砂浜に流れ着いた漂流物が展示されている「砂浜美術館」
海士町の株式会社巡の環が、いなかセンスととかいセンスをもつ地域コーディネーターを育成しようと始めた「めぐりカレッジ」。グリーンズでも、このすてきな取り組みをぜひ紹介したいと、2013年10月から始まった第2期中級コースにライターさんが参加し、レポートする企画が始まりました。
今回は、すでに受講を終えた中級コースの第1期参加者に、めぐりカレッジを受講した感想や、その後、自身のまちづくり活動や心境にどんな変化があったのか、お話を伺いました!
NPO法人砂浜美術館 大阪生まれ大阪育ち。
専門学校卒業後、写真・映像・デザインで国際協力の分野に従事するが、震災支援を機に、日本、特に地方に目を向けるようになる。現在は、高知県黒潮町にあるNPO砂浜美術館でオンラインショップ「すなびてんぽ」を運営。黒潮町には、自然と上手につきあいながら暮らす人びとの知恵と営みがあります。そこから生まれた商品は、人にも、自然にもやさしい。「すなびてんぽ」は、そんな商品を地域のリズムで販売しています。
http://sunabi.com
500km離れた地域がつながる対話の場
高知県黒潮町に移住し、砂浜美術館で「すなびてんぽ」というオンラインショップを担当している香庄謙一(かしょうけんいち)さんが、500km近く離れた島根県隠岐諸島にある海士町で行われた「めぐりカレッジ」に参加したのは2013年4月。知人に誘われたのがきっかけでした。
本やメディアを通じて知っていた海士町に行き、現地の話を直接聞いてみたいと参加したのだそう。少子高齢化など、同じ課題を抱える地域において同年代の人たちがどのように活動しているのか、自分のことと重ねてとても身になる濃い時間だったと話してくれました。
めぐりカレッジを始めた巡の環も「海士デパート」というオンライン・ショップをもっています。その軸となる考え方がしっかりしているので、ぜひ話を聞いてみたいと思いました。
大手企業のオンラインショップのような売り方ではなく、どういうサイクルで人や情報が動いて、どういうモデルでお客さんとの繋がりができているのか、その小さな経済の循環を知りたかったんです。
建物のない美術館「砂浜美術館」
高知県黒潮町、車を止め、日差しの差しこむ松林をぬけるとエメラルドグリーンの海がみえてきました。都会の美術館とは違って著名な建築家が手がけた立派な建物こそありませんが、ここには美しい砂浜があります。
この砂浜を頭の中で“美術館”にしてみたら…そんな発想から、誕生したのが「砂浜美術館」でした。館長は、海からたまに顔を覗かせるニタリクジラです。
NPO法人砂浜美術館は、この美しい砂浜がある県立公園の指定管理を行っています。彼らの展示物を見たら、この美術館のコンセプトがひとめでわかります。砂浜に漂着したライターがきれいに並べられているのです。
大自然を舞台にした砂浜の美術館には、世界中からさまざまな“漂着物”という名の作品が届きます。つまり、見方をかえれば普通の砂浜が宝の山に見えてくるのです。砂浜美術館が大切にしているのは、そんな“人と自然の付き合い方”です。
地元の中学生が拾ったフランス製の双眼鏡。誰かの落し物から想像が広がります。
漂流物の中には、“LEMAIRE FABT PARIS (パリのルメール製造)”と書かれた双眼鏡もありました。この双眼鏡を発見したのは、地元の中学生だそうです。「フランスの貴婦人が航海中に船から落としたのかもしれない」などと、様々な想像をふくらませ、ワクワクしたに違いありません。
想いの足し算をして、商品を届けたい
砂浜美術館の館長はニタリクジラ。手ぬぐいや海洋堂とのコラボレーションで製作したフィギュアは大人気!
砂浜美術館では、波打ち際にできる模様が作品、毎年やってくるウミガメが作品、どこからかやってきた椰子の実が作品です。私達の身の回りは美しいものに溢れています。
そして、同じ町に、海水から太陽と風の力で塩をつくる人がいて、田んぼにいるめだかと一緒にお米をつくっている人がいる。自然と対話しながら身の丈に合った経済の中で、ものづくりが行われているのです。
どちらも、人と自然の付き合いの中から生まれたもの、そういった砂浜美術館の考え方そのものを、商品を通して知ってもらいたいと香庄さんは考えました。
黒潮町で無農薬のお米をつくっている千葉さん。田んぼにいるメダカをみていたら農薬を撒く気になれなかったそうです。
めぐりカレッジでは、僕が「すなびてんぽ」を運営していることもあって、“流通”というテーマで話し合いました。そこで出たひとつの結論が「“想いの足し算”ができるといいね」というものでした。
生産者からさまざまな人を経由して消費者に届くと、生産者の想いがマイナスされた状態で伝わるのが今の流通。だから最近は、生産者から直接消費者へという流れが生まれたりもしています。しかし待てよ。想いのある人をどんどん経由していけば、生産者の想いにさまざまな人の想いを足した状態で届けられるはずではないか。これが“想いの足し算”です。
小さな対話の場づくりが小さな流通の基盤になる
小さな共有の場作りの実践として準備段階から携わったAMAカフェでは、半年間のめぐりカレッジの学びの成果を報告しました(2013年9月に開催)
そして“想いの足し算”を実現していくために大切だと感じたのが、共有の場作りでした。
巡の環が開催している「AMAカフェ」のようなスタイルでひとつひとつ大切に伝えていける場、小さく丁寧な流通を構築するための繋がり作りになる場、そんな外へのチャンネルの作り方を模索していたので、めぐりカレッジで学んだことは、とても参考になりました。
たとえば砂浜美術館では、ゴールデンウィーク中、Tシャツアート展という人気のイベントが開催され、全国から集められた作品をTシャツにプリントし、砂浜に展示をします。展示されたTシャツを洗濯しないで、潮の香りがついたまま持ち主に返却するというのもなんとも砂浜美術館らしい企画です。
香庄さんは、めぐりカレッジにおける学びを通じて、Tシャツアート展のような大きなイベントに加え、もう少し小さく、それでいて一人ひとりの顔がみえる場作りが必要かもしれないと感じたそうです。
Tシャツアート展は砂浜美術館にとってとても大切なイベントですが、訪れていただいたお客さんと一人ひとり丁寧に対話をしたり、あるいは対話を深めていくには少々大き過ぎます。そんな時に巡の環が作り出す場に出会い、小さな共有の場をあわせ持つことで、しっかりとした基盤になっていくのではないかと感じました。
お客さんの顔が見える関係を
オンラインショップをつくって窓口をひらくだけでは、簡単にモノは売れません。大切なのは、その背景にある物語を伝えることです。そして、そのことについて、リアルな場を通じて丁寧に対話していくこと。大きな経済を前にすると一見、遠回りに思えるやり方ですが、じつはいちばん確実で強固に地域が生き抜いていく方法なのかもしれません。
大手通販サイトのような、“いつでも、誰でも”という窓の開き方ではなく、砂浜美術館の”人と自然の付き合い方” という考え方を共有できる場。その場における対話を通じてできた砂浜美術館のファンは、たとえネットで黒潮町の産品を買うことができたとしても、ここでしか体験できないこと、潮の香り、風の感触を覚えているからまたきっと足を運んでくれるように思います。
私自身、香庄さんと何時間も話をしていてそう確信しています。
砂浜美術館の人気イベントのひとつ「潮風のキルト展」の開催時に咲くらっきょうの花は、砂浜美術館の秋の代表作品です。
この地域を思ってくれる人たちとのつながりが、私たちにとってとても大切です。自分たちとお客さんの顔が見える関係性をこれからつくっていきたい。海士町のめぐりカレッジに参加してそれがいちばん感じたことです。
めぐりカレッジでの学びを経て実感したという小さく、それでいて温かみのある場作り。地域に想いをもってくれる内と外の人を繋ぎ、想いの足し算を作っていく場所が、どんな形で砂浜美術館に誕生するのでしょうか。今から、とても楽しみです!
(Text / Photo:坂口祐)