春、新生活を始める人も多いのでは?
新しい町、新しい生活、そして新しい住まい。
ちょっと広めのリビングっていいかも。天井までの本棚があると素敵だな。ウォークインクローゼットって使い勝手が良さそう。なんて、いろいろな妄想を抱きながら、いざ不動産屋に。様々な図面を見ながら、間取りと予算と設備を吟味するけれど、どれもなんだかしっくりこない。こんな経験ってありませんか?
ライフスタイルが多様化し、家族のカタチも変化を遂げています。xDKという規格の家ではなく、もっと自由に、もっと楽しく、生活者のニーズにぴったりの住まいのカタチがあってもいいのでは?
そんな思いを具現化したのが、東京・お台場で開催中の「House Vision 2013 Tokyo Exhibition」という家の展覧会です。
「住宅リテラシー」を向上させたい!
現在、日本には良質な中古物件が溢れており、中古物件市場は今後も膨らんでいくと予測されています。これからは新築物件を手に入れるのではなく、中古物件を再利用し、リノベーションしていくという合理的な方法が主流になっていくそう。
そのためには、自分のニーズを把握し、そのニーズを上手に専門家に伝えたり、自分の手で作り出すスキルが必要になっていきます。展覧会ディレクターを務めたデザイナーの原研哉さんは、こういった住まいを編集していく能力を「住宅リテラシー」と呼んでいます。
House Visionでは生活者のニーズを具体的なカタチで可視化し、住宅リテラシーの向上を図っています。「新たな常識で家を作ろう」というコンセプトのもと、会場には6つの家と1つのシェアリング・コミュニティが建てられました。
白いテントに秘められた可能性
会場はゆりかもめ線・青海駅の目の前にあるまっさらな地。展示されている“家”の外観は、スチールの骨格に白い帆を張ったテントでできていて、それぞれが、角材でできた観覧ブリッジで繋がっています。住宅展示場でもないモデルハウスでもない、新たなカタチの家の展示会です。
リノベーション時代に突入する今、生活者の焦点は家という箱そのものではなく、中身(インフィル)に変わりつつあります。白いテントは住まいに関する固定観念をリセットし、外観に囚われない自由で新しい空間を提案してくれます。
さて、白いテントの中にはどんな空間が隠されているのでしょうか?
LIXIL x 伊東豊雄 『住みの先へ』
屋外でも屋内でもない、風通しの良い空間を最大限に利用した家。縁側、土間、蔵といった、昔ながらの暮らしを見直すとともに、新たな使い方を提案する、懐かしさが漂う未来の家のカタチです。蔵の使い方に是非ご注目下さい。
Honda x 藤本壮介 『移動とエネルギーの家』
Hondaのエネルギーシステムを融合させた合理的でエコな家。エネルギーを無駄なく創電・蓄電・循環させながら、生活設備にスマートに供給します。歩行アシストや電動車、新しい移動体「UNI-CUB」といったパーソナルな移動体が行き来できるシームレスな空間が提案されています。
未来生活研究会 x 山本理顕・末光弘和・仲俊治 『地域社会圏』
地域社会圏とは、家だけでなく、エネルギーやゴミ処理などのインフラから、病院、託児所といった共有施設を総合的にデザインした新たなシェア・コミュニティ構想です。専用スペースを最小限に抑え、共用スペースを充実させることで、コミュニティの育成を図ります。
住友林業 x 杉本博司 『数寄の家』
現代美術家の杉本博司さんが提案するのは、長年日本で培われた茶室の意匠を反映した空間です。その随所には古墳や城などに使われていた古材が利用されています。伝統を守り続けるのではなく、古い技法や素材に新たな価値を見出す提案はまさに温故知新の精神です。
無印良品x坂茂 『家具の家』
柱や壁という構造体を無くし家具そのものが空間を仕切るという、無駄のない合理的なスペースです。無印良品のアイテムは全ての基準寸法がそろっているため、物が多くても煩雑になることはなく、秩序のある空間が保たれています。
TOTO・YKK AP x 成瀬友梨・猪熊純 『極上の間』
プライベート空間であるトイレの新たな提案。壁面緑化を利用し、これまで見たことのないトイレを実現しています。計算された場所に窓が配置されており、光や風、景色などが楽しめる空間になっています。
東京R不動産 x 蔦谷書店 『編集の家』
ユーザーが主体的に住まいを編集することをコンセプトにした家。80㎡の空間を、「R不動産toolbox」というウェブサイトにて販売されている建材やパーツを使ってリノベーションしました。展示されているアイテムは全て購入可能です。生活者のこだわりが反映された楽しい家です。
“家”という産業
展示会の目的は住宅リテラシーの向上だけではありません。
会場構成を担当した建築家の隈研吾さんは、車や電気製品という製造業が衰退する今、日本の次なる産業は何かと考えた時、“家”が浮かび上がったと言っています。
茶室の時代から、日本人は住まいの周辺に関することに対して繊細な能力を持っていた。素材や光に対する感覚、特に、柔らかさや温かさといった身体に接する感覚が高い。こういった住空間の分野なら、世界に負けないのではと思っている。
風流、わびさび、花鳥風月という日本語からも分かるように、日本人は自然と調和しながら暮らす術を持っていました。また、限られた空間の中でより美しく丁寧に暮らす生活美学は、日本が世界に誇れる文化なのかもしれません。
急速に成長を遂げるアジア圏では、外を遮断し環境から身を守ることを目的とした規格の大きい西洋の家ではなく、適正サイズで機能性が高く自然と調和した日本的な生活が、先進モデルとして求められているといいます。
House Vision は現在進行形
House Visionでは2年間という歳月をかけながら、研究会やシンポジウムを通じて新しい“家”の在りかたを模索してきました。会期中も引き続き、建築家やデザイナー、企業の代表や学問の専門家を招き、トークセッションが開かれています。多彩な専門家との対話を重ね、ニーズを汲み取りながら、 “家”という新しい産業を開拓するという壮大なプロジェクトのはじまりです。
これからの“家”は金融商品や財産ではなく、生活者の幸せを築くためのツールになっていくことでしょう。“家”という産業の担い手は、建築家でもハウスメーカーでもない、私たち生活者です。私たちが主体的に住まい作りに関わっていくことで、“家”は驚くほど多様で個性がある面白い空間になっていくはずです。
住まいのこれからを可視化するHouse Vision 2013 Tokyo Exhibiton。
住宅の固定観念をリセットした先に、どんなビジョンが見えますか?