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お金の代わりに特産品を送ります! 海士町×co-baが始めた、都市と地方の新しい経済関係性づくり

つながりをつくり、楽しいワーキングコミュニティを形成するシェアードワーキングプレイス「co-ba」。単なるコワーキングスペースでは終わらないその理念には多くの共感が集まり、今、日本全国にco-ba NETWORKが広がっています。

そんなco-baの新たな拠点が「え!こんなところにも!?」と思うようなまちに誕生しました。島根県松江市の七類港からフェリーに揺られること約3時間。隠岐諸島にある海士町です。

海士町といえば、過疎地域でありながら、廃校寸前だった島前地域唯一の高校を復活させた「島前高校魅力化プロジェクト」やUIターン者の積極的な受け入れなど、先進的なまちづくりを行なってきたことで知られていますよね。

しかし実際のところフリーランスで働く人はそれほどおらず、旅人が気軽に出かけることも難しい立地であることは否めません。にも関わらず、今回なぜ海士町にco-baがオープンすることになったのでしょうか。どうやらその形態や仕組みには、海士町とco-baの新しくも楽しい挑戦と、海士町ならではともいえる狙いが込められているようです。

新たにオープンするco-baの名前は「co-ba ama」。その運営を担当する海士町役場地産地商課の寺田理弘さんと、集落支援員でco-ba amaが入るコミュニティ施設「あまマーレ」のスタッフ、森佑樹さんに詳しくお話を伺いました。

持続可能な未来を目指す、海士町の今

はじめに、簡単に海士町についてご紹介しましょう。海士町は人口約2,300人。本土から約60キロメートル沖合の隠岐諸島にある、1島1町の小さなまちです。

”平成の大合併”で単独町政を続行することを決め、役場職員の給与カットや特産品の創出など、独自の行財政改革と産業創出を行ない、成果をあげてきました。島外との積極的な交流によって、持続可能な地域づくりに関心をもつIターンの若者が集う島となっています。

2000年時点の人口問題研究所の予想では、2015年の総人口は2,007人(高齢化率44%)でした。しかし実際には下げ止まっており、2015年9月時点で2,352人(高齢化率39%)となっています。むしろ現在は、移住したくともすぐには借りることのできる住居の空きがないという状況にもなっているそう。うーん、もはや、過疎地域とは呼べない気もしてきます。

そしてここ数年は、これらの改革を進めてきた先輩方からバトンを受け継ぎ、30代〜40代の若い世代がまちの未来を担っていこうという新たな動きも起き始めているそうです。

「まち・ひと・しごと創生法」に基づいてまちの戦略を策定する際には、若手有志の役場職員と住民代表とで構成された「あすの海士をつくる会」略して「あすあま」が発足。「あすあまチャレンジプラン」をまとめ、これが海士町創生総合戦略「海士チャレンジプラン」の下地となりました。

海士チャレンジプランでは、理想の海士町を実現するための「まちづくり」「ひとづくり」「しごとづくり」について、具体的な施策や数値目標を掲げています。また、まちの明るい未来に向けて進んでいこうという若い世代の強い決意表明が語られています。

「co-ba ama」は、偶然の出会いから誕生した

海士町役場地産地商課の寺田理弘さん

co-ba amaは「海士チャレンジプラン」の中の「魅力ある海士をつくるために挑戦する人づくり」という狙いを達成するためのものです。若手の間でも、創業する人を増やすこと、高齢化が進む島内の仕事の引き継ぎや研究を実現し、人と人のマッチングを考える場所が必要だという話は、以前から出ていました。

寺田さん 僕は、ITしまね開業支援事業の担当もしています。

ITの仕事であれば場所を問わずに働けるから移住につながるし、地域のIT振興にもなります。でもそれを家の中で黙々とやっていてもあんまり楽しそうじゃないよな、それよりも島のいろいろな人と出会ってつながりながら仕事ができる場所があったらいいのにな、ということは前から思っていました。

そんなときに、当時、株式会社ツクルバでco-ba NETWORK担当として働いていた山本倫広(やまもと・のりひろ)さんが、IT移住ツアーのモニター参加者として隠岐にきたんです。海士町のスローガンは「自立・挑戦・交流 〜人と自然が輝き続ける島に〜」なんですが、co-baさんもチャレンジする人たちを応援する拠点づくり、ということがコンセプトとしてあって、根底にあるものが近いと感じました。

「海士にco-baがあったらいいよね」という話で、すっかり意気投合したふたり。交流会の席で上司にも話をしてみると「いいね! やろうやろう!」と盛り上がり、本当につくることになったのだそう。フットワークの軽さはさすが海士町、です。

寺田さん 海士町は「やりたい」っていう思いや挑戦に対しては「おお! やれやれ!」と応援してくれる気風があります。僕は移住して6年目ですが、移住者という立場でもすごくいろいろやらせてもらっているし、気負いなくいろいろなことに挑戦できています。それは海士で暮らしていて、すごく楽しいところだなと思います。

大切にしたいのは「出会い」と「交流」

「あまマーレ」スタッフの森佑樹さん。森さんは1年前に京都から移住してきました

そうと決まれば、まずは場所探しです。いろいろと見て廻ったそうですが、最終的にco-baの雰囲気に近かったこと、常時開館されていること、ほどよい広さのスペースがあり改修も可能だったことから、あまマーレの一室に設置することになりました。初の行政が運営するco-baの誕生です。

あまマーレは、元保育園を活用したコミュニティ施設です。海士で暮らす楽しみが広がっていくことを目指し、イベント開催などの多世代交流、空き家に眠っていた家具や食器類を販売するリサイクル活動、豊かな自然を生かした森のようちえん「お山の教室」のサポートなどの子育て支援活動を行なっています。平成27年度は延べ人数で6,570人が来場。イベントも年間で37回開催されました。

寺田さん 行政でやるということに特にこだわりはなくて。ただ諸々の条件が重なった気がします。たまたまIT企業の誘致をしていたし、僕と山本さんの出会いもあった。地産地商課としてもっと特産品のPRをしていきたいっていう気持ちがあって、あまマーレも多世代交流ができる場所にしていくという目的がある。そういう全部がco-ba amaをやると「なんか全体的に動き始めそうだぞ」という感じがあったんです。

あまマーレ内にある古道具屋さん。食器類などは所定の袋に詰め放題で300円! Iターン者が多いため、家具はすぐに売約済みになってしまうとか

森さん あまマーレは多世代交流ができる施設です。何をしてもいい自由室もありますが、勉強や仕事をするという意識でこられる方はほとんどいませんでした。だからco-ba amaができると、また違う層の人たちがきてくれることになります。あまマーレとしても新しい交流が生まれるという点ですごくいいなと思って、ぜひやりましょうということになりました。

確かに子どもから大人、観光客までいろいろな人が立ち寄るあまマーレに、仕事をする人も集まるようになったら、交流の幅はますます広がっていきそうです。ちなみに公共施設だということもあり、現時点ではco-ba amaの利用料は無料。島内外問わず、利用したい人は誰でもふらっと立ち寄って利用することが可能だそうです(自由!)。

べんきょうべやの扉を開けた先が「co-ba ama」です!

電源付きのカウンターと打ち合わせなどもできるテーブルを用意。棚は保育園で使っていたものを再利用しています

寺田さん ここに来ることでいろいろな人に出会えて仕事の相談ができたり、仕事じゃなくても仲良くなって何かイベントをやろうよということに発展したり。交流を通じて、いろいろな人と接することができる環境がつくれたらいいなと思っています。

森さん そのためにもまずは地元の人に知ってほしいし、利用してもらいたいですね。次の段階として、島外から興味をもってきてくれた人たちに、海士町の濃いつながりを体験してもらえたらと。

そしてそれこそが、co-baを通じて実現したい未来なのだと寺田さんと森さん。

交流というのは、仕事という文脈から見ると、一見なんの関係もないように見えるかもしれません。しかし実際は、まさに寺田さんと山本さんがそうであったように、顔を突き合わせ、交流することから仕事が生まれたり、必要な人と必要な人が結びつくことがあります。

本州から離れた離島だからこそ、島の人にとっても旅の人にとっても、出会いは少し特別な意味を含みます。ただ黙々と仕事をするのとは違う、海士町らしい働く場の提案だと思いました。

お金じゃない価値のやりとりを実現

しかし、co-ba amaの挑戦はこれだけではありません。なにより興味深いのは、co-baとしても初の試みとなる「ランニングコスト(パートナーシップフィー)のソーシャルキャピタル払い」と「来訪者のスキル提供によるギブアンドテイク払い」という仕組みが採用されていることです。

ソーシャルキャピタル払いとはco-baという名称を使うことや運営システムの利用、サポートを受けることで発生するパートナーシップフィーを、円通貨ではなく、特産品という“モノ”で支払う仕組みのこと。必要になる金額は同じでも、お金自体は島内に落ち、生産者さんの売上につなげることができます。

さらに、特産品は毎月、全国各地のどこかしらのco-baに送られることになっています。春ならば岩牡蠣、秋ならばお米やみかんといった旬の特産品を通じて、都市部のco-ba会員が海士町に触れるきっかけにもなるのです。毎月の交流会などで食材を利用してもらえば、海士町としては特産品のPRになり、もらう側は新鮮でおいしい食材を楽しむことができて一石二鳥!

たとえば岩牡蠣が旬の春はこんなセット。白いかは、CAS冷凍という技術を用いて新鮮なままお届けします! (資料提供:海士町)

寺田さん もともとはco-ba NETWORKを運営するツクルバさんからの提案だったんです。今回、都市と地方の関係づくりのひとつとして、パートナーシップを組みました。でも海士町から東京に月に何万円かがチャリンって落ちても、世の中にはあんまり影響がないですよね。

それに「その関係ってちょっとドライだよね」っていう話から「だったらパートナーシップフィーの金額相当の特産品を仕入れて、それを全国のco-baに送るっていうのはどう?」と。

もちろん届いたco-baの人たちは喜んでくれると思うし、地産地商課の僕としても、特産品のことを知っていただけるすごいチャンスだと思いました。もう「ぜひぜひ!」という感じでしたね。

2017年3月10日に開催されたco-ba shibuyaの定例交流会は「AMA SPECIAL!!海士町特産のいわがき春香を食べナイト!!」。co-ba amaのまもなくのオープンを記念して、海士のブランド牡蠣「いわがき春香」をはじめ、白いかやさざえ、白米、地酒などが振る舞われました。寺田さん、森さん、南さんも海士町から参加。これからは、全国各地のco-baでこんなふうに海士町の食材を楽しめることになります (写真提供:ツクルバ)

一方、ギブアンドテイク払いは、都市部からの来訪者がco-ba amaを利用する際、滞在時間の一部を隠岐や海士町のために提供することで、滞在中の移動や宿泊、食事、スペース利用についてインセンティブを受けられる仕組みです。

たとえばライターが、町営塾で高校生向けにライター講座を開いたり、何かに使われる原稿を書くことになったとします。すると旅の間、夕食が振る舞われたり、宿泊先を提供してくれたりといった形で提供したスキルに還元がされるのです。

寺田さん そういうブツワザ交換みたいなことができたらいいよねっていう話をしていて。具体的なルールまではまだ決まってないんですけど、できるようならどんどんやっていきたいと思っています。

こちらも面白いのは、ソーシャルキャピタル払いと同じく、お金ではなく“モノ”や“コト”を贈りあうという発想です。自分のスキルを役立てることで、島の人たちとの密な関係性が構築でき、なによりお金という対価では得られない濃い旅の体験をすることができるのです。

モノやコトの価値を図るのは何も貨幣だけではないということを、co-ba amaは、現実に形にしようとしています。「物々交換で暮らせたら」なんて話を夢物語のようにすることがあるけれど、ここ海士町では本当に、そんなやりとりが実現していくかもしれません。

最終構想は「島全体がまるっとフリーアドレス」

(資料提供:ツクルバ)

2017年5月13日にオープンしたco-ba amaですが、あまマーレにできたのは、じつはまだco-ba amaの一部。あまマーレは、いうなればco-ba amaの「本店」のような位置付けです。

co-ba amaが最終的に目指すのは「島全体がまるっとフリーアドレス」という構想です。遠路はるばるやってきた人に、せっかくだから島じゅういろいろなところに行ってもらいたいとの思いのもと、オフィスの一角や個人宅の一角、空き家を使ったスペースなど、島のあちこちにco-ba amaの拠点をつくり、どこでも自由に利用できるようにしたいと考えているそう。

つまりco-ba amaは「島のあちこちに散らばるコワーキングができる場所全体を総称したもの」ということになります。

すでに、あまマーレに続くco-ba amaの拠点として動き出している場所もあります。東京から1年前に移住してきたデザイナーの南さん夫妻の自宅です。

南貴博さん、麻衣さんご夫妻。貴博さんは以前は大手広告代理店に勤めていました。独立を検討していたときに、海士町に移住した友人を訪ねてきてすっかり気に入ってしまい、自身も移住してきました

海が目の前という最高のロケーションに建つ大きな邸宅は、地産地商課が何か事業をする際に使おうと思っていた空き家だったそうです。もともと場づくりにも関心があった南さんは「それだったら僕がゲストハウスなりシェアオフィスなりにしてここを活用したい」と提案し、借り受けることになったのだそう。

南さん宅の入り口から見える風景。ちょうど真正面に夕日が沈みます。仕事をしながらこんなに美しいサンセットが見られるなんて、最高すぎます (写真提供:南貴博)

じつは海士町には南さんのようにフリーランスで働く人があまりいません。南さん自身も当初は東京の仕事をリモートでやって収入を得つつ、地域でも仕事をつくっていけたらと考えていたそうです。しかし実際に住み始めると、海士町をはじめ、隠岐諸島のあちこちから仕事の依頼があり、その内容や表現の幅もさまざまなようです。

南さん それもあって、クリエイターの輪をどんどん広げていきたいと思っています。co-ba amaにもいろいろな人がきてくれて、ここを第二のオフィスみたいにしてくれたらいいですよね。そこから仕事につながってもいいし、移住して来るクリエイターもそのうち出てくるかもしれません。

島ではフリーランスは無理と思っている人もいるかもしれないけど、ある程度の経験やスキルがあれば、仕事はいっぱいありますよ。

co-ba amaをきっかけに、海士町で“フリーランスで働く”という選択肢が広がっていくかもしれません!

co-ba amaの新たな拠点となる南さん宅の長屋門。夏ごろの稼働に向けて、現在リフォーム真っ最中。港側の壁には窓を開け、1日中海を見ながら作業ができるようにするそうです。そして母屋は、ご縁のあった方々が宿泊できるようにもしていく予定 (写真提供:南貴博)

コミュニケーションを中心とした働く場づくり

「町内では、わかりやすさを大切にして“勉強部屋できました”とお知らせしています。コワーキングスペースだとなんだかわからない人も多いので」と寺田さん。おしゃれさよりもわかりやすさ、まちにこの場所が根付くためのひと工夫です

コワーキングスペースには、どうしても“仕事をする場所”というイメージがあります。しかしco-ba amaが大切にしたいのは、やはりまずは交流や出会いなのだと、寺田さんも森さんも何度も話してくださいました。

森さん 理想は、たとえば一次産業の方たちもここにきてくれて、島外からITの方がこられたときにつなげたり、一緒にお茶を飲んだりご飯食べたりっていう延長線上で新しい仕事が生まれることです。

寺田さん 島のみなさんは子どもからおじいちゃんまで本当にパワフルなので、若者に限らず、世代を超えて何かが生まれていくことはすごく期待したいですね。

最近は観光地を巡るより、その土地の人を巡りたい、という“人巡り”の旅が当たり前になってきました。とはいえ、知らない土地にいきなり行っても、なかなかその土地の人とつながる機会は得づらいものです。そんなときに、ご近所さんから旅人まで、誰もがフラリと立ち寄れる場所が開かれているというのは、とても楽しいことかもしれません。

寺田さん 海士町のキーワード「自立・挑戦・交流」は、やっぱりどれも大事なんだということを、日々実感しています。だからこそco-ba amaという場所もまずは交流する場として機能させたいし、それによって新たな挑戦が生まれることにも期待しています。

打ち合わせもできる大きなテーブルは、これからたくさんの交流と挑戦を生み出すでしょう

co-ba amaが目指すのは、単なる仕事ができるスペースの提供ではなく、島の人と旅の人、都市と地方、子どもと高齢者、一次産業とITなど、さまざまなつながりを育む、コミュニケーションを中心とした働く場。

効率や利便性だけでは図れないco-ba amaの挑戦に興味をもった方は、ぜひパソコンを片手に海士町へ! 穏やかな時間の流れや豊かな自然、島の人々との温かな交流が、仕事をするあなたを待っていますよ。

– INFORMATION –

co-ba ama(コーバ・海士)

住所: 〒684-0403 島根県隠岐郡海士町大字海士4958-1
県道317号を直進、海士町郵便局を左折、1本目右折(看板有)
菱浦港より車で15分 / 自転車20分 / 徒歩1時間
TEL: 08514-2-2525
運営: 海士町(担当:森・寺田)
開館時間: 10時〜17時 休館日: 毎週木曜
URL: http://tsukuruba.com/co-ba/ama/

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