ISSUEインクルーシブ 子ども

9 months ago - 2016.02.15

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だれもが子どもの「やりたい!」を応援できる社会へ。「NPO法人D.Live」田中洋輔さんに聞く、今すぐできる、子どもの自信を育む関わり方

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「テストで学年一番になりたい」
「先生になりたい!」
「世界一周したい!!」

子どもが夢や目標を口にする瞬間に立ち会ったことはありますか? そんなとき、あなたはどんな言葉をかけてあげられるでしょうか。

「そのためにはね……」と、方法論を語る?
「それめっちゃおもしろいやん」と、共感する?
「一緒にやってみよ」と、協力者になる?

私たち大人の関わり方は、良くも悪くも、子どもの考え方や行動に影響を与えます。ときにはちょっとしたひとことが、子どもの未来を大きく変えてしまうことも……。でも、子どもへの関わり方について学ぶ機会は少ないですよね。

今回お話を伺がったのは、子どもの自信を育む活動を展開する「NPO法人D.Live(ドライブ)」代表理事の田中洋輔さん。田中さんの言葉から、子どもたちが素直に自分のやりたいことに向かっていくため、私たちにもできることが見えてきました。
 
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田中洋輔(たなか・ようすけ)
1984年大阪生まれ。立命館大学文学部卒。高校・大学と不登校を経験するも、周りの人たちに支えられ、少しずつ外に出るように。「自分が経験した、しんどい思いを子どもたちには味わってほしくない」と2009年より任意団体D.Liveとして活動を開始。2012年NPO法人化、代表理事に就任。しんどい思いをしている子どもの背景には自尊感情が関わっていることを知り、講演活動や勉強会を通じて、子どもと関わるすべての人たちと共に子どもの未来を変えていこうと活動する。

子どもの“自尊感情”を高めるために

D.Liveは、「すべての子どもがなりたい自分に向かって、思いきり取り組める社会をつくる」をミッションとするNPO法人。“子どもの自尊感情を高める”ために、さまざまな活動を展開しています。

この“自尊感情”という言葉、あまり聞き慣れませんが、D.Liveが2015年に発刊した「子どもの自信白書2015」 によると、「良いところも悪いところもかけがえのない自分として受け容れる気持ち」を指すとのこと。“自己肯定感”とも言い換えることができ、子どもの自信や将来への期待感にも大きく関係しているそうです。
 
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自尊感情4つの構成要素(NPO法人D.Live「子どもの自信白書2015」P4)

しかし現状は、SNSの普及によって「他者から見られる自分」を強く意識する環境になったことや、地域の大人との関わりが減ったことにより「自分を見てくれている」という感覚を持ちにくくなっていることなどから、日本の子どもは諸外国の子どもに比べて自尊感情が低い傾向にあるのだとか。
 
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諸外国との比較からみる子どもの現状(NPO法人D.Live「子どもの自信白書2015」P5)

このような現状に対して、D.Liveは大きく分けて2つの活動を展開しています。

1つ目は子どもを対象とした活動で、メインになっているのは2014年春からはじまったTRY部(とらいぶ)です。TRY部は、子どもたちの自信を育むための教室で、小学生高学年から高校生を対象に、平日の夕方、週1回のペースで実施しています。
 
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TRY部は毎週1回、草津市立まちづくりセンターで実施されている。

授業のベースは、計画と振り返り。学年に関わらず一緒になって授業に取り組みながら、一人ひとりがなりたい自分を描き、目標を設定します。「志望校のオープンキャンパスの日を調べる」「30分早く起きる」というように、目標は人それぞれ。翌週、実際にどれくらい達成できたかを振り返り、生徒同士で共有します。

また、「親に宿題をしろって言われるのがイヤ」「進路はどうやって決めたらいいの?」などその時々の生徒の悩みに合わせてテーマを設定し、生徒とスタッフで対話をしながら考える時間も。ほかにも、月1回「マイプロジェクト」という発表の時間など、スタッフも生徒もその月にチャレンジしたことを語り合う機会を多く設けています。
 
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マイプロジェクトでは、「将来の夢」「夏休みにやりたいこと」など、テーマを決めて発表する。口頭で話す生徒もいれば、スライド資料をつくり込んで発表する生徒もいる。

そしてもうひとつは、保護者や教育者向けの取り組み。自尊感情に関する勉強会や、子育てに関する講演会を実施する他、基礎知識や調査結果をまとめた「子どもの自信白書」も発刊しています。

「子どもの自信白書2015」には、諸外国と比較した日本の子どもの現状、小・中学生へのアンケートやインタビュー結果、専門家による現状分析などが掲載されており、親や学校など子どもに関わる多様な人々から数多くの問い合わせが届いているそうです。
 
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2015年11月に発刊した「子どもの自信白書2015」。B5サイズ・36ページで1000部発行した。

ちなみに「D.Live」の「D」は「Dream(夢)」、「Live」は「より良く生きる」を意味するのだとか。夢や目標に向けて、子どもたちと一緒に走っていくこと。そして、子どもの環境をつくる大人にも語りかけながら、社会全体でより良く生きる環境をつくっていくこと。これが、D.Liveの役割であり、使命なのです。

子どもが変わる瞬間を支える大人の関わり

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TRY部では学年に関わらず一緒に授業を受ける。

現在TRY部の生徒は、小学6年生から高校1年生の4名。田中さんは、スタートから約1年10ヶ月の間に、生徒が変わる瞬間に幾度となく立ち会ってきたと言います。

不登校で、当時TRY部にも毎回出席できない中学3年生の子がいました。

少しずつ時間をかけて話す中で、「コミュニケーション能力が必要やね」ってなって。「じゃあ一人旅でも行ってみたら」って言ったら、本人が目を輝かせて「行きたい」と。それで一緒に旅の計画を立てて、その子のお母さんとも相談をして、彼の背中を押しました。

こうして長野へ1泊2日の一人旅に行き、帰ってきた彼は、まるで別人だったのだそう。

「泊まったゲストハウスのお客さんはみんな海外の人やった」とか、「携帯持ってへんから、道に迷いながら辿り着いた」とか、すごく楽しそうにしゃべってくれました。「オレ、一人旅に行って変わった」とも。

その後は「高校に行きたい」と進学して、今は部活2つと生徒会をやりながら、家ではネットで小説を書くというアクティブな生活を送っています。

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TRY部では教室を飛び出して遠足へ行くこともある。写真は、彦根城に行った時の様子。

次に、ある小学生の話をしてくれました。

完璧主義というのかな、理想の自分がすごく高い生徒がいました。お父さんが教師で、お母さんも子どもの勉強に熱心で。TRY部に来たばかりの頃は、少し間違うことも許せないという感じで、目標を考える時も、「オレなんか無理やし」ってなかなか自信をもてていませんでした。

田中さんは、そんな彼に対して「今できることに集中しよう」と声をかけ、一緒に取り組み始めました。まず自分ができていることを見て、次にできないことを知って。すると、徐々に自分を客観的に見られるようになっていったそうです。

1年ほど経った頃、「お母さんに医者になりたいって言った」って彼が報告をくれました。それだけでもすごく嬉しかったのですが、その時彼が「できるかできへんか知らん、でもやることに価値があるんや」「医者になれるかはわからんけど、やるんや」と力強く言ったんです。涙が出そうになりました。

単発のイベント形式ではなく、継続的に関わることで、子どもが変わるその瞬間をそばで見ることが何よりも嬉しいと語る田中さん。子どもと関わる時、大切にしていることについて、聞きました。

一つ目が、期待をしないことです。人が怒ったり、悲しくなったりするのは期待値よりも低いから。僕は子どもに寄り添うことを一番大切にしていますが、期待していたら寄り添えません。目標を立てる時も上からになってしまいます。

ただ、子どもに期待はまったくしませんが、この子なら絶対できると信じています。

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クリスマスブーツの生産地として高い全国シェアを誇る草津市。JR草津駅西口の商店街で開催される「クリスマスブーツギャラリー」にも参加している。

2つ目がチューニング。大人目線で考えるのではなく、子どもの話し方に合わせたり、抑揚をつけたり。僕もあるがままの姿を見せて、子どもたちも自分をさらけ出してくれるように心がけています。

田中さんは、子どもに小さな成功体験を積み重ねてほしいから、最初のステップを大切にしていると言います。TRY部らしい、こんなエピソードも教えてくれました。

家でまったく勉強をしない子どもがいました。その子が、毎日1分勉強するという目標を立てたんです。そうしたら翌週、「余裕やったわ!」と意気揚々にTRY部に来て、次の目標を毎日1分30秒勉強するにしていました(笑)。

「もっとできるのでは?」と思ってしまうような小さなステップも大切にして、子どもの目線で一緒に考えること。そんなD.Liveだからこそ、子どもたちは変化をも怖れない自信を身につけていけるのでしょう。

不登校だった僕だからできること

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D.Liveでは、不登校だった過去の田中さんがあればよかったと思う場所や関係性づくりに取り組む。

2009年5月に京都で任意団体としてスタートし、2012年5月に法人化したD.Live。現在は、滋賀県草津市を拠点に活動していますが、きっかけは、田中さんが高校生の時に不登校だったことだそうです。

中学生の頃、野球選手になりたいと思っていました。意気揚々と高校は大阪の強豪校に入学しましたが、周りはすごい人ばかり。「自分はできる」って思いと、周りから見られる自分の像がかけ離れていき、だんだん自信がもてなくなっていきました。

そのうち、失敗をすごく恐れるようになり、だんだん野球がイヤになって、最終的には辞めてしまいました。

野球を基準に進学する高校を選んだ田中さん。野球ができないなら学校に行く必要もないし、生きる意味もないと感じたそうです。それでも大学に入ったら変わるかもと考えた田中さんは、立命館大学に進学します。

大学に入ったものの結局、高校と何も変わりませんでした。仮面浪人もしましたが、逃げの動機なので勉強に身も入らず、結局落ちて。

その時にようやく、「この大学があかん」、「高校があかん」って今までずっと環境のせいにしていた自分に気付きました。「自分が変わらんとあかんのや」って。

そこから将来のことを考えはじめ、働くなら、自分と同じような不登校の子やニート向けの活動をしたいと考えたそう。

議員インターンシップ、テレビ局でのアルバイト、イベント会社でのインターンシップなど、さまざまな立場に身を置き世界を広げていくうちに、「自分の想いをきちんと人に届けて、背中を押せる存在になりたい」と気づき、2009年自ら任意団体をつくり、活動を始めました。

みんなが子どもの背中を押せる社会に

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TRY部では、子どもも大人も一緒になってワークショップや発表に取り組む。

これからのTRY部、そしてD.Liveの活動を通して、田中さんはどんな未来を描いているのでしょうか。

色んな人が、自信を高められる取り組みができたら、もっと社会に変化を起こせると思います。TRY部を大きくしようというよりも、家庭や学校で子どもの自尊感情を高める人を育てていきたいです。

2016年からは、学習塾とTRY部の連携、行政との連携も進めていきたいとのこと。

学校や学習塾など現場を持っている人が、子どもの自尊感情を高めることができるようになったら、もっと日本の社会は良くなるし、子どもが「○○をやりたい!」と言った時に、みんなが背中を押せるようになります。

“みんなが背中を押せる”社会をつくるために。私たち誰にもできることがあるはず。最後に、子どもの自尊感情を高めるため、今からできることを聞きました。

「子どもに聞く」、これに尽きます。子どもといっても、人間と人間の関わり。大人がわからんことは、子どもに聞いたらいい。

「なんで勉強しやんの」って怒るんじゃなくて、「なんで勉強したくないの?」ってまず聞きます。そうしたら、子どもが「なんでテストの点数が悪いとあかんの」って返してくれたりして、子どもが何を考えているか分かります。

そこからコミュニケーションをしていったらいい。大人が子どもをコントロールしようとしない。きちんと子どもの考えを聞いた上で、大人も意見を伝えたらいいと思います。

私たち大人の関わりが、子どもたちの未来、ひいては日本の社会をつくります。

もしみなさんが自分の子どもや、近所の子どもと話す機会があったら、子どもへの関わり方を振り返ってみませんか。

自分に自信をもてる子ども、やりたいと思ったことに向かって歩んでいける子どもが大人になった時、どんな未来が待ち受けているのか楽しみですね。

D.Liveの活動をチェックしてみよう!
公式ホームページ

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北川 由依

北川 由依

greenz ジュニアライター 三重県生まれ。北海道でインターンシップ事業や農業の産業化に取り組む企業に勤務した後、ライターに。フード産業や採用領域で活動しています。 2015年には、10年ほど住んだ札幌を離れて、京都へ移住しました。 取材を通じて経営者やシェフたちの仕事に対する思いに触れてきたことから 飲食店経営に興味を持ち、京都市内のシェアキッチンで週に1回、お店をオープンしています。

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