ISSUE ☆日本と世界のソーシャルデザイン

2 years ago - 2014.06.10

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未来はひとつじゃない!『シナリオ・プランニング』著者ウッディー・ウェイドさんと野村恭彦さんに聞く「複数の未来の描き方」

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フューチャーセッションズ」の野村恭彦さんが監訳した『シナリオ・プランニング――未来を描き、創造する』(英治出版刊)。その著者であるWoody Wade(以下、ウッディーさん)が初来日しました(5月19日~23日)。

ウッディーさんはアジアやアメリカなどで30年以上にわたって、企業のコンサルタントとしてトレンド予測やビジネス展望などを行ってきました。「シナリオ・プランニング」は、企業が事業戦略を立てる手法のひとつで、予測のつかない複数の未来を描くことによって、それらの未来に備える知恵を得ることを目的に行われています。

大胆な発想で未来を創造する『シナリオ・プランニング』。その具体的な手法や豊富な事例には胸躍るものがあります。いったいこの本を書いたウッディーさんはどんな人なのでしょう。ウッディーさんと野村さんにお話を伺いました!
  
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英治出版が手がけた日本語版『シナリオ・プランニング

未来を描くオムニバス作品のような内容でした

グリーンズ まずはウッディーさんに質問です。今回の来日の経緯を教えてください。

ウッディー 『シナリオ・プランニング』の日本語版を出版してくれた英治出版さんが招待してくれたことで、今回の来日が実現しました。

日本に来るのは実は今回がはじめてなのですが、本を監訳して序文も書いてくれた野村恭彦さんにも会ってみたいと思っていました。野村さんがアクティブにシナリオ・プランニングを実践してくれていることは、Facebookを通じて知っていましたからね。

滞在期間中は、野村さんといろんなエクササイズを一緒に行って、シナリオ・プランニングの考え方や重要性を伝えていきたいと思っています。

グリーンズ 野村さんは『シナリオ・プランニング』に出会ったとき、どのような印象を受けたのでしょうか。

野村 いままでに出会ったことのないような本だと感じました。まず、写真がたくさん載っていてとてもグラフィカルですよね。それからシナリオ・プランニングの事例もたくさん。

なんだかこの本そのものが未来のストーリーを描く、ひとつのオムニバス作品のように見えました。シナリオ・プランニングから創造されたさまざまな未来が、まるで実在するようなリアリティで、ありありと描写されていたからです。

企業戦略を扱った難しい本というよりも、私たちの暮らしの未来にヒントを与えてくれる内容になっていますよね。本の後ろのほうには、「世の中はこれからこんなふうに変わっていきそうなんだけど、キミはどう思う?」みたいな問いかけがたくさんあって。これはぜひフューチャーセッションでやってみたいなと思いました。
 
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未来にはたくさんの可能性があることを伝えたい

グリーンズ 本の中にはシナリオ・プランニングの活用方法がわかりやすく示してありますね。

ウッディー この本には、シナリオ・プランニングを行うための10のステップが綴られています。でも、実際に企業がシナリオ・プランニングを行うときに、10のステップすべてを順にやるようなことはありません。中核となる3つか4つのステップを行うだけでも、コンセプトを理解してもらって、新しい考え方に十分に気づいてもらえると思っています。
 
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物腰柔らかなウッディーさん。ユーモアをまぶした話しっぷりが楽しい

グリーンズ そうなんですね。ちなみに、中核となる3つか4つのステップとは、どの部分になるのでしょう?

ウッディー これは企業のために行うときの例なのですが、まずはその企業の未来を左右しそうなドライビング・フォース(要因)を見つけます。このとき、だいたい50から100くらいの要因が見つかるのですが、その中から重要な2つを選びだします。

その2つの要因ができるだけ対極的な意味を持っていると効果的です。たとえば、黒と白、善と悪などですね。そして、そのふたつの要素を交差させて4つの象限をつくります。その4つの象限に描かれるストーリーが、未来のシナリオということなのです。
 
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「シナリオ・プランニング」が想像を越えた未来を浮き上がらせる

グリーンズ なかなか難しいですね。ポイントとなる部分があれば教えてください。

ウッディー このエクササイズを行うときに一番議論になるのが「どのドライビング・フォースを残すのか?」という点です。そのようなときにはよく、例としてピクニックの話をするようにしています。

ピクニックを成功させる要素を探したときに、「道路の渋滞」「チーズの価格変動」「当日の天気」という3つの要因が見えてきたとしましょう。この3つのうちどれを残すのがよいのでしょうか?
 
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グリーンズ そうですね…… なにを残すべきなのですか?

ウッディー こんなふうに考えてみてください。道路が渋滞するとみんな不機嫌になって、ピクニックが台無しになってしまうかもしれません。また、変動するチーズの値段もどうなるか予測がしにくいものです。しかし、道路の渋滞はある程度予測できるものであり、また、チーズの値段の変動がピクニックに大きな影響を与えるとも思えません。

ところが、ゲリラ豪雨に襲われたり、突発的なハリケーンがやってくるとしたらどうでしょう。それらは想像しにくいことですが、万が一起きたときにはピクニックへの影響も大きいですよね。

したがって、この場合に残しておきたい要因は、当日の天気になります。何が起きるかわからない分、不確実性が高く、備えるべき未来の姿が考えるに値するというわけです。

グリーンズ シナリオ・プランニングで、複数の未来を描くということは、結局はどういうことを示しているのでしょうか?

ウッディー いま話をしたように、未来にはいろいろな可能性があるということなんです。ドライビング・フォースは両極端に振れるので、もちろんネガティブな未来も現れるのですが、どれがいいとか悪いとかではなく、それぞれに違いがあるということを言いたいのです。

不確実な未来が予測できれば、対策を練ることもできる

グリーンズ コンサルタントとして30年のキャリアを持つウッディーさんですが、数々の手法の中でシナリオ・プランニングが優れていると考える理由を聞かせてください。

ウッディー ビジネス戦略を考えるときによくあるケースは、決定力を持ったリーダーがビジョンを示して、「こちらへ進むんだ!」とかじ取りをすることです。しかし、シナリオ・プランニングは、「未来には何が起きるかわからない」という立場を取っています。

ふつうリーダーは「この先、何が起きるかわからない」なんてなかなか言えないものです。しかし、勇気を出してそれを認めて、さまざまな分野のエキスパートの知恵を借りながら未来の可能性を検討するのが、シナリオ・プランニングなのです。

グリーンズ 複数の未来を考えることによるメリットは、何なのでしょうか?

ウッディー 未来の可能性を考えることができるのなら、それぞれの未来に対して対策を講じることができるのです。不測の事態が起こっても、日ごろから備えを行っておけば対応することが可能です。プランを立てていたからこそ、大きな変動にも対応できたという企業の例はこれまでにもたくさんあるんですよ。
 
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『シナリオ・プランニング』の原書はこちら。重みのあるデザインで存在感抜群です

グリーンズ 野村さんは、シナリオ・プランニングの力強さをどのように考えていらっしゃるのでしょう。

野村 わたしがシナリオ・プランニングに感じている魅力は、それを行うためのひとつひとつのステップではありません。未来に何が起きるかわからないから、できるだけ多くの可能性をみんなでつないでいこうという、その考え方に魅力を感じています。

未来の可能性をひとつに限定してしまうと、そうじゃないという反対意見が起きてしまう。たとえば、津波が起きたあとの防波堤の話がいい例です。防波堤を建てようという方向性で話をしてしまうと、それはよくないのではないかという意見が起こって対立してしまいます。
 
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グリーンズ そうですね。実際にそうなってしまっていますね。

野村 そうではなくて、防波堤のある未来、防波堤のない未来、あるいはそれ以外の未来についての可能性も考えながら議論をしたほうが、よりよい未来を選択できるのではないかと思います。まずはたくさんの未来の可能性を考えて、それに備えていこうという考え方には、そういった意味で大きなパワーを感じますね。

みんなが一緒になれば大きなインパクトをつくれる

グリーンズ わたしたちがシナリオ・プランニングを体験したり、実施したりするときに、気をつけたいことはありますか?

ウッディー そうですね。どんなシナリオが出てきても、驚かずに受け入れてほしいということでしょうか。

元プロボクサーのマイク・タイソンがこんな格言を残しています。「どんなファイターもパンチを受けるまでは戦いのプランを持っている(Everybody has a plan until they get punched in the face.)」要するに、未来には予想もつかないことがものすごいスピードで起きるということです。

シナリオ・プランニングでネガティブな未来が出てきたとしても、そこから目を背けずに準備をすることが大切です。
 
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グリーンズ なるほど。よくわかりました。野村さんは『シナリオ・プランニング』を読むことで、ご自身のセッションがよりパワフルになったと感じる部分などはございますか?

野村 この本を読んでおもしろいなと思ったのは、いろいろな活動をしている人たちと一緒になって、たくさんの未来の可能性を共有できるというところですね。多くのステークホルダーがあつまり、多くの未来が共有することで、未来に対してできることがより大きくなっていくと思うんです。

たとえばまちづくりに関しても、自分のやりたいことだけをやるのではなくて、街で活動している多くの人と一緒になって行動できるようになりますし、そうなるほど大きなインパクトを生みだせるようになります。

未来のシナリオを自分だけのものにせず、みんなと共有して一緒につくっていく。そんなコミュニティがつくれたらすばらしいと思いますね。

シナリオ・プランニングにはまだまだ大きな可能性がある

ウッディー 野村さんのアプローチはわたしとは視点がずいぶん異なっているので、とても興味深いです。わたしは主に企業を相手にシナリオ・プランニングを実施していますからね。まちづくりにも活用できるということに新鮮な驚きを感じました。

野村 もともと狭義でのシナリオ・プランニングは、ある組織があってその未来を描くことを目的としています。

一方、わたしが手がけるフューチャーセッションには組織がありません。社会課題に対して同じような意識を持った人たちがあつまって、一緒になって未来を描いていきます。そうするとそこに新しいコミュニティが生まれ、その人たちと一緒になって未来をつくっていこうと思えるんです。大事なのはそこなんです。

バラバラだった人たちがよりよい未来のために、あつまってくる。そしてどんどん仲間が広がっていくイメージです。

ウッディー 野村さんの話を聞いて、シナリオ・プランニングの力に驚いています。もしかすると、よりよい未来に向けて、シナリオ・プランニングはまだまだ大きな可能性も持っているのかもしれません。
 
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グリーンズ ウッディーさんは世界中でシナリオ・プランニングのワークショップなどを開催されていますが、参加者の方からはどんな反響があるのでしょうか?

ウッディー シナリオ・プランニングはビジネス戦略を考えるうえで、まだ主流な方法として認識されるまでにはいたっていませんが、それでも、よりよい未来を考えようという人に価値を感じてもらえるようになりつつあります。そういう人は世界中にたくさん存在しているんですよ。

グリーンズ 広がりを実感されているということですね。

野村 普通、人は自分の手でコントロールできない要因は無視しようとするものです。しかしシナリオ・プランニングではそういう要因も踏まえた上で未来を創造しようとしています。

受け身ではなく積極的な姿勢でよりよい未来を築いていく。わたし自身は、そんな生き方のできる個人や組織が増えていくといいなと思っています。

グリーンズ わかりました。本日はお二人のお話を聞くことができて大変楽しかったです! どうもありがとうございました!
 

(インタビューここまで)

 
これを読んだ皆さんも、仲間に声をかけて「シナリオ・プランニング」を実施してみてはいかがでしょう。4象限に現れる未来は実に変化に富んでおり、実際に未来についてみんなで話し合うと、思いもよらない発想が生まれてわくわくしてきます。

たくさんの未来が眼前にリアリティを持って現れてくると、いま取り組んでいることやこれから取り組みたいと思っていることが、もしかすると違ったものになるかもしれませんよ!

ウッディーさんの本を読んでみよう!
『シナリオ・プランニング――未来を描き、創造する』

writer ライターリスト

井上 晶夫

greenz ライター フリーランスのエディター&ライター。編集プロダクションや出版社を経てフリーランスとして活動開始。企業コンテンツや雑誌、ウェブの記事などを手がける。今、テーマとしているのは“対話”。

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