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もっと”夢”と”可能性”を語れる場所を。社会に抑圧されている若者に将来を考える機会を提供する「Dream×Possibility」

Some rights reserved by Ernst Vikne

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特集「マイプロSHOWCASE関西編」は、「関西をもっと元気に!」をテーマに、関西を拠点に活躍するソーシャルデザインの担い手を紹介していく、大阪ガスとの共同企画です。

今井紀明さん、26才。今でこそ「NPO法人D×P(Dream×Possibility:法人申請中)」を立ち上げ、大きな瞳を輝かせていますが、人間不信に陥った時期があったそうです。なんと、18歳のときにイラクで拉致され、後に救出され日本へ帰還。その際に日本中から「税金の無駄づかいだ」などとバッシングを浴び、辛い想いをしたのだとか。

日本中の人に顔を知られ、非難を浴びるような経験をすれば、誰だって傷つき悲しむものですよね。今井さんは、生まれ故郷の札幌を出て、イギリスや東京など誰も自分を知らない環境を求めてさまよいます。その後、大分県の立命館アジア太平洋大学へ進学し、共同代表である朴基浩さんと運命的な出逢いをきっかけに、精神的に立ち直ることができたそうです。

この春からは、かつての自分と同じように「人から拒否されることで傷ついている」「将来にポジティブな夢を描けない」若者を救うためのプロジェクトを、大阪の地で、本格的にスタートさせました。

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事務所前の公園にて。

大阪・京橋駅の南口を出ると、住宅地がひろがっています。ほどなく、桜並木が美しい、子どもたちが元気いっぱいに遊びまわる公園に行き当たります。そのすぐ側に今井さんたちの事務所があります。

これまで食肉会社のトレーダーとして2年ほど働いていたのですが、つい先月辞めて引っ越してきたばかりなんです。子どもたちの声が聞こえてきてなごみますし、本当にいい環境ですね。

事務所内には、数名のスタッフの姿が。みなさん目が合うと「こんにちは!」と、気持ちのよい挨拶を返してくださいます。

どんなプロジェクトなの?

事業の大きな柱の一つが、通信制高校に通う生徒を対象にした「クレッシェンド」という授業。年間を通して月に一度の土曜日に授業枠を設定しています。

その授業では、地域の大人や、何かの分野で活躍していらっしゃる方々を招き、ご自身の経験談や失敗談をざっくばらんに話してもらっています。今年度は約60名ほどの生徒が授業を受けにくる予定なのだとか。他にも、専門学校で中退を予防するプログラムを展開しています。

「地域の大人と高校生の学びの場」というのはよくあるのですが、ほとんどが1回きりのイベントなんですよね。そうではなく、年間を通して連続した授業を開講することが重要だと考えています。人が変化するには時間がかかりますから。

授業の中でのルールというか、大切にしている考え方が3つあって、それは「年下、年上から学ぶ」「否定しない」「バックグラウンドから学ぶ」というものです。これは、このプロジェクトの母体となる「ユメブレスト」というイベントから得たものです。

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コンポーザーの方たちと打合せ中の風景。右が今井さん。

活動の母体となった経験

「ユメブレスト」とは、どういうイベントだったのでしょうか?

前職へ就職する直前に、「やっぱり海外の現場が見たい」と思い、アフリカのザンビアという国へ渡り、学校建設プロジェクトに関わったんです。そこは平均寿命が45~6歳で、エイズ感染率20%を越えるような国だったのですが、現地の元気そうな青年たちや子どもたちを見て「日本の若者のほうが問題なんじゃないか」と感じたんですね。

だからといって、日本の若者たちへ向けて、何をどうしたらいいのかは分からない。とりあえず高校生や大学生などの若者に会って話をしようと思って、色んなところに顔を出したり、自宅をゲストハウスにして色んな人を招いたりしました。友達も含めると、1年で300人ほどが泊まりに来ました。その時に出逢った多くが10代~30代だったんですね。

そんな中で、今の若者たちは、「社会の仕組みに抑圧されている」「夢を語れる場所がないのでは」と、感じるようになったんです。みんなで夢を語れる場所を作ろうと思って始めたのが、「ユメブレスト」というイベントでした。

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イベントでマイクを握る今井さん。「人前で話すのは苦手です。でもがんばって話します(笑)」

就職のため、初めての土地である大阪へ赴き、新しい人の輪をつくっていった今井さん。お仕事もかなり忙しかったようですが、その時に今井さんを突き動かしていたパワーというのは何だったのでしょうか。

とにかく会社に入った瞬間に、次の目標を探し始めた感じですね。「ここにはいられない」と感じてしまっていたんです。

また、実際に通信制高校の生徒さんたちと会ったり、定時制高校に見学へ行き、実体調査やヒアリングを重ねることで子どもたちを取り巻く環境が見えてきたことも大きかったです。

通信制高校へ通う子供たちの約40%弱は入学前に不登校の経験があり、卒業後は約50%弱が就職も進学もしないという現実。「子どもたちは、親からも教師からも友達からも、周りの誰からも存在を認められたり、肯定される経験を持たずに社会へ出ると、社会的弱者へ陥る確率が高まるのではないか」と今井さんは言います。

通信制高校へ通う子どもたちは、親が低所得者層である場合が多く、親がいなかったり、仕事が忙しくて話す時間がなかったり、さらにこういう状況へ陥る可能性が高まると思うんです。また、高校生全体で中退率が増えており、このような子どもたちの変化は今まさに起こっている社会的な問題だと思います。

自分には、イラクの事件後に「世間から疎外された」という経験があり、共同代表の朴も、同じく疎外感を感じた経験を持っていました。そういったことが、通信制や定時制高校へ通う子供たちの問題へと意識を向かわせてくれたんです。

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コンポーザーの方が生徒に贈ったメッセージカード。

人間不信から立ち直った、人との出逢い

今井さんがイラクの事件から立ち直るキッカケになった朴さん。彼とはどんな出逢いだったのかを聞いてみました。

小さな大学だったので、お互いに顔は知っていたのですが、たまたまバスの中で隣同士に座ったときに少し喋ったのが最初です。また、うちの隣にコンビニがあったのですが、たまたま朴がそこでバイトをしていて、少しずつ仲良くなっていきました。

ある日、ドライブで温泉へ出かけることになったんです。その時に、ふと自分が「誰も俺の辛さなんて分かってくれない」と漏らしたら、朴が「でも、それは自分が解決しなきゃいけないことだから。オレはお前の過去知らないし。お前の問題だよね」と言ったんです。

その言葉で目が覚めましたね。「そうだ、自分だって朴の過去の全てを知っているわけではない。やっぱり自分の問題なんだ」って。そこから変わろうとしました。1~2年生の時はほとんど学校行かずに単位だけ取って、あとはバイトをしてたんですが、3年生の時に朴に出逢い、4年生のときには、後輩と一緒にイベントをやったり、色んな活動を主体的にするようになっていました。

人との出逢いが、結局は人を癒し、立ち直らせることを身をもって経験した今井さん。大学生の時に出逢った朴さんは、今ではプロジェクトの相棒でもあります。

夢は「150歳まで生きること」

さて、最後に今後の展望についても伺ってみました。

まずは、通信制、定時制の高校生が卒業後、社会的弱者になることを予防するための取り組みを考え、しっかりと運営していくこと。昨年度の3月で会社を辞めたので、同時に今後は経営者としてこの組織を運営していかないといけません。

また、新たに「教育」という分野に足を踏み入れたので、現場を見たり、教師の方たちとコミュニケーションを図りながら、連携をとってプロジェクトを進めていきたいと思っています。将来的には、就労支援や、高校生以外の方を対象にした例えば高齢者のための社会プログラムや、そういったものにもチャレンジしていきたいですね。

自分自身の夢は、「150歳まで生きること」です(笑)。そうすれば、人間の行く末が見れるじゃないですか。この後、社会がどう変わっていくか、この目で見届けたいですね。

人と人が、会って話をする行為。「人間」として一番大切で、どんなに通信技術が発達したとしても変わることがないないだろう、コミュニケーションの最初の形。そういったことを丁寧に、時間をかけて取り組もうとしているD×Pの活動がとても楽しみだと思いました。

(Text:楢 侑子)