どんな風に毎日を過ごしていても、日々、大小様々な、たくさんの決断にせまられます。特に女性は出産を機に、働き方や生き方について考える人も多いでしょう。
今回ご紹介する「しごととわたし」は、タイトルのとおり“仕事と女性”をテーマに、2012年4月に発刊されたフリーペーパーです。編集長の梶山ひろみさんが“仕事”と“女性として生きること”、切り離すことのできないこれらのテーマについて毎号さまざまな年齢、職種のゲストにお話を伺うというもの。
女性が結婚や職業選択のタイミングで考えることはやはり男性とは違ったものでしょう。女性特有の問題や心持ちとどう付き合い、どう決断をしてきたのか。また、その時どう感じたのか。このフリーペーパーはそういった質問を第一線で活躍されている女性の方々に投げかけています。
今までに登場したのは、雑誌『ecocolo』編集長の石田エリさんや、フランスで活躍するファッションコーディネーターの大塚博美さん、俳優の渡辺真起子さんといった方々。それぞれの経験に基づいた回答は、正解なんてなくても誰かの背中を押すものです。ここには結婚、育児、労働環境など、様々な問題の隙間にある不安に寄り添う、ちいさな哲学が詰まっています。
ひとりの女性の疑問をもとに生まれたフリーペーパーが多くの人を巻き込み広がっていく。そのプロセスはもちろん、デザインや写真に関しても多くの人から反響を得ています。今回は編集長の梶山ひろみさん、カメラマンの岩本良介さん、デザイナーの柏岡一樹さんにお話を伺いました。
左からデザイナーの柏岡一樹さん、編集長の梶山ひろみさん、カメラマンの岩本良介さん
「はじめは“女の幸せってなんだろう?”っていう疑問からでした」
梶山さん 仕事をしているけど結婚したい、子どもがほしいと思っている30歳前後の女性たちと話をする機会があったんです。みんな女性としての選択をとるか、仕事をとるかのどっちかで悩んでいる。でも、上手にバランスをとって両立させている人もいる。
私は今24歳で、結婚も出産も経験していないし、自分じゃまだわからない。だけど、自分の知人が悩んでるのを見て、仕事しながら女性として生きるって、本当に大変なんだなと思いました。メディアの中だけの話じゃなかった。
私もいつか同じように悩むんだろうなってイメージが浮かんで、今のうちに準備をしておこうと思ったんです。いろんな人に仕事と女性としての選択のバランスをどうやってとっているのかを聞いて、ヒントを集めようと。
あとは、私自身が周りの人や雑誌やテレビで言われているような“幸せ”の価値観を刷り込まれていることに気付いたのも大きかったですね。結婚も仕事も出産も選択肢の一つでしかなくて、大事なのは自分の幸せに合わせてそれを選ぶことだと思うんです。
老若男女みんなに読んでほしい
高橋 自分自身の幸せを問い直すことから「しごととわたし」がスタートしたんですね。女性の幸せがテーマとのことですが、男性である岩本さんや柏木さんはどのような関わり方をしていますか?
岩本さん 基本的には梶山さんの意見を尊重してつくっていますね。それは彼女の疑問がスタートになってる以上、自分で考えて、自分で気づいていかないとやっていけない部分が多いと思うからです。でもそれは男だから女性の問題に口を出さないって言うことではなくて、男性が一緒につくっているからこそ、うまくバランスをとって誰にでも読んでもらえるものになるんじゃないかって思っています。
柏岡さん それは最初意識していなかったことなんですが、この3人で活動していてだんだんそういうものになってきました。僕はデザインの担当なんですが、デザインや書体は女の子っぽくなりすぎないように気をつけています。女の子っぽすぎるものだと、やっぱり男性は手に取りにくいですから。
とはいえ女の子に手に取って欲しいという気持ちもあるので、それをグラフィックデザインに込めました。例えばひらがなはそもそも女性がつくった文字。印象が柔らかくなるように漢字じゃなくて表記はひらがなにしようと考えたり、毎号変わるカラーリングにもこだわっています。
梶山 女性だけでやっていると女の子向けのものが出来上がるけど、そういうものにはしたくなかった。女性はもちろんだけど老若男女みんなに手に取って欲しいんです。
いろいろな選択肢があることを伝えたい
高橋 やはり女性の方からの反応が多いのでしょうか?
梶山 男性からの感想もいただいていて、「いつも丁寧な仕事をされてますね」と言われたときはすごく嬉しかったです。男性の場合、内容よりも取り組み自体や紙面全体に関するものが多く、女性からは「ここに共感しました」という感想が多いですね。
高橋 「しごととわたし」をどんな人に届けたいですか?
梶山 仕事や結婚、いろいろな選択肢があるけどそれを「しなくちゃ幸せになれないもの」と思ってる人に手に取ってほしいですね。こういう生き方もあるんだよって、色んな生き方があるってことを伝えたい。その方が風通しよく生きれる気がしませんか?
2012年8月に行った「しごととわたし展」の様子
梶山 去年の8月に展示を行った際に、いろんな人に「これからもインタビューしてください」っていう感想をいただいたんです。大きなことはできていないけれど、自分以外の誰かに喜んでもらえていることはすごく嬉しい。そういう実感を大切にしていきたいです。
「しごととわたし」を始めて、私がインタビューをしているような素敵な人に「いいね」って思ってもらえるように頑張ろうって思いました。一方的に尊敬するだけじゃそういった方々とちゃんとした関係を築けないと気付いたんです。自発的に考えて動いて、見てもらえるようになっていきたいです。
(インタビューここまで)
インターネットで情報を伝えることでは完結させず、「しごととわたし」は紙面での発表にこだわっています。そんな手触りを大事にする姿勢は、創刊当時に1部ずつ手折でつくっていたというエピソードから伝わってきます。
「しごとから女性の人生を考え、女性の人生から仕事を考えられるような循環が生まれることを願っています。」ホームページに記載されている創刊にあたって書かれたこの言葉。梶山さんの真っすぐな姿勢が人の心を動かし、幸せや生き方、働き方について考えるきっかけを与えてくれます。この記事を読んでいるみなさんも、この「しごととわたし」が生み出す循環の中に巻き込まれてみてはいかがでしょうか。
現在、創刊1周年を迎えた「しごととわたし」は表参道のギャラリー山陽堂にて「しごととわたしたち展」を行っています。展示会場は2フロアにわたって展開され、「しごととわたし」のこれまでの活動を振り返る作品と、3人が個々に制作してきた作品で埋めつくされています。
展示物の中には梶山さんが高校時代に書いた作文もあります。エッセイでもなく詩でもないこの「作文」は、17歳の彼女に結実した果実のような文章です。会場で、ぜひゆっくりと読んでみてください。
会期:2013年5月10日(金)〜5月24日(金)
時間:(平日)11:00〜19:00(土曜日)11:00〜17:00(日曜日・祝日休み)
場所:ギャラリー山陽堂(東京都港区北青山3-5-22山陽堂書店2・3F)