一度にたくさんの水を簡単に運ぶことができるQドラム、太陽光エネルギーで充電できるソーラーランタン、簡単に水からバクテリアを取り除くことができる簡易浄水キット…。
これらは、生きていく上で必要なインフラさえ整っていない途上国が抱える問題解決に向けて作られた、シンプルかつ最大限の効果を出すことができるプロダクトです。
今回は、このプロダクトを必要としている地域へ届けるためのオンライン・マーケットプレイスを通じて、途上国の貧困問題を解決しようとしている「コペルニク」の活動をご紹介したいと思います。
プロダクトがあるだけでは必要とされるところへ届かない
まずは、こちらの動画をご覧ください。
コペルニク:テクノロジーを発展途上国に届けよう from Ewa Wojkowska on Vimeo.
この動画にも登場するQドラムやソーラーランタンといった革新的なプロダクトは、今まで必要とされているところへ届きにくいという状況がありました。それは、下記のような3つの大きな問題があったからです。
1. テクノロジーを開発した企業や大学といった団体自体が、その後の流通網を持っていない。
2. そもそもテクノロジーを必要としている地域のマーケティングが充分にされていない。
3. 現地の人たちや、途上国で活動しているNGOなどの市民団体にとって、テクノロジー自体が高価であるため買うことができない。
そこでコペルニクが生み出したのが、クラウドファンディングの手法を用いた”オンライン・マーケットプレイス”。企業や大学を含めた開発者、市民団体、そして、それらを応援したい一般の人たち、この今までバラバラになっていた三者をつなげる画期的なアイデアなのです。
オンライン・マーケットプレイスの仕組み
では、実際にコペルニクのサイトを見ていきましょう。
http://kopernik.info/ja
ウェブサイト上では、最新のプロダクトとそれを必要としているプロジェクトが紹介されています。ここで紹介されているプロジェクト(「ナイジェリア農村部へ、灯油ランプの代わりに、安全なソーラーライトを届けよう!」など)は、現地の市民団体が事前に自分たちの活動地域で必要とされる製品を選んだ上で、コペルニクに申し込みをしたものです。
寄付者はどのプロジェクトに寄付するかを選びます。2,000円で1個、4,000円で2個…など、金額は寄付するプロダクトの個数で決めることができます。これにより、現地の団体はプロダクトを購入する初期投資をまかなうことができ、寄付者は自分のお金が具体的にどのように使われるのか、明確に知ることができるのです。また、プロダクトが届けられた後は、どのような変化が現地にもたらされたのか寄付者にレポートが届きます。
今までつながることが難しかった三者が出会い、問題を解決するためのひとつの流れをつくっっている「コペルニク」。2010年の設立から、これまでに11カ国46のプロジェクトが成功しました。
さて、ここからは代表の中村俊裕さんと、日本支部を担当している天花寺宏美さんのお話を伺いながら、誕生のきっかけ、これからのコペルニクについて探っていきましょう。
天動説から地動説へ。世界の貧困問題解決にコペルニクス的転換を
インドネシア・ロンボク島のパートナー、PeKKAとの集合写真。一番下段右から5番目が中村さん。
グローバルな仕事をしていきたい。
そんな思いを抱えて、高校生の頃から国連の仕事に就こうと決めていた中村さん。その夢を見事実現させ、約10年、国連職員として開発計画の業務に携わってきました。その中で「心に小さな疑問が積み重なっていった」と言います。
中村 国連では、ひとつのプロジェクトを行う場合、事前に途上国の政府と合意して、すべて政府を通じて行います。しかし、途上国は往々にして政治が不安定であり、機関が整備されておらず、政府としての基盤がしっかりつくられていません。何か支援をしようと動き出してもキャパシティがなく、スムーズにものごとが行われないのが現状です。
例えば、国連に勤めている間、シオラレオネという国にいた時期がありました。ここは1991年から2002年までの11年間、内戦が続き、もっとも貧しい国と言われていた場所。いくら首都とはいえ電気も通っていない状態でした。そこで、国連が行くとまずは首都をなんとかしようとする。それも大事ですが、ラストマイルにある農村部に支援が届くまで、とても時間がかかります。
そんな経験の積み重ねの中で、「なぜ農村部の貧困がなくならないのか、今の方法で難しいのであれば、何か違うことをしなければならない」という思いが強くなっていきました。
この「何か違うことをしなければならない」という強い思いは、コペルニクという団体名にも込められています。その由来は紀元前から16世紀まで1000年もの間、人々に信じられてきた「天動説」に対して「地動説」を唱えたニコラウス・コペルニクスから来ています。
中村 コペルニクスは、神の論理ともいえる「天動説」を信じていた当時の世の中に対し、科学的に証明した「地動説」を唱えた人物。その考え方のシフトが、ルネッサンスにつながりました。
戦後からずっと続いてきた開発援助も、政府中心のやり方だけではなく新しいアイデアが必要。世界の貧困をなくすためには「コペルニクス的転換」をしていかなければならない。コペルニクという言葉にはそんな意味が込められています。
「いいものを作りたい」思いある作り手をサポートしていきたい
現在、コペルニクでは11カ国でプロジェクトを進めていますが、さらにアジア圏の国のプロジェクトを増やしていく予定です。そして、それと並行しながら、プロダクトの作り手側を支えていくことも考えています。
中村 途上国向けに「いいものを作りたい」という思いのある企業や組織へのアドバイザリーサービスをこれからしていきたいと思っています。
また、コペルニクでは、人々の生活がどんな風に変わったのかを調査するために、コペルニクフェローを送り込んでいるのですが、このフェローを人材育成の一貫として会社側から受け入れることを考えています。実際に現地に行ってプロダクトの普及状態などを肌感覚で知ってもらうことはとても大事なことなんです。
さらに、開発された商品を途上国へ大きく展開する前にテストし、フィードバックするといった調査事業も始まっています。
天花寺 これらのアイデアは私たちが考えたというよりも「企業のみなさまからこういうことできないの?」という声から生まれたものです。必要とされているのを感じますし、とてもありがたいですね。
コペルニクに蓄積された知識や情報を生かしながら作り手側をサポートすることは、途上国が抱える問題解決に向けて大きなプラスとなることは間違いありません。
人を信頼する心が仲間を集め、新しいソリューションを生み出す
中村さんのことを「何をゴールにするかというのを一心に思っていて、一途。純粋」(天花寺さん談)、天花寺さんのことを「強い人で現実的。コペルニクに必要な人」(中村さん談)と、照れながらもお互いのことを語るお二人。時にはノリツッコミも交わるやりとりからは、組織としての風通しの良さを感じます。
2011年6月から日本支部を担当している天花寺さんは、どのような思いからコペルニクに入ることを決めたのでしょうか?
天花寺 きっかけは、知人からの紹介でした。その時はまだ日本のサイトもできていませんでしたが、中村が話すコペルニクのモデルにとても共感し、日本でも拡大できると思いました。ふわっとした理想論ではなく、途上国にプロダクトを届けるという仕組みは、現実的なイメージとポリシーが必要ですし、このモデルならやれると思いました。でも何より、中村なら信頼できると思ったのが大きいです。組織は人ですから。
インドネシアに拠点を構えるコペルニクのオフィスには、インドネシア、オーストラリア、スペイン、ポーランド出身のスタッフが所属しとても国際色豊か。新しい解決策を生み出すためにどんな支援がありえるのか、常に全員で話し合いをしているそうです。
中村 いろんな人がいろんな形で応援してくれる。いい仲間に囲まれているんです。毎日楽しいですよ。僕もスタッフも楽しんで働くことができているのは、実際に自分たちがやっていることが、どれほどインパクトのあることなのかを日々感じているからだと思います。
天花寺 周りの方からも、よく楽しそうだねって言われます(笑)。
「どうして、いい仲間に出会うことができたと思いますか?」という問いに「人を信頼しているからかな。」と答えてくれた天花寺さん。人を信頼すること。それこそがコペルニクの源泉であり、強みなのかもしれません。
途上国の問題は自分には手の届かないところの話…そんな時代はとうに過ぎ、いい意味でのグローバル化が進み、テクノロジーが発達したいま、気持ちひとつで私たちにできることはたくさんあります。大きなことから小さなことまで、自分が貢献できることとして何を選ぶか、ということだけなのです。
世界の貧困問題は今すぐ解決できるものではないかもしれません。しかし、私たちの一人ひとりの気持ちとコペルニクが生み出す新しい仕組みによって、解決へのスピードは飛躍的に早まっていくことでしょう。
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