2012年1月に生まれた「Honest by.」は、正真正銘世界初、全ての情報を消費者にあけっぴろげに開示するブランド。
コンセプトはずばり、“100%正直”。
例えば、
布:100%オーガニックシルク / 認証:GOTS
織り工場:中国のHONSHU地域
パターンメイキングにかかった時間:14.5時間
モデルのために作ったサンプル数:3着
使用した安全ピンの本数:1本
輸送費:10ユーロ
生産工場:イタリア
生産枚数:10枚
布のカッティングに費やした時間:33分
アイロンにかかった時間:10分 ……
といった情報を延々と、文字通り全て、100%包み隠さずウェブ上で開示しています。
ラグジュアリーレベルでも透明な生産ラインを
このブランドをつくったのは、服飾の名門校・アントワープ王立芸術アカデミー卒のBruno Pieters(ブルーノ・ピータース)さん。2002年よりパリコレで作品を発表し続け、HUGO BOSSのクリエイティブ・ディレクターを務めたほか、写真の腕がプロ並みでVOGUEなどの一流雑誌で採用されるほどの腕前……という、モード界の代表格の一人です。
そんな彼がこのコンセプトに出合ったのは2010年、旅する中で訪れた南インドでのこと。かの地の人々が、自分たちの分かる人・場所から布地を買い、仕立てて着用しているのを見て、この透明な生産ラインをラグジュアリーレベルでも実践できないか? と考えたことから始まります。
実際に見てみよう!
例えば、こちらのワンピース。ちょっと見づらいですが、この情報量には圧倒されます!
(1)使用した素材一覧
各素材の組成、どこから素材を手配したかなど。首元のブランドタグの素材もきっちり!
(2)生産した工場
どこの工場で組み立てたか、住所からその工場の従業員数なども記載。
(3)コスト一覧
糸一本のコストや輸送費、さらにはブランディングのコストもあけっぴろげに。
正直って難しい
アパレル産業は中間業者が多く、一つの製品ができあがるまでのルートがとにかく複雑。メーカーでも、使用する素材がどういう経緯をたどったものなのか、把握が難しいというのが現状です(特に、日本のアパレル流通は世界でも髄一の複雑さを極めます)そのため、まず素材がどこのものか、どこでどんなふうに織られ、染められたのか、情報を正しく集めること自体が困難だったりするのです。
特にファッションブランドにとって、生産の裏側を見せるのは普通「ありえない」こと。美しい夢を売る産業ですから、その裏側を見せるなんて、ブランドイメージに傷がつくリスクを考えれば、選択肢にもなかったといえるのではないでしょうか。しかし、「Honest by.」は郵送費やブランディグコスト、卸掛け率など、あまりブランドにとっては見せたくない情報までをも開示しています。
もちろん、これまでも素材の原産地を開示するなど、信頼すべきメーカーは多数存在していました。それでも、コストの部分までも全てさらけ出す勇気のあるブランドはなかったでしょう。
正面から向き合う”誠実さ”という付加価値
あらためて、この膨大な情報を眺めながら実感するのは、こうした情報が分かると、自信を持って良いものを「良い」といえること。
これまで”良いもの”を判断するには、タグに書かれた素材情報を自分の手で触って確かめるという、感覚に頼る要素が強かったと思います。そうした感覚だけではなく、「なぜこれがいいのか」はっきり説明できるという”自信”を、着る人に提供しているのです。
そしてなにより、使用した布のメーター数、糸の長さ、安全ピンの数、パターンメイキングにかかった時間、試したモデルの体数などを眺めていると、ブルーノがどんな風に作っているのか、その苦労を垣間見るような気持ちになり、あらためて彼のクリエーションに敬意を覚えます。
ブランドの裏側を余さず見せることは、決してブランドイメージに傷がつく行為ではないことの証明だと感じますが、それは、恥ずかしくないものづくりをしていれば当然のことなのかもしれません。
デザインはよくてあたりまえ、という時代。恥ずかしくないものづくりで堂々と正面から消費者と向きあう「誠実さ」を、私は買いたいと思います!
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