毎年8月が来るたびに原爆のこと、被爆者のことを想う。テレビでも被爆者の声を伝える番組や、事実をもとにしたドラマが放映され、新聞にも特集記事が載る。そのように年に一度、原爆のことを想い、記憶を刷新していくことは、原爆という歴史を風化させないために非常に重要なことだ。
そして今年、そのような記憶の風化をとどめるメディアのひとつとして新たに“Nagasaki Archive”が加わった。デジタル時代の新たなあり方によって原爆の記録と記憶を私たちの手の届くところに置く、そんな“Nagasaki Archive”をさっそく見てみよう。
“Nagasaki Archive”はGoogle Earthに依拠した原爆の記録のアーカイブである。長崎に投下された原子爆弾の爆心地を中心に、被爆者の声や当時の写真、現在の写真などがマッピングされている。制作しているのは、首都大学東京の大学院生、長崎出身の有志などである。
なんと言っても心に刺さってくるのは被爆者の方々の言葉だが、ただ言葉が並んでいるのではなく、被爆した場所とその言葉が関連付けられることで、原爆というあまりにも巨大でとらえどころのない悲劇がどのようなものだったのがイメージしやすくなっている。
また、1945年当時の地図や写真と、2010年現在の地図や写真が重層的に表示されている点も重要だ。この地図や写真を見てまず想うのは、今の長崎に原爆の傷跡はほとんど残っていないということだ。たとえ実際に長崎に行ったとしても65年前の原爆という出来事を想起させるものは街中にはほとんどないだろう。もちろん平和祈念像や原爆資料館はある、しかし街そのものにはもはやその記憶をとどめていない。しかし、この“Nagasaki Archive”を覗けば、そこには65年前の記憶がとどめられている。
このプロジェクトは継続的にデータを収集しながら、長崎のみならず広島をも網羅してゆく予定とのことだ。そうして積み重ねられた証言や写真を私たち原爆を知らない世代がより身近に感じられるようにするには、さらに最新の技術の助けを借りるというのも面白いのではないだろうか。たとえばセカイカメラのようなARを使って、長崎の街でスマートフォンをかざすとその場所の写真や被爆した方の証言が出てくるようになったら、その場所と「ここに原爆が落ちたのだ」という事実がもっと緊密につながるのではないか。
このプロジェクトの発起人である鳥巣智行さんはTwitterで7月30日に次のようにつぶやいた。
一年中被爆地のことを考えながら生きてはいけないけれど、ふとした瞬間にブックマークバーから訪れることの出来るナガサキがある。ナガサキ・アーカイブは、そんな存在を目指しています。8月の原爆忌までに、一人でも多くの方にブックマークしていただければ幸いです。#nagasaki0809
ことさらに意識しなくても、身近なところにあればふとした時に、思い起こし、記憶にとどめることができる。原爆の記録をそのような身近なものにすることで、過去は現在にとどまり、未来への糧となる。ぜひ、この“Nagasaki Archive”に触れて過去と、現在と、未来へと手を伸ばして欲しい。
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