「ソーシャルベンチャースタートアップマーケット」のワークショップの風景
「どうやって稼いでいるんですか?」これは僕たちグリーンズが最もよく受ける質問のひとつです。
いまグリーンズでは、企業や行政の方々との様々なコラボレーションを通じて収益化しています。その試行錯誤から得られたビジネスの知恵をオープンに共有することで、ソーシャルデザインをビジネス化する際の参考になるのではないか。
そこで、クライアントさんに「グリーンズと仕事をしてどうでしたか?」とインタビューしていく新企画「グリーンズの仕事のつくり方」をはじめることにしました。第一弾は、ETIC.の加勢さん・猿渡さんです。
「マイプロSHOWCASE」は、どうはじまったの?
“自分ごと”から始まって、社会の問題を楽しく解決する「マイプロジェクト」を紹介してきた「マイプロジェクトSHOWCASE」。
今やグリーンズの定番コンテンツとなっているこの企画は、「タウンキッチン」や「Happy Ourdoor Wedding」など、NPO法人ETIC.(エティック)が開催した「ソーシャルベンチャースタートアップマーケット(以下SVM)」に参加した起業家のプロジェクトを取り上げていく連載企画でした。
社会のイノベーションに貢献する起業家型リーダーを育成する活動をおこなってきたETIC.ですが、SVMはさらに規模を大きくしたもの。全国から95名の起業家が参加し、先輩起業家や経営者とのセッションやセミナーなどを通して、具体的に事業を軌道に乗せることにチャレンジしていったのです。
その企画意図や想いについて、SVMを担当されていたETIC.の加勢さんと猿渡さんにお話を伺いました。
SVMってそもそも何?
SVMを担当した猿渡さん(左)と加勢さん(右)
磯木 SVMという企画が2010年というタイミングで開催されたのはなぜだったのでしょうか。
加勢さん 当時の「官から民へ」という掛け声のもと起業家を増やすというニーズと、私たちの活動が一致したのが大きいですね。ただ、これだけ大規模に開催した企画はETIC.としても初めてだったので、これまでの取り組みで蓄積されたネットワークやノウハウを総動員して取り組む必要がありました。
磯木 それにしても、95名もの起業家が一同に会する企画というのは他に例を見ませんよね。
猿渡さん 実は、最初はあまり応募がないのではないかと不安だったんです。ところが、蓋を開けてみたら380人もの応募があって、すごくホッとしたのを覚えています。
磯木 どういった基準で参加者を選んだのですか?
加勢 いくつかありますが、その中でも「社会的な構造に対してイノベーションを起こそうとしているか」という点が挙げられます。既存の枠組みの中で考えられた持続可能な商売というものも、確かにまわりの人を幸せにしますが、SVMでは、枠組み自体に対して疑問を持ち、イノベーションを起こそうと挑戦している人に参加していただきました。
磯木 SVMでの具体的なサポートの内容も教えて下さい。
猿渡 参加者それぞれの状況を確認し、現在の課題に合わせて、既に活躍している起業家をメンターとしてマッチングしたり、セミナーや個別相談会を開催したりしました。セミナーの内容は、ブランディング、収入構造、販促プラン、戦略立案のためのワークショップなどさまざまです。
一緒にもがくことができる同志と出会う
SVMでは実践的なセミナーも多数開催
磯木 ここ数年、事業を通じて貢献しようとする起業家を多く目にするようになりましたね。
加勢 これまで大企業にいる人やキャリアのある人の多くは、社内にいながら社会をよくすることを志向していたと思います。かつての高度成長期の時代にはそれができましたが、経済が成熟して状況が変わりました。
GDPも伸びず、会社の中にいても社会をよくする方向に変えられないなら、起業することで既存の社会システムや、業界の慣行を変えていきたいと思うようになったのではないでしょうか。
磯木 改めてSVMにはどんな意味があったと思いますか?
猿渡 スタートアップの起業家にとって一番の収穫だったのは、分野は違っても一緒にもがく同志ができたことかもしれません。また、メンターを努めた大先輩たちが、スタートアップの時に同じような苦労をしてきたことも知ることができたのも、励みになったと思います。こうした縦横のつながりが実際の事業にもよい影響を与えているのではないでしょうか。
磯木 ちなみにお二人はどうしてスタートアップの起業家を支援したいと思ったんですか?
加勢 私は以前、プロスポーツ選手をサポートするNPOにいて、選手とトレーナーとのマッチングなどをしていたんです。彼らは怪我をしてしまったら一大事なんですが、そのリスクを背負っているからこそ社会にも認められています。
一方、起業家もリスクを挑戦しているという意味ではまったく同じなんですよね。そんな人たちが些細なことで倒れずに、社会の中で評価されるように拠り所となるコミュニティや繋がりがつくりたいと思ったんです。
猿渡 私はオンラインコミュニティの企画をする仕事をしていたときに、オンラインの中だけでなく、よりリアルなコミュニティをつくっていくということに興味を持ったんです。
ETIC.では、社会のためにそれぞれ自分の人生をかけている人たちがコミュニティをつくっていて、前向きに生きているたくさんの人に感銘を受けました。だからこそ、もっと力になりたいと思っています。
2012年3月から約1年展開した特設ページ(リニューアルと同時にクローズド)
磯木 連載企画「マイプロジェクトSHOWCASE」についてはいかがでしたか?
加勢 ETIC.は起業家の活動を“広める”という支援策を持っていないので、それが実現できたのがよかったと思います。メディアが日の目を当てることで、まだ実績の少ない起業家が信用され、仕事につながることもありますから。
スタートアップの時は事業内容を固める段階なので、なかなか広報にまで時間をさけないんです。だからやっているのはいいことなのに、支援者をなかなか増やせないことも多い。greenz.jpに掲載された反響を受けて、起業家自身も発信していくことの重要さを感じたのではないかと思います。greenz.jpの読者層とSVMの事業は親和性が高いのも大きいですね。
猿渡 掲載された起業家にとっても得るものが大きかったようです。「新しい応援者がついた」「お問い合わせが増えた」「自己紹介がしやすくなった」という声もたくさん聞きました。
加勢 こんな風に主体性がある団体と価値観を共有しながら、一緒に協力していくことが理想だと思います。SVMでの相乗効果には手応えがあったので、今後改めて協力して企画をつくってみるのもいいですよね。
「マイプロSHOWCASE」から「マイプロCAMP」へ。たくさんの人の繋がりも生まれました!
スタートアップの時期は起業家にとって不安定な要素も多く、考えることも多いため、「わからないことがわからない」という状況になってしまう人も多いといいます。そのときSVMでは、考えすぎて立ち止まってしまう参加者のメンタル面のサポートをすることもあったとか。
起業家に対して、サポートメンバーになったり寄付する以外にも、ETIC.のように事業そのものを支援したり、グリーンズのように活動を紹介して共感してくれる仲間を増やしたり、支援の方法はたくさんあります。その多様な選択肢を用意していくことが大切なのかもしれません。
今後グリーンズとしても、マイプロの方々の定点観測を続けてゆきたいと思っています。引き続きどうぞ、お楽しみに!
フクヘン小野より
ETIC.は、代表の宮城治男さんが1993年、早稲田大学在学中に、学生起業家の全国ネットワーク「ETIC.学生アントレプレナー連絡会議」を立ち上げたことに始まる、まさに「日本のソーシャルベンチャー(支援)」の草分け的存在で、それから20年が経つ今も、パイオニアとして社会起業家のセクターを牽引しています。
その凄味は、圧倒的なスタッフや関係者のみなさんから感じられる熱量と使命感、それがゆえの行動力。東日本大震災の復興支援においても、本当に無くてはならない役割を果たされていました。さらに、いまメディアに登場する社会起業家のほとんどがETIC.に何かしらの関わりを持っていると言っても過言ではないくらいの状況です。
それに対応するように見えてきたグリーンズの役割は、社会企業(起業)がまだまだピンと来ていない方たちにその活動の将来価値を伝えること。「マイプロジェクト」というキーワードも、その試行錯誤の中から出てきた言葉です。これからも、いろいろな場面で具体的なコラボレーションをしていけたらと思っています。改めて加勢さん、猿渡さん、ありがとうございました!