ISSUE ☆日本と世界のソーシャルデザイン

1 year ago - 2015.06.02

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教師はいらない! 子育てだってしなくていい!? アーティスト・椿昇流、ちょっと過激なこれからの教育論

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(左)椿昇さん (右)YOSH編集長

みなさんは勉強が好きでしたか? 自分の興味を追究することが本来の“学び”とすれば、それはきっと楽しいものです。しかし実際の学校はどうでしょう?

試験や偏差値といった数字で生徒にラベルを貼り、一瞬でクラスメイトを“ライバル”に。こうしたストレスのはけ口として、いじめは横行。本来学びの場である教室はサバイバル空間へと変貌し、いつしか若者は自らの身を守る不登校という“シェルター”にこもるようになってしまいました。

こうした現状に警笛を鳴らし、イノベーティブな人材の育み方をテーマにした『シェルターからコックピットへ――飛び立つスキマの設計学』が2015年4月に産学社より刊行されました。

著者は、現代アーティストの椿昇さん。瀬戸内国際芸術祭2013「小豆島 醤の郷+坂手港プロジェクト」ではエリアディレクターを務め、過疎高齢化の街をアート作品でにぎわう夢の島へと導いた立役者でもあります。以前グリーンズでもインタビューを掲載しました。

今回は、日々子育てと編集業にがっぷりよっつで取り組むgreenz.jp編集長のYOSHさんを聞き手に、これからの教育について、子育てについて、アートについて、あれこれ伺った様子をシェアしたいと思います。
 
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椿昇(つばき・のぼる)
現代美術家。1953年京都市生まれ。現代社会のあり方を根源的に問う作品で、80年代からアーティストとして世界的に活躍する一方で、中高一貫の女子校で美術教師として24年間勤務。不登校や不良更生など生徒指導にも手腕を発揮してきた。瀬戸内国際芸術2013・2016では「小豆島 醤の郷+坂手港プロジェクト」のディレクターを務め、アートによる持続可能な地域づくりのモデルを提示。京都造形芸術大学教授、美術工芸学科長として、大学全入時代の大学改革にも取り組んでいる。

“言葉の魔法”が使えるか?

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『シェルターからコックピットへ—飛び立つスキマの設計学』椿昇著(産学社より2015年4月末刊行)。「クリエイティブな人間はクリエイティブな空間から生まれる」という椿さんの持論をベースに、独自の教育論を展開。後半ではトップデザイナーの長嶋りかこさん、パンダの6本目の義指を発見した遺体解剖学者の遠藤秀紀さんなど、各界著名人の仕事場探訪記を掲載。またこれまで著者自身が体現してきたアートプロジェクトの事例も紹介し、組織づくり、場づくり、イノベーティブな人材を育むためのヒントが満載の一冊。

YOSH 刊行されたばかりの『シェルターからコックピットへ—飛び立つスキマの設計学』、とても興味深く読ませていただきました。

2歳の娘の父親として、新米の大学教員として、伺いたいことがたくさんあります。

椿 よろしくお願いします。まじめに答えます(笑)

YOSH さっそくですが、本の中で「日本人は私空間へは溢れる愛を注ぐのに、パブリックな空間(学校、公共機関やオフィス)には関心を失っている」とありましたね。

自己愛のような“小さな欲望”を、「こんな未来がほしい」という“大きな欲望”に昇華させていくことこそ、ソーシャルデザインの要だと僕も思っていて、とても共感したんです。

ただそんな私空間とパブリックな空間をどうつなげたらいいんだろう、と気になってもいて。でも、いま僕がいるこの部屋を見て何となく解った気がします。
 
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インタビューは椿さんが学科長を務める京都造形芸術大学美術工芸学科の準備室にて収録。通称「赤部屋」と呼ばれる講師や教授の準備室。学生の作品も展示され、マルチな機能を備えた一室。椿さんの訪問者はまず赤い壁に度肝を抜かれ、椿さん愛用の超高級オーディオ(私物)と革張りのソファに座りながらアート作品に酔いしれることになる。

椿 つい数ヶ月前までは背後に壁があって、向こうは別の教室やったんですけど、壁をぶち抜いて、いままでは別の研究室に別れていた先生たちが同居する空間にしたんです。「こうすればクリエイティブになる」という理論よりも、クリエイティビティは案外こうした空間の変容から生まれるとの確信があります。

ここは僕の私物の本が彫刻のように並んでいて、学生だってコーヒーが飲める空間です。大学院生の授業はここで行うし、作品の展示スペースとしても使っています。こういう空間(プラットフォーム)をつくっておけば、勝手に何かが生まれるんです。

というわけで、僕の本はイノベーティブな人間をつくるために必要な空間、というアプローチで教育の場を変容させた経験と具体策について書いています。

YOSH さらに本の中で、これから必要な教師像として、「場をリアルタイムに編集する博覧強記の知芸者が対話を促し、学びを深める」ともありましたね。
“知芸者”という表現にピンときたのですが、この言葉はどうやって導かれてきたのですか?

椿 いま一番大事なことはオーラル(口伝)の力なんです。“言葉の魔法”が使えるか。でもこの言葉の力がいま弱っていますね。

YOSH “言葉の魔法”というと?

椿 一度講義を聞いたら、うっとりとしてしまうような言葉ね。そしてその言葉のやりとりが対話だと認識しています。対話は“おしゃべり”とは違うんです。身体性を持った言霊をひとつ投げて、それに対して哲学的審問を行って言葉を投げ返すことです。

そのときに「ウィキペディア見るからちょっと待って」なんて言えないでしょ。だからオフラインで全て頭のなかに入れておかないといけないんですよ。芸人だって過去のネタを全部頭に入れて記憶している。教師もそれと同じで“知の芸”なんです。
 
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本にびっしり書き込みをして取材に臨んだYOSHさん。以前グリーンズで掲載した椿さんの記事は「一番好きなインタビューのひとつ」だそう。

YOSH 本でも強調していますが、椿さんは対話の文化を大切にされていますね。

椿 僕は学生とも必ず“対話”をしますね。 “対話”は引き出しが多くないとできないんです。

教師は深い専門領域を持った上で、歴史、哲学、映画、音楽、古典からスポーツまで、何でも知っているような博覧強記じゃないと。常に最大の好奇心を持って世界を知ろうと努力してはじめて、魂があって一発でずしっと心に届くような言葉が発せられる。

そして、言葉の力は学生にも必要です。僕が教えているのは現代美術を学ぶ学生ですが、彼らが自分の作品を言葉で説明しないといけない。言葉は自分を客体視して、世界を切り取る道具。十分に駆使できないと、感傷的な言葉しか話せないんです。

言葉にもナイフやフォークみたいに、いろんな使い方があるのに、みんなスプーンの使い方しかしないでしょ。それじゃ、水飴を舐めてるだけですよ。

YOSH 授業で工夫されてることはあるんですか?

椿 まず、歴史に洗われた変わらない事実を伝えるようにしてますね。「俺の授業は一生もの。お前たちの人生を変える」って最初に言うんです(笑) 今はわからないかもしれないけど、30歳か、50歳か。ある時、ふとわかると。
 
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「本は言葉の彫刻」という椿さん。デスク周りにはギリシャ神話、哲学、最新かつ超レアなアートブックまでがそびえ立つ。毎日のように購入した本が届くのだそう。

椿 孔子も論語で述べていますが、教育で一番難しいのは学びの動機付けなんですよね。みんな大学に入った時点で満足してしまうでしょ。

本の中でナチュラリストの荻巣樹徳さんという方にインタビューしましたが、この方は中学生の頃から自分で植物の権威に手紙を書いて教えを乞うている。こういうことをいま、みんなしないでしょ?

本当は学びへの強い動機が生まれてはじめて、教えることと、学ぶという双発的な関係ができます。まず需要者(学ぶ側)のセンサーを活性化させないとね。

人生はリスクを取るもの!

YOSH より専門的なことを学ぶために、大学というものが存在したと思うのですが、今の時代でいうと、ファシリティ(設備)も人も、場合によっては代替できる部分も多いと思うんです。

自分でカリキュラムをつくって学びのリズムを整えることだって、やろうと思えばできる。だからこそ敢えてお聞きしたいのですが、 こういう時代に“大学”ってどういう意味があると思いますか?

椿 いまやネットで世界の一流大学の講義だって受けられてしまいますからね。そうなると極端な話、大学には行かなくてもいいかもしれない。

ただね、変な人間に出会わなあかんのです。変な大人にぶつかったら、そこから人生が変わるんですよ。お隣に赤塚不二夫みたいな変な大人がいたらいいんですよ(笑)

この本で僕が尊敬する人達の仕事場を訪問して、生い立ちと創作の現場を取材した探訪記が収めていますが、みんな幼少期に変な大人と出会ってるんですよ。

YOSH 変な大人に公式に会える場所が大学ということですね。

椿 ただね、つくってもダメで、自然に出会うのがいいんです。子供は、猥雑なところに放り込むといいんですよ。近所の銭湯に行ったら背中に絵のある人がいる、とか(笑)

こういう環境で育った人間って、根っこが信頼できるんですよね。

YOSH ふむふむ。

椿 塀の向こうはやばい。こうはなりたくない、という手本を見せるんですよ。いま一番よくないのが、「親がしっかり子供を育てないといけない」という思い込み。

YOSH それは僕のことですね(笑)

椿 いまは社会が子供を育てないのがあかんのです。何かあったら母親のせいにするけど、母親なんて、子を生むだけでいいじゃない。

YOSH 僕は空海が大好きで、「空海とソーシャルデザイン」という連載を続けていたんですが、子供という自分よりも大事にすべき存在が生まれてからは、思うようにその研究も進んでいないんですよね。

ずっと心にブレーキをかけつづけてきたので、いまや編集部のなかの保守派代表みたいになっています(笑)

椿 子供が生まれたらライオンのオスがたてがみ抜きます〜なんてことないじゃない(笑)

「子供がいるからちゃんとしないと」ってところを基準にするから、すべての価値判断が狂うんですよ。子供が生まれても妙に意識しないで淡々と生きてゆけばいいんですよ。

YOSH うーん、確かに。
 
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娘さんの寝かしつけまでできてしまうイクメンとして名高いYOSHさん。思いもよらぬ一言にびっくり。

椿 本当は「正しさ」なんて幻影で、それぞれが微妙にずれているのに、「お隣のお父さん、ずれてる」と非難する。よく見れば社会全体の価値判断は本質的にずれていますよね。

今の世の中何がスタンダードかわからない。社会って、その時代の約束でできあがったものだけど、今やその約束自体が凄いスピードで流れていますよね。

それに人生って、どこかで間違うのよ。間違うチャンスをつくればつくるほど、イノベーションが生まれる。当たり障りのないバントだけの野球なんてあり得ないじゃないですか、始まる前にチャンスが逃げるよ。

僕は就活する学生にも「なるべく奇想天外な仕事を探せ」って言ってるよ。宇宙人の秘書とかね(笑)

YOSH 奇想天外な仕事っていいですよね。この本には醤油ソムリエの黒島慶子さんとの例など、いままでにない新しい肩書の話が出てきますが、そういうのにワクワクするんです。

グリーンズの記事で紹介している方々も、既存の尺度では測れない真新しい価値をつくっている方々ばかりです。

椿 価値って、つくるんですよね。じゃあ価値って何かというと、命名なんですよね。名前がなかったものに名前をつけた時に、そこに産業が生まれるんですよ。だから名付けていかないといけない。

でも言葉って、生まれた瞬間に人は思考停止になるんですよね。だからイノベーションを起こすなら、言葉からまずずれていかないと。
 
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常にイノベーションを口にする椿さん。私たちが生きる今日のさまざまな現象を過去の美術作品をふまえた上で作品に結晶化するのが現代アート。アーティストとして独自の眼差しで今を鋭く見つめているのです。

一度は「しっかり暗くなれ!」

椿 話が少し戻るけど、“言葉の力”をつけるのには古典がオススメです。僕はギリシャ悲劇が大好きでね。ストローブ=ユイレの映画「アンティゴネ」がオススメですよ。

YOSH どんなストーリーなんですか?

椿 兄弟が相打ちして、反逆者である方の兄の遺体を葬ろうとした妹が、今度は死刑を命じられ、洞窟で自害するという話。要は兄を助けたいという人間的な愛か、社会の法をとるか。その葛藤を描いているんです。

YOSH まさに悲劇。

椿 そういう人間の凄惨な部分とか、圧倒的なボトムを知っておいた方がいいよね。小さなことで一喜一憂しなくなるから。一回しっかり暗くなっておくこと。するとあらゆることが明るくなります。

YOSH いまフランス文学にも影響を与えた数学者ブルバキの本を読んでいますが、生い立ちが暗いんです。

こういうのを読めば読む程、「自分は何て幸せなんだろう」って不思議なコンプレックスに陥ったりします。これってどうしてなんでしょう?

椿 みんな何かが悪いと思い込んでいるんだよね。幸せ過ぎて悪いとか、暗いのが悪いとか。みんな横並びの教育をするから、横並びのコモンセンスをつくってしまう。

だからそれぞれの暗さも、それぞれのハピネスもなくなる。みんな違っていて、ええやないですか。

YOSH 世の中が暗いので、グリーンズはどちらかというと光の部分を伝えようとしてきたのですが、何だか闇に興味が出てきました。

椿 僕なんか、闇は深いほど好きですよ(笑)

アートってね、生活に異界を取り込む道具なんです。異界を取り込むことによって、免疫ができて生きることに多様性や強靭さが生まれる。そしてあらゆることを許せるようになる。

アートで異界に触れると、何歳までに何かをしなくちゃいけない、みたいなプレッシャーもなくなって、全然違う景色が見えますよ。アートの本来的な役割は、年齢や性別といった社会的な制度を解除すること。いろんなものを超越する自由を与えてくれるんです。

YOSH そうかあ。まさにいまの僕に必要なものかもしれないですね。
 
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「アーティストを志す若者がアートで食えない状況を変えよう」と、椿さんの発案により京都造形大の美術工芸学科では卒業制作展で作品を販売している。写真は椿さん自身が購入した銅版画。

椿 そうそう。好きなものだけじゃなくて、違和感を感じるものを飾るといいですよ。

そして、多くの方は敬遠されますが、アートのコアには世界を蠢くマネーが寄生しているという冷厳な事実があります。世界中のいろんな投機が最終的に辿り着くゴールである、という最大の違和感を直視することは重要です。

YOSH マネーですか。

椿 近代になって「自己」という概念が肥大化しすぎたんですが、それは哲学でもましてや宗教でも救えない。マネーこそ、いま肥大化した自己を唯一救済できるというパラドックス(笑)

スピリチュアルな世界だと、異界に行ってしまったら戻って来れない。でもアート作品は値段がついてますからね。異界に行く前に常に現実に引き戻してくれます。だから逆説的ではありますが、ある意味健全なんですよ。

YOSH 感覚的な部分に、敢えてマネーという記号が入ってくることで落ち着くんですね。うーん、アートすごいなあ。というか、ずるい。

椿 アートはキャピタルとつながっている。今そのキャピタリズムがふわっと分厚く地球上を覆っていますよね。これを支えているのが石油などの天然資源。そしてそれはもうすぐ枯渇します。僕はもういないかもしれないけど、あなたのお嬢さんにはそういう時代が来るでしょう。

そんな時代を縦横無尽にサバイブするための柔軟な生き方とか、知的にどん欲な子供が育つ事例がこの本には載っているので、ぜひ読んでもらいたいですね。「認識は悲観的に、行動は楽観的に(アントニオ・グラムシ)」ね。

(対談ここまで)

 
人生の示唆に富んだ対談、いかがでしたか?「4万年前の洞窟壁画に始まるアートは人類最古の業界」という椿さん。著書には、今をサバイブする私たちの傍らに置いておきたい名言が随所にちりばめられています。

「心が何だかざわついた!」というあなた、椿さんの発言の真意を確かめたいあなたも。みなさん是非、お手にとって下さいね。

(写真/Soma Hirao)

– INFORMATION –

 
椿昇さん『シェルターからコックピットへ 飛び立つスキマの設計学』(産学社)刊行記念トークイベント
【日時】
6月5日(金)19:30〜21:30

【会場】
スタンダードブックストア心斎橋(スタンダードブックストア心斎橋)
【住所】
大阪府大阪市中央区西心斎橋2丁目2-12 クリスタグランドビル1F/BF

【参加料】
1200円(税込・ワンドリンク付き))
【ご予約・お問い合わせ】
スタンダードブックストア心斎橋 06-6484-2239

writer ライターリスト

ヘメンディンガー綾

ヘメンディンガー綾

greenz シニアライター。地域情報誌、ファッション誌のエディターを得てフリーに。「景色を小さく変える」をモットーに、毎日の暮らしから地域のことまで、ウェブ・雑誌・ムック本などにて取材・執筆・編集に携わっています。旦那さんがセルフリノベーションした築70年の古民家で薪ストーブ生活エンジョイ中。

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