2026年2月末、書籍『リジェネラティブデザイン』が英治出版より発売開始となりました。予約開始直後からAmazon「環境とビジネス」カテゴリで連日のように1位(※2/14〜3/3現在)、発売開始と同時に、実は何度もAmazonの在庫がなくなってしまうほど、大きな反響を呼んでいます。
なぜいま、リジェネラティブデザインなのか。そして、本書で提示された「7つのデザインコード」にはどのような願いが込められているのか。連載「リジェネラティブデザイン」を編集長とともに牽引してきた副編集長の村崎恭子を聞き手に迎え、今回の書籍の全ページを書き下ろしたgreenz.jp編集長の増村江利子が語りました。
人と環境と社会に「すこやかさ」を取り戻す
ーー書籍『リジェネラティブデザイン』、発売前からすごい反響を呼んでいますね。WEB連載で制作した40以上の記事をもとに1年ほどかけて準備してきましたが、あらためて、なぜ「リジェネラティブデザイン」というテーマを探究しようと思ったのか、そこからお聞きできたらと思います。
江利子 はい。greenz.jpの編集長に就任して、タグラインを「生きる、を耕す。」にしたのですが、そのときに合わせて、このメディアで何を大切にするか、3つの軸を置いたんです。
「一人ひとりの暮らしを通じた行動から社会を変えるべく、国内外の実践者を取材し、新しい時代に必要な価値観やメソッドを届ける」メディアとして、大事にしたい柱の一つが、これまでもgreenz.jpが追いかけてきた、「ソーシャルデザイン」です。これは、グリーンズとは何かというのを語る上で、欠かせない軸として、残したいと思っていて。
そして二つ目が、「リジェネラティブデザイン」です。気候変動に関しては、残念ながら手遅れであると言っても言い過ぎではありません。だからこそ、私たちがこの地球上で生きていくうえで、「ソーシャルデザイン」の前に、「リジェネラティブデザイン」についての実践が、前提として必要になってしまったと思っているんです。
三つ目が、「トランジションデザイン」です。記事を読んでもらって、何かしらのアクションをしてみたくなったとか、その人自身の価値観が大きく揺れて、何かしらの次の一歩を生む。次の一歩は、すぐ起きるかもしれないし、10年後に思い出して踏み出すかもしれない。その人の人生が動くなら、それでもいいと思っています。そうした人のトランジションと、社会OSのトランジションも含みます。メディアの役割として、1歩先、2歩先の実践をする人たちの熱量や、携えている哲学を、ただ発信するだけでなく、そうした価値観の変化を促して、実践者を増やしていく、そこまでやりたいと考えていました。
なので、今回の書籍『リジェネラティブデザイン』に置いているのは、人と環境と社会に「すこやかさ」を取り戻すために、前提としてもちたい態度という側面が大きいです。と言いながらも、実践へとつなげていく必要があるため、22の事例について、7つのデザインコードと35のサブコードを用いて、概念も、事例も、その方法論も、いっぺんに詰め込みました。
ーー2023年にgreenz.jpで連載「リジェネラティブデザイン」が始まるときにはすでに、書籍にすると見据えていましたよね。連載を立てるときに、書籍の出版を前提にすることは、これまでなかったかなと。
江利子 伝えていく手段は、その都度、選ぶべきであると考えているところがあります。greenz.jpはWebマガジンではありますが、いい意味でそこにこだわっていないというか、何かを社会に伝えていくときに、テーマやそのタイミングによって一番フィットする方法を取れたらいいと思うんです。
例えば、2024年に能登の震災復興に向き合うときは、これはグリーンズの号外として、タブロイド誌で出そうと決めました。なんの迷いもなかったです。いま考えていることは、ポッドキャストで話すのがいいでしょう、とか。この「リジェネラティブデザイン」を伝えるには、書籍にしようと。取材を重ねて学びを得て、一つひとつ記事にして、そこで終わりにしないという強い意思が必要ですが、まだ漠然としているテーマを自分たちなりに一度解体して、こういうことかな?と社会に提示してみる。これは、おそらく書籍に向いていますよね。日本各地の実践知を束ね、そこに編集を加えて、人類共通の大事にしたい価値観や方法論を導き出したかったんです。
ーーWebマガジンでも、意識の変容にまで至るように、1本ずつ魂を込めた記事を出すけれども、書籍にして、さらに残すということは、今のグリーンズらしい意志を感じます。そのときに、リジェネレーションでもリジェネラティブでもなく、「デザイン」という言葉を選んだのは、どのような意図があったのでしょうか。
江利子 デザインという言葉は、世の中に溢れているので、あまり安易に使いたくないという反抗心はあるんですけれどね(笑)。もともと、クリエイティブディレクターであるという背景もありますが、編集とデザインってセットだと思っているんです。編集だけでも足りないし、デザインだけでも足りない。社会に対して何かしらを広めていくときに、必ず編集が必要だし、一方で必ずデザインも必要であるという。編集が、社会から価値を見出す“意味の編成”なら、デザインは“実装の構造化”です。編集だけでは、思想はあっても「形にならない」し、デザインだけでは、形はあっても「空洞になる」わけです。両方が重なるとき、意味が構造を持ち、構造が意味を宿します。編集とデザインの両方があってはじめて、「現実をつくる」ための条件が揃う。私は greenz.jp というメディアを通じて、記事を制作して、発信をして終わりではなく、その先に社会をつくりたい、そこまで手を伸ばしたいと本気で思っているので、「デザイン」という言葉がちょうどよかった、という感じですね。
ーー社会をつくっていく実践者であるためには、「デザイン」の思考も携える必要がある。言い換えれば、これまで編集という作業を通して連載記事をアウトプットしてきましたが、それをデザイン論として書籍にしていくということですね。そして、7つのデザインコードが、まさに編集に加えてデザインの視点も併せもっていくステップなのかなと感じています。ところで、このデザインコードの「コード」って一体なんでしょう?
江利子 「サステナブル」ではなく「リジェネラティブ」が必要ですよ、と伝えるときに、「リジェネレーション」というものは、まだ漠然としているものだと思うんです。そうしたテーマを、できるだけいろんな人の実践へとつなげていくには、概念も、事例も、方法論も、いっぺんに扱う必要があった。ルールを提示して、そのルールに見合う事例を出すのではなく、その逆で、事例から見出した「コード」として届けたいと考えたんです。他にもやり方はあるかもしれないけれど、greenz.jp の強みとして、まず豊富な事例が揃っているのだから、その事例を真ん中に置いて、でも単に事例を列挙するだけにしたくないので、串刺しにする「コード」から、概念と方法論を導き出す。それこそが、greenz.jpにしかできないことなのではないかと考えました。
ちなみに、デザインルールではなくデザインコードにしたのは、思い入れがあります。ルールばかり増えていくのが好きではないという個人的な背景もあるけれど(笑)、それを守ればリジェネラティブな社会がつくれるわけではないですよね。大切にしたい態度としてのコードがあって、それらのコードを携えながら、さまざまな領域で何かしらの「実践」をしていく必要があるわけです。
ーーコードは、全てを取り入れないと成り立たないのか、それとも一つ、二つ、何かしら自分にフィットしたりするものを選んでいくと成り立つものなのでしょうか。
江利子 個人なのか、事業なのか、コモンズなのかといったレイヤーの違いによって、事情が変わってくると思います。事業やサービスだったら、ほぼ全てのデザインコードが入っていることがのぞましいと思いますし、個人であれば、これが一番共感できる、ここを信じたいという一点突破から入ればいい。でも、自ずと広がっていくはずです。
ーーやっていく中で、気づいたら全部やっていた!?となりそうですね。
江利子 そう思います。終章に書きましたが、とある人が「(やっている活動について)リジェネラティブですね」と言われたけれど、そう考えたことは一度もない、そこを目指していたわけではないと思ったそうです。 大事にしたいことを大事にした結果であって、結果的にリジェネラティブだった、ということはたくさんあると思いますし、むしろそうであってほしいと思います。
合理性ではなく、水や土から社会をつくるための手段
ーー今回の書籍は、江利子さんがあらためて、もとの記事を引用しながら全ページにわたって執筆していますが、先に決めていた7つのデザインコードに加え、江利子さんが執筆する過程で各コードに5つずつのサブコードが生まれていった背景もお聞きしたいです。
江利子 7つのデザインコードは、事例をもとに、この事例のどんな点がリジェネラティブなのか?を洗い出して、分類して、ある程度カテゴライズされたものを言語化した、というプロセスがありました。そして、デザインコードの1つ目と7つ目は、実は少しだけ他のデザインコードと異なっていて、これは私自身が、リジェネレーションを扱う上で、大事にしたいことかもしれないと、最近思い始めました。この1と7があることが、グリーンズらしい点であると言えるかなと思います。
そして、この7つのデザインコードだけでは、やや漠然としている。理(ことわり)として、価値基準を示すことはできるけれど、方法論までもっていくことが難しくて。デザインコードを具体領域に翻訳した、副次的な原理まで落とす必要があったんです。そして複数の事例から、その事例のどの部分が、どんなふうにリジェネラティブなのかについて、副次的な原理をキーワードに用いて、記事下にまとめていきました。何かしら応用されていくときには、この「どんなふうにリジェネラティブか」という視点をもつことが重要なヒントになると思ったからです。
ーーいま、まさにお話に出ましたが、読者のみなさんに、この本をどう活用してほしいのかを述べておきたいなと思っています。
江利子 どんなふうに読んでもらうか、読み手に委ねたいところはもちろんあるのですが、これからの時代を生き抜くために、前提として大事にしたいことが詰まっているので、同じように前提として携えていってほしいという気持ちがあります。
個人の生き方も、事業も、あらゆるレイヤーで、合理性で考えるのではなく、水や土から考えていくような態度が必要だと思っているんです。そうしていくと、行き着く先には、そっちのほうが「理(ことわり)」を捉えているので、最終的に合理的だった、というところに辿り着くのではないかと思います。それを見つけていくための哲学として、手渡したいです。
ーーこの『リジェネラティブデザイン』には、さまざまなジャンルの人や事業が事例として掲載されていますが、実はこの事業では、ここを大事にしていたんだ、そんなふうに自然環境とつながっていたんだ、と気づいていく。そういう気づきを読者にもってもらうという役割を担えるかなと思いました。
江利子 少し視点を変えると、自分自身の捉え方ひとつとっても、変わってくるといいなと思っているんです。例えば「流域」という視座でみると、自己紹介も変わってくるんです。私だったら、ふつうは「NPOグリーンズの共同代表で編集長です」ってなりますよね。もちろん一つの側面ではあるけれど、それは正しくないとも思うわけです。こんな自己紹介をしたら笑われてしまうけれど、「太平洋と日本海を分かつ分水嶺、標高1,000メートルの八ヶ岳南麓に暮らしています」というほうが正しいというか。どんな風土の中で暮らしているかのほうが、本当はその人を「表す」はずなんですよね。すべて業務上の役職や肩書きではかられてしまう世の中ですが、その人自身のルーツや、普段触れている環境こそが大事にされていくといいと思っています。
ーーすごく共感します。私も、肩書きはいらないって思っているので。
江利子 そうですね。私の個人の名刺は、肩書きは一切なくて、名前のみです。いずれにしても、考え方の、その根本から揺さぶる1冊になったらいいなと。根底の価値観を揺さぶることが、大事だと思っているんです。根底の価値観が変わると、世界の見え方が変わる。世界の見え方が変わると、選択の基準が変わる。選択の基準が変わると、日々の行動が変わる。日々の行動が変わると、制度と経済の構造が変わる。制度と経済が変わると、社会が変わる。だから、変えるポイントに視点を向けるのではなく、根底の価値観を変えていきたいんです。
ーー自分は何者なのかを知った上で始めるって、すごく大事なはずなのに、今の社会では完全に置き忘れられている気がしますね。
江利子 今の暮らしや、生き方そのものが、自然とあまりにも離れてしまっているのですよね。これは序章で書いたとおりなのですが、切り離されてしまっていることに気づいて、私たちのほうからもう一度、歩み寄る必要があるのではないかと思います。
書籍『リジネラティブデザイン』の先に、見ていること
ーー最後に、この書籍『リジネラティブデザイン』をもってグリーンズが向かいたい未来や、次の展開を教えてください。
江利子 これは、主語が「私」の部分も入っているけれど、greenz.jp初代編集長のYOSHさんに「江利子さんはどんなテーマを書きたいですか?」と聞かれて、「自立」と答えたんです(笑)。「自立、自律」の両方です。自立って、一般的には稼げるようになることと捉えられがちだと思うんですが、広辞苑をひくと、「他の援助や支配を受けず自分の力で判断したり、身を立てたりすること。独り立ち」って書いてある。この「他の援助や支配を受けず」って、すごく大事だと思っていて。
「援助」は、いまいき過ぎていますよね。そして、気づかない「支配」がされているとも思っている。それは、例えば水にしても電気のようなエネルギーにしても、お金さえ払えば使えてしまうけれど、お金を払わなければ、使うことはできない。公共施設は使えますけれど、そこで暮らすことは難しいですからね。これは、広辞苑に書かれている「自分の力で判断したり、身を立てたりする力」を静かに奪われている状況なのではないかと。だから、自分たちの手に取り戻したいんです。
グリーンズは「ソーシャルデザイン」という言葉を世に出しましたけれど、その前提に置きたいエッセンスが「リジェネラティブデザイン」なんです。この「リジェネラティブデザイン」という新しい哲学と実践論をもったうえで向かいたいのは、どう社会をつくっていくのかという話です。冒頭に出した「トランジションデザイン」ですね。
政治というのは、誰かに委ねることではなく、自分たちが生きることを引き受けるための技術だったはずです。水をどう集落で分かち合っていくのか、その土地をどう守っていくのか。その自然と共に生きていくという切実な選択の積み重ねが、そのまま社会を形づくっていたと思うんです。そうしたことを、私たちは、すっかり忘れてしまっていると思います。それを、まず取り戻したいです。
そして、「リジェネラティブデザイン」から「トランジションデザイン」まで、ひとつながりだと思っています。何を大事にして、どこへ向かうのか。大事にしたいことが書かれているのが、今回の書籍『リジェネラティブデザイン』です。もうひとつ、「生きるリテラシー」といった文脈は、この書籍に盛り込むことが難しかったですけれど、このひとつながりの中に、「自立、自律」といった通奏低音がある。
その大きな流れには、どうにも難しい外部要因というか、気候変動や、国家間の緊張どころではない戦争まで起きてしまっている。そうした情勢を見渡して、国に頼るのではなく、自分たちで立ち上がるほかないと思っているんです。それぞれのローカルごとに。いまの社会そのものが、むしろ数百年続いた社会実験なんじゃないかと考えたら、捉え方はがらっと反転するわけですよね。どうにも難しい外部要因も、ローカルごとに、その土地固有の話に落としていくと、扱う課題は小さくて済むかもしれない。そうやって、ローカルごとに自治をしていく。そうした世界観が、これからの時代を生き残る、唯一の手段なんじゃないかと思うわけです。そういう社会に向かっていくときに、大事にしたいことはなんだろうね、というのは、この春、グリーンズの寄付会員「greenz people」向け冊子『生きる、を耕す本 vol.03』で扱ってみたいと動いています。
生きることそのものに、再びその当事者として関わること
ーー「リジェネラティブデザイン」が、そういった「ローカルごとの自治」に、どうつながっていくかをイメージできたのは、いま『生きる、を耕す本 vol.03』の巻頭特集としても用意している、高橋大就さんと江利子さんの対談だったんです。そこには、「廃藩置県ではなくて、むしろ逆で、廃県置藩がいい」という話が出てきますよね。
江利子 そう。先ほどの、ローカルごとに自治をしていくというときのローカルは、県や市町村単位ではなくて、流域や生態系で捉えたいんです。もっというと、分水嶺ごとですね。
ーーそういうふうに考えてみると、「リジェネラティブデザイン」の考え方と、その小さな自治がつながっていくなと。高橋大就さんと江利子さんの対談記事を読んで、江利子さんが今後やろうとしていること、目指したいことが、完全に腹落ちしたんですよ。そうだったのか!と。
江利子 私が大事にしたいのは、土と水から民主主義をつくり直すということです。生きることそのものに、再びその当事者として関わること。それをしないと、「藩」に戻ったところで、私たちはローカルごとに船を漕ぎ出せない。もちろん、国家が担うべきところもたくさんあります。でも、自分たちができることは、自分たちで営みを持ち直したほうがいい。絶対にできるはずなんです。その根底にもちたい、みんなで大事にしたい考え方が、「リジェネラティブデザイン」であるという提案です。ずいぶんと大きな話になってしまいましたが、ぜひ書籍『リジェネラティブデザイン』を手に取ってみていただけたら嬉しいです。

書籍をみながら、「どうしたらこの考えを社会に浸透させることができるか?」をみんなで議論。すぐに答えはでないけれど、「小さな単位で実践」「長い時間軸で捉える」などの意見がでた。この本を片手に、小さな自治の探究がはじまっていく
(対談ここまで)
グリーンズの書籍『リジェネラティブデザイン――人が関わるほど自然も再生する暮らし、ビジネス、社会のあり方を求めて』は、書店にて販売中!
greenz.jp編・著/英治出版
グリーンズが考える「リジェネラティブデザイン」とは『自然環境の再生と同時に、社会と私たち自身もすこやかさを取り戻す仕組みをつくること』。
2023年からスタートしたgreenz.jpの連載「リジェネラティブデザイン」では、全国の環境再生の実践者を取材しながら、再生の担い手になるためのヒントを探究してきました。
書籍化にあたり、40以上の記事の中から22の事例をあらためて紐解き、7つのデザインコードを軸に編集長自ら再編集・加筆。実践者のみなさんの印象的な言葉も、数多く収録しています。
また、みなさんと一緒に、この書籍を通じて社会に「リジェネラティブデザイン」の考えを広げていきたいです。
お店や施設、イベントなどで販売したり、グリーンズのメンバーを呼んで講演やワークショップを開いたり。
仕入・購入に関しては出版元の「英治出版」へ、共創に関してはグリーンズへ、お気軽にお問い合わせください。
詳細は、以下の特設ページの最下部をご覧ください。






