沖縄県うるま市は、沖縄本島中部にある県内で3番目に人口が多い自治体。全長5キロ弱の海中道路と呼ばれる橋でつながる「島しょ(とうしょ)地域」を含むのが特徴です。
島しょ部の5つの島のうち平安座島(へんざじま)、宮城島(みやぎじま)、伊計島(いけいじま)、浜比嘉島(はまひがじま)の4島は橋でつながっています。市内中心部はショッピングモールや発電所などの都市風景が広がりますが、島を訪れると本島では見かけにくくなった赤瓦や琉球石灰岩の石垣など、昔ながらの家や路地があるのどかな風景が広がります。
プロモーションうるまが考える共創型ワーケーションとは?
うるま市のまちづくり会社である一般社団法人プロモーションうるまは、「1年先、10年先、そして100年先のうるまの未来を共につくろう」を合言葉に、郷土愛を持ってその土地らしい「新しい価値」を探り、持続していく地域社会を創り出す活動を地域の人と共に行っています。
この地で、2020年より「共創型ワーケーション」のモニターツアーをプロデュースしているのは、プロモーションうるまの「じょりい」こと田中啓介(たなか・けいすけ)さん。じょりいさんは、現状多くの地域で行われている休暇重視のワーケーションには行う側も受け入れ側にも課題があると言います。
じょりいさん バケーション型のワーケーションって、結局は地域資源が浪費されていく既存の観光の延長じゃないかと思うんです。
沖縄だとリゾートホテルに宿泊しながら青い海を眺めて開放感に浸りつつ仕事をする、なんてイメージがありますが、地域への経済効果は微々たるもの。一方でワーケーションをする側も、仕事と余暇の線引きが難しくて労務管理や経理で悩んでいたり、日常と非日常のギャップが大きすぎてかえって疲れたり。
「ワーク×バケーションだと、結局誰の幸福度も高まらない」という仮説を立て、「じゃあどういうワーケーションだったらみんながハッピーになるのか?」というところから、うるまでの共創型プログラムを組み立てました。
共創とは、地域の人と訪れた人が一緒になって何かをつくり出す状態のこと。とはいえじょりいさんの中には、都会生活からのいつもの感覚のまま地域人材と出逢っても、表層的な共創で終わってしまって、本質的な関係性にはつながらないのでは、という危惧もありました。
そこで、まずはからだとこころに共創を育むための余白を生み出す時間を設けたうえで、地域で活躍する人たちと出逢い、そこからグリーンズチームと一緒に「いかしあうつながり」を実感できるワークショップを行うことで、より深みのあるワーケーションが実践できるのではと考えました。そこで今回、テストケースとして、2泊3日の共創コアプログラムが組まれることになったのです。
参加したメンバーは、グリーンズ共同代表の植原正太郎とグリーンズの学校編集長兼松佳宏、ピープルチームの小倉奈緒子ほか編集部やビジネスチーム、ライターの7名。
そのうち2組は子どもを連れての家族参加で、総勢12名のチーム構成となりました。グリーンズでは1年以上全員がオンラインで仕事をしていたので、リアルで顔を合わせることが本当に久しぶり。なんと「オフラインでは全員はじめまして」という人も。それぞれ別途で沖縄入りし、ツアー前日にうるま市内で集合です。
ときは11月中旬の沖縄、空港に到着した途端に少しむわっとした亜熱帯の風を肌で感じます。長い間味わっていなかったちょっとした異国感。否応なしに「遠くに来たぞ!」という気分が高まりました。
圧倒的なうるまの海を目にして、自然と力が抜けていく
うるまでの共創型ワーケーションでは、こころとからだに余白をつくる第1段階、そこから地域の方と会って話をする第2段階に分けて、地域人材との共創を試みます。
朝、海中道路のパーキングエリアで「はじめまして!」の挨拶をしたのち、車を連ねて浜比嘉島へ向かいます。案内されたのは、島の奥にある製塩所に付属する浜辺。昨日までの雨混じりの曇天模様から一転、「これぞ沖縄!」と言いたくなるピーカンの太陽がわたしたちを歓迎してくれました。
まずここで行うのは、ベイカント(Vacant=空白)の時間。浜辺でゆっくりからだとこころを解放していきます。
事前にグリーンズメンバーで行った、旅でしたいことをヒアリングするZoomミーティングでは、日頃の激務から「とにかく何もせずにビーチで寝たい」との声ばかりでしたが、いざ青い海を前にするとテンションが上がりまくりで、大人も子どもも水着で海に入る人が続出。漂着物を収集するビーチコーミングをしたり、浜の日陰でのんびりしたりと、思い思いに自然との一体感を楽しみます。
心身ともにさっぱりしたところで、「高江洲製塩所」の場内を見学し、すかさずお土産の塩などを購入。ここで15年以上独自の製法で手づくりの塩をつくり続ける高江洲優(たかえす・まさる)さんは、「つくり方を塩(紹)介しマース!(マースは沖縄方言で塩のこと)」など、塩にまつわる軽快なダジャレつき案内トークで我々を楽しませてくれました。
地域の人に会いに行くー 宮城島「あごーりば食堂」へ
午後からは地域の方と会って話をする第2段階として、2チームに分かれてうるまの素敵な地域人材の方々に会いに行きました。
宮城島・上野集落に2021年12月にオープンした「あごーりば食堂」と、同じく宮城島の移住者で島のオーガニックな暮らしを発信している池上ナディさん・カールさんのご自宅です。そのなかでも今回は、わたしが訪れた「あごーりば食堂」について詳しくご紹介します。
わたしたちが「あごーりば食堂」を訪れたのは、1年半という時間をかけ、仲間たちで力を合わせて仕事のない週末を使って古い空き家を改修し、もうすぐ完成するという頃でした。
この食堂の料理長・土田芳枝(つちだ・よしえ)さんは島の向かい側にあたる金武町(きんちょう)出身。宮城島は、土田さんの両親の故郷です。長く東京在住でしたが、2019年に夫が定年退職を迎え、子どもも手がかからなくなったため、35年ぶりに1人で沖縄に戻って来ました。
土田さんは、東京・吉祥寺にあるシェアキッチンで3年ほど、月1回の沖縄居酒屋を運営する飲食業経験もあったため、島でも何かやりたいという気持ちがありました。最初は民泊施設を想定していましたが、最終的に島の食材を使い、近所のおじいおばあが集まってご飯を食べられて話ができる「食堂」という形式が、いちばん自由でみんなが安心できる場であると考えました。
他の離島同様、宮城島にも人が住んでいない空き家はたくさんありますが、そこを借りられるかどうかは別問題。また、料理はできるけれど、家の修繕や大工仕事などは全くの素人。島に移住してからすぐに店のオープンまでたどり着けたのは、宮城島を拠点して空き家改修などを行っていた地域団体「SU−TE(すーてー)」の存在があったからこそだと土田さんは話します。
土田さん ボロボロだったこの家を借りられることになって、業者に頼まず全部SU-TEや島のみんなで、週末や空いた時間を使って少しずつ改修していくのもやりがいがありました。それに、この食堂プロジェクトはずっと島で育った人たちが関わっているから「変なお店にはならないだろう」と島のみんなが思って、安心して見てもらえているのもよかった。
SU-TE代表の新屋秋夫(にいや・あきお)さんは、進学で島を離れたまま戻らない人が大多数の沖縄の離島事情の中では稀有な、島にずっと住み続けている大人のひとり。不便もあるのにどうして? とのグリーンズチームからの問いには、真っ直ぐな目で「宮城島が好きだから」とひと言。重みのあるその言葉の迫力に、一同はうなずくばかり。
生まれ育った島が好き。ただ空き家も増えて衰退気味の島に危機感はあれど、長年自分たちで何か始めよう、という発想や行動には至らなかったという新屋さん。彼を動かしたのは、宮城島のお隣、伊計島在住でうるま市の地域コーディネーターもしているSU-TEメンバーの石川優子(いしかわ・ゆうこ)さんの働きかけと情熱でした。
石川さん 秋夫さんに「なんかやろうよ」って言い続けて、「じゃあやろうか」となるまでに3年かかりました。島の人が集まる模合(もあい=沖縄特有の同窓会のような趣味や出身ごとにつくられるグループの集会)に参加させてもらい、口説きつづけたんです。
島の人が動くには、外から来た人とは違う覚悟が必要なんですよね。ずっとここに住み続けていて、周りもみんな知り合い、仏壇も墓もある。何をするにしても失敗したら、引っ越すとかいった逃げ場がないですから。でも、一度秋夫さんが「宮城島のためになるなら」と決めたらそこからの行動はめちゃくちゃ早かった。
まずは「5万円出し合って団体をつくろう」と決め、3人でスタートしたSU-TE。Tシャツ制作やイベント屋台出店からスタートし、その後、空き家となっていたメンバーの実家を住めるよう改修することとなり、活動が本格化。
そんな折に入ってきたのが、土田さんの孫ターン(祖父母の故郷に孫がUターンすること)帰郷の情報でした。すぐに彼女も仲間となり、「あごーりば食堂」のプロジェクトがスタートしたのです。土田さんは、近くで勤務する学童保育の仕事もやりながら、SU-TEのみんなで協力しあって食堂をなるべく長く開けて、気軽に立ち寄れる場にしていきたいと意気込みを話してくれました。
突然の「三線ライブショー」で、自然なかたちの共創のあり方をみる
そろそろお暇しようか、という頃、食堂のメニューに出ていた謎の「岸本さん」がもうすぐ大阪から来ている大工さんと一緒に買い物から帰ってくるとの情報が。なんでもその大工さんは、縁あって沖縄に仕事で来ていた際に島の移住者の若者と仲良くなり、「ちょっと手伝ってもらえないか」という話から何度もボランティアで島に滞在し、改修工事を手伝っているのだとか。
岸本さんに加え、その大工さんにもぜひお話を聞いてみたい!
出していただいた島のお茶を飲みながら、開放的な食堂の空間でしばしのんびりと島の空気を味わいます。
そこへブルブルと軽トラの軽快な音。岸本さんたちが帰ってきました。みんな和気あいあいと本当に楽しそうです。お庭で作業を始めていたのが、大阪から度々島にやってくる山本和正(やまもと・かずまさ)さんでした。
山本さん 壊れた扉を3枚、とりあえずそれだけ直してって頼まれて。自分は現場監督で扉の構造はわからないし自信がないと言ったんですけど、「大丈夫、大丈夫」って。それからもう1年ぐらい、本業の合間に休みを取って通ってます。
山本さんは三線も練習中。今度食堂の開店祝いで披露する予定という話から、新屋さん、岸本さんを交えて、わたしたちの前で即興ライブをすることに。思いがけないこの展開にわたしたちも「関係人口とかワーケーションの本質ってこういうことでは?」と大興奮!
このままお酒が入ればエンドレスな宴会になってしまいそう(居残りたい!)というところでお開き。取材時に偶然お話を伺えた山本さんでしたが、彼こそが自分の仕事が島の役に立ち、自らも休暇を楽しむという、自然なかたちでの共創ワーケーションの体現者なのでは?という思いを強くした取材となりました。
オーガニックな暮らしを営む宮城島池上ナディさん・カールさん一家
ちなみに、もう一方のグループは、宮城島でオーガニックな暮らしを実践・発信している池上ナディさん・カールさんのお宅を訪問したので、少しご紹介。
島しょ地域のローカルベンチャースクール「うるまワタクシプロジェクト」の2期生でもあるおふたり。「もともとNetflixが大好きだった」という、アメリカ生まれ沖縄育ちのカールさんが、オーガニックな暮らしを実践していたナディさんと出会い、消費するのではなく食べるものも住まいも自らつくっていく生活の楽しさを実感したそう。
「自分たちで暮らしをつくると、本当に毎日がドラマチックで、映画とかドラマを観る必要がなくなりました」と、心から楽しそうに語っていたのが印象的でした。
現代は、消費するばかりの生活に違和感を感じている人も多いと思います。そんな人に私たちの暮らしを知ってもらえたら、何かヒントになるかもしれない。だから、どうしたら多くの人に知ってもらえるのか、考えているところなんです。
とナディさん。
「とにかく二人の存在感や、息子さんや娘さんとの関係性が素晴らしかった」と、会いに行ったチーム全員が口々に感想を漏らしていたナディさんファミリー。次の日にみんなで体験した、ナディさんプロデュースのオーガニック食メニューは、色合いも味も最高で、ナディさん・カールさん一家が実践する暮らしのゆたかさに触れられた気がしました。
(ナディさん一家も参加した島しょ地域のローカルベンチャースクール「うるまワタクシプロジェクト」は後日別の記事でもご紹介予定です!)
後編は、さらなる素敵な地域人材との出会い、そしてたくさんの気づきがあった「共創いかつなワークショップ」が行われた2日目の様子をお届けします。
– INFORMATION –
高江洲製塩所
〒904-2316 沖縄県うるま市勝連比嘉1597
営業時間: 10:00-16:00
定休日:日曜日
(臨時休業の場合もあるのでHPで確認ください)
あごーりば食堂
〒904-2424, 沖縄県うるま市与那城上原 21
営業時間: 10:00-14:00(日曜のみ16時まで)
定休日: 水・木曜日
グリーンズと一般社団法人プロモーションうるまは、3/5(土)13:30~15:30にオンラインイベント「“3rd Place”から“0th Place”へ!自分とつながる”マイ聖地”の見つけ方」を開催します。うるま市での共創ワーケーションに興味を持った方はぜひご参加ください!
(撮影: アラカキヒロミツ)