ISSUE☆おすすめの連載! マイプロSHOWCASE関西編 with 大阪ガス

9 months ago - 2016.02.18

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政治×NPOで目指すのは“ローカルのスペシャリスト”。渋谷区長・長谷部健さん×NPO法人スマイルスタイル代表理事塩山諒さん対談

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特集「マイプロSHOWCASE関西編」は、「関西をもっと元気に!」をテーマに、関西を拠点に活躍するソーシャルデザインの担い手を紹介していく、大阪ガスとの共同企画です。こちらの記事は、「NEXT STEP対談」。過去に登場していただいたみなさんが“人生の先輩”の胸を借りて次のステップを模索する場をgreenz.jpがプロデュースしました。

今の日本では、不登校や引きこもりなど、一度人生のレールを外れてしまうと安定した就労先を見つけるのが非常に困難になるという現状があります。「働きたいけれど、仕事が見つからない」。そんな若者を支援しているのが、大阪で仕事ライブラリー「ハローライフ」を運営するNPO法人スマイルスタイル(以下、スマスタ)です。

代表の塩山諒さんは、今年、“青年版国民栄誉賞”とも呼ばれる「人間力大賞」を受賞するなど、関西を代表する社会起業家として活躍しています。そんな塩山さんには、ひそかにお手本にしてきた人がいます。その人物とは、楽しいゴミ拾い活動の草分けともいえるNPO法人グリーンバードを立ち上げ、渋谷区議を経て、2015年から渋谷区長を務めている長谷部健さんです。

塩山さんは10年前に長谷部さんの存在を知り、「弟子入りさせてほしい」と5000文字にも及ぶ(!)超長文のメールを送ったこともあったそう。そして今回、マイプロ関西の対談企画として、“人生の先輩”でもある長谷部さんとの7年ぶりの再会が実現しました。

ちょうど一回り年の離れた “ソーシャルプロデューサー”の先輩・後輩のふたりは、何を語り合ったのでしょう? 時間のブランクをまったく感じさせない打ちとけた雰囲気で、注目の対談はスタートしました。
 
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長谷部健(はせべ・けん)
1972年東京都渋谷区生まれ。広告代理店・博報堂で6年間営業職を務め、2002年退職。2003年NPO法人greenbirdを設立。原宿・表参道を中心にゴミのポイ捨てに関するプロモーションを開始する。同年、渋谷区議会議員選挙にトップで初当選。これまでシブヤ大学の設立や表参道イルミネーション復活、アースディマーケット開催、宮下公園リニューアルなど、様々な活動を行ってきている。今後は特色のある保育園・幼稚園づくりやピープルデザイン都市シブヤ計画など、シブヤから世界を変えようと、理想の街づくり目指している。2015年4月より渋谷区長として活躍している。
http://www.hasebeken.net/

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塩山 諒(しおやま・りょう)
NPO法人スマイルスタイル代表理事。1984年兵庫県生まれ。18歳の頃、アルバイトをしながらフリースクールでスタッフを務め、その後政治家事務所での鞄持ちの仕事や東京でのベンチャー起業立ち上げの経験を積むなどして2008年に現在の「THE SOCIAL DESIGN COMPANY スマスタ」を設立。公共や企業活動、教育分野において先進事業構築を目指し日々研究と実践に取り組む。今の社会に必要な公共サービスモデルを実践し、人々がしあわせを感じながら働き•働き続けることのできるよう、衣食住サポートをはじめとするインフラ整備に奮闘中。
2014年度は、既存の職業安定所の概念を覆すワークサポート施設「ハローライフ」、被災地の高校生とつくるキャリア教育プログラムである『いしのまきカフェ「 」(かぎかっこ)』においてグッドデザイン賞を受賞。

「塩ちゃんは自分の地元で頑張れ!」と言われて

塩山さん おひさしぶりです。前回お会いしたのは7年前で、当時、長谷部さんは区議会議員でしたね。僕は会社に勤めたことがないので、仕事のノウハウや考え方は見よう見まねで身につけてきたんですが、その基礎になっているのが長谷部さんの企画書だったんです。

長谷部さん そうだったんだね。

塩山さん 僕はフリースクールで働いた時期があって、そのころに出会った保護者の人たちは、問題を解決しようと、熱く、ちょっと言葉は悪いかもしれないけれど“泥臭く”発信をしていていたんですね。でも、なかなか社会に伝わっていかないな、という実感があって。

そんなとき、長谷部さんの伝え方を見て衝撃を受けたんです。「ああ、こんな風にカジュアルでいいんだ」って。

たとえば、グリーンバードのゴミ拾い。参加するまでは、“ゴミ拾い”といったら、先生に言われて仕方なくやるものだと思っていたけど、グリーンバードではみんな楽しそうで、“やらされてる感”がまったくありませんでした。

そのとき、グリーンバードがやっているような、クリエイティブでウィットの効いたコミュニケーションは、いろんな社会問題の解決に応用できると思ったんですよね。で、「長谷部さん、弟子入りさせてくれへんかな」と思って超長文のメールを送って、うさん臭がれたという(笑)

長谷部さん 覚えてるよ。そのときは「塩ちゃんは自分の地元で頑張れ!」って言ったんだよな。昔、いじめられっこで引きこもってたっていう話も聞いてたし、注目してました。

塩山さん 今は、若者の就労支援をする仕事ライブラリー「ハローライフ」っていうのをやってるんです。
 
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すかさずパンフレットを取り出す塩山さん

長谷部さん 知ってる、知ってる。ちゃんと活動の様子見てるよ。

塩山さん ありがとうございます! 本当に最初のころにつくった企画書は、文字の色も緑で、まさにグリーンバードみたいな感じ。「これ、長谷部健のパクりじゃん」っていろんな人に言われました(笑)

長谷部さん でも、今はもう完璧に“塩山流”になってるよね。

塩山さん ありがとうございます!!

長谷部さん 企画書をつくるときに大事なのは「人にどう感じてもらうか」だと思うんです。頭で分かっていても、体温やぬくもりみたいなものは、なかなか感じられない。でも、連れて行って体験すれば、すぐにわかってもらえることってあるよね。

塩山さん はい、ハローライフがまさにそれで。実際につくってみたら、今まで口で説明してもなかなか伝わらなかったことが、すんなり理解してもらえる。コミュニケーションのスピードが格段に上がったと思います。

長谷部さん そうそう、実際に見てもらうのが一番早い。この数年で、塩山流の仕事のやり方を身につけて、こうやってやりたかったことを形にしてるのはすばらしいと思うよ。
 
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大阪本町にある「ハローライフ」

先進性をねらっているわけではなくて、課題を解決したいだけ

塩山さん 長谷部さんは、区長になってから変わったことはありますか?

長谷部さん 政治家になって、区政に関わるようになってみて、アウトプットしたものが街に残るというのは、やりがいも大きいですね。区長になるまでは、渋谷区はあくまでクライアントだったけど、今は自分が発注する側にいる。その違いも大きいというか。

あと、最初のころに思ったのは、いろんな意味で周りが変わったなということ。それに関連していうと、前よりネクタイをしめるようになった。

塩山さん ネクタイですか(笑)
 
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長谷部さん いや、これは心がけの面で大きな変化だと思う。今まで通り、いい意味でふざける余裕も残しておきたいけれど、責任の重さを感じますね。たとえば、災害が起きたときには、災害対策本部長として自衛隊に支援を要請するなんてこともしなければならない立場なわけで。

前区長の桑原敏武さんは、もともと行政マンだったこともあって、区政について隅々まで知っていました。自分は同じようになれるとは思わないから、自分なりのやり方でやっていきたいと思っています。

塩山さん 2015年は、同性パートナーシップ条例(※)が先進的な取り組みとして話題になりましたよね。

※「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」のこと。日本で初となる、自治体による同性間のパートナーシップを認める条例となった。区に在住する20歳以上の同性カップルに、公正証書の作成を条件として、証明書を交付する。

長谷部さん 先進性をねらっているわけではなくて、課題を解決したいだけなんです。

今は同性パートナーシップ証明書が注目されていますが、これはパートナーのいる人たちだけの問題ではありません。

社会でなかなか認知されてこなかったマイノリティの人たちの不安や悩みを解消しながら、少し自信を持ったり、幸福感を持ったりできるように相談窓口をつくったり、マジョリティ(多数派)といわれている人たちの意識の変化を図ったりして、空気づくりに取り組んでいきたいですね。

いずれにせよ、ちょっとウィットがあったり、クリエイティブだったり、渋谷らしい方法で、渋谷からみんなの意識を変えていけるといいですね。

塩山さん マイノリティというと、僕自身、高校も行っていないし、会社に入ったこともないという意味ではマイノリティだと思うんです。そうやって一度コースを外れてしまうと、挽回するのは本当に大変というか。

非正規社員として働いている、いわゆる“ワーキングプア”と呼ばれる人は、どんなに頑張っても年収200万円くらい。幸せを感じながら働き続けていくためのモチベーションのひとつに “自分の家族を守る”といったことがあると思うんですけど、収入が安定しないことには「結婚して家族をつくる」ということに、まず踏み出せないですよね。

しかも、親が困窮状態にあると、子どもが自分の将来に希望が持てないといったことにつながりかねません。だからこそ、一度コースを外れてしまったノンキャリア層の希望をつくりたいと思っているんです。

長谷部さん いいね。渋谷区でも、廃棄された食品をうまく活用して、「子ども食堂」みたいなことを考えています。渋谷はメディア力のある街だと思っていて、既に全国に事例があるものでも渋谷区らしくやっていくことで、世の中が気づくきっかけをつくっていけたら、と。

ただ、子どもに関することについては、ひとりひとりに寄り添って、地道に続けることも大切ですよね。子どもたちが自分の家庭環境にコンプレックスを感じてしまうことがあってはならないから。

これは、渋谷区とも一緒にプロジェクトを進めているピープルデザイン研究所(※)の考え方と同じで、「違いを受け入れて、助ける必要があれば助け、理解する必要があれば理解する」ということだと思います。

※ピープルデザイン研究所の取り組みとしては、マイノリティや福祉そのものへの”意識のバリア”を取り除くことを目的に行われた『2020年、渋谷。超福祉の日常を体験しよう展』などがある。展示されていた福祉機器は、将来イノベーションが期待できるような“ヤバイ”テクノロジーを備えているものや、“カッコいい”“カワイイ”デザインに思わず立ち止まってしまうようなものばかりだった。

政治×NPOがつくる新しいインパクトとは?

塩山さん 「違いを受け入れて、助ける必要があれば助け、理解する必要があれば理解する」というスタンスで社会の課題をみんなで解決していくためには、政治においても長谷部さんのような新しいアプローチが必要だと思うんです。

NPOと行政の連携は広まってきていますが、もっと周りで立候補する人が増えていってもいいかもしれない。そのあたり、元NPO代表の政治家としていかがですか?

長谷部さん もともと区議会議員の仕事とグリーンバードの活動とは別物と考えていて、どちらかというと“グリーンバードのハセベケン”という感覚が強かったんですよね。ときにはNPOを票集めのための団体のように見られてしまうこともありました。

今はグリーンバードの代表を港区議の横尾俊成さんに引き継いでいるので、直接的な関わりは減ってきているけれど、NPOのことも行政の構造もわかっているというのは、双方から共感を得やすいというメリットはあると思います。

塩山さん なるほど。

長谷部さん もちろん、NPOでの活動を通じて築くことができた人脈は、政治家として仕事を成し遂げていくうえで大きな力になりましたね。だからこそ区長としても、NPO同士をつないで、シナジー効果を生み出すことに力を入れていきたいと考えています。

たとえば、福祉の分野で実績があるけれど、オウンドメディアが弱い団体があるとしたら、そういう団体とNPO法人グリーンズが組むとか。そういうつなぐ役目を渋谷区が果たしていくのも大事なのかなと。

塩山さん 以前、「NPOのM&Aみたいなことがあってもいいんじゃないか」という話をされていましたが、それがいよいよ形になりつつあるわけですね。そういう役割を区として果たしていくというのは、とても興味深い動きだと思います。

長谷部さん そうそう。今、渋谷区に所在地のあるNPOのヒアリングをしているところなので、どんな変化が生まれていくのか楽しみでもあるんです。
 
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区長室に飾られていた、長谷部さんがこれからやりたいこと

「ローカルのスペシャリスト」になりたい

塩山さん 長谷部さんが取り組まれているような「まちづくり」って、映画を一本つくるようなものだと思うんです。

プロデューサーがいて監督がいて、役者がいて裏方がいる。その中で長谷部さんは何でもこなせる人のように見えるんですが、ご自身はどの役割に力を入れたいと考えていますか?

長谷部さん そんな、何でもできるわけじゃないよ。自分にできないことは、どんどん周りの人を頼ってるしね。今の自分の役割は“ソーシャルプロデューサー”かな。

渋谷だからこそできるやり方で、社会の課題を解決していきたい。そして、みんなを信頼して後ろで構えているというスタンスが一番自分らしいと思っています。

塩山さん そうですか。そう言われてみれば、長谷部さんってそんな感じかも(笑) 個人的にも長谷部さんみたいな人がもっと増えたらいいな、と思うんですけど、たとえば「松下政経塾」みたいに人を育てることは考えていないのですか?

長谷部さん それはまったく考えてない。人にモノを教えるのが苦手なんだよ。今は渋谷という場所で、区長という立場にある“ソーシャルプロデューサー”として、極められるところまでいきたい。

塩山さん 「次は国政!」とか考えたりは?

長谷部さん それもよく聞かれるんだけど、あくまで“ローカルのスペシャリスト”としてやっていきたいんだよね。区長として、渋谷に住んでいる人が、子どもからお年寄りまで、自分の街に誇りを持てるようにしたい。

やりたいのは「自分の生まれ育った渋谷をより住みやすい街にする」ということで、国政は“世界の中の日本”を考える人がやったらいいと思っています。塩ちゃんもそうでしょ?

塩山さん そうですね。2006年に自分のやりたいことを人に話したら「それってハセベさんがやってることに似てるんじゃない?」って言われて、それから長谷部さんの背中を追いかけてここまで来ました。

長谷部さん そうやってベンチマークにしてもらったってことは本当に光栄です。

塩山さん 今日は、この7年間でスマスタがどんな活動をしてきたのかが、報告ができてよかったです。何か一緒にできることがあればぜひ! また大阪にもぜひ来てください。本日はどうもありがとうございました。
 

(対談ここまで)

 
10年ほど前に比べて、NPOというものが世の中に浸透してきたと感じているという長谷部さん。

NPOと政治との関わりとしては、行政がNPO同士をつないで、より大きな力を発揮できるようにするという方法もあれば、NPOを経験した人が政界へ身を投じて、政治の側からダイナミックな変化を起こしていくという方法もあるでしょう。

渋谷と大阪。まったく個性の違う土地で、「自分のまちをよりよくしよう」と活動しているおふたりに共通しているのは、自分のまちの困りごとを、クリエイティブでウィットの効いたやり方で解決していくというスタンスです。

塩山さんはその方法を、長谷部さんをまねすることからはじめ、今では自分なりのやり方として、すっかり身につけているように見えました。

かつて塩山さんが長谷部さんに出会って刺激を受けたように、これからは塩山さん自身も、その活動を通して次の世代にヒントを示していくのかもしれません。

(撮影:関口佳代)

writer ライターリスト

Fumie Matsuyama

Fumie Matsuyama

greenz シニアライター ライター/ヨガインストラクター 静岡県出身。横浜市在住。 大学卒業後、教育系の出版社で国語・小論文教材の編集に5年、新卒採用・新人教育に3年携わる。 現在はヨガインストラクターとして都内および横浜近郊のヨガスタジオ・カルチャースクール・スポーツクラブ等で指導を行っている。季節の移ろいを感じとる目を養い、それぞれの時期に合った身体を作る「こよみヨガ」を提唱し、都内・横浜でワークショップも開催している。 関心のあるテーマは教育・健康・女性の生き方。 website:纂灯舎 facebook:Fumie Matsuyama

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