みなさん、こんにちは! 日本各地のゲストハウスを通じて「日本の旅の、あたらしいかたち」を探るメディア『ゲストハウスプレス』を運営する、編集長の西村祐子です。
ここ数年、旅を取り巻く環境はずいぶんと変化しました。移動の制限や不特定多数の集まりや飲食の制限、テレワークの推進などもあり、今まで当たり前だと感じていた「常識」がいかにもろく、移ろいやすいもの、貴重なものだと感じた人も多いでしょう。
これから先、旅のあり方はどのように変わっていくのでしょうか?
また、「旅のこれから」は、わたしたちの暮らしや生活のよりよいあり方のヒントにもなるのでは?
そんな仮説をもとに、今、まさにコロナ禍の波をサバイブしているゲストハウスや旅にまつわる関係者のみなさんへお話を聞きに行く連載を始めることになりました。
コロナ禍で失った、偶然の出会い
あなたは旅が好きですか?
移動と人との接触が制限されたこの2年ほど、旅をしたり、いろんな人と出会って話すのが好きな人にとっては、もどかしい日々を送っていたのではないでしょうか? 旅や外出を好まない人も、自由に出かけられない日常は、気分転換しづらく、閉塞感を感じることがあったことでしょう。
旅する人を迎える側の観光事業者もまた、環境変化の大波小波に遭遇し、今なおその波と共に試行錯誤する日々が続いています。観光や宿泊のかたちが多々あるなか、ゲストハウスという業態は、特にこのコロナ禍の影響を大きく受けました。
ところで、ゲストハウスっていったいどんなところ?
連載スタートに先んじて、改めてその特徴や歴史を紹介していきましょう。
ゲストハウスは、ホステルとも呼ばれる比較的安価な宿泊施設の総称です。
その多くはドミトリーと言われる相部屋を設けていたり、個室の場合も水回りは共同。そのかわりに、ソファや座卓などが置かれるラウンジと呼ばれる、くつろげる共有スペースを広く取っているのが特徴です。また、若者向けと思われがちの施設ですが、年齢も性別国籍も問わず、特にひとり旅や少人数で旅先での出会いを求める人には特に楽しむことができる場所です。
わたしが感じるゲストハウスの魅力は、年齢や国籍などを超えたさまざまな人と話したり、時には一緒に飲食をして交流する場があること。宿のスタッフと話し込んだり、時には宿泊しない地元の方がふらりと遊びにきて仲良くなったりと、一期一会の出逢いやハプニングが起こりやすいところだと考えています。また、地元密着型の宿が多いため、まちを深く知り、暮らすように滞在することができるツールとしても優れています。
知らない人とも深く知り合える。その魅力が一転、コロナ禍では感染防止策の一環で避けられるべき事項となってしまいました。
ゲストハウスという業態が日本で一般化したのは、20年ほど前のこと。主にヨーロッパや東南アジアで広がっていたバックパッカー御用達の安宿をモデルに、2000年代初頭、沖縄や京都で宿が増えた頃が契機とされています。
2013年には「東京2020オリンピック」の開催決定を受け、規模の大小問わずホテルやホステルの開発が進みました。インバウンドと呼ばれる外国人観光客の激増や民泊の盛り上がりもあって、業界全体が活性化したのがここ数年のこと。
以前、ゲストハウスは一部の旅マニアや外国人のための宿と思われていました。ですが最近は、「おしゃれ」「カッコいい」といわれるようにイメージも変化し、さまざまなスタイルの宿が生まれ、若者がカジュアルに訪れる場所となり、年月を経てゲストハウス文化と呼べるほどの厚みをつくってきたように思います。
この現象は、喫茶店から「カフェ」が誕生し、栄枯盛衰を繰り返しながら、誰もが知っている存在に一般化した流れとよく似ています。もしかすると、ゲストハウスも同じように、これからも無数に生まれ、個人店、チェーン店、古民家、ビルリノベ、カリスマオーナーがいる人気店舗…のように、さまざまなジャンルにより細分化されていくのかもしれません。
また最近は、ゲストハウスが高機能化し、ホテルのような快適性を備えた施設が増えるとともに、ホテルがカジュアル化し、その特徴が交錯する状況になりつつあります。例えばリビングゾーンを設け、まちとつなぐ機能を持った「ライフスタイルホテル」と呼ばれるジャンルができるなど、今までゲストハウスが担っていた役割を包摂した宿泊施設も増えています。
ゲストハウスに惹かれ、取材を続けている理由
わたしは、旅を通じて人と人が出会う装置としてのゲストハウス・ホステルという業態に魅力を感じ、2013年からフリーペーパーを中心に『ゲストハウスプレス』というメディアを運営しています。2019年には創刊からのフリーペーパーを再編集した書籍『ゲストハウスプレスー日本の旅のあたらしいかたちをつくる人たち』を発刊しました。
(Amazon品切れが多いですがこちらから直販購入可能です。ぜひ!!)
ひとりでも、グループでも、自分自身でスケジュールを決めて旅をすることは、小さな決断の連続。ゲストハウスでは、自分が知らない世界で生きる人々との出会いがあり、そこで偶発的に巻き起こる出来事が、人生を大きく変えていくことがあります。宿泊をきっかけに人に出会い、移住を決めたり、転職や結婚をしたり……生き方が大きく変化した人をわたしは数多く知っています。
まだ今ほど地方移住や独立起業というあり方が一般的でなかった10年ほど前、当時20〜30代だった個人がいちオーナーとして物件を取得し、なるべくお金をかけずに自分たちで改装して開業することが多かったゲストハウス。当時、わたしは旅先でそんなひとつに宿泊し、宿としての居心地のよさだけでなく、自分の力で未来を切り拓く若いオーナーの姿にも感銘を受けました。
そうした彼らも開業から年月を経て年齢を重ねて、家族を持ち子供を育て…。自身を取り巻く環境変化に加え、新規開業するホテルやゲストハウス、民泊などの競合も増え、彼らが今後、どのように宿と人生を舵取りをしていくのだろうか?
わたしがそんな興味も持っていた最中に突然はじまったコロナ禍。
インバウンドの集客はあっという間に失われ、廃業や撤退を決めた施設もありました。
取材したゲストハウスのみなさんの苦境もSNSを通して痛いほど伝わってきました。
が、同時にみんな強い!
休業中に工事をして個室を増やしたり、新規事業として、まったく違う畑のビジネスをスタートさせた人など、ちょっとのことでは「めげない、へこたれない」宿や旅に対する愛情や情熱に感動を覚えました。
連載「旅とゲストハウスのこれから」がはじまります
これからスタートする連載「旅とゲストハウスのこれから」では、全国あちらこちらで始まっている、ゲストハウスの次の動きや試行錯誤、今後の構想への想いやチャレンジをご紹介していきます。それらはまさに、グリーンズがビジョンとして掲げる「いかしあうつながり」の具体例ばかり。彼らの奮闘ぶりは「これからどうやって生きていこう?」と人生の岐路にいる人への熱いメッセージにもなることでしょう。
この連載の編集担当は南未来さん。3年半ほど前に地元である愛知県瀬戸市へUターン。彼女の夫の南慎太郎さんが運営する「ゲストハウスますきち」で広報を行うゲストハウス関係者でもあります。
現在、こちらもまた変化の時期。2022年春のリニューアルオープンをめざし、「ますきち -宿泊・喫茶・土産・案内-」と名前も改める予定とのこと。未来さんは、様々な媒体での取材を再編集した瀬戸の案内本の出版に向けても準備中です。瀬戸市はやきものの産地で、地元の窯元とコラボしてお土産をつくったり、ツアーも企画しているそうで、まちとよりつながる仕掛けが増えていく取り組みに心が踊ります。
わたしと未来さんは、ゲストハウス好きという共通点だけでなく、彼女の前居住地と今年からわたしが移住した先が同じという偶然もあり、これから一緒に旅の楽しさや人の魅力を伝える記事をつくっていこうと意気込んでいます。
次回からは、全国津々浦々のゲストハウスの今とこれからの情報をお届けします。
初回は、神奈川県小田原市の「Tipy records inn」です。実はオーナーのコアゼユウスケさんは、わたしがコーディネーターとして関わったグリーンズの学校「ゲストハウスプロデュースクラス」の受講生。開業前の彼の奮闘から古民家やアパートを改修して4軒の宿を運営し、新たなプロジェクトも立ち上げた現在までのストーリーを臨場感たっぷりにご紹介していきます。
次の旅先選びの参考に、また力強く生きる先駆者たちの姿を励みに。どうぞ楽しみにお待ちください!