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2 years ago - 2014.08.09

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「イノベーションスタジオ福岡」がキックオフ!”走る哲学者”為末大さんと考えた「日常の中にあるスポーツのデザイン」[イベントレポート]

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7月29日に、「イノベーションスタジオ福岡」のキックオフイベントがありました。

イノベーションスタジオ福岡とは、「福岡地域戦略推進協議会(略称:Fukuoka D.C.)」が主体となって、社会や地域の課題をビジネスの手法で解決する活動です。

産学官民が一緒になって、多様な人材が集まり繁栄し続ける東アジアのビジネス拠点として、10年をかけて福岡を大きく発展させようとしているものです。

ビジネス寄りの文章だと堅苦しく感じるかもしれませんが、平たく言うと、福岡の課題や困った問題を、行政や企業だけが主導するのではなく、市民が中心となって解決し、生活をより良く変えていこうということです。

この取り組みのパイロットプロジェクトである、「障がいのある子どものバウンダリーをリデザインする」について以前レポートしましたが、イノベーションスタジオ福岡は今回から本格的に始動していきます。

そして、その第1弾のプロジェクトが、今回の「日常の中のスポーツのデザイン」です。

スポーツの語源は遊びだった

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イベントのキーノートスピーカーとして、元プロ陸上選手の為末大さんが登場しました。「走る哲学者」と呼ばれることもある為末さんが、まず最初に「スポーツとは何なのか?」を紐解いていきます。

「スポーツ(Sports)」の語源は「憂さ晴らし=デポルターレ(Deportare)」だと言われています。

スポーツをすると言うときに、英語では「Play」という単語を使いますが、スポーツだけでなく、音楽や演劇でも同じように「Play」を使います。それに、直訳すると「Play=遊ぶ」です。これだけでも、スポーツというのは遊びの要素が強いものだというのが分かります。

しかし日本では、スポーツは教育の要素が色濃くなります。スポーツと聞くと、「遊び」というより「体育」というイメージを持っている人が多く、日本と海外ではスポーツに対する意識がかなり違います。

アメリカで陸上連盟のCEOが交代するというときに、次の候補者としてあがったのは、ディズニー社の幹部でした。アメリカでは、スポーツのライバルは映画やゲームなどレジャーであり、遊びだということを象徴するエピソードです。

頭と身体と意識と無意識

今年の4月から認知心理の研究員にもなった為末さんは、アメリカの生理学者ベンジャミン・リベット実験も紹介してくれました。

被験者に右手を動かしてもらうだけの簡単な実験ですが、右手を動かそうと考えた瞬間の時間を被験者に報告してもらいます。

実験中の被験者の脳活動を観察していると、右手を動かそうと考える(意思決定)よりも少し早く、脳が電気を出している(実際の決定が潜在意識によって行われている)ことが分かりました。つまり、人間の意思というのは、無意識を意識が追いかけているようなものだということです。
 
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為末さんのようなトップアスリートたちは、スポーツをやっている最中にこれと同じ現象を味わっています。いわゆる「ゾーン(zone)」と呼ばれるものです。

為末さんも何レースかその経験があり、そういうときは観客の声がとても小さく、自分の足音はとても大きく感じられ、気が付いたら誰かと競っていたり、ゴールしたりしていました。初めてメダルを獲ったときも、正にそういう感覚だったそうです。

また、子どもにハードルの飛び方を教えるときに、足はこう上げて、このときにジャンプしてと、厳密に説明をすると、子どもはうまくハードルが飛べるようになりません。

しかし、「ハードルの上に障子があると思って、それを破って行け」と言うと、スムーズに飛べるようになります。頭で考えるのではなく、外部の環境に身体を適用させようとすると、自然と動けるようになるのです。

中国の荘子の話で、たくさんの足を整然と動かして歩く百足に、蟻が「どうやってそんなにたくさんの足をぶつけずに歩いているのか、コツを教えて欲しい」と聞いたところ、歩き方を教えるために頭で考えた途端、百足がうまく歩けなくなるというものがあります。

今まで何も考えずにやっていたことを、頭で考えるようになるとできなくなるというのは、スポーツ選手がスランプに陥るときの状態です。

しかし、ずっと無意識でやっていては、ある一定レベル以上に技術は向上しません。意識と無意識、頭と身体のバランスはかくも難しく、人間の不思議なところでもあり、面白いところでもあります。

楽しいと人はやりたくなる

キーノートスピーチの後は、イノベーションスタジオ福岡の田村大さんを進行役に、手軽にできる運動を推進する「10分ランチフィットネス協会」の代表理事である森山暎子さん、NTTコミュニケーションズ株式会社でテクノロジーとスポーツの融合を研究している金智之さん、映像を使った体験型のクリエイティブをやっている「anno lab」代表の藤岡定さん、それに為末さんを交えて、パネルディスカッションが行われました。

最初の「身体感覚の持つ楽しさ」というテーマでは、藤岡さんが楽しいとついつい身体が動く例として、以前グリーンズでも取り上げたフォルクスワーゲンの「FunTheory」の映像を紹介しました。
 

「FunTheory」

FunTheoryは、駅の階段をピアノの鍵盤のように音が出るように改造したところ、今までエスカレーターばかり使っていた人たちが自然と階段を使うようになり、以前より66%も階段を使う人が増加したというもの。

最初のキーノートスピーチでも為末さんは、「人が運動を続ける理由は楽しいからではないか」と言っていましたが、正にその通りの実験結果でした。

森山さんは、楽しいという感覚も人それぞれだと言います。スポーツの場合は、結果が出たり、痩せたりするのが楽しいと思う人もいます。

為末さんも、最近ボクシングを習ったときに、強くパンチを打てるやり方を教えてもらって、実際に打てるようになって楽しかったと言っていました。できないことができるようになる、というのも楽しさの一つです。
 
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左から、森山さん、為末さん、藤岡さん、金さん

パネルディスカッションの中で印象的だった為末さんの言葉があります。

為末さん これからのスポーツは、身体を使ったゲーミフィケーションだと思う。

ゲーミフィケーションとは、ゲームと同じように楽しさを提供し、人をハマらせて継続させる仕組みを取り入れ、課題を解決したり活動に活かしたりするという意味です。藤岡さんは、駅の階段をピアノの鍵盤にした映像を紹介しましたが、同時に「これは一ヶ月もすれば飽きられるだろう」とも言っています。

スポーツに限らず、楽しさだけでは継続するのは難しいです。ゲーミフィケーションするというのは、楽しいだけではなく、それを継続させることでもあるので、さらにもう一捻り二捻りしたアイデアが必要になるのでしょう。

どうすればスポーツを続けられるか

そこで次に出てきたテーマが「習慣化の困難さ」です。

森山さん フィットネスのインストラクターは運動を教えるだけでなく、運動を続けるのが困難になったときに、誉めたり、励ましたり、コミュニケーションをすることで、継続できるようサポートしている。

また、高齢者の場合は、運動をして健康になれば遠くの孫に会いに行ける、昔やっていた釣りがまたできるようになるなど、その人にあった目的意識を一緒に見つけるようにもしています。

ゴルフをやっている参加者の人が、「ゴルフには100の壁というのがあって、なぜか100のスコアがどうしても破れない」と言っていました。でも、うまくいかなかったり、思い通りにいかないのが面白いのだそう。それに、できないからこそスキルアップする喜びや楽しみもあります。
 
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「先週やっと100の壁を破った」そうです。

藤岡さん 失敗があるからこそ継続につながる。次こうすれば克服できるかもと思うと続けたくなる。

為末さん こうすればうまくいくんじゃないかという仮説が生まれると、人は面白いと感じる。しかし、難易度と時間間隔がポイントで、4年に1回しか試せないのでは我慢できない、次のスイングで試せるなら我慢ができる。

また、目標を掲げるのは、やる気を出したり継続するためには有効ですが、目標が大き過ぎると、達成に近付いたときに力が入りすぎて、かえってうまくいかないことも。

いざ目標を達成したときも、次の目標が見つからずに燃え尽きてしまうこともあります。これは、オリンピックやワールドカップの出場選手を見ていると分かるような気がします。

テクノロジーにできること

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最後のテーマ「テクノロジーの融合が秘める新たな可能性」では、金さんがNTTと東レが共同開発した「hitoe」というシャツを紹介しました。このシャツは胸の部分に薄いセンサーが付いており、着用している人の心電図や体温を測ることができます。

為末さん このようなテクノロジーが一般化したら、オリンピック会場でお気に入りの選手のTシャツを買うと、その選手が競技をしているときの心拍数を、一緒に感じることができるようになるのでは。

テクノロジーによってスポーツの新しい面白さが生まれるかもしれません。

また金さんたちは、「コツが掴める技術」として、野球でピッチャーが投げるモーションをしたときに、うまく投げられたときは音が鳴り、うまく投げられなかったときには音が鳴らないという装置も開発しました。これは自分の動きに対して、成功と失敗のフィードバックが返ってくるので、技術が向上しやすくなります。

このようにテクノロジーを使って、これまで数値化できなかったものを数値化したり、フィードバックが得られるようになったりすることで、スポーツのあり方が変わっていきます。

「日常の中のスポーツ」とは?

ここまでの話を聞いたたけでも、スポーツとそれに付随するものの範囲が驚くほど広いことが分かりました。このイベントの中で取り上げられたスポーツは、競技やオリンピック、ゲームに関わるものが多かったですが、今回のテーマは、“日常の中の”スポーツです。

“日常の中の”という言葉がつくと、ジョギング、ウォーキング、ヨガ、水泳、サーフィン、釣り、自転車など、趣味やフィットネス、レジャーと呼ばれるものも入ってくるでしょう。

また、自分が実際に身体を動かすだけでなく、子どもや家族のする部活動やクラブ活動、見るだけのスポーツ観戦なども、“日常の中の”スポーツと言えます。

それに、2010年のアジア大会では囲碁も競技の中に入っていたと、為末さんは教えてくれました。将棋、チェス、麻雀、テレビゲームなども、もしかしたら “日常の中の”スポーツと呼べるのかもしれません。
 
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8月17日までプロジェクト参加者募集中!

そう考えると、「日常の中のスポーツのデザイン」というテーマは、関係無い人がいないのではないかと思えるほどです。このような大きなテーマの中から、イノベーションスタジオ福岡で取り組む課題をみんなで決め、実際に具体的なアウトプットを出すところまでを、このプロジェクトではやっていきます。

次回のセッションのリーダーは、為末さんの他に、建築家や予防医学の研究者もいます。となると、スタジアムのシステムやスポーツ施設の建築、スポーツによるリハビリや病気の予防など、本当に生活全般に関わるプロジェクトになりそうです。

自分たちで考えた課題を自分たちで解決しながらイノベーションを起こすというのは、そうそうできることではありません。福岡の市民発イノベーションにぜひとも参加したいという人は、8月17日まで参加者募集中なので応募してみてはいかがでしょうか。

「日常の中のスポーツをデザインする」プロジェクトに参加したい!
INNOVATION STUDIO FUKUOKA

writer ライターリスト

的野 裕子

的野裕子(Yuko MATONO)。福岡生まれ。大学入学をきっかけに東京に住み、数年前に福岡に戻る。サイトデザイン、コンテンツプランニング、サイトマネージメントなど、WEBサイトに関わる仕事を生業にしてきた。理に適っているデザインが好き。ユーモアのあるデザインも好き。そういう心あるデザインの良さをもっと人に伝えていきたくて、次第にWEBサイトで文章を書き、情報を配信することが中心となる。2006年にアシュタンガヨガを始めてからは、生活のあらゆる場面でのチョイスが、シンプルで無理と無駄のないものとなってきた。荷物は軽く、心も軽く、ヨガを通じて旅を続ける毎日。

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