毎年、毎季節、世界の都市で開催されるファッションウィーク。多くのファッションデザイナーたちが、自身の試行錯誤の成果を一着一着の洋服に込めて発表します。ファッションショーでは、そんなデザイナーたちの作品を、美しいモデルたちが身にまといランウェイをを闊歩。東京では、先週末に「マイナビ 東京ガールズコレクション」が開催されたばかりです。
今回ご紹介するのは、南アフリカのファッションウィークで発表された、異様なほどにタフなウェディングドレス。
ランウェイでお披露目する衣装を担当した南アフリカの著名デザイナー、Suzaan Heynsがデザインしたのは、「私たちが決してデザインしたくないウェディングドレス」。
ウェディングドレスというと、みなさんはどんなデザインを思い浮かべますか。清楚でエレガントなイメージでしょうか。可憐でロマンティックな雰囲気でしょうか。
一見エレガントに見えるこのウェディングドレスは、防護服などにも使われる強靭なケブラー繊維や鋳鉄などでできており、火にも、銃弾にも、刃物にも、衝撃にも耐えられる衣装だったのです。
美しさと強さ、そして異様さが漂うウェディングドレスを纏ったモデルがランウェイを歩くと、どこからともなく、さまざまな女性たちの声、声、声…。
その声は、パートナーから暴力を受けた女性たちの悲痛な独白でした。
彼は優しくて、愛情深く、私が男性に求めていたものすべてでした。私たちは結婚しましたが、そのあと、彼は暴力的になりました。彼は…愛情深い夫でした。
彼は私を殴るとき、人から見えないところで殴ります。彼は怪物よ。
結婚生活で、私は休息を見つけることができませんでした。私は虐待の中で生きています。
南アフリカ内務省の調査によると、南アフリカでは3人に1人が親密なパートナーからの暴力を経験。そして、殺人事件の被害者となった女性の死因の56%がDVだとされています。
そして、飲酒する成人男性の48%が泥酔を経験し、泥酔の原因となったお酒の56%がビール。泥酔するほどの飲酒は、パートナーへの暴力のきっかけになりやすいと言われています。
そんな中、女性への暴力根絶に向き合っているのが、南アフリカで人気のビールブランド「CARING BLACK LABEL」。CARING BLACK LABELが世論を喚起するために着目したのが、たくさんのメディアやインフルエンサーが集まるファッションウィークでのファッションショーでした。
煌びやかなファッションショーで目撃されたこのショッキングなウェディングドレスは瞬く間にテレビ、ラジオ、SNSで話題に。ニュースはもちろん、ライフスタイルやエンターテインメントを扱うメディアでも取り上げられました。
このアクションは、暴力に対する人びとの気持ちを大きく変えることに成功。パートナーからの暴力に対して声をあげようという女性が75%も増え、暴力の根絶に立ち上がろうという男性は44%増加。思わずビールで乾杯したくなる結果ですね。
悲しい事実を伝えるだけではなく、暴力に屈しないという女性たちの意志をも美しく表明したウェディングドレス。
ファッションは、着飾るだけのものではなく、日常的なアート表現としてもっと多くの可能性を秘めているのかもしれない。そう思わされました。あなたも、明日身につけるもので、何かメッセージを表現してみませんか。
(編集・翻訳アシスタント: スズキコウタ)