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ビジネススキルを生かした社会貢献を。“プロボノ”ネットワークをつなげる「サービスグラント」

シェアオフィスFACTO内にある関西事務局の様子。(右)関西事務局長・岡本祥公子さん(左)インターン・黒澤友佳さん(C)Nara Yuko
シェアオフィスFACTO内にある関西事務局の様子。(右)関西事務局長・岡本祥公子さん(左)インターン・黒澤友佳さん (C)Nara Yuko

特集「マイプロSHOWCASE関西編」は、「関西をもっと元気に!」をテーマに、関西を拠点に活躍するソーシャルデザインの担い手を紹介していく、大阪ガスとの共同企画です。

3.11以降「ボランティア活動をしてみたい」「仕事以外のフィールドで、社会と関わったり、繋がりを持ちたい」と考える人は増えてきているかもしれません。社会貢献のひとつの形として「プロボノ(Pro bono)」が関西でも広がりを見せています。

プロボノとは、各分野の専門家が職業で培った技術を生かして行うボランティア活動全般のことを指します。そして、活動を円滑に回すために“活動したい人”と“活動する場”をマッチングする中間支援の存在も増えてきています。

そのひとつ、特定非営利法人サービスグラントの関西事務局長をされている岡本祥公子さんにお話を伺いました。

サービスグラントが提供する、プロボノを支える仕組み

受付に置かれているサービスグラントの冊子。温かい黄色がテーマカラー。(C)Nara Yuko 受付に置かれているサービスグラントの冊子。温かい黄色がテーマカラー。(C)Nara Yuko

“活動したい人”と“活動する場所”のマッチングを個人で行う支援機関が多い中、私たちの団体は“プロジェクト型”のマッチングをすることに特徴があります。

例えば、各地で活動されているNPO団体に「世の中をよくしたい」という熱い気持ちはあっても上手く形に出来ないケースがあるとします。そんな団体に対して、サービスグラントは7つの助成プログラムを提供しています。ウェブサイト(制作)、パンフレット(制作)、営業資料(制作)、プログラム運営マニュアル(制作)、業務フロー設計、事業計画立案、寄付管理です。NPO団体はこの中から一番支援を必要としているプログラムを選び、応募します。

一方でサービスグラントにはプロボノワーカーを自ら志望するクリエイターやビジネスパーソン(デザイナー、コピーライター、マネージメントやマーケティングのプロなど)が多数登録しています。

この二者の間にサービスグラントが入り、NPOからの応募のあったプログラムに対して適正のあるプロボノワーカーをアサインし、4〜7名から成る一つのプロジェクトチームをつくります。そしてプロジェクトが完了するまで伴走する役目を担っているのです。

応募のあったNPOへは、現状の課題は何か、将来的にどうなりたいかなどを丁寧にヒアリングします。NPO団体さんもプロボノワーカーのみなさんも、みんな社会課題の解決を目指す仲間だと考えているので、「協働する準備があるか」という視点も入れて審査させていただいています。

“仲間”になった状態をよく表している写真。(C)SERVICE GRANT
“仲間”になった状態をよく表している写真。(C)SERVICE GRANT

プログラムの応募は春・夏・秋の年に3回の受付、プロジェクトは半年を目安にした期日が設定されてスタート。関西では現在14のプロジェクトが進行中だそうです。

プロジェクトも、まずは団体や周囲の関係者にヒアリングを行い、現状を把握するマーケティングのプロセスからスタートします。

プロボノワーカーの皆さんは普段のお仕事も忙しい方が多く、またNPOさんの扱っているテーマは「児童虐待」「不妊女性の悩み」「不登校児童の支援」といった社会問題を色濃く反映しているものが多いこともあり、具体的な課題解決の提案に入る前のテーマ理解に2〜3ヶ月かけて進んでいます。

ワークショップ形式の話し合いでで現状把握や課題の整理をすることも。(C)SERVICE GRANT
ワークショップ形式の話し合いで現状把握や課題の整理をすることも。(C)SERVICE GRANT

チームのみなさんが打ち合わせをしている様子。 (C)SERVICE GRANT
チームのみなさんが打ち合わせをしている様子。 (C)SERVICE GRANT

“ビジネス”として割り切った事業ではなく、自分ごととして事業をスタートさせるケースが多いNPO団体。プロボノワーカーも、「仕事とは違うフィールドで社会に関わりたい、役に立ちたい」という思いを持って自ら登録する人が集まっています。前向きな気持ちがひとつの場に集まりプロジェクトが進んでいく過程には、嬉しいことはもちろん、時に上手くいかないことも含めて色々なドラマが起こるんだろうなぁと想像してしまいます。

しんどい局面も、チームだから乗り越えられるというのはあるかもしれませんね。プロボノワーカーの皆さんは、人間的に本当に素晴らしい方が多く、私はいつも「心あるプロボノワーカー、志あるNPOのビッグファンです!」と思いながらプロジェクトを見守っています。

ビッグスマイルが印象的な岡本さん。この笑顔があれば、どんなプロジェクトも上手くいきそうです。(C)Nara Yuko
ビッグスマイルが印象的な岡本さん。この笑顔があれば、どんなプロジェクトも上手くいきそうです。(C)Nara Yuko

“プロボノ”との出会いと、歩み

プロジェクトの伴走役で、見守り役を務める岡本さんへ、サービスグラントの事務局へ入ったきっかけを伺ってみました。

宝塚出身なんですが、神奈川県の大学へ進学し、卒業後はクリエイターに特化した人材会社で営業をしていたんです。日々企業へ求める人材のヒアリングをし、登録のあったクリエイターのマッチングを行っていました。

2009年に会社でクリエイター向けのイベントをしようということになり、色々調べているうちにサービスグラントを知り、自分も何かお手伝いがしたいなぁと思ったのがきっかけです。気がついたら事務局へ入っていましたね(笑)。

日々の仕事の中で、クリエイターのネットワークを十分に持っていた岡本さん。さらにサービスグラントの要となる時期に活躍をされています。

“プロボノ”を日本で広めるために2009年の暮れにラフォーレミュージアム原宿で「HLLO,PROBONO〜2010年は“プロボノ”元年 知的で新しい、スキル・ボランティア、上陸」というイベントを行ったんです。

HELLO , PRO BONO
「HELLO PRO BONO」の来場者数は324名。幅広い職業人と学生が訪れました。(C)SERVICE GRANT

HELLO , PRO BONO スクリーンの数字は来場者の「プロボノワーク宣言時間」を「平均的な社員の時給で換算」すると、1億円を越えたことを表しています。(C)SERVICE GRANT

また2011年にはテレビで取り上げられる機会が重なり、ここで“プロボノ”という言葉や概念が広まり、サービスグラントの活動も全国へ広がったという印象があります。

関西事務局の立ち上げは2011年。2012年も関西事務局の継続が決定し、常駐スタッフが必要となった時に「誰か関西弁喋れる人いない?」という話になり、私が実家へ戻ることにしたんですよ(笑)。

ただ、関西ではまだマイナーであることも事実。プロボノワーカーの登録者数が全体で1600名、うち関西は230名。実働しているのが130名ほどなので、本当にまだまだこれからです。

岡本さんのデスクに飾られた「PRO BONO」の文字。よ〜く見ると「Q」がひそんでました。 (C)Nara Yuko
岡本さんのデスクに飾られた「PRO BONO」の文字。よ〜く見ると「Q」がひそんでました。 (C)Nara Yuko

“近所の相互理解”から始まるグローバル社会

実際にプロボノワーカーとしてプログラムに参加された方々は、どんなメリットを感じていらっしゃるのでしょか。また、サービスグラントが目指す先についても伺ってみました。

プロボノワーカーの皆さんにとっては、取り組んだ支援が目に見える・成果になるというのが魅力のひとつだと思います。

面白かったのは「仕事上では発注する立場だけど、制作者の立場がよく分かった」という意見や「ジムに行くようなものだ」という意見。「自分の余暇の時間を使って負荷をかけて鍛え、健康を保っている」という意味です(笑)。

そして、やはり最大の魅力は違うフィールドにいる人との交流でしょうか。よく、「グローバル社会の第一歩は、ここにある!」って思うんです。海外へ出なくても、異なる経験や価値観を持った人たちと出会い、視野が広がる体験ができるからです。

様々なバックグランドを持つ人と、性別や年齢を越えた繋がりができて、みんな楽しそうです。(C)SERVICE GRANT 様々なバックグランドを持つ人と、性別や年齢を越えた繋がりができて、みんな楽しそうです。(C)SERVICE GRANT

また、サービスグラントでは期間限定で目的がはっきりしているチームだからこその取り組みやすさもあると思います。プロジェクト単位の働き方は、次世代のトレンドになるのではとも感じています。

今後は、サービスの支援対象をNPO、地域外の病院、学校、公共セクターなどに広げることを検討しており、またプロジェクト期間も半年からもう少し短いバージョンを導入して行く予定です。こうして橋渡しのバリエーションを増やしながら想いのある活動主体とプロボノワーカー、そして、異なったバックグラウンドを持つ人々が交流を持てるプラットフォームを築きたいと考えています。

交流イベント「大人の社会科見学 in OSAKA」も好評開催中。(C)SERVICE GRANT交流イベント「大人の社会科見学 in OSAKA」も好評開催中。(C)SERVICE GRANT

関西という土地柄、地域コミュニティがまだまだ活発で、助け合いのネットワークが生活の中に息づいているケースも多いです。その中でアメリカからやって来たプロボノという社会貢献の形が、どういう広がりを見せるのか。またその中からどんな交流や発展の形が生まれていくのか。今後がとても楽しみになりました。