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「福島=可哀想」はもうたくさん。自分で考え、行動する女性を応援する「peach heart」代表・鎌田千瑛美さんインタビュー[スガオの福島]

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福島の原発事故から1年と3ヶ月経ちました。原発に関する議論は全国に広まり、未だこの問題で揺れ続ける日本。その一方、現在の福島で何が起きているのかが報じられる機会は少なくなってきたように思います。

“いまだからこそ”、今の福島に住む若者たちが震災や原発事故とどう向き合い、故郷の未来のためにどのような活動を行っているのかをお伝えしたい。そんな想いで始まった新シリーズ「スガオの福島」。

第一回は、震災後、故郷をなんとかしたいと福島に戻り、福島市の「ふくしま連携復興センター」の事務局で働く傍ら、福島の女性が放射能と付き合いながらもより良く生きていけるよう、おしゃれなマスクづくりや、料理を学ぶイベントなどを行っている任意団体「peach heart」を立ち上げた鎌田 千瑛美さんへのインタビューをお届けします。

“福島の女性として、どう生きる?”を考える「peach heart」

「peach heart」は福島県在住・福島県出身(避難中も含む)の若い女性を中心に立ち上がった団体です。今の福島県を取り巻く放射能問題について、福島に住む、これから妊娠・出産を迎える若い女性たちが正しい知識を身につけ、「福島の女性として、これからどうやって生きるのか?」を本音で語り合える場を作りたいという想いで始まりました。

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開催しているイベントは、ピラティス教室や料理教室など、健康や美容に興味のある女の子なら、つい参加したくなるような内容が中心。女子力をアップしつつ、楽しみながら、放射能について易しく学べるように工夫されています。

また一方で、女性が放射線対策を日常の中に無理なく取り入れられるよう、かわいくておしゃれなマスクを手作りし販売するなどの活動も行なっています。作っているマスクは、見た目だけではなく、布の間に粒子を除去するフィルターを入れるなどした実用的なもの。

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福島に住む女性が、正しい知識を身につけ、今後の福島について考え、きちんと意見を表明できる場を作りたい。そんな想いから、自身も原発事故で被害を受けた南相馬市出身者として、福島の女性のネットワークづくりに尽力する鎌田さん。

「県外の人にも知ってほしい」と、当事者の彼女が内側から見た福島の課題と未来を語ってもらいました。

放射能について、前向きに学べる環境づくりがしたい

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鎌田 千瑛美さん

小野 鎌田さんは、震災後に福島に戻られたんですよね?

鎌田さん(以下、鎌田) はい。私はもともと南相馬市出身ですが、震災時は東京で就職していました。震災後にNPO法人ETICで「震災復興リーダー支援プロジェクト」の立ち上げに関わった後、今年1月に福島に戻りました。現在は、「ふくしま連携復興センター」で震災復興活動を行うNPOを支援する仕事をしています。

小野 「peach heart」を立ち上げようと思った経緯は?

鎌田 現在、福島を代表とする放射能汚染地域へは、子どもたちや妊婦さんに向けてたくさんのあたたかい支援の手が差し伸べられていますが、残念ながら「これからのお母さんになろう」という若い女性たちへの支援は、行政・民間を含めても極めて少ない状況です。

子どもを産むことへの放射能の影響に不安をもつ子や、「地元のために何か貢献したい」という子たちの話を聞いて、本音で話せる場が必要だなという想いで、活動を始めました。

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小野 放射能汚染について、今の福島は話しあいにくい状況なのですか?

鎌田 放射能の話は、専門家でも意見が分かれるので、個人でそれぞれ判断が異なるのは自然なこと。けれど、だからこそ家族や友達たち、恋人の間でも、日常の中でわざわざ話す雰囲気ではない。また、1年経って、気にしすぎはストレスになって良くないという風潮から、放射能への危機意識をもっている方は過激派と言われるような雰囲気もあり、違和感を感じます。

小野 一種の同調圧力のようなものがある?

鎌田 そうですね、例えば子どもを小学校の校庭で遊ばせるかどうかや、マスクをつけるかどうかも、周りに「大丈夫だよ」と言われると、合わせざるを得なかったり、家族から「過剰に反応しすぎだ」と言われたり、それが元で自責の念にかられるお母さんもいます。「peach heart」は、安易に判断を押し付けるのではなく、それぞれの気持ちにできるだけ寄り添いたいです。

小野 「peach heart」では、女性たちに寄り添うためにどんな工夫をされているのですか?

鎌田 例えば、福島でマスクをつけること自体が特別な行為のように感じられる空気があるので、若い女の子たちが普段の生活のなかで自然にマスクをしたくなるよう、おしゃれなマスクを手作りで製作・販売しています。

風が強い日などに「放射能が飛んでるかも…」と、気になって不安になるくらいであれば、オシャレする気分で気兼ねなく付けてもらえると嬉しいなと。

もちろん、付けなきゃいけないって訳ではなく、付けたい人が楽しく付けられるようになればいい。また、放射能について女性が自然に本音で話し合えるよう、ピラティス講座や料理教室など、コンテンツを上手く組み合わせた場を設けたりしています。

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小野 肩肘張って、神妙な面持ちで…というより、自然に楽しく放射能の事を学ぶ、という感じでしょうか?

鎌田 そうですね。「peach heart 3つの約束ごと」というのがあって、それは

①自分のココロとカラダを精いっぱい大切にする。
そして、大切な人も大切に出来る人になる。

②福島を想う心を持ち続ける。

③自分らしく、イキイキと輝いて生きる。

の3つです。

立場や意見がちがっても、故郷の福島への想いや、少しでも良く生きたいと願う気持ちは多くの女性は一緒のはず。学生、社会人などの枠を超えて、同じ境遇にある若い女性たちが、それぞれの想いや決断を否定することなく、思いやりあって理解し合える「本音のいえる場づくり」がしたい。

“この福島でどう生き”、“女性として、未来のママとして、どんな女性になっていくのか?”について話し合い、支え合える未来を作りたいです。

小野 鎌田さんご自身は、福島に帰ることにためらいは無かったのですか?

鎌田 私は、震災当時東京にいて、東京電力の電気を使っていた人間です。誰が悪いとかいうつもりは全くないけれど、私はこの問題と向き合う責任があると思い、故郷に帰って支援する道を選びました。

小野 なるほど。当事者として向き合いたいと思われたのですね。

鎌田 現地に住んでいる人たちが、放射能問題から目を背けてしまっては、何も変わらない。福島の若い女性が「私は福島で子どもを産み、育てられるのだろうか。」と漠然と不安を抱えるのではなく、放射能のリスクについて正しい知識を身につけ、自分の頭でしっかり考え、行動できるようになること。

彼女たちが、放射能や今後の福島について「私はこう思う」って表明できる環境が整えば、未来を良くしてゆくことはできるはずです。女性が変われば彼氏も変わるしね♪

小野 考えて行動できる女性が増えれば、周囲も変えられるということですね。

鎌田 たまたま今回、福島が放射能という問題と向き合わなければならなくなっただけで、たとえ他の地域でも様々な問題は山積みの日本。今起きていることを知り、向き合い、どうするか考えられる人が、魅力的な女性だと思います。そんな女性を一人でも増やしたいですね。

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「正解がないこと」を認める。いま、必要な支援とは?

小野 今の福島に必要な支援とはどのようなものでしょうか?

鎌田 震災から1年3ヶ月が経ち、支援してもらう立場の人たちや支援者側も疲労が表れはじめています。「支援する・される」という言い方はそろそろやめて、立ち上がりたい人たちの「やりたい」気持ちを応援しながら「寄りそう」というスタンスも必要なのではないでしょうか。

避難せざるを得なかった人、ここで生きてゆくと決意した人、それぞれ立場が違う中で、自立しつつ復興と生活再建、放射能対策をどうしてゆくかが今後の課題です。

そんな中で必要なのは「フラットな支援」。“当事者たち自身が判断し、個人の価値観を最大限尊重し、必要な選択肢・支援を選べること”。残ってもいいし、避難してもいいよ。外部被ばくのリスクは下がらなくても、内部被ばくは最大限防いでいこう、とか、できる限りたくさんの選択肢を提示すること。

小野 その人が正しいかどうかを他人がジャッジするのではなく、その人の判断に沿って必要な支援をする、ということでしょうか。

鎌田 そうですね。今、何が正しいのか、誰もわからない。「絶対◯◯だから××しなきゃだめ」と言い切って押し付けるのは健全ではありません。正解がないことを認めてあげないと、これからの福島には居続けられないでしょう。

子どもの頃に教えられた、「嘘をつかない」「人を傷つけない」とか、「相手の話をよく聞く」とか、そういう当たり前の事ができれば、ぶつかり合いや傷つけあいも減ってゆくはずです。

“家族が笑っておでかけできる”未来を創るために。

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小野 鎌田さんがこれから目指したい「復興」はどのようなものですか?

鎌田 私が目指したい「復興」は、“福島で、家族が普通に笑っておでかけできるようになること”。つらいことはたくさんあったけど、前よりもちょっといい街になったよねって思えること。「福島らしい幸せ」が新しく見つかればいいなと思う。

震災前の福島は、すべてが豊かで、頑張らなくてもそこそこ幸せになれた。そこにあぐらをかいていた部分もある。それが震災で失われてしまって、だからこそ、奮いたたされた部分がある。

行政のせい、他人のせいにすることはもうできません。自分たち自身の手で、心を折られずに、(たまにはゆっくり一休みもしながら)「福島らしい」復興に向かってゆきたいし、そのためにはどうしたらいいのかを考え続けたい。

放射能問題の現実をちゃんと見つめた上で、それでも「ここで生きて行こう、そのためにできることをちゃんとやろう」と決意した人も福島にはたくさんいます。福島市の飲食店の店長が、「俺は“R40ワイン”を作りたい!」と言ってるんです。風評被害で売れない福島産の食材を使って、40歳以上の人だけに売るプレミアムワインを作ろう、という(笑)。

小野 面白いですね。

鎌田 そういうアイデアも、今回の震災で今までの豊かさが無くなったからこそ、言えるようになったんだと思う。

失ったものが大きかったからこそ、可能性がある。そう思って福島のために前向きに活動している人たち、一人ひとりの顔が見えて、他の地域、それも日本だけじゃなく世界中とface to faceでつながれる未来を作ってゆきたい。復興してるんだよ!という事を、たんたんと、でもしっかりと、見せてゆきたいです。

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ひらがなの“ふくしま”

未来に向けた意志の強さを感じさせる、しっかりとした口調で語ってくれた鎌田さん。福島の問題を決して美化するつもりはありませんが、このインタビューを通して見えた福島は、マスコミが報じる悲劇の土地でも、カタカナの“フクシマ”でもなく、「家族や仲間のために、どうしたらよりよい未来が築けるだろう?」と、試行錯誤し続ける人たちが暮らす、ひらがなの“ふくしま”でした。

故郷のことを気にかけ、そこに住む人たちがよりよく生き続けられるよう祈る、普通の女の子の、あたりまえの思いから始まった「peach heart」。未来を見据え活動する彼女たちの姿を知ったことで、福島で起きていることを決して他人ごととして突き放すのではなく、同世代として、一緒に向きあい、何かできることをしたいと、より一層強く感じました。

怖いからといって蓋をし、「かわいそうな土地」のラベルを貼りっぱなしにするのは、もう終わりにしたい。東京に住む一人として、これからも「自分と関わりのある場所」としての福島を訪れ、取材してゆきたいと思います。