料理人がめずらしい食材に出会い、「これでなにをつくろう」と心を躍らせるように。絵描きがあざやかな絵の具と出会い、「これでなにを描こう」と心を躍らせるように。
いきいきとクリエイティブに働く人たちと出会い、「この人たちの魅力をどう伝えよう」と心を躍らせる–そんな「エディター気質」がある人にとって、栃木県下野市(しもつけし)は活動するのにうってつけのまちかもしれません。
下野市では今、地域おこし協力隊の制度を活用して、まちの魅力を伝えて地域外の人とのつながりづくりに取り組む「コミュニティエディター」を募集しています。
今回グリーンズ求人では、「等身大で、クリエイティブ」な取り組みが次々に生まれている下野市の特徴や、「コミュニティエディター」の仕事についてご紹介します。
ー 目次 ー
▼等身大で、クリエイティブ
▼まちのなかに、メンター的な人がいる
▼何もないからこそ、人の創造力がいきる
▼制度というかたちで、活動を支える行政の存在
▼まちに必要な「コミュニティエディター」とは?
▼下野市で働くこと・暮らすこと
▼「何もない」からこそ、自分の力を存分にいかすことができる
等身大で、クリエイティブ
栃木県下野市は、栃木県中南部に位置する、人口6万人ほどのまち。2006年に南河内町・石橋町・国分寺町が合併して誕生しました。
都心からは快速で約70分、新幹線を利用すれば約45分というアクセスの良さ。車でぐるりとめぐれば、JR宇都宮線の自治医大駅を中心にした市街地と、日光街道沿いの旧宿場町、その周辺部の田園地帯という、異なる風景と出会うことができます。また、自治医大がある影響で、人口1人当たりの医師数が全国1位という「医療のまち」でもあるそう。
……と書いている僕も、正直なところ今回の記事をつくることになるまで、下野市のことをくわしく知りませんでした。「下野」と書いて「しもつけ」と読むのだ、ということもあやういくらい。(ごめんなさい)
ただ、調べていくうちに、「実は下野市、すごい地域なのでは……?」と思うようになりました。
その特徴を僕なりにひとことで言うなら、「等身大で、クリエイティブ」。ひとの想いを基点に始まった、思わず心惹かれるようなプロジェクトが、まちのあちこちで生まれているのです。
たとえば、2016年から開催されている「しもつけフェスティバル」。下野市役所前の市民ひろばと1階ロビーを会場に、下野市の美味しいグルメや豪華アーティストによるライブが楽しめ、毎年1万5千人を動員するほど人気のフェスです。
下野市を彩る祭りはそれだけではありません。「吉田村祭り」は、この村で生まれ育ったメンバーが集まり、かつての活気を呼び戻そうという思いから始まったイベント。下野市の吉田地区にある大谷石の石蔵を舞台に、マルシェやワークショップが開催されています。
また、「介護付有料老人ホーム 新(あらた)」では、元施設長の横木淳平さんが「その人らしい生活を取り戻すための手助けをする。そして夢を叶える」介護を「介護3.0」と名付け、利用者にオムツを着用させないなど、新しい介護のあり方を切り開いています。
下野市から生まれたメディアも。「Mammamag(マママグ)in Tochigi」は、高橋ひろみさんが自らの経験をもとに立ち上げた、ママ友づくりや外出のきっかけになるような身近な情報をまとめた育児中の母親向けフリーマガジンです。
「笑い場しもつけ」も紹介しないわけにはいきません。落語・コント・漫才・漫談など、本格的なお笑いが開雲寺というお寺で楽しめるイベント。「栃木県に浅草を創る」をテーマに、お笑い芸人である永井塁さんが企画・運営しています。
ほかにも、築100年超の古民家をリノベーションした「TSUBAKIYA」や「シモツケラボ」「うしとらブルワリー」「ホームビレッジ」「おかしのいえ」「ポッケ」などなど、下野市で取り組まれているプロジェクトはここでは網羅し切れないほど。それらはどれもクリエイティブで、どこかその根っこに人の想いを感じ取ることができる、「等身大で、クリエイティブ」な取り組みばかりなのです。
まちのなかに、メンター的な人がいる
でも、どうして下野市では次々に「等身大で、クリエイティブ」な取り組みが生まれるのでしょう? その理由を、下野市のみなさんに聞いてみることにしました。
インタビューのために下野市役所に集まっていただいたのは、下野市役所の篠崎英さん、大橋真里さん、松沼弘茂さん、下野市のまちづくりに関わる「NPO法人とちぎユースサポーターズネットワーク」の古河大輔さん、まちづくり会社「一般社団法人シモツケクリエイティブ」の山口貴明さん、そして現在下野市の地域おこし協力隊として活動中の鈴木祐磨さんと大坪亜紀子さんです。
(東京都では緊急事態宣言が発令されていたため、ライターの僕はオンラインで話を聞かせていただきました)
下野市だけでなく、栃木県内のさまざまな地域でまちづくりに関わっている古河さんからみた、下野の印象はどんなものなのでしょう?
古河さん なにか想いを持った人が「こういうことやりたいんだけど……」って言い出したとき、他の人が「いいじゃん! 一緒にやろうよ!」って声をかけているような場面をたくさんみますね。それって、他の地域ではなかなかないんじゃないかな?
地域おこし協力隊の2人も、「たしかに!」と続けます。
大坪さん お節介な人がたくさんいますよね(笑) なにか「やりたい!」って言ったら、応援してくれる。でもそれだけじゃないんです。なかにはやりたいことがあっても、遠慮して声を上げられない人もいるじゃないですか。そういう人も見捨てないのが、下野市の人たちだなって思います。「なにかしたいことはあるの?」って、声をかけてくれるんですよね。
鈴木さん そうそう! 地域おこし協力隊の僕らがなにをしたいのかも、すごく尊重してくれてる感覚があります。地域の人から「なにかしたいことはあるの?」って聞かれて、「あ、ちゃんと考えてなかったわ」って気付かされたり(笑) それで「これがやりたいんです」って言ったら、応援して、人を紹介してくれたりするんですよ。
なるほど、下野市にはいわゆる「メンター(仕事上の指導者・助言者)」的な役割の人がいるということなのかもしれません。他地域では、地域で活動する人のメンターとして専門家を任命しているところもありますが、下野市ではそこに住む人々のなかにメンター的な人がいて、活動を応援してくれているようです。
何もないからこそ、人の創造力がいきる
「等身大で、クリエイティブ」な取り組みが生まれる背景にある、メンター的な人たちの存在。その一人が、「シモツケクリエイティブ」の山口貴明さんです。
一般社団法人シモツケクリエイティブは、「何もないから何でもできる。なければ創ろう。」をモットーに、一級建築事務所アンプワークス代表の山口さん、伊澤いちご園代表の伊澤敦彦さん、国分寺産業代表の田村友輝さんによって2017年に結成されたまちづくり会社。設立以来、「しもつけフェスティバル」の運営や公園の管理、古民家カフェ「10picnictables」の運営など、多くの地域活性事業を手掛けています。
シモツケクリエイティブは活動のなかで、人とのつながりをいかした仕事づくりのサポートも行っているそう。その存在の意義を、古河さんはこう分析します。
古河さん シモツケクリエイティブの立ち上げ以来、地域内外から人を巻き込んで、おもしろい取り組みが次々に生まれていく流れができたように思います。
シモツケクリエイティブは、それぞれの仕事でトップランナーといってもいい30〜40代の3人によって立ち上げられました。彼らがクリエイティブに、かっこよく活動している姿を見せて、次の世代に「一緒にやろう!」と声をかけることで、クリエイティブな取り組みが地域に波及していったんじゃないかな。
そんな古河さんの話を笑顔で聞いていたのが、シモツケクリエイティブの山口貴明さん。想いを持った人に「いいじゃん! やろうよ!」と声をかけ、そのサポートまでしていると言う山口さんですが、どうしてそこまでできるしょう?
山口さん 下野市を、自分の子ども世代や孫の世代にとっても魅力ある故郷にしてあげたいっていう想いで、「しもつけフェスティバル」とか、おもしろい取り組みをやってきたんですよね。だけど、僕らだけじゃ限界があるので。おもしろい取り組みをやる人がどんどん増えたら、まちもどんどんおもしろくなるじゃないですか。
山口さん シモツケクリエイティブでは「何もないから何でもできる。なければ創ろう。」をテーマにしてますけど、下野市にはこれといって観光地があるわけでも、特産物があるわけじゃない。となれば、鍵になるのが「人の創造力」なんです。
特色がないことは、裏を返せば既成概念がない「ニュートラルシティ」で、新しいことがなんでもできるってこと。だから、人の「やりたい!」という気持ちを引き出して、「やろうよ!」とサポートする。僕らには経験やスキルがあるから、それを伝える労力は惜しみません。だって、一人の力じゃ魅力あるみんなの故郷をつくることってできないですもん。
なるほど、下野市にたくさんメンター的な人がいるのは、「みんなお節介だから」という理由ではないようです。
「人の創造力」にこそ、地域の未来がある。一つひとつの取り組みはバラバラのように見えても、それらが集まれば、まちの大きな魅力になる。そう信じているからこそ、個人の想いを応援しているのではないでしょうか。
制度というかたちで、活動を支える行政の存在
想いを持って活動をしようとする人たちを応援するのは、山口さんたちだけではありません。民間の取り組みに触発されて、行政の職員のみなさんも市内で活動する人々をサポートしています。
松沼さん もう、民間にエネルギッシュな方が本当に多くて(笑) このままだと、「役所に任せておけない」となってしまうかもしれない。そうならないために、「行政としてもなにかやらねば!」っていう気持ちになっているんです。
大橋さん 私は下野市の出身ではないんですけど、下野市の第一印象は「おしゃれなまちだな」って。吉田村祭りとかしもつけフェスとか、伝統と若い力が融合して、新しいことを生み出してるっていう印象がありました。私たちもそういう取り組みをどんどんサポートしていきたいですね。
篠崎さん 本当に、もともと地域にいた人たちと若い移住者の力が融合してるのは感じますね。平成元年くらいから移住者が増えてきて、当初は意見の食い違いもあったみたいですけど、それから約30年経った今では地域の人々の移住者を受け入れる土壌はすごく整ってきていると感じます。
行政が取り組む事業の一つが、「しもつけクエスト」。下野市と関わる関係人口づくりと、市内でまちづくりに関わる人材の育成や中間組織の立ち上げを目指す取り組みです。
「ステージ1」と位置付けられた2019年は、「まちづくりをはじめよう!」と題し、下野市を中心に地域を盛り上げ、まちの暮らしを楽しんでいる「まちづくりマスター」たちが、それぞれの取り組みやまちの魅力を語る交流イベントを開催。約40名の方が参加しました。
2020年には「ステージ2」として、オンラインで「地域コーディネーター養成講座」を開催。下野市で活動する人や団体をつなげ、より地域活性化を推進していく「地域コーディネーター」を養成するため、全3回の講座を実施しました。
松沼さん 下野市に来てくれた方には、自分たちがやりたいことをしてほしい。そのために、僕ら市役所は「しもつけクエスト」のような仕組みや制度という形でサポートするので、うまく活用してほしいですね。
まちに必要な「コミュニティエディター」とは?
まちのなかにメンター的な人がいる。「等身大で、クリエイティブ」な活動が次々に生まれている。それを支える行政の制度もある。すでにたくさんのものがあるように思える下野市ですが、「足りないピース」があるといいます。
それが、今回募集する「コミュニティエディター」。市はどのような存在を求めているのでしょうか。
松沼さん 下野市にはプレーヤーはたくさんいるけど、彼ら・彼女らの取り組みを外に発信する人があまりいないんですよ。今、地域で活動している人も発信はしていますけど、それぞれ本業がありながらやっていわけですから本腰は入れられないですよね。もし、地域おこし協力隊として地域外の人への発信や関係性づくりをしてくれる人がいたら、下野市の可能性はもっと広がると思うんです。
その言葉を聞いて、下野市でおもしろい取り組みが次々に生まれていながら、あまりその名前を聞くことがなかった理由は、それらがバラバラの点として存在していることが大きな要因なのかもしれない、と思いました。
そこで必要になるのが、「コミュニティエディター」の役割。異なる点と点として存在しているそれぞれの取り組みを、編集的な視点から意味付けて発信する。その発信をもとに下野市と、下野市に関心を持つ方との関係性をつくる。つまり、編集的視点によって「下野市」という共通項でつながるコミュニティをつくる存在です。
下野市では、市と外部をつなぐ総合案内所として、中間支援組織を立ち上げ予定。この組織は、行政が担っている関係人口事業の事務局や、移住相談窓口業務等の役割を担います。
今回、地域おこし協力隊として募集する「コミュニティエディター」は、そんな中間支援組織の中心メンバーとして、主に関係人口づくりに取り組みます。その具体的な方法は着任する方に委ねられていますが、たとえばメディアやSNSでの発信、イベントの企画・運営、Slackなどのコミュニケーションツールを活用したコミュニティづくりなどが考えられそう。ただ、具体的な活動内容については、着任する方の希望とすり合わせて、一緒に考えていく方針だそうです。
これまでメディアでの編集やライティング、SNSでの運用、イベントの開催やコミュニティ運営などに取り組んできた方にとって、下野市での「コミュニティエディター」の仕事は、その経験をローカルというフィールドでいかすことができる機会になりそうです。
もちろん簡単な仕事ではありません。地域にどっぷり浸かりすぎてしまうと、地域外の人々のニーズがわからなくなってしまうので、下野市に軸足を置きながらも客観的な視点を常に持っておくという、バランス感覚は求められるはず。
また、地域の人々や下野市に関心を持つ方とのコミュニケーションが大事な役割になってくるので、異なる立場の人とも柔軟にコミュニケーションをとることができる能力があると、その力を生かして活動することができそうです。
下野市で働くこと・暮らすこと
最後に、下野市で地域おこし協力隊として働くことのリアルを、現役の協力隊のお2人に聞いてみました。
鈴木祐磨さんは、宮城県出身。子ども向けのプログラミング教室での仕事を経験したのち、下野市に地域おこし協力隊として着任し、現在は地域の人々の学びの場でありサードプレイスでもある「シモツケ大学」の企画・調整や、オープンカフェの社会実験などに取り組んでいます。
大坪亜紀子さんは、北海道出身。都内で15年間美容師として働いたのち、美容以外の領域に挑戦したいと下野市の地域おこし協力隊に。市内の観光資源を連携させた周遊型観光の企画・立案や、SNSを活用したプロモーション等に取り組んでいます。
さて、是非とも本音トークが聞きたいので、市役所の3人に「今日は忖度なしでいいですよね?」と聞いたところ、「もちろんです!」と即答。ということでざっくばらんに聞いてみました。まずは、下野市にきてよかったところは?
大坪さん 東京とのアクセスがいいところですね。東京に住んでいたときからの人間関係を保ちながらチャレンジできたのは、安心感がありました。
あとは、私が着任した年が下野市で初めて地域おこし協力隊を採用した年だったから、前例がなかったんですよね。だからこそ、いい意味で自由度があって、個性がいかしやすかった気がします。それは今も変わらないんじゃないかな。
鈴木さん あとは、僕は「YKK」がとてもありがたいです。YKKって、「家賃補助」と「活動費」と「車」のことなんですけど(笑) どこの自治体でもこれらを補助してくれるわけじゃないので、助かっていますね。
では、逆に大変だったことは?
大坪さん いやー、よく他の地域で「協力隊になってみたら大変だった」みたいな話も聞きますけど、私はほんとにないんですよ(笑) あえて言うなら、自由度が高いからこそ、自分が何がしたいのかが見つけられなかったり、自立していく意思がない方だと厳しいかもしれないですね。
そう語る大坪さんは、行政のみなさんに気を遣っていると言う感じではなく、本当に「あまり大変なことが思い浮かばない」という様子。鈴木さんも、うーん、としばらく考えてから続けました。
鈴木さん 僕もパッとは思い浮かばないですけど、なんだろうなぁ……。これは下野市だからっていうわけじゃないですけど、コロナ禍のなかで取り組む難しさはありますね。僕も昨年は、イベントが実施できなくなったりとか。今回募集している方も、コロナの影響に配慮しながら関係人口づくりに取り組んでいく必要がありますよね。
たしかに今後着任するコミュニティエディターも、新型コロナウイルス感染症の影響で活動に制約を受けることはあるかもしれません。一方で、コロナ禍のなかで地方への関心が高まっており、下野市は東京からアクセスがいいという大きな強みもあるので、そういったコロナの影響を追い風に変えていけるような企画を考えることができれば、大きな成果を生むことができそうです。
「何もない」からこそ、自分の力を存分にいかすことができる
終始、和気藹々(あいあい)とした雰囲気で進んだ今回の取材。みなさんの会話を聞きながら、下野市では行政と民間と地域おこし協力隊というそれぞれの立場を超えた信頼関係ができあがっているのだな、ということを感じました、
ちなみに僕も編集者のはしくれとして、下野市のことを知っていくなかで、「この地域で活動できたらおもしろそうだな」という気持ちがむくむくと湧いてきました。だって、こんなに魅力的な人や取り組みが集まっているうえに、いい意味でまだ色がついていない。だからこそ、自分の力を存分にいかすことができる可能性を秘めているのですから。
「等身大で、クリエイティブ」な取り組みが集まる下野市で、編集的な視点をいかして、地域のファンをつくっていく。そんな活動に、一歩踏み出してみませんか?
僕と同じように下野市のことに興味を持った方は、3月18日に下野市が開催予定のオンラインイベントにぜひ参加してみてください。 「等身大で、クリエイティブ」な取り組みの数々や、それを支える人たちの想いや人柄に触れることができるはずです。