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奪い合う経済から、分かち合う経済へ。非営利株式会社eumo代表・武井浩三さんに聞く、共感資本社会における経営論

社会課題を解決する事業や活動には、社会性と経済性の両立が求められます。しかし、それを実践するのは針の穴を通すように難しく、日々頭を悩ませる方も多いはず。

グリーンズはこれまで、社会課題を解決するような多くのアイデアを紹介してきましたが、同時にお金が足かせとなって解決が進まないケースも数多く目にしてきました。

その経験を通じて、私たちは「お金そのものが社会課題ではないか?」という仮説を立てました。言い換えれば、「お金」の問題を解決することで、様々な課題解決が進み、未来を変えることができるかもしれません。

このような期待を胸に、グリーンズは「お金を変えるソーシャルデザイン」を探求する連載企画を開始します。お金にまつわる様々なテーマを用意し、ゲストとの対話を通じて、お金のあり方を探っていきます。

連載の第1回では、「非営利株式会社 eumo」の代表取締役である武井浩三(たけいこうぞう)さんをお迎えしました。武井さんは、不動産テクノロジーカンパニー「ダイヤモンドメディア」の創業者であり、自律分散型組織経営の第一人者としても知られています。

自身の経験からお金にまつわる違和感や問題意識を抱いたという武井さんは、独自のコミュニティ通貨を発行できるプラットフォーム「eumo」を創業。お金の問題を「お金を再定義する」というアプローチで解決し、新しい経済の仕組みをつくろうとしています。

武井さんはお金に対してどのような違和感を抱いたのか。そして、どのようにお金を再定義しようとしているのか。グリーンズ編集長の増村江利子(以下、増村)がお相手となり、そもそものお金の正体、eumoの実践する新しい経済、これからの時代に求められる経営のあり方について聞きました。

武井浩三(たけいこうぞう)
非営利株式会社eumo 代表取締役/社会活動家/社会システムデザイナー
高校卒業後ミュージシャンを志し、渡米。Citrus College芸術学部音楽学科を卒業。帰国後に起業するも倒産・事業売却を経験。「関わるもの全てに貢献することが企業の使命」と考え、2007年に不動産IT企業「ダイヤモンドメディア株式会社」を創業。2017年には「ホワイト企業大賞」を受賞。ティール組織・ホラクラシー経営等、自律分散型経営の日本における第一人者として、メディアへの寄稿・講演・組織支援などを行う。2024年現在、新井和宏氏が立ち上げたコミュニティ通貨のプラットフォームを運営する非営利株式会社eumoのボードメンバーとして新しい金融経済に関わりながら、SDGs関連や組織開発、フェアトレード、地方創生等、多数の企業にてボードメンバーを務める。
増村江利子(ますむらえりこ)
greenz.jp 編集長
国立音楽大学応用演奏学科卒業。Web制作ディレクター、広告制作のクリエイティブディレクター、メディア編集を経て独立。Webマガジンでは他に、esse-sense編集、SMOUT移住研究所編集長、ながの人事室編集長。ドキュメンタリーマガジン『Community Based Economy Journal』副編集長、地域探訪誌『涌出』編集長。竹でつくったトイレットペーパーの定期便「BambooRoll」を運営するおかえり株式会社の共同創業者、「竹でつくった猫砂」を販売する合同会社森に還すの共同代表。信州大学農学部総合理工学研究科(修士課程)を修了。森と水、里山と暮らしをテーマとする独立研究者。三児の母。長野県諏訪郡へ移住し、9坪の狭小住宅で家電を使わずに暮らす。ミニマリストとしての暮らしぶりは『アイム・ミニマリスト』(編YADOKARI)にも収められている。

不動産業界の構造への違和感。お金と向き合い始めたきっかけ

増村 武井さんはeumoを通じて、新しい経済のあり方を探求されていますね。「お金」というものについて考え始めたきっかけを教えてください。

武井 お金に対する違和感を持ち始めたのは、前職の「ダイヤモンドメディア」で不動産業界に触れたのがきっかけです。不動産のデータや人口動態などを見ているうちに、おかしな構造に気づきました。特に大きかったのは、2010年あたりから日本が人口減少に転じていて、そのスピードも加速しているにもかかわらず、新築住宅の数は増え続けているのを知ったことです。

2023年には、人口は約60万人減少した(※1)のに、80万戸以上の新築住宅が建っています(※2)。おかしいですよね。供給過多になると空き家が増えて治安が悪くなるし、不動産の資産価値も目減りする。建築で儲かる人以外は、誰もハッピーではないはずなんです。

それで、より深く調べていくうちに、日本の不動産業界の特殊さを知りました。

増村 と、いいますと?

武井 先進国では、各自治体によって「今年はこのエリアに何軒まで建てていい」という新築住宅の総量規制があります。また、ヨーロッパでは新築を原則禁止にしている地域すらあります。新築住宅の供給過多で空き家が増えることによる不動産価値の下落や、地域社会への悪影響を防ぐために必要な規制ですが、これが日本にはなかったんです。

そこで、規制をしくために業界団体をつくってロビー活動を始めました。国交省や経産省、総務省、財務省などの若手官僚や政治家に向けて、5年間以上にわたってアプローチ。しかし、結局、規制はできませんでした。

増村 誰も幸せにならないのは明らかなのに、なぜ変わらなかったのでしょう。

武井 さまざまな要因が考えられると思いますが、一つは、新築物件を建て続けなければ収益が確保できない構造になっているいことに課題がありそうです。

増村 それがお金について考え始めたきっかけなんですね。

武井 きっかけはそうです。加えて、NPOなどをやりながら社会課題に向き合ってきたなかで、根源的にお金の問題にたどり着いたというのもあります。周りを見ていても、社会課題解決の活動が持続しないのは、結局はお金がないことが原因でした。そもそも、社会課題というのは、ビジネスとして成り立たないから社会課題として残っているわけです。本来は行政がサポートしないといけない領域ですが、それも十分ではない。だから、みんな身を削りながら、持ち出しで活動を続けています。社会課題を解決して、社会をより良くするためには、お金の問題を根本的に解決しないといけないと思いました。

※1 ”2023年の日本の総人口 前年より60万人近く減少と推計 総務省”, NHK, 2024年4月12日 18時23分,(参照2024年6月29日)
※2 2023年の新設住宅着工戸数を参照(国土交通省)

日本円の99%以上が「誰かの借金」でできている

増村 お金の問題を解決するために、まずはお金の正体を知ることが大事だと思います。武井さんの考えるお金とは何かを教えていただけますか?

武井 ちょっとしたクイズから始めてみましょうか。100円硬貨と1,000円札の決定的な違いはなんだと思いますか? もちろん金額や素材は違うとして、もっと本質的な違いがあるんです。

増村 なんだろう…発行元が違うというのは聞いたことがあります。

武井 その通り。100円硬貨は日本政府が、1,000円札は日本銀行が発行しているという違いがあります。100円硬貨は国の資産なので壊すと罪に問われます。一方、1,000円札は破いたとしても有罪にならず、銀行で取り替えてもらえます。

硬貨はそれ自体に価値があるのに、紙幣にはそれ自体に価値がないんです。1,000円札は、1,000円分のお金を借りたときに渡される「借用書」でしかありません。

増村 どういうことでしょうか?

武井 お金の発行方法には2つあって、1つは資産として発行する方法。硬貨がそれにあたります。もう1つは、誰かが銀行に借金することで「負債」として生まれる方法です。紙幣はこちらです。

個人が銀行で借金をすると預金残高が増えますよね。その瞬間に、世の中に新しいお金が生まれます。そして完済して借金がゼロになると、お金も一緒に消えます。この仕組みを「信用創造」といい、この方法で生まれたお金を「債務貨幣」といいます。

驚くことに、2024年は日本にある約1,600兆円(※3)の日本円のうち99.7%が、信用創造で生まれた債務貨幣というデータが出ています(※4)。つまり、誰かの借金でこの国は成り立っているということになります。

増村 国の借金である国債も同じ仕組みですか?

武井 日本政府は日本銀行からお金を借りて国債を発行するので、仕組みは同じです。2022年には国債発行高(普通国債)が1000兆円を超えたことが話題になりましたが(※5)、現金と金融資産を差し引くと大体800兆円くらいの国債借入残高があるといわれています(※6)。

1600兆円の借金のうち、残りの800兆円が民間による借金です。そのうち4割が個人によるもので、そのなかで最も割合を占めるのが住宅ローン。(※7)そう考えると、先ほどの不動産の話(※8)にもつながってきます。政府は、信用創造による債務貨幣を増やすために、新築の住宅ローンを国民に組ませようとしているといってもおかしくありません。

増村 借金をすることでお金が増えるなら、無限にお金を増やすことも可能ということですか?

武井 仕組み上は可能です。借りたお金を全額持ち歩く人はいないので、信用創造によって生まれたお金のほとんどは、銀行に入っています。銀行は担保があると新しくお金を貸せるので、貸せば貸すだけ担保が増え、さらに貸し出すことができます。もちろん、借り手が返済できるという条件付きですが、実質的には無限にお金が増やせるんです。

※3 2024年7月9日日本銀行調査統計局発行「マネーストック速報(2024年6月)」を参照
※4 日本銀行時系列統計データ検索サイトの貨幣流通高の2023年〜2024年1年間の平均流通高(約4.8兆円)を参照
※5 “普通国債が初の1000兆円台 22年末、金利上昇にリスク”, 日経電子版, 2023年2月10日 14:20 (2023年2月10日 18:25更新)(参照2024年6月29日)
※6 2024年6月24日日本銀行調査統計局発行「参考図表 2024年第1四半期の資金循環」を参照
※7 “家計債務とは 住宅ローン中心に増加”, 日経電子版, 2022年2月13日 2:00(参照2024年7月11日)
※8 “住宅ローン膨張220兆円 日本、資産価値伸び悩み 金利上昇にリスク”, 日経電子版, 2022年11月6日 2:00(参照2024年7月11日)

「国債の利息は国外に吸い取られている」という事実

増村 お金のほとんどが誰かの借金であり、お金を無限に増やすことができる。直感的に理解するのは難しいですが、仕組みを見るとたしかに納得です。では、債務貨幣が増えていることにはどんな問題があるのでしょうか?

武井 問題は、借り入れした際の「利息を誰が払っているのか」ということです。3,000万円の住宅ローンを金利2.5%、35年で組むとすると返済総額はだいたい4,500万円になります。この差額の1,500万円がどこから払われるかというと、結局は「誰かが借金して増やしたお金」からなんです。つまり、誰かが借金し続けることによって現在の債務貨幣システムは成り立っています。

嘘みたいな話ですが、僕らは「借金を返すために借金をする」というシステムの上に生きていて、それを維持するために経済成長させ続けないといけません。一度、銀行がお金を貸すのをやめたり、金利を跳ね上げたりして、民間がお金を借りなくなったら、それがバブル崩壊の引き金になる。直近のアメリカの金融市場の荒れ方を見ていると、そう遠くないうちにバブル崩壊が起きるんじゃないかと、僕は思っています。

さらに、もう一つの問題は「利払い金はどこにいくのか」ということです。結論からいえば、利息のために支払ったお金の一部は、国外に吸い取られているのです。

増村 どういうことでしょうか?

武井 日本の上場企業の株式保有者を見てみるとその構造が見えてきます。2022年度、外国人の日本の上場企業の株式保有率は約30%(※9)。

そして、日本の国債を多く保有しているのも、こうした大企業やメガバンクです。つまり、日本政府が払っている利息は債権者である企業や銀行に吸い上げられ、そこから配当金として外国に流れていることになります。日本政府が払う利息は、年間約10兆円ですよ(※10)。僕はこの事実を知ったときこれはある意味での「被植民地化だ」と思いました。

現行の債務貨幣システムに対して疑問を持つ人たちは、世界中で増えています。アメリカを中心にしたドル基軸制度が終わりを迎え(※11)、BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)のパワーバランスが変わってきているいま、これまで続いてきた支配構造は近いうちに崩壊するのではないでしょうか。

※9 “日本株の外国人比率、3年連続で3割超 住友大阪は45%”, 日経電子版, 2023年7月19日 20:31(参照2024年6月29日)
※10 “国債の想定金利、1.1%→1.9% 財政も「金利ある世界」2024年度予算案 ちょっと深掘り”, 日経電子版, 2023年12月27日 0:30(参照2024年6月29日)
※11 “ドル覇権、終わりの始まりか 新興国が自国通貨シフト”, 日経電子版, 2023年5月20日 4:00(参照2024年6月29日)

「腐るお金」が経済を活性化し、格差や支配を是正する

増村 かなり大きな話なので自分ごとにするのは容易ではないですが、そうした世界の流れのなかで私たちには何ができるのでしょうか。

武井 僕らの生活に目を向けると、借金によってお金を生み出す債務貨幣システムによって豊かになってきたことは紛れも無い事実です。ですから、既存のシステムがすべて「悪」だとは言えません。しかし、右肩上がりの経済成長に限界が来ているいま、お金の捉え方を再定義していく必要があると思います。

僕は、再定義のポイントは「お金の使用期限」にあると考えています。食べ物や道具と違って、お金は長く保有しても腐ったり壊れたりして価値がなくなることはありません。そのため、将来に備えて貯金しておけます。

しかし、それがいきすぎると、お金を所有すること自体が目的化してしまう。そして、経済学者のトマ・ピケティが指摘したように(※12)、金融資本主義によって、お金を持つ者にさらにお金が集まってきます。こうして資本家と呼ばれる人たちが、実質的な労働はせずともお金を稼ぎ続け「格差」が広がります。

加えて、お金は「支配」も助長します。なぜなら、お金で本質的に交換しているものは、商品やサービスの裏にある人の労働力だからです。お金を多く所有する人が、より多くの人を支配できるようになっていきます。

増村 格差と支配を助長するお金を再定義するポイントが「使用期限」というのはどういうことですか?

武井 お金に使用期限があれば、こうした問題は解消される可能性があるということです。実際に、100年以上前の経済学者シルビオ・ゲゼルは、時間とともに価値を失うお金「ゲゼルマネー」を考案しました。今では「エイジングマネー(腐るお金)」とも呼ばれています。

エイジングマネーのいいところは「貯める」ことよりも「使う」ことにインセンティブが働くことです。その結果、お金が循環して格差は是正されやすくなる。一部の人がお金や労働力を支配している構造が崩れ、より多くの人が豊かになれます。

実際、1929年の世界恐慌の際には、オーストリアのヴェルグルという町がエイジングマネーを導入して経済を復活させました(※13)。不安から貯蓄を増やそうとしていた市民に対して、使用期限のあるお金を配り、経済を活性化させたんです。その後すぐ、貨幣発行権を独占したい政府によって弾圧されてしまったんですけどね。

ただ、お金に使用期限ができれば、格差や支配のもととなる「所有」が抑えられ、その代わりに循環が生まれることは実証されました。僕らがeumoでやっていることも、お金を再定義して新しい経済圏をつくる営みなんです。

※12 トマ・ピケティは『21世紀の資本』の中で「資本主義の富の不均衡は放置しておいても解決できずに格差は広がる。 格差の解消のために、なんらかの干渉を必要とする」ということを客観的データから説き、反響を呼んだ
※13 お金を溜め込まず人々がどんどん使ったことで失業はみるみる解消していった様子は「ヴェルグルの奇跡」と呼ばれている

「奪い合う経済から、分かち合う経済へ」eumoが実践する“共感資本社会”

増村 eumoの取り組みについて詳しく知りたいです。

武井 eumoは、使用期限3ヶ月のエイジングマネー「eumo」を発行するプラットフォームです。アプリに登録したユーザーは、「eumo」を使って加盟店の商品を買ったり、ユーザー同士で送りあったりすることができます。

3ヶ月の使用期限を迎えた「eumo」はコミュニティに還元され、特定のルールで再分配。それにより、お金の所有ではなく循環を促します。「eumo」は日本円に変換可能なので、プラットフォーム内で得た通貨を実際の生活で使用することもできます。

また、eumoでは「コミュニティ通貨」という、独自通貨を発行することもできます。コミュニティマネージャーが中心となって、地域やコミュニティ独自の世界観を持った経済圏をつくることで、そこに共感した人たちがつながれるようになっているんです。現在20〜25種類のコミュニティ通貨がありますが、これらはベース通貨である「eumo」で購入できます。

増村 エイジングマネーの考えを土台に、様々なお金を発行できるプラットフォームがeumoだと。Webサイトを見ると「共感コミュニティ通貨eumo」と書かれていますが、「共感」という言葉にはどんな意味を込めているんでしょうか?

武井 経済を動かす動機を「損得」から「共感」に変えようということです。資本主義社会はすべての根底に損得がありますよね。損得で成り立つ経済とは、行動経済学的にいえば「交換経済」です。要するに、割に合うから行動して、割に合わないなら行動しない世界です。

でも、それだけだと、ビジネスとして成り立ちづらい領域の社会課題は、一向に解決されません。NPOなどが身を削って取り組んできましたが、それでは疲弊してしまうし、やりがい搾取にもなりかねない。持続的に活動するのは難しくなります。

こうした領域の活動を持続するための原動力は何かを考えたとき、「損得を超えた共感」だと僕らは結論づけました。「それ楽しそう!」「応援したい!」というポジティブな感情のエネルギーを活動につなげていくことができれば、損得の世界では解決できなかった問題も解決できるはず。こうした資本主義社会に代わる新しい社会の形を、eumoは「共感資本社会」と呼んでいます。

増村 共感が資本としてやりとりされる社会ということですね。具体的にどのような機能によって、それが実現しているのでしょうか?

武井 eumo全体がそうした考えでできているという前提がありますが、具体的には、加盟店に対して写真付きの応援メッセージが送れる機能や、商品の決済金額に共感の気持ちを込めたチップを上乗せできる「ギフト」機能が実装されています。もちろん、ユーザー同士でもメッセージやギフトのやりとりが可能です。

さきほど、有効期限が過ぎた通貨は「コミュニティに還元され、再分配される」と言いましたが、ギフトの総量が多いユーザーに多く還元されるように設計しています(※14)。つまり、他者に対して応援や感謝の気持ちをよく表現してくれる人が、より多くの通貨を循環させられるということです。

増村 共感の循環が強化されるような設計です。アプリリリースから約4年経ちますが、手応えはいかがですか?

武井 現在のユーザー数は1万人弱、通貨流通累計は近い内に2億eumo(円)になる見込みです。そのうち個人や加盟店に向けたギフトの割合は12〜13%です。徐々にではありますが、確実にコミュニティの輪が広がってきたと感じています。

また、共感の力を感じたこととして、eumoの経済圏のなかでクラウドファンディングをする人が大抵成功しているんですよ。eumoのユーザーは、仲間を応援したいという純粋な想いでアプリを使っているので、困っている人にはすぐにお金が集まります。

このコミュニティが20万人、30万人と増えていけば、日本円に換金しなくとも、この経済圏だけで実際の生活が送れるようになります。そうすれば、お金の発行は無限にできますし、ベーシックインカムの仕組みもつくれる。

ベーシックインカムは貯蓄や金融資産に流れることが懸念されていますが、有効期限がある「eumo」なら、問題なく実体経済の中でお金が循環していきます。ちょっと遠い未来かもしれませんが、そんな世界までいけたらいいなと思っています。

増村 共感で成り立つコミュニティづくりを実践する人は増えてきているように思います。なにかコミュニティづくりのポイントはありますか?

武井 「楽しさ」が大事だと思います。どんな活動でもつまらなかったらやらないので、みんなが楽しいと思えるような関わり方を設計する必要があります。

僕が役員を務めるNPOで、世田谷区と運営している「つながりを育てる畑“タマリバタケ”」は、まさにそういう場になっています。一級建築士の大工さんが“ただ”でエントランスをつくってくれたり、30人くらいいる運営メンバーが無報酬で関わっていたり、一度でも参加してくれた人は1000人を超える。仕事ではなくて楽しい遊びだから続けられるんですよね。

他にも、同じく世田谷で開催している「用賀サマーフェスティバル」も、運営メンバー、手伝いのメンバー、寄付をしてくれる方々を合わせると400名くらいがボランタリーに動いてくれています。

これらの活動は本業が忙しくなったら顔を出さなくてもいいし、参加を義務付けることもしていません。無理せず楽しいと思える範囲で関わってもらっています。でも、こうしたちょっとずつの楽しさを、広く集めて、全体として成り立つように場を設計することで共感コミュニティは育まれていくんです。

損得を超えた共感でつながる関係性はものすごい財産だと思います。その関係性を広げていくことで「奪い合う経済から、分かち合う経済へ」シフトしていきたいですね。

※14 コミュニティ通貨の中には別のルールを採用しているものもある

自分なりの“コモニング”から始めてみる

増村 最近は若い世代の方々が社会課題解決に取り組むケースが増えていますね。経済がシフトしていくなかで、ソーシャルセクターの経営者が知っておくべきこと、考えておくべきことはありますか?

武井 会社の法人格や資本政策、利益の分配方法には様々な選択肢があることを知ってほしいですね。たとえば、eumoは「非営利型株式会社」という形態をとっています。これは、会社法上は株式会社と同じですが、内部留保や余剰利益を株主に分配しないことを定款で定めた会社のこと。社会課題を解決するNPOや団体に対しては投資も寄付も可能です。

増村 配当を出さない非営利型株式会社は、どのように利益の分配を行うのでしょうか?

武井 利益の分配の仕方は会社によって多種多様です。たとえば、配当は貸借対照表(B/S)の純利益から出しますが、純利益を計算する前の損益計算書(PL)の時点で、どう分配していくか決めることもできます。商品の価格を安くして顧客に還元する、仕入れ値を上げて取引先に還元する、従業員や働き手に還元するなど様々な方法が考えられます。

eumoの場合は、株主に対して毎月「eumo」を渡しています。株主も私たちの仲間として、共感経済を一緒につくっていってもらいたいと思っていますから。

他にもユニークなものでいえば、たとえば僕が出資している会社には、野菜やお米で配当を支払うところもあります。すごく手触り感がある経済だと思いませんか。なにより、配当金を月に数千円もらうよりも、現物でもらったほうが嬉しいんですよ。このように会社の目指すあり方や世界観によって、利益の分配方法は色々変えられるということが、知っていただきたいことの一つです。

増村 他にも知っておくべきことがあれば教えてください。

武井 もう一つは「これからの時代はコモンズが重要になる」ということです。株式会社は究極的には株主の所有物なので、お金や権限の偏りが生じやすくなっています。でも、資本政策を工夫することで、会社自体もみんなが共同所有する「コモンズ」にすることが可能です。

僕が経営する会社のなかには、合同会社もありますし、34%以上の議決権を持つ株主を存在させない「コミュニティカンパニー」もあります。あとは、地域の人たちに出資してもらってつくった会社もあります。

3つ目の例が分かりやすいですが、地域の人たちに出資してもらい、地域の人たちを雇用し、地域の人たちに価値提供する会社は、所有者と労働者と利用者が重なり合っています。所有者が労働者になったり、労働者が利用者になったりするわけです。

増村 所有と労働と利用の境界線があいまいな会社ですね。なぜ、コモンズであることが重要なんでしょうか?

武井 一つは、コモンズに所属することが、人のウェルビーイング(※15)を高めるからです。利用者としてサービスを受けるだけでなく、自分自身も生産者となって、仲間と一緒に何かを生み出す体験はそれだけで楽しいですし、社会関係資本を築くことにもつながります。孤独は喫煙と同じくらい体に悪いという研究もあるように、社会関係資本が増えればウェルビーイングも向上すると考えられます。

また、所有の概念を薄めることによって、様々な社会課題の発生を防げることも考えられます。冒頭から話してきたように、資本主義はお金などの私的所有物を増やし続けるゲームです。そのゲームのなかでは、経済資本が社会関係資本や自然資本よりも優先される。その結果、環境破壊や人の心身の不健康、家庭環境の崩壊などを引き起こしてきたのが、これまでの経済です。

そうならない経済デザイン、組織デザインをしていこうとするなら、所有を集中させないコモンズを増やしていくような、社会全体をコモニング(コモンズ化)することが必要だと思います。

増村 コモニングを実践するための一歩目を教えてください。

武井 必ずしも会社やコミュニティをつくる必要はなくて、自分が所有しているものを無理のない範囲で共有していくことがスタートだと思っています。

時間が余っている人は「困っていることがあったら手伝うよ」とSNSで呼びかけるだけでも、自分自身をコモニングしている。車をたくさん持っている人なら、地域の人に共有する。子どもが成長して着れなくなった服を、別の家庭に譲るのも立派なコモニングです。

気づいた人たちがこのような活動を始めていますが、僕らはこの動きを資本主義の中心である株式会社の世界に広げていきたいと思っています。いかに想いに共感してくれる人たちを増やし、お金のある領域から、なくて困っている領域にお金を移動させることが、これからの挑戦なんです。

増村 会社のあり方や共感に根差した経済にどう移行するかについては、まさにグリーンズでも考えたいと思っていたところでした。その流れでお伺いしたいのですが、もし武井さんがグリーンズの責任者だったとしたら、どのような方針で運営されると思いますか?

武井 全部を知っているわけではないので難しいけれど…。グリーンズの事業をすべて、みんなで共同運営するコモンズエコノミー(コモンズにより成り立つ経済)に統一するのは難しいと思います。僕自身も、コモンズエコノミーが中心ですが、利益を出すためのビジネス寄りの事業もあれば、行政とやるようなパブリック寄りの事業もある。

コモンズとビジネスとパブリックの3つの経済のグラデーションの中で、自律分散的な経営をしていくというのが一つの方法論かなと思います。たとえば求人事業はビジネス寄りに設計して、お金を持っている企業から利益をもらう方法を考える。そして、その利益をもとに社会起業家や社会問題を認知するメディア事業を行う。自分だったらそんな内訳で事業をつくりますかね。

増村 事業については3つに分けて整理してみるのがいいですね。コミュニティについては、eumoでグリーンズコミュニティの通貨を発行するのもいいかなと思ったのですが、どう思われますか?

武井 eumoはもともと経済圏があるところに導入することで価値を発揮します。だから、地域のお店などを中心としたコミュニティに馴染みやすいんです。その点、グリーンズの場合は、通貨を発行するよりもメディアという特性を活かして、世の中の空気づくりに力を入れるのがいいかもしれません。

最近、心ある行政の方や経営者のみなさんが、自分の地域に利益を還元しようとしてeumoでコミュニティをつくってくれます。「稼いでいる人がちゃんと還元するのが格好いい」という空気感がもっと出てきたら共感資本社会にも向かいやすくなるはず。言論に影響を与えていくメディアだからこそできることを信じて、これからも社会にメッセージを発信していってほしいです。

増村 期待として受け取って今後に活かしていきたいと思います。本日はありがとうございました。

※15 ウェルビーイングとは「身体的・精神的・社会的に良好な状態」のことを指す

(撮影:廣川 慶明)
(編集:増村江利子・岩井美咲)

2024年8月2日に公開しました本記事ですが、一部誤解を生じる記述があるとご指摘をいただいたため、本文を一部訂正いたしました。(2024年8月14日 greenz.jp編集部)