「フードデザート(food desert)」という言葉を知っていますか? 日本語に訳すると、食の砂漠。
フードデザートと呼ばれるエリアに住む人びとは、近くに生鮮食品を手に入れられる店がなかったり、アクセスが悪くてなかなかたどり着けない。あるいは、近くにお店があっても、そこで販売されている食品を購入できるほどの金銭的、時間的余裕もないことが多いとされます。
生鮮食品を手に入れるのが困難な彼らが頼るのは、安価に購入でき保存もできる缶詰やレトルト食品、あるいはファストフード店です。そのような食生活が常態化することにより免疫力が低下し、病気に罹りやすくなったり、老化が加速してしまうことも…。
この食が砂漠化した状況を解決するための解決策は、「砂漠」を「森」に大変身させることでした!
近隣住民が無料で収穫できる「食べられる森」
フードデザートを解決するべく、考案され、生み出されたアイデアが「フードフォレスト(food forest)」。砂漠化したエリアに、無料でもぎたての果実を手に入れられたり、一人で落ち着いた時間を過ごしたり、友人とアクティビティを楽しめる「オアシス」をつくったのです。
アメリカのアトランタ市では、2022年までに、市内の住民50万人の85%にあたる人たちの自宅から1マイル(1.6キロ)以内に食べられる森をつくろうと計画が進んでいるのだとか。
このたび生まれたブラウンズミル地区のフードフォレストでは、ピーカンナッツやブラックベリーをはじめ2,500もの無農薬で育てられた野菜や果物、薬草などが育っており、近所に住む人なら誰でも無料で収穫することができます! 新鮮な野菜や果物を近所で手に入れられることは便利ですし、食育の機会がもたらされる子どもたちだけでなく、大人にとっても楽しい体験をできる場所なはず。
さらにこのフードフォレストは、近隣住民にとって単に食べ物を得られる場ではなく、ヨガや映画観賞会などさまざまなアクティビティを楽しめる場所にもなっているんです。
フードデザートは、新鮮な食品の入手困難や健康被害だけが問題でなく、その状況下にいる人たちが特定のエリアに集まることによって、外部の人たちとの隔たりが生まれ、貧困や社会からの孤立など経済的、心理的距離が拡がってしまうことも含まれているそう。それを知ると、アクティビティを交えたコミュニティ機能を支援に加えた理由が分かりますね。
2021年現在アトランタ市内では、4人に1人、およそ12万5千人がスーパーなどの生鮮食料品店へのアクセスが悪いことからフードデザートに住んでいるのだそう。
実際、アトランタ市のブラウンズミル地区に住む、およそ2,100人の住民の最寄りの食料品店は、バスで30分かかるのだとか。買い物にそれだけの時間と労力を費やすとなると、日持ちがしない生鮮食品を買うのを控え、レトルト食品や冷凍食品に頼ったり、近くのファストフード店で食事を済ませてしまうのも無理はないですよね。
アメリカ国内に70以上ある「食べられる森」
近所に住む人なら誰でも利用できるこの場所は、かつて農場でしたが閉鎖され、土地は売り出され集合住宅になる予定でした。最終的にそれは実施されず、保全基金が土地を購入し、アトランタ市や米国森林局、緑化青少年財団など、多くの団体が携わって食べられる森のプロジェクトが始まりました。
ちなみにこのブラウンズミルのプロジェクトには、コミュニティ、企業、非営利団体など16ほどの団体がパートナーとして関わっており、ボランティアと近隣住民を含め1,000人以上が植林や水やりなどを行っています。
そしてアメリカ国内では、拡大する所得差による貧困層の増加、そして飢餓やフードデザートを解決するべく取り組もうとしている個人や団体が多いことから、少なくとも70の無料で収穫できるフードフォレストがあるのだそう。
1997年に米国で最初に開かれた、ノースカロライナ州アッシュビルにあるジョージ・ワシントン・カーバーフードフォレストの様子。さくらんぼのような赤い実を収穫中! Dr. George Washington Carver Edible ParkのFacebookから。
お次は、ワシントン州シアトルにあるビーコンフードフォレストの様子。苗を植える準備中のようですね。Beacon Food ForestのFacebookから。
近所で果物や野菜、ナッツなど多様な作物を収穫できる。そしてその過程を、地域の仲間と共に行うことができる「食べられる森」はすごく楽しそうで、コミュニケーションが取りやすいだけでなく、貧困や社会からの孤立、災害対策、生物多様性の保持などの課題も解決してくれて、とても多機能な農業の手法だと感じました。
そして、フードフォレストがアメリカ国内でこんなにも広まっているのは、単に課題を解決する策であることだけでなく、多くの人にとって「ここに来るのが楽しい」と感じられる場だからなのではないでしょうか?
社会課題の重苦しさを解決しようというエネルギーもありますが、「楽しい」が原動力になって未来が切り開けるときも数多くあります。人の心を動かす楽しいアクションを考えてみることが案外、社会課題の特効薬になるかもしれませんね。
[via good news network CNN good news network OHIO University aglanta.org USDA.gov, The Guardian, Unsplash]
(Text: 茂出木美樹)
(企画・編集: スズキコウタ、greenz challengers community)