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パレスチナを舞台にしたイスラエルのコメディ映画『テルアビブ・オン・ファイア』がとても面白かった。

パレスチナ問題は長く「問題」であり続けていますが、トランプ大統領がエルサレムにイスラエルのアメリカ大使館を移転したことでまた自体は複雑になってきています。

このパレスチナ問題自体は本当に複雑で、理解するには相当勉強しなければならないのですが、今回は東京国際映画祭でこの複雑で気が重くなるパレスチナ問題を描いた最高なコメディ映画を見たのでここで紹介したいと思います。

その映画は『テルアビブ・オン・ファイア』。イスラエル人のサメフ・ゾアビ監督が、パレスチナを舞台に作った映画で、1967年の第三次中東戦争前夜を舞台にしたメロドラマがパレスチナで作られているというお話。

主人公はこのドラマ「テルアビブ・オン・ファイア」のプロデューサーの甥で、お茶くみ兼ヘブライ語のアドバイザーとして働くサラム。サラムは家から仕事場に行くのに毎日検問所を通らなければならないのですが、ある日、検問所で止められてそこの主任のアッシについドラマの脚本家だと嘘をついてしまうところから話が始まります。

実はアッシの家族もこのドラマが大好きで毎日楽しみに見ていて、アッシは脚本家に会ったと自慢するのですが、家族には相手にされず、アッシ自身はその反イスラエル的な内容に反発を覚えています。そこでアッシは翌日もサラムを止めて、ドラマの内容について注文をつけるのです。

サラムの方は、そのアッシの言葉を拝借してドラマで使ってもらえるように言ってみるとそれが受けて脚本家に出世、しかし脚本のことなど何もわからないサラムはアッシにアドバイスを乞うようにになっていきます。

この映画は基本コメディ映画で、会場でもたびたび笑いが起きる本当におかしい映画でした。おかしいところを説明するというのは難しいし野暮なのでしませんが、サラムとアッシの関係性が一番の肝で、そこにサラム、アッシそれぞれの人間関係が絡んできて笑いを生んでいきます。

このサラムとアッシは、一パレスチナ人とイスラエルの軍人なわけで、われわれからすると普通なら敵対している2人なのではないかと考えてしまいます。実際、アッシのほうが立場は上でサラムは検問所を通らなければいけないし、いろいろ不便も感じているわけです。

しかし、一対一の関係になると対等な部分が多く、サラムが優位に立つ場面もあり、外から見る一般的な「パレスチナ問題」と、実際に当事者たちが直面している「問題」とは違っている、当人たちはもっと日常的な問題に日々追われているんだということを実感することができます。

さらに言えば、パレスチナで作られているドラマがイスラエルでヒットしていて多くのイスラエル人が見ているという状況なんて私たちは想像だにしないわけですが、実際にそういう事はあるからこそこの映画が作られているわけです。そうなると、パレスチナ人やイスラエル人の互いの見え方というのも私たちが想像するのとはおそらく(かなり)違っているはずです。

私がこの映画を観て強く感じたのは、こうやって大きな問題によって見えなくなってしまっている人々の現実に触れることの大切さでした。この映画はフィクションですから、現実に触れたとは言えないのかもしれませんし、描かれているのは表層の部分に過ぎません。しかしそれでも映っているのはパレスチナやイスラエルの人々や街ですし、直接的には描かれていない複雑な背景も端々で感じさせる演出が為されています。

この映画に限らず、こういう素晴らしい映画に出会ったとき、私はその背景を調べて問題についてもっと深く知りたいと思います。みなさんもそうではないでしょうか。

この映画はコメディ映画で、最後まで笑って終われる映画です。でも観終わって、「あー面白かった、なんで面白かったんだろう」と考えてみると、その先にパレスチナ問題とそこで暮らす人々への視線が生まれてくる気がするのです。

一般公開される予定もないので、なかなか観る機会はないとは思いますが、上映しているのを見かけたらぜひ逃さずに見てください。

東京国際映画祭での上映は終わってしまいましたが、コンペティションで賞を穫れば、最終日の11月3日にも上映されます。

『テルアビブ・オン・ファイア』
2018年/ルクセンブルク・フランス・イスラエル・ベルギー/97分
監督:サメフ・ゾアビ
出演:カイス・ナーシェフ、ルブナ・アザバル、ヤニブ・ビトン