日本本土の最南端・鹿児島では、あらゆる垣根を超えて、多様な人が全国・全世界から集い、これからの社会のあり方を問い、共に未来を創造する場として『薩摩会議』が2022年から開催されています。
それは単なるフォーラムではなく、全国津々浦々で活躍している実践者同士が深い繋がりをつくり、次々と新しいプロジェクトが生まれる場にもなっているのです。
グリーンズでは薩摩会議の発端や、ここまでの熱狂が生まれている理由などについて『NPO法人薩摩リーダーシップフォーラムSELF』(以下:SELF)共同代表3人のうち野崎恭平(のざき・きょうへい)さんと古川理沙(ふるかわ・りさ)さんにお話を聞き、インタビュー記事として1年前に公開しました(昨年のインタビュー記事はこちら)。
そして、2025年。昨年に引き続き、離島を含めた鹿児島県内12地域と宮崎県内1地域、合計13地域におけるローカルセッション(選択制)をコンテンツに含めた『薩摩会議2025』の開催が決まり、着々と準備が進められています。
今回は前回開催時の振り返りやその後の動き、今年の薩摩会議に期待すること、そして、薩摩会議を通して何を大切にしてきているのか。それらを野崎さんと古川さんに聞きました。
みんなでつくる、薩摩会議を自分ごと化できる時間
まずは昨年の振り返りから。薩摩会議2024は過去2回の開催を踏まえ大きな変化が一つありました。それは、DAY2のみ、会場を飛び出し、離島を含んだ県内10地域を舞台にローカルセッションを行ったこと。
「せっかく鹿児島まで来てもらっているのに、3日間を会場内で全て完結させてしまうのはもったいない。鹿児島でしか、薩摩会議でしかできないカンファレンスにしよう」
そんな野崎さんの思いから行われたローカルセッションでしたが、当日は悪天候に見舞われ、どの地域も予定変更を余儀なくされる、過酷な状況だったといいます。
野崎さん どの地域も予定していたプログラムを変更し、臨機応変に対応していったので、ホスト側(地域側)は非常に大変だったと聞いています。僕たち事務局側も正直てんやわんやでした。でも、不思議とホスト側からも参加者側からもネガティブな声は出てこなかったんです。予定調和じゃない分、ホスト側だけでなく、参加者も含めて「みんなで」その場をつくれた時間だったこと。各地域で覚悟をもって事業をされているみなさんのリアリティに触れられたこと。それが両者の高評価につながっていると思います。
昨年の薩摩会議の参加者は約400名。それだけの人数が一つの会場に集まると、通常のイベントであれば参加者同士で新しいつながりをつくったり、濃い時間を共有するのは難しいイメージがあります。しかし、薩摩会議ではそのイメージを覆すような動きが生まれていたといいます。
たとえば、ローカルセッションで同じ時間を共有した参加者同士がプライベートの時間を利用して、別のローカルセッション先へ訪れ、ホストや地域の人と交流する、もしくは、一緒に仕事をするなど、薩摩会議が終わった後でも濃い関係性をもつ人が増えてきているのだとか。その理由について古川さんはこう答えます。
古川さん 各ローカルセッションの定員は40人です。それぐらいの規模で一日一緒に過ごすことで、非常に強いつながりがある仲間が生まれ、そのままDAY3に臨むと「あの人とは興味関心が近いんだな」と思えたり、そこから「別の地域のフィールドワーク先の現状を知りたいから今度一緒に行こうよ」というようなことが起きてきます。参加者同士がきちんと顔と名前が一致するカタチでつながりができるのは、薩摩会議を自分ごと化するための良い設計だと思っています。
「地域の主体性」 × 「全国から集まったリソース」で生まれるもの
6月上旬。薩摩会議2025の情報が一部公開され、その中でDAY2「ローカルセッション」について初めて公募することが明らかになりました。その背景について野崎さんはこのように語ります。
野崎さん 昨年のローカルセッションはSELFからお声がけをした各地域にホストをお願いしていたんです。でも、昨年の薩摩会議が終わってからすぐ「来年は公募にする」と僕はSELFのメンバーに伝えました。僕らからお声がけしてしまうと主体はどうしても僕らになってしまいます。ローカルセッションを各地域に分散開催しているのは、全国から集まった多様なリソースを持った人たちが、その地域のモノ・コト・ヒトとつながって、新しい何かが自然に生まれていく未来を期待しているからです。だからこそ「薩摩会議と組むことで新しい何かが生まれるのではないか?」という思いで各地域のみなさんから手を挙げてもらって、ホスト側に主体性を持ってもらえることが大事だと思い、公募に踏み切りました。

第1回の薩摩会議2022から受付といった裏方サポートはSELFメンバー自ら行っている。メンバーができる力を出し合い、3日間のカンファレンスを盛り上げている(写真提供:NPO法人薩摩リーダーシップフォーラムSELF)
公募の結果、今年は離島含む鹿児島県内の12地域と県境を越えた宮崎県内1地域、合計13地域にてローカルセッションが行われることに。そのうち6地域(阿久根・甑島・屋久島・湯之元・小浜・新留)は昨年に続き、2回目の参戦になっています。
たとえば、小平勘太さん(小平株式会社・代表取締役)がホストを務めた湯之元では昨年のローカルセッション後、小平さんや地域が一体となり多くのことにチャレンジしてきたといいます。その結果、「FUTURE LENS」(※)という社会課題解決促進を目指すプログラムにて、全国で3つしか採択されない地域に選ばれたそう。その流れで今年は「地域経営」をテーマにローカルセッションを行うといいます。
(※)日建設計の共創プラットフォームであるPYNTの活動の一環として始動した、地域の社会起業家との共創で社会課題解決促進を目指すプログラム。
また、古川さんがホストを務めた新留では湯之元とは違った、本人も予想もしなかった動きがこの1年であったのだとか。
古川さん 実は昨年の新留のローカルセッションに当時中学生2年だった次女が参加し、そこから彼女の人生は大きく変わったんです。ゲストだった森田秀之さん(都城市図書館)との出会いがきっかけで農業を始め、今では1ヘクタールの田畑で農作業をする日々です。DAY3冒頭では300人以上の参加者の前で「私は農業を始めます!」と宣言までしました。そんな娘は、今年は新留セッションのホストを務めることになっています。
また、公募したことによって新しい発見があったと野崎さんは嬉しそうに語ります。
野崎さん 公募したことによって、ホスト側の熱量の高さに驚かされました。彼らが薩摩会議に対して期待してくださっていることもですし、参加者のみなさんにお見せしたいと思える誇れる地域が鹿児島にはこんなにあるのかと思うと嬉しい気持ちになりました。昨年はホスト側だったけれど、今年は公募がなかった地域にも動きはあります。たとえば、齊藤智彦さん(合作株式会社・代表取締役)がホストを務めた大崎町では、ゲストとして迎えた方々と一緒に今年は町内でデザインプログラム「3-Day Designing Camp」の開催が決まり、それに向けて動き出しています。なので、公募があった地域もなかった地域も、昨年のローカルセッションを受けて、それぞれのフェーズに向けてチャレンジしているんだと感じました。

2025年度に株式会社KESIKIとともに「3-Day Designing Camp」を開催する株式会社KESIKIの九法崇雄さんは、薩摩会議DAY2 大崎ローカルセッションのゲストを務めた(写真提供:大崎町SDGs推進協議会)
道は邇(ちか)きに在り
薩摩会議2025の情報公開前のこと。鹿屋市で行った企画合宿で「SELFとは何か」「SELFの現在地はどこか」「自分たちの価値を最大化した時にどんなことができうるか」など、SELFのやるべきこと、薩摩会議の意義や可能性について議論を重ねたといいます。
それらを紐解く上で自身が考えたマトリョーシカ(※)理論を提示したという古川さんは、人や組織の成長を考える上で最も大切なのは「工程が少なくても最初から最後まで一人で完結できることを確実に増やす」ことだと語ります。
古川さん マトリョーシカでたとえるなら、一番小さいサイズでいいので、完成形としてのマトリョーシカを持っているかどうかがとても重要です。これがないままに、マトリョーシカのパーツばかり多く集めても、全体像や完成形はなかなか見えてきません。でも、小さなマトリョーシカを持っている人は、他のサイズのマトリョーシカであっても、パーツを手にしただけで、足りない部分の構造が見えたり、完成図がイメージできたりします。
(※)マトリョーシカは、胴体が上下に分割でき、分割した中からさらに小さな人形が出てくる入れ子構造になっている。
マトリョーシカ理論を用いて議論していくうちに辿り着いたのが薩摩会議DAY2の価値。鹿児島というローカルの中で日々起きている出来事の全てが「ぐるっとした一周した営み・生態系」として完結している小さなマトリョーシカではないかと考えたというのです。
古川さん カタチとしては小さいかもしれませんが、非常に高密度で豊かな構造が息づいています。都市部の大きなマトリョーシカ(大企業)の中のパーツを担っている方々にとっては、完成されたリアルな縮図として小さなマトリョーシカ(DAY2のホストエリアの営み)を手に入れることが大きな価値になりますし、ホスト側や私たちにとっては大きなマトリョーシカのパーツに触れられることが価値になります。
そして、他のローカルの小さなマトリョーシカにとっては、自分たちの姿を構造としてくっきりと浮かび上がらせる鏡の役割を果たすと考えています。結局、本質は遠くではなく、自分たちの足元にこそ宿るのではないか。それが薩摩会議DAY2の価値でもあるし、3日間を通して私たちもホスト側も参加者もその気づきを得ることができたらと思い、今年のテーマは「道は邇(ちか)きに在り」にしました。”
一人ひとりが強い軸を持ちながら土壌を耕し、鹿児島の地に根ざしたイノベーションを
薩摩会議だけでなく、SELFの活動も含めた事業やプロジェクトなど、それらを通して何を実現しようとしているのか。そこで見出した答えが「Satsuma Open Innovation Lab(通称:SOIL ソイル)」だといいます。SOILとは、さまざまなフィールドの“現場に宿る知”を掘り起こし、異なる専門性をもった研究者、企業とともに言語化・構造化し、越境的に共有しうる知へと再編集するプロジェクトのこと。地域のプレイヤーや多領域の研究者、首都圏の企業と共創し、実践と知、地域と社会、個人と組織が交わる“土壌”を目指しています。SOILに辿り着いた背景について野崎さんはこのように答えます。
野崎さん 僕らがやってきていることは何なのか。その問いを突き詰めていた結果、僕らは「土壌を耕している」のではないかと考えたんです。そこで、地に根ざしたイノベーションが集積する「未来創造のフィールド」、鹿児島をSELFのビジョンとして掲げることしました。それは小さなマトリョーシカだからこそ掲げられるビジョンですし、そのイノベーションを可視化・構造化していきたいと思っています。
昨年の薩摩会議から約1年。野崎さんにとっても、古川さんにとっても、そして、ホストとして関わった地域側にとっても足元を見つめながら本質を見極め、次のフェーズへと、それぞれにアクションを起こしてきた時間のように思えます。最後に、薩摩会議を続けていく中で二人が大切にしていることを聞くと、こんなふうに答えてくれました。
古川さん 「日本のため」や「世界のため」といった個人を置き去りにした場の設計を薩摩会議ではしていません。どこまでも強い「私(個人)」を主語にしているからこそ、結果的に面白くあり続けられますし、結果的に「みんなのため」になったんだと思います。回を重ねるごとに事務局だけでなく、参加者やゲストのみなさんも「強い意志」と「強い私」を持って、薩摩会議の場をつくろうとしてくれているのを感じます。だからこそ、このまま「自分たちのため」にやり続けようという気持ちでいます。
野崎さん 惰性では薩摩会議を開催したくないと強く思っていて、「その年に開催するからこそ意味があることを体現する」のを毎年意識しています。第1回から、僕らがやっているのではなく「みんなでやっている」感覚があります。薩摩会議という装置を使って、この時代の転換期に、これからの新しい時代の社会のあり方を探求して、新しい動きをつくっていきたい。回を重ねるごとにその気持ちはどんどん強くなっています。
「150年後の世界に、私たちは何を遺すのか。」
壮大に感じるこのテーマを耳にしたり、世界中や全国から多様な人が集まった熱狂を目の当たりにすると、人によっては重く捉えてしまうこともあるかもしれません。
でも、薩摩会議という場は、一人ひとりの足元を見つめなおし「個」という本質を見出すことを大切にしている。
それは、世界中の誰もが必要とする時間なのではないかと感じました。
強い思いを持った「個」が集まり、化学反応を起こすことにより、それが結果としてまちや地域、世界を変えていく力になっていくのかもしれない。
そう思うと、薩摩会議がとても優しく、温かく、身近な存在のように感じることができました。
まずは自分自身の足元を見つめなおすという目的だけでも参加する意義はあるのではないでしょうか。9月21~23日は薩摩の地へ足を運び、鹿児島の地に根付いたイノベーションを、ぜひ肌で感じてみてください。

(編集:増村江利子)
– INFORMATION –
greenz.jp読者向けの割引クーポン「greenz2025」で5%OFF!
一般チケットを購入の際、割引クーポンをご記入ください◎
薩摩会議でお会いしましょう!
【薩摩会議2025 Webサイト】
https://satsuma-kaigi.jp/
【チケット購入サイト】
https://satsuma-kaigi2025.peatix.com/
【企業協賛について】
■サポーター種別・特典について
①プレミアムサポーター(100万円):
・会場での3分間のピッチ機会のご提供
・DAY3でのブース出展権
・参加者全員へのチラシ配布(封入)権
・当日パンフレットへの社名、ロゴ掲載
・3日間通し参加チケット 最大3名までご招待
※ご希望により『薩摩会議2025』の運営スタッフとして参画できます。
②ゴールドサポーター(50万円):
・参加者全員へのチラシ配布(封入)権
・当日パンフレットへの社名、ロゴ掲載
・3日間通し参加チケット 最大2名までご招待
※ご希望により『薩摩会議2025』の運営スタッフとして参画できます。
③シルバーサポーター(20万円):
・当日パンフレットへの社名、ロゴ掲載
・3日間通し参加チケット 最大1名までご招待
※ご希望により『薩摩会議2025』の運営スタッフとして参画できます。
【SOILインパクトパートナーについて】
SOIL(Satsuma Open Innovation Lab)は、薩摩会議を起点とした「地に根ざしたイノベーション」の種が芽吹くイノベーションプログラムです。
「150年後の世界に、私たちは何を遺すのか」という問いと薩摩会議を旗印に集う企業(大企業、スタートアップ)・研究機関と、地域の事業家や活動家が有機的につながり合い、これまでSELFが耕してきたエコシステム=豊かな関係性の土壌から、地に根ざしたイノベーションを次々と生み出していきます。
SOLIインパクトパートナーとは、SOILが展開する、地域 × 企業 × 研究者による“知の共創と社会実装”の仕組みに、 企業として参画・伴走いただく枠組みです。
▼年間費用:300万円
▼薩摩会議での特典:
・スポンサーとしてロゴ掲載(Web・資料等)
・薩摩会議3日間参加チケット×5枚
・当日3分間の自社PRピッチ枠(任意)
・チラシ封入・物販等プロモーション枠(任意)
▼SOILプログラムへの年間参加(人材育成・連携機会):
・研究者・地域実践者とともに1年間の知の共創プロセスに参加
※現地への交通費、宿泊費は年間費用に含まず
・現場フィールドへの派遣/対話型人材育成プログラムとしても活用可能
・SOIL成果物(報告書・映像等)へのロゴ掲載、アクセス
▼こんな企業におすすめです:
・地域との持続的な関係づくりに関心がある
・社会価値のあるフィールドで社員を育てたい
・多様な実践・研究者とのネットワークを広げたい
・自社の技術・視点を社会実装につなげたい

















