募集要項は記事末をご覧ください。
※採用予定人数が埋まり次第、募集終了となります。
名古屋から電車に揺られて約1時間半、岐阜県の白川町という町があります。町を紹介するときの決まり文句は「白川郷じゃないよ」。そう、「白川」という名前から勘違いされやすいですが、世界遺産にも登録されているあの白川郷ではなく、こちらは透明で綺麗な清流のまち、白川町です。
実はこの町、岐阜県で「消滅可能性都市」ワーストワンに選ばれたことがあるほど、人口減少が深刻な問題となっています。そこで立ち上げられようとしているのが、白川町役場とソーシャルビジネスに精通するAnbai株式会社から派遣された地域活性化起業人のコラボレーションによる「集落と人をつなぐWEBメディア ヤゴーシラカワ」。
そんな「ヤゴーシラカワ」チームに所属し、白川町にかかわる人やコトを取材して記事としてアーカイブしていく、ライター・編集の仕事を担う地域おこし協力隊を募集中です。
白川町の歴史や文化を後世に引き継ぎ、白川町を存続させる――。それが「ヤゴーシラカワ」の、そして今回募集する協力隊の重要なミッションです。
白川町にはどんな課題があり、なぜ地域おこしの方法としてメディアという形をとったのか。そして協力隊に期待されることとは何か。白川町役場企画課企画係の服部健人(はっとり・けんと)さんとAnbai株式会社所属の地域活性化起業人である纐纈翼(こうけつ・つばさ)さんにお話を伺いました。
屋号で呼び合う、白川町の魅力
白川口という小さな駅が白川町の入り口です。車を走らせると横を流れる綺麗な川と橋、目の前に広がる山林。取材に訪れた梅雨の夜は、蛙や虫の音が聞こえてきます。
そんな白川町には、「屋号で呼び合う」というユニークな文化が根付いています。屋号といえば、個人事業主が事業上で使う名前のイメージが強いですが、白川町は基本的に家に屋号がついているそう。
なぜこの文化が根付いたのかハッキリとはわかりませんが、白川町内に同じ苗字が多いためだったのではないかと言われています。
例えば、今回取材をさせていただいた纐纈さん家の屋号は「櫻屋(さくらや)」。白川町では纐纈という苗字が多いため、下の名前で呼ばれるか、もしくは「櫻屋の息子」と呼ばれることが多いそうです。
田舎ならではの美しい自然と、ゆったりと流れる時間。屋号で呼び合う町民の人懐っこさが魅力の白川町ですが、日本創生会議が2014年に発表した「消滅可能性都市」の中でも、岐阜県ワーストワンを記録するほど人口減少が問題となっています。高校卒業後は都市部で就業・就職するため、若い世代の人口流出が続いており、町内の様々なところで後継者不足、人材不足が深刻な状況です。
存続の鍵は“集落ごとのつながり”
白川町には、白川、白北、蘇原、黒川、佐見の5つの地区があり、そのなかにたくさんの集落があります。「町」というとこじんまりしたイメージがありますが、白川町の総面積は23,790haと、隣の集落まで車で20〜30分かかる広さです。
地理的な遠さが要因の一つとなり、自分が育った集落や地区以外をほとんど知らない人も多いそう。役場でお仕事をされている方も、その仕事をするまで他の集落に訪れたことさえなかったという声もあると、役場の服部さんと地域活性化起業人の纐纈さんは語ります。
服部さん 一見、普通の田舎ではあるんだけど、よくよく関わってみると面白い人や場所、文化がたくさん存在しているのが白川町のいいところだと思います。でも、それを知らないまま町を離れてしまう人が多い。
白川町は高校がないから、そのタイミングで町を出てしまうのは仕方ないにしても、「白川町ってどんなところ?」って聞かれたときに、「何もない」ではなくて「こんな面白い人がいてね」とか、「こんなおすすめの場所があるよ」と話してもらえるくらいには、白川町のことを知ってもらいたい。町外に出た時に「地元も悪くない」って思えるくらいには愛着を持ってもらえたら嬉しいですよね。
纐纈さん そういう町民一人ひとりの愛着みたいなものが、白川町の関係人口を増やすことにつながるんじゃないかなって。集落や地区ごとの関係が希薄で、出身者すら白川町のことをよく知らない今のままでは、町の存続の危機は止められないと思っています。
目指すは“町の編集局”。集落と人をつなぐメディア「ヤゴーシラカワ」とは?
そこで纐纈さんと白川町役場企画課を中心に立ち上げられたのが、今回の協力隊を募集する「集落と人をつなぐメディア ヤゴーシラカワ」のチームです。
立ち上げ準備中のWEBメディア「ヤゴーシラカワ」は、白川町に住む人、移住してきた人、たまに帰ってくる人、遊びに来た人など、町にかかわるすべての人の想いをアーカイブし、離れてしまった集落ごとのつながりや、実はお互い深くは知らなかった人と人をゆるやかにつないでいく存在です。
纐纈さん 「町にかかわるすべての人」というのは、過去や未来の人も含まれています。
例えば、一度取材した人をまた何年後かに取材する場合もあれば、ご高齢の方にお話を伺って、戦中・戦後の白川町の様子や過去に白川町を訪れていた方々のストーリーも残していきたいと思っています。
基本は、WEBメディア(立ち上げ準備中)とSNSが中心となる「ヤゴーシラカワ」ですが、ご高齢の方も多いため冊子の制作を予定していたり、公式LINEを使ったり、発信の方法はさまざま。過去にも町の団体とコラボしてグリーンツーリズムに関するイベントを開催するなど、その活動はメディア運用にとどまりません。今後も様々なコラボレーションを計画中です。
纐纈さん WEBメディアやSNSは、あくまで手段のひとつだと思っています。ヤゴーシラカワチームは、白川町の人や場所の多面的な魅力を見つけ出して発信していく“町の編集局”のような存在。どうすれば町の人たちが気持ちよく交流できるのか、議論と実践を繰り返していきます。
ヤゴーシラカワチームは、編集長兼プロデューサーである纐纈さん、今回募集する協力隊1名と役場の3名の、合計5人で構成されます。取材先の選定や企画出しはチームみんなでおこない、実際の取材・執筆を担当するのが協力隊の仕事です。時には、ディレクターとしてイベントの企画実施を担うことも想定されます。
食わず嫌いはもったいない。町の人たちの主体性を「ヤゴーシラカワ」から
町民同士の気持ちのいい交流を目指す、議論と実践の場「ヤゴーシラカワ」。その活動の土台となるのが、町にかかわる人たちを取材しアーカイブしていくWEBメディアの存在です。
なぜ地域おこしの方法として、メディアの運用を選択したのでしょうか?
服部さん 白川町は町全体としての発信がしっかりとできていなかったので、集落が違えばお互いのことを何も知らないし、知る機会もありませんでした。しかし、取材をすることで、半ば強制的にでも協力隊と町民の接点が生まれますよね。
まずは、取材によって町民と協力隊がつながり、次に公開された記事を読むことによって町民同士がつながっていく。取材によって引き出されたその人の想いが、町民同士の会話のきっかけになったら嬉しいなと思っています。
たとえ同じ集落で挨拶を交わす仲だったとしても、相手の想いや価値観まで知ることってなかなかないと思うんです。白川町の人たちはすごい長い時間立ち話してますけど(笑)だからといって深い話までできるかっていうと、そうでもなかったりします。
でも、取材という名目であれば、仕事や町に対する熱い想いなど、普段は照れ臭くて言えないことも引き出せる。その人の記事を読むことで、相手のことを深く知れるし、そこから会話も弾んでいく。メディアには交流のきっかけとしての面白さが潜んでいると思っています。
そして、メディア立ち上げの背景には、町の人たちの心が今よりももっと豊かな状態になってほしいという願いが込められています。
纐纈さん 「お互いを知らない」って不平不満を生みやすいと思うんです。知らないから「白川町は何もない」とか「うちの集落はこういうもんだ」って決めつけてしまいがち。
変化すること自体は、良いも悪いもないと僕は思いますが、相手の本当の想いや白川町の面白いところを知らないまま不満を言うのは、本人にとってもストレスになって豊かじゃないと思うんです。
服部さん たしかに、互いのことを知らないが故の「食わず嫌い」みたいなことが起きている気がするね。もったいないし、ちょっと寂しい。
纐纈さん あとは、「本当はやりたいことがあるけど、白川町じゃ仲間が見つからないだろうな」と一人で悶々と悩んでいた人も、他の人の想いに触れることで、「意外と似たようなこと、思ってる人いたじゃん!」とか、逆に「このやり方は白川町には合わないかもしれない」とか、何かしらの発見や安心感につながると思います。
安心できる環境さえ整えば、自ずと主体的な行動を取れるようになる。無理やり新しいことを始めさせるような活性化ではなくて、チャレンジしたい人が気持ちよく始められる環境を、町に関わる人たちでつくっていく。それが白川町に合ったやり方だと思っています。
地域密着型のライター・編集者として腕を磨く3年間
今回の地域おこし協力隊の募集は、ヤゴーシラカワチームのライター・編集者として、WEBメディアやSNSの運用を担います。
具体的な流れとしては、チームで企画出しや取材対象者の選定をおこない、チームのサポートのもと取材対象者へアポを取ります。どういった話を引き出せたら良さそうか質問案を作成し、直接足を運んで取材へ。1週間に1記事を目処に記事を公開していき、TwitterやInstagramなどのSNSで記事の告知や要約版の発信までおこないます。
町民への取材が最優先となりますが、それ以外にも町の様子やイベントの告知・レポート、白川町の歴史や文化の特集記事など、多岐に渡って発信。取材記事は週に1本、SNSは1日に1投稿を達成すべき最低限のラインとして設けていますが、より主体的な活動が求められます。
服部さん 具体的な3年間のイメージとしては、WEBメディアやSNSの運用を担うのは変わりませんが、1年目は「とにかく冒険」です。役場職員と一緒に、いろんな人に会いに行って話を聞いて、町のことを知るし、自分のことを知ってもらう。もちろん記事も書いてもらいますが「ヤゴーシラカワ」自体を知らない人も町の中にまだたくさんいると思うので、メディアの認知度を上げるためにも、まずは営業が必要です。
まだ確定ではありませんが、研修サポートも積極的に取り入れていきたいと思っています。社会人経験がない方であれば、初歩的なビジネスマナーのお伝えもするし、ライティング研修の実施も計画中です。
2年目以降は集落ごとの特色や町民の魅力をより深く理解し、実践形式でメディア発信のプロである地域活性化起業人の纐纈さんとより緊密に連携しながら動いてもらうことがメインになると思います。記事はもちろん、イベントなどの企画立案も積極的におこない、町民の交流の促進に力を注いでもらいたいですね。
纐纈さん 僕は白川町の地域活性化起業人として、「ヤゴーシラカワ」の編集長業務・企画運営を担っています。時にはライターの1人としても活動しているため、インタビューやライティングのサポートをしたり、2年目以降はキャリア相談にものれればと思っています。
協力隊での任期が終了したのち、想定されるキャリアは3つ。1つ目は、町内に残って企業に就職すること。ただし、求人も少ないため仕事を探すのが難しい場合もあります。そこで2つ目の選択として、個人事業主のライター・編集者となり外部からの仕事を獲得しつつ、半分は役場からの広報業務の委託を受けるなどのパラレルキャリアが考えられます。3つ目は、纐纈さんと同様の「地域活性化起業人」を目指すこともできるかもしれません。
纐纈さん いずれにしても、取材の中で企業の方や役場の方、農家さんなど、本当にさまざまな人との関わりができるはずなので、何かに特化した協力隊よりも、キャリアの裾野を広げやすいのがメリットだと思っています。
ゼロから開拓するからこそ感じられる、たしかな手応え
この仕事のやりがいをおふたりに伺うと、「ゼロから開拓できること」という同様の答えが返ってきました。「ゼロから」という言葉には、白川町公式のメディアの立ち上げからかかわれることと、消滅可能性都市岐阜県ワーストワンといわれる状態から地域おこしを担えるという二つの意味が込められています。
服部さん まだ何の体制も整っていないからこそ、自分から白川町の面白さを見つけて関係を結んでいけば、歩みはゆっくりでも確実に「変化している」感覚を得られると思います。
だから、潜在的な可能性を秘めた白川町を自分の手で開拓することに喜びを感じられる人が望ましい。むしろ、指示されて動くことに気持ちよさを感じる方や仕事とプライベートをきっちり分けたい方には向いていないと思います。
纐纈さん 「ゼロから開拓できること」は事実だし、この仕事の一番の面白さだと思っています。ただ、白川町のことを何も知らない人がやってきて、すぐに開拓できるかというと、そうではありません。「絶対にこっちの方が効率的だから」と都会的な価値観やスピード感を押し付けてしまうと、仲間はもちろん、町の人からの協力・賛同は得られません。
これまでの慣習が白川町の文化をつくってきたわけだから、そこは大切にしつつ、距離を縮めていく必要があります。変わることも、変わらないことも、どちらも正しい。そのバランスの取り方が、慣れるまで難しいですよね。
その一方で、懐に入るとグッと距離が近くなるのも白川町の人たちの特徴だと思います。人と話すのが好きな人がこの仕事に向いているとは思いますが、距離感の詰め方に困ったときは、気軽に僕や役場のメンバーに相談してもらいたいです。
他にも、この仕事で身に付く力の中に「編集力」があります。「編集力」はメディア運用だけでなく、営業やプライベートにおけるコミュニケーション、さらには人生を豊かにする力であると纐纈さんは言います。
纐纈さん 編集力って、多面的に情報を集め、整理し、その場に適した形で相手に届ける力だと思っています。人と人の距離の近さといったような、いわゆる田舎のめんどくささが白川町には確実に存在していますが、それも見方や切り取り方次第。編集力は田舎を楽しむための大切なスキルだと思っています。
田舎ならではの距離の近さは、時に閉塞感をもたらすのも事実。しかし、常に誰かが気にかけてくれるからこそ、孤立を防げたり、悩んだときには相談者が見つかる温かさがあります。
逆に都心部では、パーソナルゾーンに介入されない開放感がある一方で、孤独になりやすかったりもする。そんなふうに、すべてのことには良し悪しがあるからこそ、いかに良いところを気持ちよく引き出せるかが重要。そう考えると、人生においても編集力のいかしどころはたくさんありそうです。
「時に大変な地域貢献も仲間と一緒に楽しく」先輩移住者 樋口彩さん
最後に、移住してきてから半年、地域おこし協力隊の先輩にあたる樋口彩(ひぐち・あや)さんにもお話を伺いました。
樋口さんは、今回の取材場所でもある「移住サポートセンター」にて、移住や空き家に関する電話や来客対応をおこなっています。今後は、町内の空き家調査など活動の幅を広げていく予定です。
樋口さん もともと町づくりのことを大学で勉強していて、空き家問題にも関心がありました。三重の実家から離れすぎておらず、なおかつ実際に地域の中に入ってできる仕事を探していたときに出会ったのが今の仕事です。
最初の1ヶ月はお試し期間として採用してもらい、2ヶ月目から本格的に協力隊となりました。移住するかどうか、結構長い期間迷ってしまったんですけど、役場の人がすごく寛容に私の心が決まるまで待っていてくれて。そんな人柄に惹かれて移住を決断しました。
移住してから半年。最初は休みの日は実家に帰ることが多かったものの、今では白川町で過ごすことが多くなり、友達が増えてきたといいます。休みの日は林道を散歩したり、山登りをしたり。積極的にイベントに参加しているうちに、地元の方とも移住者ともバランス良く交流できているそう。
樋口さん 纐纈さんからお話があったように、たしかに人と人との距離が近くて慣れるまでに多少時間はかかりましたが、今ではむしろ気にかけてくれてありがたいなって思います。困ったときにはすぐに相談できますし、近所の人が野菜を持ってきてくれるから健康的にもなりました(笑)
白川町の好きなところを伺うと、「ありきたりだけど、やっぱり“人”だと思います」と素敵な笑顔で答えてくれました。
樋口さん この間、有志メンバーで町内のゴミ拾いをおこないました。写真でわかるようにレンジャーの格好をして(笑)
樋口さん 運ぶのが困難なゴミも落ちていたりするので、体力的にはまあまあ大変な作業なんですけど、こうやってちょっとふざけながら楽しんじゃおうとする姿勢の人が多くて。時に大変な地域貢献の仕事も、楽しもうとする人が集まれば素敵な思い出になります。
一人で急がず、みんなで着実に。白川町の可能性を未来につないでいく
集落と人をゆるやかにつなぐことで町民の心の豊かさを生み、結果として町の主体性を底上げし、関係人口を増やしていく――。慌てすぎず、じわじわと、でも着実に進歩を生み出していこうとする懐の広さは、都心部では感じられない、ゆったりとした時間が流れる白川町ならでは。
ライター・編集者として確かなスキルを身につけつつ、地域のメディアづくりをゼロからできる今回の協力隊。白川町役場からのサポートだけでなく、ソーシャルビジネスに精通したAnbai株式会社からも、メディア運営のスキルサポートをしてもらえる体制は心強いと感じました。
町の人たちと密に関わり合いながら、地域が秘める可能性を自分の手で見つけ、集落と未来をつないでいきたい。そんな想いを持つ方であれば、濃密な3年間になるはずです。
(撮影:山口あいか)
(編集:山中康司)
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