日常生活を営む上で欠かせない、電気。コンセントにつなげば簡単に享受できることが、当たり前のように思われます。しかし、災害や限りある資源の枯渇、また世界情勢の悪化によっても、その“当たり前”がいとも簡単に揺らぐことを、私たちはすでに経験しています。
そのような状況を背景に近年注目されるのが、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスなど、自然の中で繰り返し利用できる「再生可能エネルギー」です。太陽光パネルや風車の設置は日本各地で進む一方で、環境への負荷や景観への影響、耐用年数の短さによる廃棄の問題なども避けられない課題となっています。
そんな中、自然との共生を図りながら、100年後を見据えて設計される発電があります。1891年、日本で最初に始まった再生可能エネルギーによる発電「小水力発電」。水力をエネルギー源とする水力発電の中でも、河川や農業用水路など既存の小規模な水流を利用し、数kW〜1,000kW以下の出力で運用される発電は小水力発電と呼ばれ、持続可能な未来を考える上で見直され始めています。
今年11月、「気候危機と小水力」をテーマに埼玉県で開催される「第10回 全国小水力発電大会」を前に、“古くて新しいエネルギー”とも呼ばれる小水力発電の可能性を探ります。
地域の暮らしと歴史に隣り合う発電
阿蘇外輪山の渓流を集めながら熊本平野に流れ、いくつかの支流と合流しながら、やがて有明海に注ぐ一級河川・菊池川。熊本県菊池市はその上流域にあたり、人口約46,500人が暮らしを営む、自然豊かな地域です。良質な温泉にも恵まれるまちの中心地から、車で7〜8分ほど山側に向かうと、民家や田畑が集まる集落の入り口に「こども水力発電所」の案内板が見えてきます。
あいにくの雨のなか、迎えてくれたのは株式会社リバー・ヴィレッジの村川友美さん。村川さんが代表を務めるリバー・ヴィレッジは、九州を中心に小水力発電に関する調査・設計コンサルティングに取り組んでいます。菊池市の戸豊水(とりゅうず)集落に設置された「こども水力発電所」は、リバー・ヴィレッジが開発・設計し、村川さんが新たに立ち上げた「一般社団法人こども水力発電所」が事業主体として運営する小水力発電です。
(株式会社リバー・ヴィレッジ代表/一社こども水力発電所代表理事)
長崎県生まれ、九州大学卒。九州大学工学研究院流域システム工学研究室より、2013年に株式会社リバー・ヴィレッジを設立。地域住民による地域のための小水力発電事業のコンサルタントとして、河川の流況調査から設計、組織形成・資金調達および建設のマネジメントまで地域の伴走支援を行う。これまでの経験から、小水力発電の開発を担う新しい仕組みとして「(一社)こども水力発電所」を発案。個人的には、息子や娘たちが生きる未来の日々が、自然と人・人と人との優しい関係性の中で成り立つ方法を模索中。
戸豊水集落は、約50世帯ほどが暮らす中山間地域。村川さんに続いて集落内の小道を進むと、ぽっかりと開けた公園のような空間が現れました。芝生の築山の奥には、まるで小さな現代美術館のような佇まいのコンクリート造りの小屋が覗いています。野鳥の声や、しとしとと降る雨が草木を揺らす音に紛れて、時折、ごぽっごぽっと、水が湧き上がるような低い音が小屋の中から微かに聞こえます。「発電所」と聞いて想像していた人工的で近づきづらいイメージとのギャップに驚きながら、どこか森林浴に来たかのような穏やかな気持ちになります。
村川さん この場所にはもともと空き家が建っていたんですが、発電所をつくるにあたって、家主さんや地域住民の方々の了承を得て解体しました。一般的に、水力発電所は民家から離れた立地につくられることがほとんどで、集落の中につくるというのは珍しいです。そもそも適地が少ないというのもありますが、音も出ますし、水を扱い、しかも電気が生まれるという危険物にもなり得るものなので。設計するに当たっては防音や安全対策をかなり考慮しています。
集落の中にあるこの場所にこども水力発電所がつくられた理由は、広場に設置された案内板にわかりやすく示されていました。
豊かな水を湛える菊池川から戸豊水集落までは、約5kmに渡って、江戸時代に開削された農業用水路「古川兵戸井手(ふるかわひょうどいで)」が流れています。かつて水に恵まれず貧しい暮らしにあった住民たちが、この地域での生活を成り立たせるために計画し、手堀りで切り開いた農業用水路は今も現役で、周辺の田畑に水を注ぎ続けています。山に沿って標高の高いところを流れる水路は、途中で4つの集落に分岐し水を落としながら、最終地点の戸豊水集落に辿り着きます。戸豊水集落に分岐した後に余った水が約50m真下に勢いよく落ちるのが、まさに今、こども水力発電所が設置されている場所です。
水力発電において、電気を生み出すエネルギー(=水の力)は、「どのくらいの量の水が」「どのくらいの落差を持って落ちるか」の掛け合わせで決まります。余り水が勢いよく落ちる立地条件は、小水力発電の設置に適していたのです。とは言っても、あくまで農業用水としての利用が優先のため、発電所がフル稼働できるのは農閑期にあたる10月から4月までの限られた期間。それでも、予想される年間発電電力量は、約276,400kWh。これは、戸豊水集落の世帯数と同じ50世帯分(4人家族)の1年間の電気使用量に匹敵します。かつて、先人たちがこの地域で生き抜くために開削し、集落に水という資源をもたらした水路が、さらに今、小水力発電という新たな取り組みにもつながっているのです。
持続可能な地域は、持続可能なエネルギーでつくる
ここからは、こども水力発電所を一つの例に、さらに広く小水力発電についてお話を伺うべく、鹿児島県日置市を拠点に水力発電事業に取り組む、太陽ガス株式会社新エネルギー推進チーム、みずいろ電力株式会社代表取締役を兼務する及川斉志さんにも加わっていただきます。聞き手は、グリーンズ共同代表・植原正太郎です。
(全国小水力利用推進協議会理事、みずいろ電力株式会社代表取締役、太陽ガス株式会社)
ドイツフライブルク市のフライブルク大学に留学し、森林環境学・自然保護景観保全分野を勉強。ドイツ滞在中は野鳥保護のボランティアに従事した。ドイツ映画『シェーナウの想い』の日本語翻訳。帰国後、SATOEne㈱を設立し、市民共同発電所を運営する。現在は太陽ガス㈱に勤務。小水力発電所の開発と運用を担当(みずいろ電力㈱代表取締役)し、自然と人にやさしい水力発電所を増やしていくことに邁進中。その他、環境省の脱炭素まちづくりアドバイザー(水力発電)、全国小水力利用推進協議会理事。家族三人、猫三匹と鹿児島の古民家で暮らしている。
及川さん 私が勤める太陽ガスは、鹿児島県西部を拠点とする1975年創業のガス会社です。LPガスの販売を主な事業としながらも、2016年の電力小売自由化を契機に電力事業にも取り組んでいます。私自身は2012年に入社以来、電力事業を担当してきました。
電力の小売り事業を新たに立ち上げるにあたっては、当然、販売する電力をどこからどのように仕入れるかについても考える必要があります。ガス会社として地域の暮らしに密着した事業を行っているので、経営面でも会社として持続可能である必要がありますし、そのためにはエネルギー源としても持続可能なものを使っていきたい。そういう考えで、生産量が安定していて温室効果ガスをほとんど排出せず、発電設備の耐久性にも優れた水力発電に至りました。
現在は太陽ガスが出資するみずいろ電力の代表も務め、主に永吉川水力発電所(鹿児島県日置市)と泊野川水力発電所(鹿児島県さつま町)の2箇所の維持管理や、新たな水力発電所の開発に向けた調査などに取り組んでいます。
植原 及川さんは、“電力小売事業者”の立場から、小水力発電に関わっていらっしゃるんですね。及川さんが太陽ガスに入社した2012年は、会社としてまだ電力事業の立ち上げ前だったということですが、今、小水力発電に関わる仕事に就かれていることについて、どのように感じていますか?
及川さん 私はもともと再生可能エネルギーに関わる仕事を希望していたんですが、太陽ガスに入社する時点では、水力発電に関してほとんど知識がありませんでした。でも、子どもの頃から川遊びが大好きだったんです。名前に「川」も入っているし、「オイカワ」っていう魚もいますしね。だから今、川とともにある小水力発電に関われていることは、すごく楽しいです。
植原 村川さんは、どのような経緯でリバー・ヴィレッジを起業することに?
村川さん 私たちの会社は、九州大学の「河川工学」という分野の研究プロジェクトの1つから、研究の成果として生み出された会社なんです。河川工学は川そのものだけでなく、上流域から下流域まで、川を中心とした地域も研究の対象としていて、私たちの研究チームは川の上流域に当たる中山間地域の研究を行っていました。
各地域で地域資源をエネルギーとしてうまく活用することができれば、都市に過密化している人口を分散し、日本全体のエネルギーバランスを平準化できるのではないかというシミュレーションをもとに、中山間地域で人が生活し続けられるようにするためにはどうしたらよいかを研究していたんです。
植原 持続可能な地域をいかにつくることができるか。そのためには、地域資源を活用して必要なエネルギーを生み出せる仕組みや、そこに若い世代の仕事や産業が生まれることが必要だと。その基盤となり得る事業としての“小水力発電”という切り口だったんですね。
村川さん 小水力発電を地域の人が事業化するために、今何が足りていないのかを洗い出していくと、専門知識がない、ゆえに事業計画やファイナンスが組めない、地域の合意形成を取りまとめられる人がいないなど、課題は事業化できる“人”がいないということにあったんです。研究の結論として、小水力発電を地域に導入しそれを事業化できる人材を育てられるチームや会社が必要ということに行きついたら、研究室の先生に「だったら、その会社をあなたがつくらなきゃね!」と言われてしまいました。
植原 初めて聞く起業ストーリーです!
村川さん そんな経緯で始まったので、発電所というハードをつくるだけではなくて、何のためにそれをつくり、誰がどのように使い、その地域がどうなっていくのか、というソフトの面まで見通した小水力発電をつくるということにこだわっています。
地域住民が事業主体となるためには、できるだけ低コストで、さまざまな人が見守りながら手を加えられるような関わりしろが大切です。専門知識がないと扱えないような規模の大きなものは、いつかアンコントローラブルになってしまうので。技術面でも、協力してくれる企業などとチームを組んで、いかにヒューマンスケールの発電事業を実現できるかということを突き詰めています。
植原 持続可能な地域をつくるために水資源を活用する、という目的が先にあるからこそのアプローチですね。
村川さん スタッフやメンバーも、発電やエネルギーに関してはある意味素人で、専門知識がないところから学びあっています。先に専門知識があって「こうしなきゃいけない」に囚われていると過剰設計になりがちですが、私たちの場合は既成概念がないからこそ、緻密に計算し、本当に必要な範囲でのシンプルを突き詰められる。だからこそ、小水力発電という小さなスケールを成り立たせられるのだと思います。
自然とともに、学びあえる機会をひらく
植原 小水力発電は、地域住民が主体となって事業化できますが、そこにはどんな可能性を感じていますか?
村川さん 小水力発電を構成するのは、水資源、土木構造物、機械です。コンクリート製の土木構造物は何十年と持ちますし、機械は適切なメンテナンスをすれば長く利用できます。発電機は水が枯れない限り回り続けるので、要は、発電自体には人間が介入する余地が少ないんです。だからこそ、高齢化が進む地域でも、おじいちゃんおばあちゃんが事業主体を担うことができる。地域住民が事業主体の発電所や、こども水力発電所では、農業用水路の清掃や周辺の草刈り、広場の環境づくりなど、発電そのものというよりも周辺にこそ関わりしろがあります。実際にそういう実例を見ている中で、やり方によっては子どもでも事業主体になれるかもしれないし、もっといろんな人が発電事業に関わることができると考えています。

「こども水力発電所」は2025年1月に稼働開始。6月に開催されたオープン視察会には幼児から大人まで30名が集まり、発電所を見学したり周辺を歩いたりしながら、小水力発電の仕組みやこども水力発電所の取り組みを実際に見て学んだ(写真提供:こども水力発電所)
植原 村川さんはリバー・ヴィレッジとしてはコンサルタントの立場から小水力発電の開発に関わられていますが、今日見学させてもらった「こども水力発電所」では、新たに「一般社団法人こども水力発電所」を立ち上げて、初めて自ら事業主体となられていますね。
村川さん こども水力発電所は、子どもたちも主体として関われる学びの場にしたいという想いと、大人である私たちも年齢や立場に関係なく、みんな“こども”として生まれてきた一人ひとりとして尊重し合いながら、純粋な好奇心を育む場にしたいという思いを込めて名付けました。
「一般社団法人こども水力発電所」では、「こども水力発電所in戸豊水」の事業主体として発電事業を行いながら、こども水力発電所の目的に賛同し、活動を共につくりながら学びを深めていく個人や団体が会員になれるコミュニティも運営しています。会員は、こども水力発電所から派生する様々なプロジェクトや、勉強会などの学びの機会に参加したり、発電所の売電益(発電した電力を売却することで得られる利益)をどう使うか一緒に考えたり、活動報告を受け取ったりすることができます。
エネルギーや水資源は生命活動の根幹ですが、日常生活の中では、なかなかその存在に気づいたり、考えたりする機会がありません。こども水力発電所は、いろんな立場の人が、地域の内外から小水力発電に関われるプラットフォームになれたらと考えています。
及川さん 発電所の周りの広場の整備も、こども水力発電所としての取り組みの一貫ですか?
村川さん はい。発電だけではなくて、環境教育や地域の歴史も伝えられる場にしたくて。例えば、広場の端にある「雨庭」は、雨水をゆっくりと地中に浸透させることで洪水の抑制などにつながる仕組みです。芝生の築山は、菊池川流域に多くある装飾古墳にちなみ、「こふん」という愛称で呼ばれています。広場もいろんな切り口から学びあえる場にしたいと考えて、小さな工夫や実験を詰め込んでいますね。
植原 自然の中にある水資源を利用するからこそ、他の自然環境とも密接に関係していて、そこから学びを広げられることも小水力発電の特徴ですね。一方で、自然と密接であるがゆえに、様々な課題にも直面するのではないでしょうか。
村川さん 例えば最近だと、古川兵戸井手から発電所に水を落とす地点に、一時的に水を貯めるヘッドタンクと呼ばれる構造物を設置しているのですが、その除塵スクリーン(葉っぱなどのゴミを取り除く装置)の部分に藻が大量に発生して水の流れを悪くしていたんです。他の地域の施設では、水が流れている場所に藻が発生することはないので、全くの想定外でした。
突き止めてみると、なんと原因はコウモリ。古川兵戸井手は何ヶ所かトンネルの中を流れていますが、そこがコウモリの一大生息地になっていて、大量のコウモリのフンが水路に落ちるんですね。そのフンに含まれる硝酸塩が水に溶けて、藻を繁殖させる養分になっていたんです。
事業にとっては厄介な問題ですが、こども水力発電所のコミュニティの中でこれを学びのテーマにして、知識やアイデアを出し合ったり、メーカーの方との開発プロジェクトにつなげるようなこともやってみたいです。
及川さん 水資源という自然の恵みを使わせていただいく中で、人間だけが利益を得る開発ではなく、そこに生物も共に生きているという認識を持った社会をつくれるといいですよね。
100年先に残すものを今、設計する
及川さん 自然の恵みという観点から言うと、小売電気事業者の立場から見て、水力は発電する量が安定しているという魅力があります。同じ再生可能エネルギーでも、太陽光は天候に、風力は風の強弱によって発電できる電気量が変動しますが、水力は川の水が流れる限り安定的に発電することが可能です。
植原 でも最近は、豪雨や線状降水帯の発生といった気候変動による異常気象も増えていますよね。
及川さん そうですね。発電事業者としては、水量が増えて発電量が上がることはありがたい“自然の恵み”ですが、極端な雨の降り方は災害リスクの方が高いです。やはり気候変動というのも、今の社会が利益を追求しすぎた中で起きている問題だと思います。人間が利益を得るために自然を搾取して、それによって環境破壊が起こり、気候変動につながっていますよね。
村川さん 自然の恵みとリスクが隣り合わせであることは、小水力発電をやっていると痛感します。自然と共生するためのバランスと、事業としてのコストのバランスを、両方考えないといけないことが多くて難しいですね。
植原 東日本大震災以降、再生可能エネルギーへの意識が高まりメガソーラーなどの導入も進んできましたが、耐用年数を過ぎた太陽光パネルの廃棄の問題なども認識され始めています。一方で水力発電は耐用年数が長い、つまり持続性の面でもメリットがあると聞きますが、実際に長く使われている水力発電所は何年くらい使い続けられているんでしょうか?
及川さん 日本初の事業用水力発電所である京都の蹴上発電所は1891年に運転を開始して、135年経った今でも設備を更新しながら現役で稼働しています。他にも、100年近く使われている水力発電所は全国各地にあります。機械を適切にメンテナンスすれば半永久的に使い続けられるものなので、できるだけ次の世代に恩恵があるものを残したいと思いますね。
村川さん 設計する立場としては、次世代に残るものをつくることへの責任も強く感じます。それだけ長く残るということは、私たちの世代だけでは終えられないということです。
植原 恩恵を受けるのも、皺寄せを受けるのも、子の世代、孫の世代になるということですね。林業に近い考え方だなと思いました。今の世代が植えた苗木を伐採できるのは次の世代、あるいは次の次の世代というような。
村川さん 林業にすごく近いと思います!さらに、地域住民や、こども水力発電所のように新たな事業主体を立ち上げる場合は、ハードの耐久性だけでなく、事業主体としてのコミュニティをいかに持続させていくかも考えなければなりません。そういう意味でも、小水力発電は長い時間軸で見る必要がある事業です。
小水力に必要なのは、日常の“つくり手”になる想像力
植原 小水力発電は、自然との共生と事業性のバランス、地域の文脈を捉えながら取り組むこと、さらに長い時間軸を見据えて設計・運営することまで、多角的な視点が必要ですが、その分とてもやりがいがある分野だとも感じました。小水力に関わる若い世代は増えていますか?
村川さん 若手はまだ少ないと思います。特に、私たちのようないわゆる技術者と呼ばれる職種に関しては、小水力に限らず若い世代が減っているという現状があります。その中でも水力発電は、土木・機械・電気など複合的な知識や技術を身につける必要があります。分野ごとの技術者はいても、それらをトータルで設計できる技術者が少ないんです。
及川さん でも、リバー・ヴィレッジは若い人が多いですよね。
村川さん うちは20代、30代がメインですが、最初から専門的な知識や技術を持って入ってくる人はいません。会社自体がある意味、実践を通した学びの場になっていると思います。各地でフィールドワークをしながら検証を重ねて設計して、完成した後も終わりではなく、どんどん手を加えていく。それを繰り返すなかで、一人ひとりの知識や経験も増えて、設計の精度も良くなっていく。
本来、学ぶということは、好奇心を刺激されて、楽しみながら経験を重ねる中で知識が形になっていくことだと考えていて。そういう学びの機会を、会社の中だけでなく、より広くいろんな人たちに対して開きたいという思いも、こども水力発電所を立ち上げた背景の一つです。
植原 ここまで話を聞いてきて、村川さんや及川さんのように小水力発電に関わる職業は、クリエイティブな仕事だと実感しました。地域の文脈や歴史、自然環境を深く理解した上で、ではこの場所ではどういうものがつくれるかをゼロから考えるという、想像力が試される仕事。そういう仕事だからこそ、その人が持つ想像力が発揮されるのだろうとも思います。
村川さん 「つくる」ということは、クリエイティブの延長線上にあります。ものをつくる背景にはその人の考えや思想があって、それをどういう形で表現するかが「つくる」ということ。ただ発電所という機能をつくるのではなく、どうしたらいろいろな地域で私たちが私たちらしく生きられるか、ということを表現したくて、発電所をつくっています。
一人ひとりが、「こうあったらいいな」と思う日常をつくることができる“つくり手”の感覚を持つことが、気候変動しかり、日本や世界が直面している様々な課題を良い方向に変えていくと思います。そういう柔らかい発想を持ってチャレンジできる人が社会に増えていくと、エネルギー事業や小水力発電のような、一部の人しか関われない・関係がないと思われがちな分野も、垣根が低くなって、いろんな人がいろんなかたちで関われるようになる。それが今、必要だと思っています。
植原 お話を聞いて、小水力発電そのものの魅力や可能性はもちろん、様々な切り口から誰もが関わりを持てる学びのプラットフォームとしての小水力発電についても、解像度が上がりました。お二人のように仕事として小水力に関わるということももちろんですが、こども水力発電所が運営するコミュニティにオンラインや現地で参加したり、小水力発電について学べる場に足を運んでみることからでも、小水力との関わりは始められそうですね。
及川さん 11月に開催する全国小水力発電大会は、「気候危機と小水力」というテーマで開催します。先ほども話に上がったように、今、気候変動は誰しもに関わる喫緊の課題です。小水力発電は、気候危機対策にも有効な発電方法の一つなので、そういう観点からも興味を持ってくれる若い世代にぜひ参加してもらいたいですね。小水力発電に関わる企業や団体の取り組みを広く知ることができるので、いろいろな気づきや発見があると思いますし、その先に選択肢の一つとして、小水力発電に関わる仕事も見えてくるといいなと思います。
撮影:柚上顕次郎
編集:キムラユキ
– INFORMATION –
《気候危機時代の小水力発電の可能性 〜 水資源をいかした持続可能なエネルギーのつくりかた》
《全国小水力利用推進協議会創立20周年記念 気候危機と小水力 〜これまでの20年 これからの20年〜》
会場:大宮ソニックシティ
主催:全国小水力発電大会実行委員会・全国小水力利用推進協議会
詳細はイベントページをご覧ください。
















