募集の詳細については記事末をご覧ください。
あなたには今、自分がありのままでいられる居場所はありますか?
近年、少子高齢化の進行や核家族化に伴って、地域のつながりが希薄化し、社会から孤立してしまう人が増えています。
とりわけ、一人暮らしの高齢の方や、安心できる居場所を失った子ども、社会の中で活躍の場が少ない障がいがある方は、地域での居場所を見つけづらいといいます。
しかし今、福祉の現場では慢性的な人手不足が続き、ケアする側が疲弊してしまうことで、本当はケアを必要としているのに取りこぼされてしまう人が出てくるといった悪循環が起こっているようです。
そんななか、高齢の方、子ども、障がいがある方を受け入れる地域の居場所づくりに取り組もうとしている人たちがいます。
それが、長年大阪市で高齢者福祉事業を中心にした高齢者の居場所づくりに取り組んできた「社会福祉法人 浪速松楓会」です。
浪速松楓会が新たにつくるのは、「食」を通じて、高齢の方、子ども、障がいがある方が交わりあい、ケアが生まれる場所。現在、2024年夏のオープンに向け、一緒にこの場所をつくり上げていく仲間を募っています。
なぜ今、新しい事業に踏み出し、仲間を募集するのか。業務執行理事の鯉谷雅至(こいたに・まさし)さんと、元管理者の山口純子(やまぐち・じゅんこ)さんに話を聞きました。
浪速松楓会が考える居場所は、
「責任」や「仕事」という枠を超えた先にあるもの
浪速松楓会では、これまでも利用者が自分の居場所だと感じられる環境づくりにこだわってきたといいます。
鯉谷さん 人がどうしようもなく辛いときって、たぶん居場所がないことを実感したときなんです。
居場所ができるパターンは二つあります。一つは、いるだけで居場所を感じられるような家族や親友によって形成されるパターン。もう一つは能力など、自分の持っているもので居場所を形成していくパターンです。
しかし、歳を重ねるうちにこうした居場所はだんだんと失われていくものだと鯉谷さんは話します。
鯉谷さん 家族や能力はいずれ失われていくものです。高齢になって会社から引退すると仕事がなくなり、できることが減ってくる。そのうち周りの家族や友人もいなくなって、本当に居場所ってなくなるんです、悲しいくらいに。
いよいよ一人で暮らせなくなったとき、「はじめまして」と出会うのが、浪速松楓会のような福祉に携わる人々。
鯉谷さん 「来たくなかったのに、居場所を失ってここまで来てしまった…」と悲観的になっている高齢の方に、「それでも居場所はあるんだよ」と言いたいし、居場所をつくりたい。そう考えながらずっとやってきました。
浪速松楓会のホームページやパンフレットを見ていると、職員と利用者さんが楽しそうに商店街を歩いている様子や、お花の水やり、編み物をしている様子など、介護施設とは思えない、日常の続きのような写真が目立ちます。
鯉谷さん 「できないこと」ではなく、できるだけ利用者さんの「できること」や「得意なこと」に焦点を当てたケアをすることで、居心地のいい居場所や、私たち職員との良い関係が築かれていくと思っています。
対価としてお金をいただき、命を預かる仕事であるがゆえに、さまざまなリスクを想定しながらケアする必要がある福祉の現場。とはいえ、「仕事だから」や「責任があるから」といった理由が全面に出過ぎたケアの延長には、利用者が「ここが自分の居場所だ」と思える環境はつくりづらいといいます。たとえば、安全確保がなによりも優先される現場では、利用者さんの自由が制限されてしまうケースが多く見られます。
鯉谷さん その人がいるだけで居場所だと感じられるような存在って、「責任があるから」や「仕事だから」といった理由でつながっている人じゃないと思うんです。例えば同じ趣味でつながった友だちって、そうじゃないですか。相手と自分との間に責任や対価のない関係こそが、居場所を形成していくものです。
しかし、人手不足が深刻化する福祉の現場では、職員だけがどれだけ努力しても「本当の居場所」をつくっていくことには限界があると話します。
今回新しい取り組みに踏み出した理由には、「そういった限界を、地域で超えていきたい」という思いがありました。
鯉谷さん 「本当の居場所がある」と感じることができるのって、誰かの頭の中に自分という存在が少しでもある状態、つまり「他者の中に自分が占めている」という実感がある状態だと思っていて。
「今日はあのおばあちゃん豚汁食べてるんやな」とか「いつも来てるあの子、今日は来てへんな。どうしたんやろ」とかいったように、家族でも支援員でもない、偶然そこで知り合った常連同士が気にし合う。それは、気にする責任がない、いわば「無責任な関係」の人たちによるケアです。そういう無責任なケアが生まれる場所を、地域につくりたいんです。
無責任な関係が自然と生まれる居場所をつくりたい
新事業は、東梅田駅から大阪メトロで約20分、駒川中野駅すぐの場所にある認知症対応型共同生活介護施設「サボテンの花」の一階部分を開放して行われます。
その場所の名前は、「駒川てっと」。メインとなる事業は、就労継続支援B型(※)の作業所となる飲食店の運営と、近隣の子どもたちを受け入れる「子ども食堂」の運営です。
鯉谷さん これまでは介護保険を利用している高齢の方向けのケアを中心に行ってきましたが、今回はあえてそこに捉われることなく、障がいや社会的孤立など、さまざまな理由で居場所を失いつつある子どもと高齢者、障がいがある方をターゲットにしています。さらに、建物の2、3階に住んでいる認知症の高齢者が下りて来てほしいと思っています。
「子どもや障がいがある方の居場所でありつつ、地域で困っている高齢の方のための居場所でもありたい」。鯉谷さんが考えているのは、お惣菜の持ち込みを可能にして、栄養価の高い豚汁を飲んで帰ってもらえるような場所だそう。出入りのハードルを下げることで、特に一人暮らしの高齢の方にとっては生活の延長に自然と根付く場所になるかもしれません。
「介護の枠を飛び出し、障がいがある方と子どもたちの居場所を同時につくる」と聞くと、「職員はさらなる責任に追われるのではないか?」と感じます。しかし、むしろ対象を広げることが本当の居場所づくりにつながると鯉谷さんは話します。
鯉谷さん 私たちはこれまで、介護をする中で本当にたくさんの責任を追ってきました。「コロナになってはいけない」「アレルギーのあるものを食べさせてはいけない」「転倒させてはいけない」「なにかあればすぐに家族の方に連絡」って。
でも、責任ばかりに捉われてしまうと、私たちも利用者さんも息苦しくなってしまう。障がいがある方や子どもたちだってそうです。福祉は、病院や施設、親、学校など、責任ある人たちだけに任せっきりになってしまっていると思います。もう少し無責任に地域の人たちが関わるケアを増やす方が、結果的に本当の居場所をつくれるのではないかと。
施設名を「駒川てっと」にしたのも、「無責任なケア」を増やしたいという鯉谷さんの想いが込められているそう。
鯉谷さん 「てっと」というのはイタリア語で「屋根」という意味なんです。僕たちは、壁や柱にはなれないけれど、雨をしのげる屋根にはなれる。福祉施設は壁や柱までをつくろうとしますが、あえて屋根だけにすることで、人が集まる場所はつくるけど、「そのあとのことは知らない」という、ある種無責任さの表現をしています。
孤立問題の解消までは責任をもってできないけれど、無責任な関係性をつくるところまでを目指す。それが結果的に、仕事や趣味が見つかったり、遊び相手が見つかるきっかけになり、孤立の解消につながるかもしれない。そんな「無責任なケア」から始まる地域の居場所づくりをしてみたいんです。
認知症の方の住居であり、障がいがある方の働く場所であり、子どもたちの居場所でもある。そして時には、一人暮らしの高齢の方がふらっとご飯を食べにやって来る。鯉谷さんが思う「本当の居場所」の定義は、相手と自分との間に責任や対価のない関係を育める場所。仕事や役割を超えて、様々な人が偶然に出会える場所をつくることが、そんな居場所づくりへの第一歩なのです。
とはいえ鯉谷さんたち福祉のプロは、変わらず安全確保を第一に考え、特にコアタイムは職員の数を増やしながら、新しい仲間と試行錯誤していくそう。そうした土台のうえに、無責任にみんなが関われる領域を少しずつ増やしていきたいと話します。
鯉谷さん 将来的に「行かないといけない」ではなくて、「あそこに行けば誰かと出会える」みたいな動機で来てもらえる場所になったらいいですね。責任が大きすぎる私たち福祉のプロではケアしきれないところを、地域のみんなでカバーし合うことで、本当の居場所をつくりたいと思っています。
(※)就労継続支援B型
通常の事業所で働く事と雇用契約に基づく就労が困難である方に対し、就労の機会やその他の就労に必要な訓練・支援を行う事業所およびサービスのこと。
福祉の経験は不要。ゼロイチを一緒に楽しめる仲間に来てほしい
今回募集しているのは、①サービス管理責任者、②生活支援員(職業指導員)、③飲食店店長、④目標工賃達成指導員の4つの職種です。
働く場所となるカフェ兼飲食店では、回転焼きをメインにランチ営業も実施。地域の子どもたちが下校してくる15時ごろからは「子ども食堂」の運営へと切り替わります。
①〜④の主な業務は、就労継続支援B型作業所で働く障がいがある方のサポート業務になるそう。4つの職種に分けてはいるものの、それぞれに決められた業務のみに取り組むというよりは、臨機応変にサポートし合うイメージだそうです。
サービス管理責任者は、利用者の作業の管理・補助に加え、支援プロセスの管理、個別支援計画表の作成など、業務と場所全体を総括する仕事です。
事務作業や営業の仕事も多く、就労支援所としての管理者業務をしながら、夕方からやってくる子どもたちの居場所づくりにも取り組みます。さまざまな業務を同時進行で進めることが求められるため、アクティブで頭の切り替えが早い人に向いているかもしれません。
生活支援員(職業指導員)は、生活支援員として利用者の日々の記録や支援に関わる書類の作成といった生活のサポートと、職業指導員として就業に必要な技術の習得・向上のサポートをすることが主な業務です。また、サービス管理責任者と同様、子どもたちの学習支援なども行います。利用者と深く関わる仕事であることから、細やかな気配りができ、利用者をよく観察しながら臨機応変に対応を変えていくことが求められます。
飲食店店長は、飲食店の運営、調理、障がいがある方の職業指導がメインの業務です。マニュアルは用意されているため、飲食業経験者でなくてもよいそう。障がいがある方がつくるのは回転焼き。その他、子ども食堂と地域の方に食べてもらうメニューも考案中だといいます。
最後に目標工賃達成指導員は、受注している作業の単価向上のための交渉や、新しい作業の受注のための営業、作業能力アップに関する支援、作業工程の見直しなどを行います。
また、①はサービス管理責任者の経験と資格が必要ですが、②〜④は仕事の経験や資格はいらないとのこと。
鯉谷さん もちろん経験者も歓迎なのですが、これまでと全く異なる事業をするので、福祉業界にいる我々とは違う感覚を持った仲間がほしいという気持ちはあります。大きな責任感を植えつけられてしまっている既存の職員だけだと、今までの発想のまま変われないんです。
たとえば、子どもに対して食事をつくるとなると、はじめにアレルギー確認をしたくなるし、家族の同意書が欲しくなる。でもこの事業を始めるにあたり、さまざまな子ども食堂を視察させてもらうなかで、逆にそこまでしたら引いてしまう子どもがいたり、「名前も言いたくない」「ここに来てることも誰かに言いたくない」という子どももいることを知りました。私たち福祉のプロがよしとしていたことが間違っていることもたくさんある。だから、あえて福祉の経験にはこだわっていません。
浪速松楓会にとって、飲食店も障がい者福祉も子ども食堂も初めての取り組み。そのため、決められたことをするというよりは、自分で考えることが好きで、アイデアがたくさん出てくるような人、そして予想できない出来事も楽しめる人と一緒にこの場所をつくっていきたいといいます。
鯉谷さん はじめは、わけの分からない状態になって大変だと思います。高齢の方も子どもも障がいがある方も、ごちゃ混ぜになるわけですから。
でも、そのごちゃ混ぜな人間関係を楽しめる人が来てくれたらなと。そのうち「またあの子が来てくれた!」とか「これができるようになった!」とか、一つひとつの小さな変化にやりがいを感じていけるのではないかと思います。
働く人にとっても居場所を感じられる職場でありたい
浪速松楓会でケアマネージャー兼管理者として長年働き、引き続き新しい居場所をつくり上げていくこの事業の担当者、山口純子さんにもこの職場の雰囲気や、仕事への思いについて話を聞きました。
山口さんは、福祉の仕事に就く以前はIT企業で働いていたそう。
山口さん 景気が悪くなってリストラに遭ってしまい、ハローワークで新しい仕事を探していたときに介護の仕事を考え始めました。仕事をしながら資格の勉強ができるという点も魅力でしたし、何より自分の両親も含め、誰もが老いを経験していくなかで、福祉のことをまったく知らないというのもなんだか違う気がすると思い、まずは専門学校に通うことを決めたんです。
その後、2年間学びを深めるなかで、福祉に対する考え方が少しずつ変わってきたといいます。
山口さん 福祉や介護と聞くと、身体的なケアをするイメージを持つ人が多いと思うのですが、勉強をするなかで精神的な部分のケアが最も重要だと学べたことが今でも印象に残っています。
特に高齢の方への介護は利用者さんの人生の最期のときを担う仕事です。その時間をより豊かなものにするための、素晴らしい仕事だという視点を得ることができました。
そんな背景があり、山口さんは一人ひとりにきめ細かいケアができる小規模多機能型居宅介護の施設を探し、浪速松楓会に辿りつきました。
山口さん 綺麗事だけではなくて、しんどいことも山ほどあります。特に利用者さんによっては歩み寄ろうとしても突き放されてしまうことがあったり。それでもめげずにケアを続けていると、最後には「今までありがとう」と言ってくださることが多いです。迷いながらやってきたことが間違っていなかったと思える瞬間が必ずあって、それがやりがいにつながっています。
さらに、しんどいことがあったとき、それを溜め込まずに吐き出せる雰囲気が浪速松楓会にはあるとも話します。
山口さん 月に一回は1時間くらい、鯉谷さんと話す時間があります。仕事のこともプライベートのことも含めて話していますね。物理的なしんどさは変わらなかったとしても、聞いてもらえる、受け止めてもらえると常に思えることで、精神的なしんどさが軽減されています。
鯉谷さんは、利用者だけではなく一緒に働く人が何に嬉しさを感じて、何に悲しむのかや、どこにストレスを感じるのかが分からないと不安になるそう。
鯉谷さん それが分からないと、どうやってお仕事の話をすればいいのかも分からないくらいです。対人援助の仕事って、感情労働。自分の本音ではない笑顔をつくらないといけない瞬間があったりして、燃え尽きてしまう人もいます。働く人にも「あなたのことを聞かせて」という時間をいかにつくるかは、いつも心がけてやっています。
最後に、山口さんに新しく仲間になる方へのメッセージを聞きました。
山口さん 私も初めてのことなので、一体どんな場所になるのかドキドキしています。安全確保と、誰かが嫌な思いをしないよう最低限のルールはみんなでつくっていきたいですし、一緒に考え悩み、工夫したり楽しんだりできる仲間を待っています!
一筋縄ではいかない仕事。
でもその先に、救われる人たちが必ずいる
浪速松楓会が新たに始めるのは、失われてしまったかつての風景を取り戻していく取り組みのように感じました。隣近所に住んでいる人とみんな顔見知りで、困ったことがあれば相談する。子どもを預かってもらったり、採れすぎた野菜のお裾分けをしてもらったり…。そんな風景が昔はあちこちにあったと想像します。
そんなふうに、家族でも友人でもないけれど、頭の片隅でいつも「元気かな?」と思い合える関係の人が近くに住んでいると思うだけで、心の健康は保たれるはずです。
幸せに生きていくために必要不可欠な居場所を、イチからつくりあげていく仕事。正解がないぶん、失敗したり悩んだり、一筋縄ではいかないことが山ほどあるかもしれません。
それでもその先に、必ず救われる人たちがいること。それがこの仕事の、いちばん大きな意義ではないでしょうか。
(撮影:水本光)
(編集:山中散歩)
– INFORMATION –
オンライントークイベント兼説明会を開催します
「“みんなのケアの居場所づくり”の仕事」というテーマに関心がある方は、
ぜひお気軽にご参加ください。
(イベント後には、任意参加の簡単な採用説明会も予定しています。)
なお、当日参加が難しい方はアーカイブ動画の視聴も可能です。