所による工賃も1.5万円〜3万円を達成。全国の月額平均工賃を上回ることに成功しているのです。

一番人気のメニューは、淡路島産たまねぎを使用したバターチキンカレー。650円。

中川さんは、都市で福祉施設を運営することに多くのメリットを感じているといいます。

日本社会が縮小に向かい、街のあり方もコンパクトシティという方向に向かいつつある中で、さらに都会に仕事が集まっていくとすれば、障がいのある人たちも街に通い、街で働く力を養う必要がある。だからこそ、街で就労支援を行うことには大きな意味があると思っています。

また、街にいると、お客さんが多いのはもちろん、企業も多いので、施設の作業や新しいコラボレーションが生まれやすく、カフェでの調理や清掃以外にもさまざまな仕事が発生し、利用者さんたちが自分の得意ごとに出会いやすくなります。より一般就職をイメージした就労環境づくりがしやすいんですね。

都市型のメリットは、支える側にもあります。

利用者さんの工賃アップにつながるような仕事や仕組み、商品をつくるのも、利用者さんのモチベーションをあげる工夫を考えるのも、本来は支援員の仕事。それがなかなかできないのは、彼らは福祉の専門家でありながら企画やビジネスの視点や経験が少なく、やり方がわからないからです。

街のカフェを通じて多様な人たちに関わりをもつことで、お客さまへのサービスや商品への意識が高まったり、新たな視点に出会って考え方に変化が生まれたり、ということが起こりやすくなると思っています。

「GIVE & GIFT」の運営以外にも、中川さんたちは都市であることをフル活用して、障がい者同士のネットワークづくりや未来の福祉を担う学生たちのインターンの受け入れ、外部の福祉施設職員へのスキルアップ教育や、支援学校・企業に対する啓蒙活動など、実にさまざまな角度から福祉の未来を明るいものにすべく、アプローチを続けています。

福祉に編集は通用する

2017年現在、39歳の中川さんは、大阪で雑誌編集の仕事に従事する20代を過ごしました。福祉の世界との関わりは、福祉施設を経営していた精神科医の叔父さんから、「売れずに無駄にしてしまっている施設のパンを売れるようにできないか?」と相談を受けたところから始まります。

雑誌編集者時代の中川さん。若い!(笑)

「パンをつくって売りに行き、売れ残ってしまったものは捨ててしまう」、そんな状況を知った中川さんは、単純に「商品をつくってすぐに冷凍して、注文があったら提供するしくみに変えればロスが減るのでは?」と思ったといいます。そして、雑誌の企画で『ロールケーキのお取り寄せ特集』をつくった経験を活かして、冷凍ロールケーキを製造して販売していこうと施設に提案しました。

障がいのある人たちでもつくれるレシピをみんなで一緒に考え、パッケージはクリエイターに依頼し、フェアトレードの紅茶を材料に使うなど、トピックになりそうな素材も盛り込み、広報も学生インターンシップを交えて行いました。

すると、一連のプロモーション戦略が功を奏し、新聞・ラジオなど、さまざまなメディアに取り上げられたのです。商品は飛ぶように売れ、年間1人しかいなかった施設の企業就職者が6人に増加。地域の企業が協力を申し出てくれるようになり、行政が優先的に仕事を出してくれるようにもなったそう。この時、中川さんは「福祉にも編集が通用するんだ」と確信したといいます。

このことを契機に、福祉施設や行政から、仕事づくりワークショップやプロモーション研修の相談が入るようなっていきました。そこから実際に、書籍のスキャン事業、お墓参り代行事業といった、新たな仕事が生まれたそうです。

関わりが無くなった途端にビジネスが停滞する理由

しかしこの頃、中川さんは、関わっている時はビジネスが上手くいっていても、自分たちの関わりがなくなると停滞してしまうという現実に直面。そしてその原因が、施設職員の意識と、職員が育ってくる構造にあると気がついたといいます。

精神保健福祉士や社会福祉士になるためのカリキュラムには、パンづくりも清掃作業も、軽作業の工程管理も含まれていません。でも、彼らは学校を卒業すると同時に、何の疑問も抱かずに、学んでいないパンづくりや清掃の指導を障がいのある人たちに対してするようになる。

そういう施設が全国に山ほどあるんです。利用者さんの代わりに作業のほとんどを職員がしてしまう施設も少なくありません。なぜ代わりにやるのか聞くと、「作業をしないとこの子たちの工賃が生まれないから」という返事が返ってくるんですね。

でも、代わりにやってしまうと利用者さんの訓練にならないし、職員が仕事そのものを生み出す時間もなくなります。利用者さんの仕事がないんだから、工賃も上がらない。職員は、作業を代わりにやるのではなくて、できるやり方を考えるとか、できる仕事を生み出すことにもっと真剣に取り組まなければなりません。

この状況を、福祉の人材を育てる教育機関が疑問視していないことにも、この状況下で厚労省や行政が「工賃アップが障がい者の社会的自立につながる」と言っていることにも、中川さんは違和感を感じています。

「地域の優良な施設を知っていますか?」「全国的な福祉の良い事例を知っていますか?」と聞いても、ほとんどの施設職員が「知らない」と答えます。福祉施設だって、きちんとしたビジネスモデルがあればよくなるし、もっと企業努力をすれば、障がいのある人たちの仕事も生まれる。工賃も上がっていくはず。

でも、それを当事者じゃない人が言ってもなかなか現場には伝わらない。だから僕は自分で福祉施設を立ち上げて、事例をつくることにしたんです。

工賃アップは結論ではない

そうして、中川さんが自ら施設を経営するようになって3年。うまくいったり、失敗したり、生身の体験を積み上げて今強く感じているのは「工賃アップだけでは何も解決しない」ということだといいます。

もちろん工賃が上がっていくのはハッピーなことです。でも、工賃が5万円・10万円になることが彼らの社会的自立に直接つながるとは到底思えないんです。

大事なのは、訓練をする中でいかに社会を感じてもらい、社会とのつながりをつくるのか。今の自分の行いが誰のため、何のためになっているのか、感じてもらえる可能性がある仕事をたくさんつくることなんじゃないかと改めて思っています。

「GIVE & GIFT」で行われている作業のひとつに、「株式会社KUROKAWA」というファッションリサイクル会社と協力して、使われなくなったデニムを加工した糸で足拭きマットを“はた織り”するというものがあります。このマットはカンボジアの学校に寄贈され、現地の人たちの手に渡った写真が送られてくるように設計されています。

海を越えて送られてきた現地の小学校の写真を見ながら、利用者さんに向けてカンボジアことをレクチャーしています。ただ作業をするのではなく、自分たちがつくったものが海を越え、海外の人たちの生活の役に立っていることを感じてほしい。

それが利用者さんの就労感向上につながるかは正直わかりません。でも、いつか彼らがここを卒業して企業に就職をした時に、「前の施設で、この仕事は誰かの役に立っていると言っていたな」と、仕事をする中で思い出してくれることがあるなら、それは何よりもうれしいことですね。

施設内の全ての仕事で、社会とのつながりを実感できる仕掛けができているわけではありませんが、自分がつくったものが使われている、食べられている、喜ばれているという現場を見せ「誰かの役に立っていると感じること」は大事だと思って、日々、コツコツやっています。

「福祉×伝統工芸」に秘められた一石何鳥の可能性

そして今、中川さんが新たにチャレンジしているのが「福祉×伝統工芸」の取り組み。京都市障害保健福祉推進室から打診を受け、後継者不足に悩む伝統工芸を守り、障がいのある人の新しい雇用の枠を開拓するため、工芸品製作の一部を障がい者が担うというトライアルを始めています。

1887年創業の和ろうそく会社「中村ローソク」さんにご協力いただいて、知的障害や精神障害のある方たちとろうそくの絵付けに挑戦したんです。

実際に絵付けのテストを障がいのある人に試してもらうと、平面の絵を立体のろうそくに直接模写するのはなかなか難しいということがわかって、じゃあ平面と立体の2段階の下書きを工程に入れてみようと。「イラストレーター(絵を描くアプリケーション)」で図柄を再現して、トナープリントでろうそくに転写したんですが、これがハマりました。

下書きと補助具があることで作業に取り組める人がぐっと増えたんです。彼らはむしろひとつのことを続ける能力が高かったりするので、こういう細かな作業が得意なんですね。

絵付け体験会の様子

障がいのある人たちの能力を実感した「中村ローソク」では、なんと2017年4月から1名、障がい者を「絵付け師」として採用。作業を細分化して工程を整理すれば、障がい者が伝統工芸の担い手として活躍できることが証明されたのです。

新しい雇用の分野と障がい者福祉をつなげるチャレンジの機会をくださった京都市役所の方に本当に感謝です。この取り組みがさらに広がり、障がい者が跡継ぎになったり、ひとつの工芸品を福祉施設でつくれるようになったらいいなと思っています。

さらに中川さんは、江戸時代から人々に愛されてきた絞り染め「京鹿の子絞り」の技術をつなぐ「絞彩苑 種田」との連携もスタートしました。

福祉支援への関心が高いホテルの料理長協力のもとオリジナル・チョコレートを開発し、「京鹿の子絞り」に必要な絞り染めや糸くくりといった作業を障がい者が担当。染め上がった布でパッケージし、海外で販売していく予定です。

事例をつくり、福祉の世界を揺らしたい

福祉の世界に編集やビジネスの視点を持ち込み、常識の枠をひとつひとつ飛び越えながらチャレンジを続ける「GIVE & GIFT」ですが、中川さんは「難しいことは何もしていないんですよ」と笑います。

仕掛けはいろいろ考えているけれど、言ってしまえば、街中のカフェが福祉施設だというだけなんです。郊外で福祉施設がカフェをやっても驚きませんよね? でも、都会のカフェが福祉施設だというだけで、行政も、福祉も驚くんです。それって僕からすればかなり違和感を感じることで。

前例がないというだけなんです。郊外でやるのがセオリーだから。郊外の方が地域の人たちに協力してもらいやすいと思っていたりする。街でやる方が断然やりやすいことも多いのにです。

でも、経験がない人たちにはやっぱり理解されません。理解を促すのは体験。だからひたすら事例をつくって見せるしかないと思っていて、「GIVE & GIFT」も見学をしてもらい、いろいろな取り組みを間近で見てもらえる施設にしています。

一生懸命考えた仕組みを公開するなんて、一般企業で考えたらあり得ないですよね。でも、見学が多いと利用者さんもピリッとするし、持って帰ってもらって、真似してもらう方が長い視野で見たら福祉の世界にとっても絶対にいいなと思うので、そうしています。

3年が経ち、手探りのチャレンジが前例に変わってきた中で、少しずつ「街で福祉施設をやるのいいですね」「『GIVE & GIFT』のように取り組んでいきたい」という声も聞かれるようになってきたそう。

とはいえ、まだ3年しかやっていないペーペーです。何十年も障がい者福祉に関わってこられた大きな施設さんたちの貢献には遠く及びません。でも、僕らは僕らの規模で、できることをコツコツと積み上げて、福祉の世界を揺らしていきたい。

実験して、事例をつくって、つながりの可能性を伸ばし、地域資源を探ることがいかに大切かを伝え続けていきたい。福祉職員が変わることで福祉が明るいものになる未来をつくっていきたいと思っています。

私たちはなぜか、障がい者は助けが必要な存在であり、自分たちは助ける側だと思いがちです。しかし、この世界に存在するすべての生き物に役割があるように、彼ら・彼女らも活躍できる環境さえ整えば、共により良い未来をつくり出す強力なパートナーになり得るのだということを、中川さんは教えてくれているような気がしました。

興味を持たれた方はぜひ、「GIVE & GIFT」を訪ねてみてください。ユニークな赤いメガネをしたお兄さんと利用者さんたちが、笑顔であなたを出迎えてくれるはずです。ただしその際は、事前連絡をお忘れなく。

特集「マイプロSHOWCASE関西編」は、「関西をもっと元気に!」をテーマに、関西を拠点に活躍するソーシャルデザインの担い手を紹介していく、大阪ガスとの共同企画です。