都市になかなか緑が根付かないのはどうしてだと思いますか?
街路樹の伐採を目にするたびに「温暖化が深刻化する時代に逆行しているのではないか」という疑問を感じる方もいるかもしれません。しかし、街路樹の伐採は、老木化で内部が空洞化することによる倒木の危険回避や、根上がりによる路面の破壊などが理由であることも多いのが現実です。その根本的な原因は、大地がコンクリートで覆われた都市の生育環境にあるという樹木医もいます。
日々大量の排気ガスを浴び続け、伸びた枝は電線にぶつかります。水道管やガス管などと共存しなければならない地中では思い切り根を張ることもできません。都市に緑が根づかない理由は、目に見えない土の中も含めた過酷な環境にもあるのかもしれません。
そんな中、都市部でグリーンインフラの最適解を実践で導き出そうとしている人たちがいます。
東京渋谷区にある代々木上原駅から徒歩数分の住宅地に、すべての人に開かれた小さな森”アーバンシェアフォレスト”をつくっている「Comoris Urban Share Forest」のメンバーです。
彼らの取り組みがこれまでの都市緑化と根本的に異なるのは、景観をデザインするように木を植えて緑地を創出する従来のやり方ではなく、ネイチャーポジィティブの考えに基づき、”かつてそこに存在していた緑”の再生に取り組んでいること。
Comoris DAO共同主宰である南部隆一さんと小田木確郎さんに、この森を通じて成し遂げたいと考えている、都市におけるリジェネラティブデザインについてお話しを伺いました。
Comoris DAO 共同主宰。国際基督教大学卒。ロンドン大学ゴールドスミスカレッジ、東京大学にて修士取得。廣村デザインオフィスにて、グラフィックデザイナーとして勤務後、サービスデザインを軸としたデザインファームACTANTを設立。自然との共創をテーマにしたACTANT FOREST、システミックデザインクラブなど、新しいデザインのあり方を模索する各種プロジェクトを運営中。
株式会社BUSH 代表、Comoris DAO 共同主宰。プランナー(都市・建築)、一級建築士。1978年、茨城の田舎で生まれ育つ。建築設計や都市計画、まちづくりが専門分野。山林と都市をつなぎ、自然と共に生きるための場と仕組みのデザインや、自然の力を社会活動に活かすための様々な実験を行っている。
「都市緑化」と「都心に森をつくること」の根本的な違い
「Comoris」の立ち上げは、デザイナーである南部さんがデザインやブランディングのメソッドで自然環境に対して出来ることはないかと考え始めたのがきっかけだったそうです。
南部さん 僕はデザインという領域をちょっと批判的に見ていたんです。人は快適に暮らすために自然環境をコントロールして都市生活をデザインしてきたはずなのに、そこで不安や息苦しさを感じてもいる。もちろんデザインの力で社会課題を部分的に解決できるようにもなったけど、つながっているその先まで見ると、まだまだうまくバランスが取れていないと感じていたんです。
そういうデザインの方法って何だろうと思ったものの、どこにもなかったので、「とりあえず森に行こう」と行動し始めたのが、すべての始まりでした。
2019年、南部さんは株式会社ACTANTの名義で山梨県北杜市に1.3ヘクタールの森を購入。そこで小田木さんたちと立ち上げたのが「Comoris」の母体となる「ACTANT FOREST」というデザインラボでした。
南部さん 山梨の森では「デザインは自然環境にどうアプローチできるか」という実験をしていたんです。学んだ植樹の方法をデザイン的に解釈したりとか、土の中の微生物が発電するらしいと訊いて電力を取り出すデバイスをつくってもらったりとか。
行動の基礎になっていたのは、過去にグリーンズでもご紹介した高田宏臣さんが提唱する「土中環境」のまなざしだといいます。目に見えない土の中の水と空気の流れを健全にすることで、微生物がネットワークを広げ、木々の根が成長しやすくなる。「土中環境」を健やかにすることが、そこで生きる植物だけでなく、その土地で暮らす人びとにとっても安全で豊かな環境になるという考え方です。
小田木さん 人工物がない森に縁側をつくった時も、用いたのはコンクリートの基礎ではなく、高田さんから教わった「掘立柱」。縄文時代からある有機土木の構法です。炭焼きした杉の柱を、周囲に竹炭や落ち葉、木の枝などの有機物を詰めながら埋めることで、土中の水分と空気を動かし、菌糸が働きやすい環境を生み出すだけでなく、菌糸が柱と大地をしっかり結合し、結果的に構造物としての強度も増すんです。
二人はこうした山梨の森で体得したさまざまな知見を都心にインストールすれば、都市で暮らす人たちが土に触れる体験を通じて行動を変容し、やがてはそれが都市の環境改善につながっていくのではないかと考えるようになっていったそうです。
南部さん 最初は六本木のデザインミュージアムで作品展示という形でやってみたんですけど、美術館だと訪れる人が土に直接触れることができない。だったら美術館じゃなくてストリートに出ようと、2024年5月に代々木上原商店街にあった小さな空き地で実証実験として始めたのがアーバンシェアフォレスト「Comoris」なんです。
期間限定のコンセプトモデルとして誕生した「Comoris」には15人のシェアメンバーが参加。苗木を育てたり、誰でも自由に収穫できるハーブを植えたりしているうちに半年で「まちの森」と呼ばれるコミュニティスペースになりました。せっかくの場が閉鎖になるのを惜しんだ商店街の会長さんが近くの空いている土地を教えてくれたのを機に、2025年4月の「森の引っ越し」へとつながりました。
南部さん 再開発エリアは特にそうなんですけど、空き地や建物がなくなった後の土地って駐車場になってしまうことが多いんですね。経済合理性でいえば正しいんだけど、地域に暮らす人にとっては豊かなことではないんじゃないか。だったらみんなで出資して森をつくって、シェアという形で維持していく仕組みができれば、暮らす人にとっても環境にとっても良いんじゃないかという思いで取り組んでいます。
遠くに出かけずとも、広い庭がなくても、誰もが気軽に自然とふれあうことができる。そんな小さな森を都市の真ん中で育てることで、まちの生物多様性を豊かにし、都市で暮らす人びと自身も健やかになっていく。「Comoris」は都市で暮らす人びとだけでなく、まちで生きる多様な命とも「森の再生」をケアしていくことをシェアする“コモンズ”なのだといいます。
150年後に受け継がれていく森のデザイン
南部さん この空き地は、眼の前の細い道が暗渠(あんきょ/水面が見えないように蓋がされている水路や排水溝)で、大きい道には接道していなかったり、隣のビルの容積率の問題で建物が建てにくいという背景がありました。偶然、そういう“都市の隙間”が見つかったのも幸運でした。
新たな森づくりの場は路地に面し、三方を集合住宅や民家に囲まれた土地。当初は隣の庭先に植わっている大木が一本あるだけの空き地でした。
「この木を我々はマザーツリーと呼んでいます」と南部さん。森では、樹齢の長いマザーツリーの根が土中に菌糸のネットワークを張り巡らせて情報や物質を伝達。遠方の木々にまで炭素を始めとする栄養分や水分を供給することで森全体を育てていると言われています。南部さんたちはこの民家の大木をマザーツリーとしてケアしながら、森の土中環境を改善していこうと考えているそうです。
小田木さん 植樹に関しては『土中環境』の高田さんのお弟子さんにあたる稲村純一さんをアドバイザーに迎えてメンバーが参加するワークショップ形式でやっていきました。
当初は雨水も浸透しないほど固くなっていた土に、落ち葉と燻炭を漉き込んで苗木を植える。するとその木が根を伸ばして土をほぐしていくーー。土の中の通気と水の浸透が良くなるように根気よく手を入れていくそうです。
南部さん 基本的には、古くからこの地域に自生していた木や在来種を中心に植えています。近くの代々木八幡宮に縄文から続く森があるので、そこの潜在自然植生(※)を調べたりもしました。まったく新しい森をつくるよりも、かつてここにあった森を再生する方が150年後にも残っていく可能性が高いんじゃないかと。
※潜在自然植生…その土地における全ての人為的作用が停止したと仮定したときに、その土地の気候や立地条件によって理論的に成立する植生のこと。その土地が本来持っていた自然な樹木と捉えることができる。
そして2025年10月、東京のみどりを活かしたまちづくりを公民連携で進めるNPO法人Green Connection TOKYOと協力して「TOKYO ECOLOGICAL NETWORK」というプロジェクトを開始。Comorisに生物多様性に富んだビオトープをつくることになりました。
南部さん この下を流れているのは、1964年に暗渠になった宇田川なんですけど、ここから歩いて15分ぐらいの源流に行ったら湧水が残っていたんですね。そこにある昔の土の中には、きっと流域に自生していた植物の種が残っているはずなんです。種には50年から60年の寿命があるから今ならまだ埋もれていた種が発芽する可能性がある。ビオトープをつくることで、宇田川が暗渠になる前の流域植生がタイムカプセルのように甦る可能性があるんです。それってすごくないですか?
南部さんが興奮気味に話してくれました。確かに、流れていた川も流域の土も植生もすべてコンクリートで覆われた都市では、写真にも残っていないかつての自然環境を知るのは不可能に近いことです。
南部さん 昔の地図を見ると、ここが農地だったのはわかるんですけど、植生で記憶を手繰り寄せれば暗渠になってしまった宇田川流域の風景や文化まで見えてくるかもしれない。そういうアーバンビオトープをつくりたいと思っています。
もしも土があったら何したい?
小さな森の中ではメンバーのみなさんの手で、野菜や果物も育てられています。
小田木さん 森の中に畑の畝があるのがいいのか、森の中に作物が点在しているのがいいのかっていう議論になったんですけど、両方やってみようとなり、畑の畝では肥料も農薬も使わない自然農でトマトとコンパニオンプランツのバジルなどの夏野菜を、そして一見畑に見えない森の中でもカボチャやメロンを育てています。
実った野菜や果物は、たまたま通りかかったまちの人が自由に採取していけるようにしています。シェアメンバー以外の人たちにとっても、「Comorisを自然と接することのできるインターフェースにしたい」と南部さん。実際、たまたま散歩の途中でComorisを通りかかった女性が森で摘んだ大葉を持ち帰り、おにぎりに巻いて差し入れてくれたこともあったのだそう。
南部さん そういうコミュニケーションが生まれる仕掛けをデザインしていきたい。ハーブくらいはスーパーじゃなくて「Comoris」に摘みにくるような生活の変容が起きるといいなと思っています。
「Comoris」は、都心では数少ない「土に触れること」のできる場所でもあります。子どもたちが砂場でトンネルや泥団子をつくるのと同じように、野菜を育てるだけじゃない「土を使ってやりたかったこと」を、さまざまな人に開いた「グリーンリビングラボ」として、デザイン的な実験やアート作品の形で展開しています。
森に入ってすぐ目についたのは、落ち葉を詰め込んだスーパーの買い物かごが幾重にも重ねられ、その中で木々が育っている光景でした。これは、環境改善活動家の今西友起さんと一緒につくった、「バスケットプランター」なるものだそう。
スーパーの買い物かごの形状と構造が、土中の水と空気の流れと同じ環境をつくり出すのにぴったりだという気づきから生まれたこのプランター。やってみると、菌糸と植物がすくすく育ったそうです。また、重ねることで落ち葉が圧縮され、堆肥化のスピードも早くなるのだとか。今は地植えする前の苗床として使っているそうです。
南部さん 農大の先生に話したら、確かに理に叶っているねって。スーパーマーケットっていう食品流通の出口で使われているものが食材を育てるのに最適っていう発想が面白いし、循環している感じもある。これは実験であり、メッセージ性のあるアート作品なんです。
入口に立てられた「Comoris」のポールサインにも、デザイン性と土中環境の改善を両立するための工夫があります。
南部さん 下の焦げている部分は「焼き杭」といって、昔の里山の水際で、水止めが腐らないように使われていた技法です。地面に刺さっている炭の部分が微生物の住処になって、地中の空気と水がきちんと循環するようになる。環境負荷をかけるのではなく、土壌がより良くなるよう、はたらきかけているんです。
さらに、その横に立っているのは「うんちコンポスト」と書かれた謎のポールサイン。
小田木さん これは、慶應義塾大学SFCの学生さんが、犬がうんちやおしっこをする場所をデザインできないかと考え、つくった作品です。散歩中の犬にうんちやおしっこをしてもらうことで森や畑の堆肥になる。その堆肥で育った野菜を地域の人が採取していく。都市部ではペットの糞尿を飼い主が処理しないと問題になるけど、森があることで地域で暮らす人とペットを交えた循環が生まれていくんです。
また、法政大学のある学生さんは、「Comoris」の土の中に6週間、洋服を埋めたそうです。分解者である微生物とのコラボレーションでダメージファッションを製作する実験的なアート作品。服にハチミツを塗って分解されやすいような工夫もしたのだとか。反体制的な思想がルーツにあるパンクファッションをオーガニックで表現するという発想にもメッセージを感じました。
南部さん 服をただ土に埋めるだけのことが、大学の周りや公園では許可も下りないしできない。不法投棄扱いになっちゃうんです。よく考えると能動的に行動できる自然って都市にはないんですよね。レンタル農園を借りれば土はあるけどパブリックな場所ではない。そもそも野菜を育てるだけでそこまで多様なことはできない。誰もが自由に土に触れ、それぞれの行動変容につながるような体験にはならないんです。
自由に触れられる森や土がまちにあることで、すべての生きものが暮らしやすくなるのかもしれないと思いました。都市で暮らしてきたわたしたちはコンクリートで地球と分断されていたのかもしれない、とも。
一人ひとりが森を維持していく分散型自律組織
2025年6月現在、「Comoris」は30代から40代を中心とする20人のシェアメンバーと5人の事務局スタッフの計25人で運営されています。もともと何の関わりもなかった人たちが「都心に森をつくる」という同じ旗印の下に集まったそうです。子どもを土に触れさせたかった、企業でサステナビリティに取り組んでいるけど現場で土に触れる機会がなかった…など、参加の理由はさまざま。
運営の意思決定にも関われるNFT(※)を持ったシェアメンバーは、専用のオンラインコミュニティ(Discord)でコミュニケーションを取りながら、それぞれが担当する場所の世話をした後にケアポイントを送り合ったり、トークンを交換したりするような、特定の管理者を置かずコミュニティで意思決定を行う分散型自律組織(DAO)として運営を行っています。
※NFT:資産価値をもつ、唯一無二のデジタルデータ。ブロックチェーン技術により所有権の透明性が保証されている
南部さん 「Code for Japan」というシビックテック団体が作った「Toban-当番-」というシステムとのコラボレーションで組織運営をしています。コミュニティのみんなでタスクをマネジメントして、ケアポイントを送り合う、ゆるい当番制です。
小田木さん 水やりも毎日誰かが来てやるようにしています。自動灌水にするのは簡単なんですけど、そうすると森と距離ができてしまう。毎日誰かが森を訪れることで「この花が咲いてました!」なんて報告もDiscordで共有される。そういう日々の小さな発見こそが生活圏内に自然があることの醍醐味なんじゃないでしょうか。
南部さん こういう場所をきちんと維持していくのって、ボトムアップでやった方が効果的なんじゃないかと感じています。都市に植樹しても維持管理のコストがかかるので、行政が主体になると15年以上続いた事例が少ないという世界的な統計もある。森というのは150年ぐらいでようやく形になるものなので、地域の人が主体となって受け継いでいく仕組みの方が長期的に考えるとうまくいくんじゃないかなと。
分散型自律組織という、「Comoris」の森の運営システムの最適解が、里山ではなく都心で生まれたものだというのをとても興味深く感じました。地方には里山の保全活動や地域の人びとの助け合いによって棚田などを守っているケースが数多くありますが、特定の誰かだけに作業が偏ってしまい、決してうまく行っているところばかりではないと聞いていたからです。
南部さん 山梨の森で経験したことを都心にインストールした「Comoris」の運営システムを、全国の里山に逆輸入できたら、社会的な価値としても素晴らしいことなんじゃないですかね。
そんな未来ビジョンを語ってくれた南部さん。実は、期間限定のコンセプトモデルとして代々木上原に小さな森を誕生させた当初から、「Comoris」をひとつのデザインパッケージとして、首都圏をはじめ全国の都市にインストールしていくことを目標にしていたのだそうです。すでに首都圏を中心に、企業や団体から声が掛かっており、ゆくゆくは「Comoris」が都市の隙間にいくつも生まれ、FabLabのようになっていくのが目指しているゴールだといいます。
「Comoris」とは「小さな森(コモリ)」の集合体
「Comoris」とは「小さな森」すなわち”コモリ”の複数形。つまり、こうした小さな森が都市の隙間を埋め尽くしていくことで初めて「Comoris」になるというのが当初からのビジョンだそうです。そうなれば、都市の中で小さな森と森の間を、多様な生きものたちが行き来することもできるようになります。
また、運営メンバーでやりとりしているトークンをデジタル地域通貨にしていくことも考えているとか。
南部さん それぞれの地域の植生に根ざした個性的な「Comoris」が増えてネットワーク化していけば、収穫物の物々交換のようなコミュニケーションも生まれるんじゃないかと。そういう自然資本の交換にトークンを使うことで、円や資本主義と違うレイヤーに「Comoris経済圏」のようなものができていき、都市にいても、何かあったときにグローバルなサプライチェーンに依存せず生き延びていける可能性が高まるんじゃないかと思っているんです。
小さな森のネットワークをつくることで、田舎の自給自足のようなことが可能になればいいなと。ゆくゆくは首都圏近郊の漁師町などにもネットワークを広げ、魚なんかもトークンで手に入るような未来を思い描いています。

この日はシチズンサイエンスを行う団体「Code for ground」のメンバーがComorisへきて、土中環境の状態を測るべく、さまざまな実験を行っていた。電極とライトとをつなぎ、地中の菌糸ネットワークの状態を測る実験では、電極を持ったメンバーを起点にみんなで手をつなぎ、南部さんが土を触ることでライトが点くかどうかを検証。点灯とともにそこにいた全員が笑顔になった
最後に、個人的に一番気になっていた質問をしてみました。それは、この土地の税法上の用途がどうなっているのかということ。宅地なのか、森林なのか、生産緑地なのかで固定資産税は大きく変わってきます。環境保全に資する森林と生産緑地であれば、税金の優遇措置を受けられます。もしもComorisが森林か、生産緑地として認められていれば、地価の高い都心でも、もっとこうした小さな森が増えて行く可能性があると思ったのです。しかし——。
「宅地ですね」 と、南部さんは苦笑いで言いました。
南部さん かといって、最初から行政に相談するとスピードが鈍るじゃないですか。だからまずは自分たちの力でやる。既成事実をつくるんです。そうすればいずれ「この土地は税法上何だろう?本当に宅地なんだろうか?」という議論も始まるんじゃないかと。いや、始めてもらわないと。
欧州の国々が参加する「EUミッション」では、リビングラボのプロジェクトで100箇所の対象地の土壌の健全性回復と保護のために約9000万ユーロを投資しています。同じようなことが日本では当分起きそうにないので、ストリートからやるって感じです。
ストリートから東京の「土中環境」を変えていく。南部さんの言葉からは、強い意志を感じました。
小田木さん 僕は、都市生活者の中の“野生”みたいなものが著しく下がっているところに危機感を抱いていたので、自分も含め、都市に飼い慣らされた人間がどうやったら野生を取り戻せるのか、取り戻すためにはこういう場所が必要なのではないか、という考えで「Comoris」をやってきましたけど、明らかに変わってきている実感がありますね。自分だけでなく、シェアメンバーや周囲の人たちも。
健やかな森を育むことで、その土地で暮らす人の行動も変わっていく。これには南部さんも頷きます。
南部さん そうそう。例えば落ち葉が溜まると、普通はみんな嫌がるじゃないですか。隣の木の落ち葉が自分の家の前の道に落ちていたら、「誰が掃除するんだ」ってなるのがこれまででしたけど、森で土中環境の改善をしていると落ち葉は宝物なんです。去年「Comoris」を始めたときは遠巻きに見ていただけの商店街の会長さんが、半年後には「会費の返礼品です」って庭で掃いて集めた落ち葉を持ってきてくれたんです。あぁ、伝わったんだなと思った。そういう変容が起きたのがすごくうれしかったです。
小さな森があちこちに生まれることで、土中の菌糸ネットワークのように東京が結ばれていく。コンクリートで地球と分断されていた都市に風が吹き、土の匂いを運んでいく。「Comoris」の活動には、都市におけるリジェネラティブデザインの大きなヒントをもらえた気がします。
Comorisのみなさんが取り組んでいるように、都心に現存するマザーツリーを中心に、人が手を入れて土中の環境が改善されていけば、いずれは街路樹の寿命も延び、豊かな緑が根づく東京に変わっていくことができるのかもしれません。
(撮影:イワイコオイチ)
(編集:村崎恭子)























